欧州関連

英国防相、ロシア人の行動がストーム・シャドウのウクライナ提供を招いた

英国のウォレス国防相は「民間人が殺されるのを黙って見過ごすわけにはいかない。ウクライナへのストーム・シャドウ提供はロシア人の行動が招いた結果だ」と主張、米メディアは「ストーム・シャドウはSu-27やSu-24に統合されるだろう」と報じている。

参考:Ukraine’s Storm Shadow Missiles Are A Big Problem For Russia
参考:Putin threatens response as UK sends Storm Shadow missiles to Ukraine
参考:UK sending long-range Storm Shadow missiles to Ukraine, says defence minister
参考:Кремль прокомментировал поставки Лондона Киеву крылатых ракет Storm Shadow

ストーム・シャドウが提供されたからといって「必ずクリミア大橋を落とせる」と保証されている訳では無い

英国のウォレス国防相は11日、ウクライナにストーム・シャドウを提供した理由について「少なくとも23,000人もの民間人が死傷しており、我々はロシア人が民間人を殺すのを黙って見過ごすわけにはいかない。ストーム・シャドウの提供はロシア人の行動が招いた結果であると認識すべきだ」と指摘、これに対してロシアのペスコフ大統領報道官は「英国の動きを我々はとても否定的に受け止めている。この動きは我が軍の適切な対応を必要とするもので、軍は適切な決定を下すだろう」と表明した。

出典:MBDA/Thierry Wurtz/2004

ウクライナに提供されるストーム・シャドウは推定560km(輸出バージョンは300km)先の静止目標を攻撃できる巡航ミサイルで、BAEが開発したBROACHタンデム弾頭(成形炸薬と爆風・破片弾頭で構成される二重貫通弾頭のこと)を備えているため鉄筋コンクリート製の建造物に対する破壊力が大きく、低観測性を考慮した設計や地形追随飛行を採用することで目標に到達するまでの生存性を高めているが、ロシア軍の巡航ミサイルがウクライナ軍によって迎撃されているようにストーム・シャドウも地対空ミサイルの迎撃から逃れることは不可能だ。

仮にストーム・シャドウでロシア軍が守りを固めるクリミア大橋を狙う場合、一発必中を狙うのはまず不可能なので「ストーム・シャドウの複数発同時発射」や飛行プロファイルが異なる「自爆型無人機などの攻撃兵器(できれば弾道コースを飛翔する攻撃兵器を加えることが望ましい)」を併用することで防空シールドを貫通しやすく戦術的工夫=同時対処能力の負荷を高める工夫が必要となり、ストーム・シャドウが提供されたからといって「必ずクリミア大橋を落とせる」と保証されている訳では無い。

出典:VoidWanderer/CC BY-SA 4.0 Grom-2

ここにウクライナが準備していると噂される360km先の目標を攻撃可能な「ネプチューンの対地バージョン」や、500km先の目標を攻撃可能な戦術弾道ミサイル「Grom-2」が加われば「クリミア経由の兵站を遮断してウクライナ南部に展開するロシア軍の補給をアゾフ海沿岸道路に限定する」というウクライナの宿願は達成される可能性が高いが、本当にネプチューンの対地バージョンやGrom-2が準備されているのかは確証がないので蓋を開けてみるまで結果を予測することは困難だ。

因みに米ディフェンスメディアは「MiG-29やSu-25でストーム・シャドウを運搬するのは難しく、Su-27やSu-24が空中発射の母機に使用されるだろう。ストーム・シャドウは事前に目標座標がプログラムされるためデータを入力するためのインターフェイスを母機に配線する必要がない」と述べているため、Su-27やSu-24にストーム・シャドウを統合する作業自体は単純(本来なら飛行中のSu-27やSu-24から安全にストーム・シャドウを分離できるか検証しなければならないが多分省略される可能性が高い)なのだろう。

関連記事:英国がウクライナへのストーム・シャドウ提供を発表、クリミア大橋が攻撃可能に
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※アイキャッチ画像の出典:UK Ministry of Defence

