欧州関連

英国、ウクライナ人パイロットに訓練機会を提供しても戦闘機は提供しない

ウクライナ人を訓練するエイブラムがドイツに到着、ルハンシクではストームシャドウの残骸が見つかり、イタリアが提供したSAMP/Tがウクライナに到着、英国はウクライナ人パイロットに訓練機会を提供しても戦闘機は提供しない。

ドイツに到着したのは訓練用途に特化したエイブラムスで、ウクライナに供与するエイブラムスの到着は秋頃

米国のオースティン国防長官は4月末「ウクライナ人が訓練に使用するエイブラムが数週間以内にドイツに到着する」と明かし、AP通信は当局者の話を引用して「5月末までに31輌のエイブラムがドイツに到着する」と報じていたが、予定よりも早くエイブラムがドイツに到着した。

参考:US Abrams tanks for training Ukrainian forces arrive in Germany ahead of schedule

米国防総省は「ドイツのグラーフェンヴェーアにある訓練施設に31輌のエイブラムスが到着し、ウクライナ人に対する訓練を開始する予定だ」と発表、ドイツに到着したエイブラムスは訓練用途に特化(国防総省は訓練用と供与用の違いについて詳細を明かすことを拒否している)したもので、ウクライナに供与するエイブラムス(陸軍在庫のM1A1)は機密に該当する部分を撤去する作業をリマ戦車工場で施し、秋頃(9月~11月のあいだ)に到着するためエイブラムスのウクライナ到着はまだ先の話だ。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Patrick King 戦車大隊が廃止され海兵隊向けのM1A1/FEPが陸軍の倉庫に運ばれる様子

因みに陸軍在庫のM1A1とは「Force Design 2030」に基づき戦車大隊が廃止された海兵隊向けのM1A1/FEPである可能性が高く、エイブラムスのオーバーホールを担当するリマ戦車工場の年間処理能力(月15輌~20輌)は米陸軍向けの米陸軍向けのM1A2/SEPv3(2023年度に22輌発注)、台湾向けのM1A2T×108輌、ポーランド向けのM1A1/FEP×116輌+M1A2/SEPv3×250輌、オーストラリア向けのM1A2/SEPv3×75輌で埋め尽くされている。

参考:米国、納品時間を短縮するためM1A2ではなくM1A1をウクライナに提供
参考:米国、6月にM1エイブラムを使用したウクライナ人の訓練をドイツで開始
参考:ポーランドがM1A1FEP導入契約に署名、エイブラムスの調達数は計366輌

爆発現場でストームシャドウの一部と思われる残骸が見つかる

これまでウクライナ軍の手が届かない安全地帯と考えられていたルハンシクの機械工場で爆発が発生、この爆発は何からのミサイル攻撃によるもので「ストームシャドウ使用の可能性」が浮上していたが、英国が提供したストームシャドウの数は「極少数(正確な数は不明/英国の保有量は推定750発~1,000発)」と報じられており、鉄筋コンクリート製の建造物破壊に効果を期待できるストームシャドウ(BROACHタンデム弾)を機械工場の攻撃に使用する可能性は低い=クリミア大橋の攻撃用と管理人は考えていた。

しかし、爆発現場でストームシャドウの一部と思われる残骸が発見されたため、既に旧ソ連機へのストームシャドウ統合が完了し、英国は幅広い目標にストームシャドウを使用できるだけの量をウクライナに供給しているのかもしれない。

因みに米ディフェンスメディアは「MiG-29やSu-25でストーム・シャドウを運搬するのは難しく、Su-27やSu-24が空中発射の母機に使用されるだろう。ストーム・シャドウは事前に目標座標がプログラムされるためデータを入力するためのインターフェイスを母機に配線する必要がない」と述べているため、統合する作業自体は単純(飛行中のSu-27やSu-24から安全にストーム・シャドウを分離できるか検証する時間があったのかは不明)なのだろう。

