欧州関連

狙いはF-35超え? 英国、世界で最も優秀な​AESAレーダー開発に着手

英国は3日、独自に研究中を進めていた次世代AESAレーダー「Captor-E MK.2」の本格的な実用化に向けてBAEシステムズとレオナルドに3億1,700ポンド(約430億円)の契約を与えたと発表した。

参考:Britain moves forward with its own Typhoon radar primed for electronic warfare

英国が次世代AESAレーダー「Captor-E MK.2」の実用化に向けて動き出す

欧州(英国・ドイツ・スペイン・イタリア)が共同で開発した戦闘機ユーロファイター・タイフーン向けに約10億ユーロの費用を投じて開発されたAESAレーダー「Captor-E」には現在3つのタイプが存在する。

最も基本的なタイプの「Captor-E MK.0(以前はレーダー1+と呼ばれていた)」はクウェートとカタール向けに製造されたタイフーンと、ドイツとスペインが導入済みのタイフーンアップグレード用に採用(今年6月に正式に115基分発注)したが、ドイツとスペイン分はヘンゾルト(独企業)が開発中の新しい​送受信​モジュール​(TRM)​やマルチチャンネル・デジタル受信機等が後日供給され「Captor-E MK.1」にアップグレードされる予定だ。

出典:Bin im Garten / CC BY-SA 3.0 CAPTOR-Eを搭載した展示機

英国はMK.0やMK.1を採用する気はなく、Captor-E MK.0をベースに独自の要求を反映させた「Captor-E MK.2」の研究(Bright Adder Project)を進めていると噂されていたが、プロジェクト自体が極秘扱い(輸出を前提にしていないため対外的なアピールを必要としない)だったためMK.2の詳細については謎が多く、そもそも自国向けだけに大金を掛けてMK.2を本当に実用化するのか怪しいと思われていたが英国は今月3日、Captor-E MK.2の本格的な実用化に向けてBAEシステムズとレオナルドに3億1,700ポンド(約430億円)の契約を与えたと発表したため大きな注目を集めている。

更にレーダーの特徴についても一定の言及が行われたため、ようやく謎に包まれていたMK.2の目指している方向がハッキリした。

英国が実用化を目指す「Captor-E MK.2」は、米国がF-35向けに開発した「AN/APG-81」と同じMulti-Functional Array(MFA:多機能アレイ)方式で、空対空モードや空対地モードを行使するレーダーとしてのパワーや精度を維持しつつ、広帯域での電子戦能力を同時に運用することが出来る設計で従来のAESAレーダーよりも多くの送受信​モジュールを搭載していると主張しており、MK.2は世界で最も優秀な戦闘機用​AESAレーダーになるらしい。

出典:public domain AN/APG-81

要するに英国のCaptor-E MK.2はAN/APG-81のコンセプトを継承して発展させたレーダーで、BAEシステムがF-35に供給している電子戦/妨害システム「AN/ASQ-239(もしくは改良型)」などと組わせてF-35を越える電子攻撃能力を実用化するという意味だ。

補足:MK.1とMK.2はCaptor-E MK.0から発展したものだが、英国が開発するMK.2は独自に設計したアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナとバックエンドを備え、電源も独自のものに置き換えるため共通性は完全に失われている。

ただ英国は実用化したCaptor-E MK.2を保有する全てのタイフーンに搭載する予定(トランシェ3のみに採用予定)はないので、飽くまでCaptor-E MK.2開発は英国にとって第6世代戦闘機「テンペスト」に搭載するレーダー開発の一部でしかなく、レーダー換装を兼ねてタイフーンをテストベッドとして利用するという意味合いが強いのかもしれない。

逆を言えば共同開発したタイフーンの性能は今後、MK.0を搭載した海外輸出タイプ、MK.1を搭載したドイツ/スペインタイプ、MK.2を搭載した英国タイプ、レガシーなCaptorを引き続き使用するイタリアタイプの4つに別れることになり、これまでのように「タイフーンのトランシェ○」だけでは判別がつかないため「タイフーン トランシェ3 レガシー」や「タイフーン トランシェ3 MK.1」とでも呼べばいいのだろうか?

本当にややこしい、、、

因みにCaptor-E MK.2のプロトタイプは2022年にタイフーンへ搭載されテストを行い2025年までに初期運用能力(IOC)を獲得、2030年までにトランシェ3(40機)のレーダーをCaptor-E MK.2に換装する予定だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:Trevor Hannant / CC BY-SA 2.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    F-3に搭載されるAESAレーダーとどちらが高い性能だろうか?

