空回りし続けるギリシャとフランスの対トルコ制裁要求はなぜ実現しないのだろうか?
参考:Germany against arms embargo on Turkey, says FM Maas
米国が実行したトルコ制裁、ギリシャとフランスが求める対トルコ制裁にとって追い風にはならない
米国は先週、これまで発動を控えてきた「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に基づく制裁を発動してトルコに対する武器輸出制限に乗り出したが、これは米国による単独制裁であり発動理由もロシア製防空システム「S-400」導入に対してのものだが、これとは別に東地中海問題でトルコと対立するギリシャやキプロス、それ強力に支援するフランスなどが欧州全体でトルコに経済制裁や武器禁輸を課すことを求めている。
本題に入る前に「東地中海問題」について簡単に説明しておく。
トルコは東地中海の海底に眠る天然資源開発を進めるため早急に排他的経済水域(EEZ)策定したいのだが、ギリシャはエーゲ海の島々に大陸棚設定を認めず領海12海里以外の海域はトルコ領土から伸びた大陸棚上にある主張しているトルコと話し合っても無駄(ギリシャはエーゲ海の島々にも大陸棚設定を主張して中間等距離線でEEZ設定を要求)だと考えているため、トルコが要求するEEZ策定交渉に応じてこなかった。
そこでトルコはギリシャとの軍事的緊張を意図的に演出することで両国の衝突を懸念するEUを動かすことに成功、ギリシャはEUの説得でトルコとの協議に渋々応じることになったのだがEUの説得でトルコとの協議に応じるのだから、せめて交渉の切り札として「交渉が決裂したら武器禁輸措置発動もあり得る」ぐらいの言質をEUに要求したがあっさりと断られてしまい、ギリシャからすればトルコが意図的に軍事的緊張を作り出したにも関わらずEUから何のペナルティも課されなかった=ギリシャばかりトルコの主張に歩み寄らされている状況と言える。
ただギリシャとフランスは執念深くトルコに経済制裁や武器禁輸を課すことをEUに求めて続けており、趣旨は違えど米国がトルコに対する武器輸出制限に乗り出したため再びEU首脳会議の場で「トルコに対する禁輸措置」を要求したのだが、追い風となる思っていた米国の対トルコ制裁がギリシャとフランスが求める要求の障害となってる。
そもそも「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に基づくトルコ制裁は米2021会計年度の国防権限法(NDAA)によって発動が義務付けられていたのだが、NDAAにはロシアの天然ガス輸送用パイプライン「ノルド・ストリーム2」建設に関わる企業への制裁=実質的なドイツ企業(+関連する欧州企業)への経済制裁も含まれているためドイツを始めとする複数の国がと米国によるトルコ制裁を批判しており、これはCAATSA発動根拠となったNDAAを間接的に批判することでノルド・ストリーム2に対する制裁発動を牽制しているものと見られている。
結局ドイツは米国のトルコ制裁を批判した立場上、ギリシャとフランスが要求するEUによる対トルコ制裁に賛成することは難しくハイコ・マース独外相は公式に「NATO加盟国のトルコに武器禁輸や経済制裁を課すのは戦略的に正しくない」と22日に表明した。
問題は身勝手なドイツの主張がギリシャとフランスが要求する対トルコ制裁を拒否するほどの支持を集めるかどうかだが、これが集まってしまう可能性が高いのだから手に負えない。
シリアやリビアの内戦やナゴルノ・カラバフ紛争への関与を理由にフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国、カナダ、チェコ、フィンランド、スウェーデンといった国がトルコへの武器輸出承認を停止もしくは制限を行なっているのだが、これはあくまで建前上の話だ。
ドイツはリビア内戦介入を理由にトルコ向けの武器輸出承認を停止したが、実際にはリビア内戦に使用されない武器や軍需物資に関しては輸出承認を継続しているため昨年の対トルコ武器輸出の総額は約10億ドル(約1,100億円)に達し、トルコはドイツ防衛産業界における最高の顧客(ドイツ武器輸出額の1/3はトルコ向け)だといわれている。 特に政府の許可が必要ない軍事転用可能な装備品や物資まで含めると対トルコ向けの輸出額は80億ドル(約8,600億円)を越えると中東系メディアが指摘している。
さらにナゴルノ・カラバフ紛争で撃墜された無人航空機からはスイス、チェコ、オランダなどの国から調達したパーツ(純粋な軍事用途向け製品でもなく軍民のどちらでも使用可能なデュアルユース規制対象外の装置や部品)が複数見つかっており、ドイツ以外でも政府の許可が必要ない軍事転用可能な装備品や物資を相当数トルコに輸出し続けている国が複数存在しているためトルコに武器禁輸や経済制裁を課せば影響を受ける国が多い=自国経済にとって都合が悪いという図式が透けて見えてしまう。