関連記事:ロシア軍にとって安全地帯のルハンシクで爆発、現場でADM-160の残骸が見つかる
関連記事:英国防相、ロシア人の行動がストーム・シャドウのウクライナ提供を招いた
関連記事:英国がウクライナへのストーム・シャドウ提供を発表、クリミア大橋が攻撃可能に
関連記事:米CNN、英国がクリミア大橋に届くストーム・シャドウをウクライナに提供
関連記事:英国、ウクライナにハープーンもしくはストーム・シャドウの提供を検討中
関連記事:英国はウクライナに長距離攻撃兵器を提供する最初の国、ストーム・シャドウ提供が濃厚

イタリアが提供したArabelはウクライナに到着、SAMP/Tの実戦投入はフランスの役割まち

イタリアのラ・スタンパ紙は15日「イタリアが提供したSAMP/Tがウクライナに到着した」と報じており、提供したSAMP/TがAster30Block1(PAC-3弾に相当/射程600kmクラスの弾道ミサイルを迎撃可能)に対応したバージョンなら、ウクライナは弾道ミサイルの迎撃に対応した西側製防空システムを2つ手に入れたことになる。

参考:Ucraina, ecco i Samp/T: cosa sono e perché possono garantire un salto di qualità nella guerra
参考:Italian-made anti-air system boosts Ukraine’s air shield

但し、SAMP/Tの実戦投入はまだ行われていないようだ。

出典:Italian Army/CC BY 2.5

駐イタリア・ウクライナ大使は現地メディアの取材に「イタリアは防空システムを提供する役割を既に終えており、フランスの役割を待っているところだ。システムの実戦投入に関する正確な時期はまだ決まっていないがもう直ぐだ」と明かしており、これはSAMP/Tの提供方式に関係する。

ウクライナに提供するSAMP/Tは1基で、イタリアはシステムを構成する長距離レーダーの「Arabel」を、フランスが「ランチャー」と「Aster30」を提供する方式なので「フランスの役割を待っている」というのは、ランチャーとAster30がウクライナに到着していないのだろう。

関連記事:伊首相がキーウを訪問、SAMP/Tを含むウクライナ支援パッケージを発表
関連記事:イタリア外相、2ヶ月以内にウクライナでSAMP/Tの運用が始まると明かす
関連記事:ウクライナが切望する高度な防空システム、仏伊がSAMP/T提供を間もなく発表

英国はウクライナ人に訓練機会を提供するが、戦闘機を提供するつもりはない

英国のスナク首相は2月「ウクライナ軍への長期的な投資の一貫として提供する訓練内容の拡大(NATO標準戦闘機を操縦するための訓練や海兵隊に対する訓練など)」を言及していたが、15日「ウクライナ人パイロットに対する西側製戦闘機の訓練を夏に開始する予定で、これはF-16をウクライナに提供する国際的な取り組みにリンクしている」と正式に発表した。

参考:F-16s Will Be Focus Of Ukrainian Pilot Training In U.K.
参考:UK will train Ukraine pilots, Sunak tells Zelenskiy; Russia and Iran appear to be expanding cooperation, US says

英国はウクライナ人パイロットに「西側製戦闘機を操縦するための基本的な初級飛行訓練(英空軍のプログラムを流用)」を提供する予定で、管理人は「戦闘機を使用した訓練」ではなく「ホークを使用した訓練」になる可能性が高いと予想したが、どうやら英空軍の初級飛行訓練プログラム(約4ヶ月間)はGrob Prefect T1(G120TP)で行われ、これをパスするとT-6→ホーク→タイフーンもしくはF-35Bの訓練に移行する。

出典:Steve Lynes/CC BY 2.0 Grob Prefect T1

そのため米ディフェンスメディアは「現段階でウクライナに提供されるはGrob Prefect T1の訓練機会のみだ」と指摘、これは将来的にT-6やホークの訓練機会が提供される可能性を否定するものではないが、英空軍はホークの不安定な運用状況に直面して「ジェット機操縦過程へ進むパイロットの養成(約280人のパイロット候補生がホークでの訓練を待っている状態)」に大きな問題を抱えており、イタリアの国際飛行訓練学校(IFTS)での訓練を開始すると発表したばかりだ。