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      そりゃ両機少なくとも去年のF-35のレーダーを越える性能はあると思うよ?
      来年以降のF-35のレーダーを越えるかどうかは知らないが。

      12
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      少なくとも素子の数でと発電力の差でF-3では?

      4
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      対空用途限定かもしれませんが、2018年にF-2でテストした先進統合センサ・システムで「ロッキードの二倍以上の探知能力」とされています。
      機首の小さいF-2用でその出来なので、数年後に登場するより大型だろうF-3用だと、その差はより広がると思います。
      対地とか、分野によっては逆転する項目はあるかもしれませんが。

      12
        • 匿名
        • 2021年 1月 24日

        「戦いは数だぜ、兄貴」

        1
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    製品として(試作では無く)出てきたブツが首振りを止めてるなら瞠目すべきかもね。
    止めてないなら、それなりの性能・・・

    2
      • 匿名
      • 2020年 9月 05日

      日本も、ステルス機用のレドーム性能確認試験用にだけど、シンバル機構を併用したアンテナを開発したみたいだね。
      稼働範囲がAZが-60~+60度以上、ELが0~+30度以上だとか。

      4
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    ユーロファイターをテストベッドにテンペストのAESAレーダーを仕上げる気じゃあるまいな?

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 06日

      ? それの何がいかんのですか?

      4
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    2030年だと普通に米国も新型レーダーを出してきそう

    18
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    ユーロファイター計画の破綻具合が酷い

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      計画段階から破綻してたんだよなあ・・・
      ほんと今更過ぎますよ

      12
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    独自に近代化に着手するという事はテンペストの早期の戦力化は難しい裏返しでしょうか。

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      テンペストの開発が順調に進んだとしても量産されまともな数が揃って戦力として機能するのは15年は先でしょ。
      それ以降も空自のF-4みたいにしばらくは働いてもらわないといけないだろうから能力向上改修しとかないと。

      8
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    近年のレーダーは、探知した波を正しく処理する部分が重要で、レーダー波の出力が上がろうが、細かく走査するための素子数が増えようが、膨大なノイズから正しく素早く敵だけを検出するのが要になってる。
    出力や素子数だけを誇っても、その辺りが貧弱だと、宝の持ち腐れになる。
    韓国みたいに、技術が足りないところを、イスラエルに丸投げしたように、外から買わないと、英国単独じゃ、アメリカには敵わないと思うわ。

    4
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      BAEが持っているのでは?

      6
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      妨害電波のノイズの海から敵を検出する技術はそれこそBAEシステムズの専売特許じゃないか

      7
        • 匿名
        • 2020年 9月 04日

        言いたいこと先言われてました。
        結局はソフトウェアなんですよねえ。

        4
        • 匿名
        • 2020年 9月 05日

        だったらなぜこれまでAESAレーダーを作れなかったの、ハードの技術がなかったとは思えない。
        反射波の来ない対空モードはそれほど困難はないけど、クラッタの多いルックダウンモードや艦船と複数の護衛航空機を同時に扱う対艦攻撃モードは簡単にはできない。

        2
          • 匿名
          • 2020年 9月 05日

          >だったらなぜこれまでAESAレーダーを作れなかったの

          開発費が確保出来なかったから、かな?

          1
            • 匿名
            • 2020年 9月 05日

            多分なにかの重大なブレークスルーが必要だったんだと思う、だからF-2のレーダーを召し上げたアメリカだけが20年間最高のレーダーを使うことができた。
            最近になって日本の民間メーカーから気象用のAESAが出た北からそういうのを参考に各国が軍用をかいはつできたんじゃないかと思う。

            3
          • 匿名
          • 2020年 9月 06日

          まんま「ハードの技術が不十分だった」からでは?
          だからミーティアもシーカーの性能が足りなくてJNAAMなんて計画出て来た訳でしょ。
          となれば「なんで今回開発の目処が立ったのか」も説明つくかと。

          5
            • 匿名
            • 2020年 9月 09日

            JNAAM全体だと日英共同開発だけど、シーカー部は日本の担当だから、
            JNAAMと今回のAESAは無関係だと思います。
            最近は民生でも優秀なSSPA出てきている様だし、1980年代1990年代に日本が地道にAESAを研究開発していた頃とは時代が異なるのでしょう。

        • 匿名
        • 2020年 9月 05日

        これな
        ソフトウェアの技術力は軍民共に欧米と日本じゃ天地の差がある

        8
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    日本と共同開発中のJNAAMに使うAAM4B用のAESAレーダーの技術を参考にしたのかな?