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コメント

    • 無印
    • 2023年 5月 12日

    >ストーム・シャドウは事前に目標座標がプログラムされるためデータを入力するためのインターフェイスを母機に配線する必要がない

    改修は最小限で済む、って事ですか
    橋は逃げませんからね

    48
    • daishi
    • 2023年 5月 12日

    MiG-29にAGM-88を統合したときと同じように基地で事前に目標入力、物理的なランチャーと発射のトリガーのみ統合、というパターンですね。
    ストーム・シャドウは1トンオーバーなのでペイロードやハードポイントあたりの荷重の関係で大型のSu-27が必要ということでしょう。

    12
    • うっかりさん
    • 2023年 5月 12日

    終端が赤外線画像シーカーって ASM-2も対地に使えたりして

    1
      • 干物
      • 2023年 5月 12日

      ASM-2BからGPS誘導が追加され停泊中の目標への対処能力を付与されているので
      やろうと思えば可能でしょうね。

      8
    • 折口
    • 2023年 5月 12日

    >安全にストーム・シャドウを分離できるか
    統合作業で安全確認していない吊り物は、落とした後に発射母機に戻ってきて空中衝突するようなケースが割りとあるらしいですからね。戦時下とはいえ一応試験くらいはしてもらって…

    5
      • らっしー
      • 2023年 5月 12日

      それって切り離された直後は滑空降下で、
      推進機に点火直後にズーム上昇気味に浮き上がって
      「あ痛っ!!」ってなる感じでしょうか。

      避けるためにはやや上昇気味に切り離すか、
      切り離した瞬間反対側面にロールするとかで
      対処するんでしょうかね。

        • 折口
        • 2023年 5月 12日

        試験映像なんかを見ていると無誘導爆弾でも母機に「戻ってくる」事が結構あるみたいです。投下物の揚力や母機下面の気流層次第で起こるらしいですが、とりあえず安全な運用条件(飛行速度、迎え角、高度…)を割り出して徹底させるしかないんでしょうね。

        • nachteule
        • 2023年 5月 13日

         普通はミサイルの方で対応する筈。元々違ったプラットフォームで運用している物を転用したら運用条件が違い過ぎて危なかったから仕様変更とかあるから。実際にテストしないと結構危ないと思うんだよね。

         地上発射だと問題無いけど空中機動で発射すると問題発生とか単純な兵器ですら起こり得る話なんで。

      • daishi
      • 2023年 5月 12日

      クック・クレイギープランで製造した先行量産機のF-14に割り当てた試験で自機が発射したスパローに自機自身が命中する、という事故があったので、ミサイルを下に押し出す力が足りないなど分離の問題は結構シビアですよね。

    • 鼻毛
    • 2023年 5月 12日

    英国面的にはダムバスターズのトールボーイ/グランドスラムの現代版みたいな感じの装備なんでしょうかね。戦訓ですな

    • REM
    • 2023年 5月 12日

    クリミアの橋よりロシア本国の空軍基地の方が、破壊する重要度は高いと思う。
    これからウクライナの防空能力は、まとまったパトリオットが配備されるまで頼りなくなる。一般の住宅が爆撃される前に基地を破壊したい。
    ロシア爆撃機をできるだけ中央アジアや北極の、遠い所に追いやって欲しいところ。

      • ストームシャドウ
      • 2023年 5月 12日

      「主権の及ぶ範囲でしかストーム・シャドウの使用をしない=ロシア領に向けて発射しない」との報道もあるので、ソレは絶対に無いと思います

      3
      • 58式素人
      • 2023年 5月 13日

      Tu-141を改造したと思しい自爆無人機での攻撃で、
      近間の航空基地からは遠ざけていますね。
      しかし、長射程のSSM/SRBMを空中発射されると、
      ウクライナ側には発射母機を墜とす手段がないので、
      おっしゃる通りPAC-3の数量の問題になりますね。

    • 匿名
    • 2023年 5月 13日

    いつも突破口を開くイギリスの行動力を尊敬するわ

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