英国の公共調達に関する情報を扱うTussellは「英軍を支えるサプライヤー基盤は米企業から欧州企業にシフトチェンジしている」と発表、英専門メディアも「この傾向は『米国製ソリューションに代わる選択肢』が登場する今後数年間で加速するかもしれない」と指摘した。
参考:UK Public Sector Defence Procurement Tracker
参考:UK Ministry of Defence is spending less with US biz, and more with Europeans
トランプ政権の影響を受ける前の傾向が2025年以降も続くかは注目に値する
英国は伝統的な米国の同盟者であり、安全保障政策でも欧州より米国との繋がりを優先することが多く、トランプ政権の不確実を背景にした「米国製システムへの懸念」を否定していたが、英国の公共調達(入札、落札、契約、支出など)に関する情報を扱うTussellは「英国の国防支出は世界的な地政学的緊張の高まりを受けて増加し続け、国防省から民間請負企業への支払いも2019年~2024年の間に31%増加したものの、英軍を支えるサプライヤー基盤は米企業から欧州企業にシフトチェンジしている」と発表。

出典:Royal Air Force
調達支出の約50%はBAEやRolls-Royceといった本社を英国に置く企業に、残りの大部分はLockheed Martin、Boeing、Leidosといった米国に拠点を置く企業に支払われてきたが、フランス企業からの調達は2019年~2024年の間に5%から12%に増加し、既に欧州企業(22%)と米国企業の調達額(18%)も逆転しており、Tussellは「ニュースの見出しに左右されない公共調達の数字は国防支出がゆっくりと確実に増加していることを裏付けている」「実質的な支出増の割合は5%に過ぎないが欧州調達拡大へのシフトは明確だ」「トランプ政権の影響を受ける前の傾向が2025年以降も続くかは注目に値する」と述べている。
英国の専門メディア=The Registerも「Tussellの数字」と「トランプ政権の不確実性」を挙げて「米新政権が主導する新たな世界秩序の可能性に対処していく上で、英国はサプライチェーンと資金の用途について検討を余儀なくされ、官民の両方で米国への依存度を見直さざるを得ないだろう」「米企業よりも欧州企業への支出が増加するという最近の傾向は『米国製ソリューションに代わる実用的な選択肢』が登場する今後数年間で加速する可能性がある」と述べているのが興味深い。

出典:The White House
豪シンクタンクのStrategic Analysis Australiaも「世界はトランプ政権によってもたらされた大きな不確実性に支配されている」「米国は同盟国の決定や行動の根拠になり得る国ではなくなり、特定の状況下で目先の国益を狭量的に計算して行動する可能性が高い」と主張し、政府へ以下のように警告したことがある。
“米国が他を圧倒する軍事的優位性で「ルールに基づく世界秩序の維持や同盟国やパートナーの保護に尽力するだろう」という安易な考えた自体が「米国製システムを取得しておけば間違いない」という軽率な決定を生み出した。デンマークやカナダはトランプ大統領の復帰で露骨な脅威を受け、多くの国が軍事技術の米国依存問題を真剣に考え始めた。その一例がF-35のキルスイッチ問題でLockheed Martinも運用国もこれを否定しているが、問題の本質はスペアパーツとソフトウェアを米国に依存していることで、特にF-35はスペアパーツを運用国ではなく米国が集中管理しているため他のシステムよりも状況が悪い”

出典:public domain
“オーストラリアも独自に備蓄していないため、スペアパーツの供給が途絶えればF-35の運用が続けられなくなるだろう。但し、これは米国製システムや海外のサプライチェーンに依存している全システムに当てはまる。一部の同盟国はF-35の取得を再検討しているが、この航空機はオーストラリアを含む同盟国の防衛能力を構築してきた米国製システムの1つに過ぎない。米国依存が良い結果なのかどうかは別にしても短期・中期的に米国製を別にシステムに置き換えるのは不可能だ”
“米国の技術はオーストラリア軍に深く浸透しているため、現状これ無しで何を達成できるか想像するのも難しい。それでもリスクヘッジに手をつけないと何も変わらないため、防衛関連のサプライヤー、特に国内サプライヤーの多様化を図る必要がある”

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee
明日から「米国製システムへの依存を0にする」というのは誰が見ても不可能だが、最初の一歩を踏み出さないと何も変えられず、対米関係を重視すると装いながら「調達先のシフトチェンジ」を静かに進めている国は多いのかもしれない。
因みにオーストラリアは「F-35AでF/A-18Fを更新する」と公言していたが、BlockIIIへのアップグレードを行うことで後継機発注は2030年代半ばまで先送りする=F-35A追加発注(28機)の中止を決めており、次回の後継機候補にF-35Aが含まれる可能性は高いものの「他の選択肢=無人戦闘機や新しい設計の戦闘機が候補に加わる」と述べている。