    3
      • 匿名
      • 2020年 9月 05日

      いや、それ感情バイアスでは?
      そんな情報どこにもないですよ。

      4
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    AESAレーダーのような超高周波領域で超高出力の発信と微弱な電波の受信を短時間で切り替えて扱うには理論だけではなく、長年の経験が絶対に必要になる。
    例え素子数が多くても実装技術やマッチングで必ず壁にぶち当たる、日米の20年を超える実戦経験を持つAESAに追いつくのはたぶん不可能。
    その技術の総決算がF-3用のハイパワーARSAレーダーで、単なるレーダーとしてではなくその高出力を利用して相手側の受信能力を奪う性能を持っている。

    2
      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      送受信の切り替えだと、日本はF-3用にロスやポート間リークの軽減のためSPDTでの切り替え制御に乗り出した様だけど、従来はサーキュレータで制御していたとの事です。
      送受信共用のアンテナ使っている場合、典型的な手法ですね。
      ちなみにサーキュレータは下記を参照してください。
      リンク

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 05日

    なんかようつべで見たようなマークが追加されてるな

    4
      • 匿名
      • 2020年 9月 05日

      絶対に荒れるなコリャ
      本来軍事と政治は切り離せないものだが、極東系のニュースだと感情的な意見が占めるようになるのは目に見えている

      5
      • 匿名
      • 2020年 9月 05日

      1日で見直し入ってる
      管理人さん、フットワークが軽快ですね。

      1
        • 匿名
        • 2020年 9月 05日

        言われて気づいた。
        下げマーク無くなったんだね。
        綺麗に下げマークが全員に1づつ入ってたからいつものアイツだろうとは思ったけど。
        いつも釣りコメ流してるやつやっぱ一人だけなんだな。

        4
    • 匿名
    • 2020年 9月 05日

    BAESystemsは世界最高峰だからなぁ
    これは期待できる

    英国が真面目に金出すつもりならテンペストはF-3を凌駕するレーダーアビオ電子戦能力は確定では?
    金がちゃんと出るなら、な

    2
    • 匿名
    • 2020年 9月 05日

    >多分なにかの重大なブレークスルーが必要だったんだと思う、だからF-2のレーダーを召し上げたアメリカだけが20年間最高のレーダーを使うことができた。

    これさぁ。
    いまだにアメリカに技術持っていかれた!って騒いでる人いるけど、同時期に開発してたF-22にJ/APG-1の技術導入する時間なんか無かったし、そもそもJ/APG-1は初期のマッチング問題抜きにしても、画期的ではあっても超高性能なレーダーでもなかったよ?

    AESA含むレーダー分野は日米が先進行ってるのは間違いないけど、だからって欧米その他はロクなAESA作れないってのも偏見でしかないし、日本上げすぎ海外の技術舐めすぎだと思う

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 06日

      日本のAESAレーダーはF-2開発開始前の米国防総省の視察の時点で少なくとも「戦闘機開発能力のアピール材料」になる程度には完成してた訳で、
      5年近く先行するF-2の開発状況に10年以上どうとでもアクセス出来たんだから、むしろあれだけ時間あって技術導入出来なかったらどポンコツでしょう。
      それこそアメリカ舐め過ぎかと。
      J-APG1とAN/APG-77の性能差はバックエンドやソフトウェア、機体とのインテグレーション、要するに総合力で説明つきますし。
      良くも悪くも、伝え聞く「日本は部分的に優れた技術を有しているが、総じてアメリカの技術水準には及ばない」という評価の通りだったのかと。

      7
        • 匿名
        • 2020年 9月 09日

        >J-APG1とAN/APG-77の性能差

        あとサイズ差もデカイですよ。
        同じテクノロジーを使うなら、Gainは面積比で向上が期待出来る筈だし、
        出力と異なりGainは送受で効くので、レーダー方程式でも出力の一乗に対してGainは二乗で効いています。

        2
    • 匿名
    • 2020年 9月 06日

     Captorって元はシーハリアー用のブルービクセンだったような気が…。それを良くここまで魔改造したもんだわ。首振り機構以外、原型を留めて無さそう。

    3
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    F-35はAESAだけでなく、EOTSやEO-DASといったセンサー類やMADL、センサーフュージョンが売りなのでAESAだけ向上しても、と言うのはありますが、テンペストが実戦配備されるまではタイフーンとF-35Bでこなさないといけないので、F-35Bにだけ負担が大きくならないようにタイフーンもアップグレードが必要ですね。

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