要するに東地中海問題が自国の安全保障問題と遠い国にとっては対トルコ輸出による経済的な恩恵を優先するという意味で、さらにトルコがEU圏内への不法難民流入をコントロールしているという現実的な問題も存在するためEUとトルコが直接的に対立するのを嫌う国も少なくない。
米国としても対ロシア戦略を考える上で完全にトルコと対立(トルコ切り捨て)することは不可能なので制裁の強度を引き上げて全面的な経済制裁を実施することは考えておらず、トルコもバイデン氏が大統領に就任すれば関係改善に繋がるのではないかと期待して様子を決め込んでいる。
ギリシャとフランスには申し訳ないが、恐らく両国が主張する対トルコ制裁は今回も空回りに終わる可能性が高いだろう。
関連記事:口だけのEUに踊らされたギリシャ、トルコに対する武器禁輸措置は不発
※アイキャッチ画像の出典:Public Domain トルコ空軍のF-16C
草生えるww
やがてトルコがNATO抜けてEU加盟も考えなくなる未来は、あり得る
今でもトルコはヨーロッパなのかって議論があるくらいなのに、歴史的経緯からするとエルドアンのふるまいも理解できる
もう冷戦構造にしがみつくメリットなんてないんだよ
つか、盟主のアメリカがあの体たらくですし。
ドイツは昔からトルコと中国とは悪くない関係を続けてる、いわば歴史の流れが再現されてるとも言って良い
日本だって、米国と険悪だったのは日露から太平洋敗戦までの40年間だけだったとも言える
どの物差しで計るかの選択に過ぎない
EUもNATOも形骸化が酷いな
一見無謀とも思える立ち回りをトルコはしているわけだが・・・
案外、ドイツみたいに影響力のある国が惚けたことをしてくれるおかげで
間隙を突く様に進んでいく。
「合理的であっても理性的ではない」って言われる所以。
つか、中国の時と同じだな。またドイツか。
>要するに東地中海問題が自国の安全保障問題と遠い国にとっては対トルコ輸出による経済的な恩恵を優先する
対岸の火事はもうけ話
こんな考えだと自分の足元が燃えたら後がこわいね
その魂胆でいたら、難民流入で痛い目に遭ったばかりのクセしてな。
「トルコ制裁で被る経済損失分はギリシャが補填する」とでも言えれば、EU各国はトルコ制裁に前向きになってくれるかも、といいうことですね。ギリシャの経済状況では難しいだろうけど。
フランス・アメリカ「行け!ギリシャ!エジプト!UAE!(武器を大量に供与しながら)」
ロシア「西側同士で潰し合えw」
一度破綻して泣きついたギリシャの信用力じゃあねぇw
それにトルコには、難民の越境黙認という必殺技があるから、EU、特にドイツは迂闊に逆らえないよ。
だからギリシャもアメリカやフランスに泣き付いてるんだろうな。
いつの時代もドイツが引っ掻きまわすんだな。
下手に経済力が有るから始末に困る。
21世紀の東方問題
フランスもあちこち兵器売りまくってるなか最低限国際的な舵取りをしようとしてるけどドイツには経済的な損得計算しかないな
来年以降は英仏に加えてドイツも中国近海に艦艇派遣だっけ。アメリカもEUも(あとはロシアも)コロナ第三波と中国絡みでトルコは後回しなのが本音。
ドイツ人はナチスへの後悔と後ろめたさを徹底的に植え付けられてちょっとした鬱になっているんじゃないだろうか
なんとか更生しなさいよほんと・・・
ドイツがパッパラパーなのは分かったけど、トルコは本当上手くやっているね。自分の立ち位置が分かってないとこういう外交は実践できない。
昔 「トルコをEUに入れないのはイスラム圏だから?なんだかトルコかわいそう」
今 「トルコをEUにいれないで正解だわ。会話が成立しないうえに好戦的で手がつけられん」
エルドアンの立ち回りが想像以上だけどエルドアン亡き後に袋叩きにされる展開とは思う
国威を取り戻したと同時に恨みを買いすぎた
プーチン死後のロシアよりも荒れそう(小並感)
アメリカ「ロシアとイスラムへの防波堤として甘やかして来たが所詮イスラムはイスラムか。コロナ禍と中国が片付いたら覚えとけよ?」
ドイツが両陣営に食い込んで邪魔するのっていつの世も変わらんなぁ
組んだら負けるのも致し方なしって感じだな
EUもNATOも纏まらんだろこれじゃ…
そういやイタリアもリビア絡みでトルコに付いてたな
そもそもNATOの大元が対ドイツ包囲網ですしおすし
しかし力のない国は辛いな。正式加盟しているEUに「すまんが泣いてくれ」って言われるってのは
無理やりEUの租借地にでもして破格でEUに資源卸しますから!って靴舐めるしかないね