出典:Boeing MQ-28
それでもLockheed Martinは今年の豪アバロンエアショーで「オーストラリアがキャンセルしたF-35Aの発注を再開すれば2029年に引き渡すことも可能」とアピールしたが、Breaking Defenseは「豪空軍関係者は『戦闘機追加のニーズ』を認めたものの『現政権の決定に従う必要がある』と述べた。野党は次の総選挙で勝利すればキャンセルされた発注を再開すると約束しているが、この決定は急速に変化する政治情勢の中で下されることになるだろう」と指摘し、カナダや欧州で広がるF-35への不信感から「オーストラリアも無縁ではいられない」と示唆した。
追加発注の再開を約束していたダットン党首率いる自由党は今回の選挙で歴史的大敗を喫したため、F/A-18Fの後継機選定は今後も優先順位が低いままかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Royal Air Force
>因みにオーストラリアは~(略)~「他の選択肢=無人戦闘機や新しい設計の戦闘機が候補に加わる」と述べている。
GCAP「!?」
KF-21「!?」
KAAN「!?」
FCAS「!?」
いや~、有人戦闘機ってF-35からどんどん先細ってゆくと思ってたけど、まさか増えてくるとは
先細るも何も各国で開発されてる次世代戦闘機は全部有人なんだが
無人戦闘機なんて補助的なものしか無い
今はまだ有人という結論になっちゃったけど
米海軍長官が「F-35が最後の有人戦闘機になるだろう」って発言が昔あったぐらいには
次の世代の戦闘機は無人機ってイメージが出てたんで…
まぁ当時は自律制御のブームが始まった時期だったし自動運転だとかワンサカ増えてたから。いろいろな夢があった時代だったね…(過去形
(いや今もAIの進歩が凄まじいし将来どうなるかは未知数なのには変わりないか?)
F-35は100億円を普通に超えますから、供給・アップデート・スペアパーツにまで不安を抱えているとなれば厳しいですね。
ロッキード・ボーイングなど、アメリカ防衛企業は納期を守る能力が極めて低く、いつになるのかも見通せないのは力の空白を招きかねず危険です。
武器がきちんとある・きちんと使える、代替手段でこの状況に持っていけるならば、脱アメリカ装備は平和に繋がるという一面があるのかもしれませんね。
オーストラリアもインド太平洋地域で空母を展開しないといけない。
キャンベラ級用にF-35Bを導入しないとね。
ホーネットに海軍向け装備追加してタイフーン入れるのでは?
マルチタスク整備兵の方が、パイロットよりも基調になるなんて、オチになるかなと一瞬考えました。
インドや中東など、複数国の戦闘機を管理している国々は、、どのようにして管理しているのか気になりますね。
ノースロップがATFで勝っていればどちらも遅延常習犯という未来は変わっていたのだろうかと思わざるを得ない。
あの機体、機能美と言いますか、綺麗さ格好よさを感じました。
あの機体も、製造が大変そうですが、どうなってましたかね…
兵器の米依存からの脱却及び自国回帰は望ましい流れではあるが、日本は兵器アレルギーを何とかせな乗り遅れてしまうな
こことか軍事系のサイトにコメントしてる人らはそれなりに興味があるからともかく、自分から調べない普通の人らは、兵器=避けるor嫌な物の認識の人が多い
まあ個人ではどうしようも無いし、自衛隊やwarsのmad動画でも作りながら多少でも興味持つ人が増えることを祈る
兵器アレルギーは分かるけど変な情報に踊らされる自衛隊マンセーが増えるのもね。これだけ製造環境に恵まれた国なのに自衛隊の装備は用兵思想とかアレルギーとかでどうしようもない物が多い。もっと歩兵の疲労軽減に繋がる装備とか、正面装備や乗員を守る装甲やRWSとか目に見える変化が無いのが問題。10式の12.7mm重機関銃の位置なんて用兵側が要望伝えてようやく使いやすい位置に設置とか何年戦車作って運用しているのかと。
欧米も長年作っててこんなことも分からないのかなんて事普通にあるでしょ
最近のM10やボーイングもそんなんばっか
豪州はファイブ・アイズ加盟国であり、英連邦の宗主国の英国がタイフーンの生産ラインが停止してしまうという騒動になっているから1スコードロン分くらいの機数でも買ってあげよう。
インドとパキスタンの戦闘結果次第では第四世代機の使い方と搭載兵装もガラッと変えなきゃならなさそうだが、どうなるかな。
多分、本体の一層の性能向上はもちろんのこと、それだけでは圧倒できないから無人機との組み合わせが標準装備化されるのでは。
中国製のシステムで揃えたパキスタンと各国混合のインドで、システム統合の差が出たと言う話もある。
いざとなれば米軍が出てきてくれると思われていたから
非常に高価な米国兵器に需要があったんですけどね
トランプは自分からシェアを手放していくのか・・・(呆れ)
どっちかというと元々米国製造業の衰退による遅延+バイデン政権で判明した有事の際の出し渋りで今後どうしようか迷ってたところを、トランプ政権の不確実性っていう分かりやすい材料で最終決断したんだと思う