そのためウクライナ人にホークが提供する訓練機会を用意するなら「IFTSへの入校」も視野に入ってきた。

因みに英国政府の報道官は「ウクライナに戦闘機を提供する考えはあるのか」という質問に「そのような計画はない。ウクライナ人にF-16を操縦するための訓練(F-16での訓練機会ではなくNATO規格の戦闘機を操縦するための初級飛行訓練のこと)を開始することは決定したが、我々の空軍がF-16を使用していないことは明らかだ」と明かし、タイフーン提供を否定した。

関連記事:英国、ウクライナ人パイロットに対する西側製戦闘機の訓練を夏に開始
関連記事:英国がNATO標準戦闘機を操縦するための訓練をウクライナに提供、但し戦闘機提供は未定
関連記事:ウクライナ人パイロットは数ヶ月でF-16を飛ばせる、但し飛ばせるだけ実戦は別
関連記事:空自、伊空軍の国際飛行訓練学校に戦闘機パイロットを派遣して高度な訓練を実施

 

※アイキャッチ画像の出典:Copyright Eurofighter

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コメント

    • ひろゆき
    • 2023年 5月 16日

    消耗した戦闘機の補充をしなくてはならないしF-16じゃなくてタイフーンを供与ってサプライズがあるかも

    1
    • はぁ
    • 2023年 5月 16日

    F16やタイフーンを提供するにしても訓練がかかりすぎるから、この戦争に間に合うかは不透明って感じか。
    日本も訓練機はガタついてきてるし、欧州各国の懐事情も厳しそう。

    5
    • 鼻毛
    • 2023年 5月 16日

    機が熟して他のNATO諸国が本腰入れた頃にパイロット候補生をパスすりゃいいですね

    2
    • 58式素人
    • 2023年 5月 16日

    英国は、時間を掛けて米国を説得するつもりかな。
    今回の件は外堀を埋める工事だったりして。そうならば、手並みや如何に。
    米国は、この件でいい顔をしていなかったと思うのだけど。
    ウクライナとしては、F16ではなくても同等品を入手できれば良いでしょうし。
    ラファールは止めておいたとしても、F16の他に、FA18、タイフーン、グリペン、と候補はありますから。
    前にも書きましたが、当面は、西側で近代化されたミグやスホーイが欲しいですね。
    そして、R77中距離ミサイルの長距離化改造に手を貸してもらうか。
    それと、AEW機をイスラエルかスウェーデンから入手したいところでしょう。

    2
      • 匿名希望係
      • 2023年 5月 16日

      米国は許されるなら砂漠にある機体を引っ張り出せますしね。
      あと普通にAIM-9とAIM-7つめるとおもうので(コピーのK-13やK-25)の供与のほうがうれしそう(いじるにしてもミサイル側のプロファイルで対応できるので)

      2
    •  
    • 2023年 5月 16日

    どこの国も戦闘機なんて余ってないからねぇ。国際共同開発(だいたいぜんぶ遅れてる)の煽りで自国の必要な機数すら確保できてない可能性もある。日本みたいにね
    ウクライナもそんなことはわかってるけど必要なものは必要なんで言い続けてるだけじゃないかな。我々素人から見ても西側各国に戦闘機が潤沢に存在するなんて露程も思えないのだし
    機材としての単価もバカ高いから、とりあえず提供して自国の分は最新機を追加発注追加生産…などというわけにもいかない。そもそも今ある機体だって前述の通り後継機の遅れ等で耐用年数ヤバそうなのがゴロゴロしてるんだからそのまま供与というわけにもいかないしなあ
    こればっかりは逆立ちしたってどうにもならないね

    1
      • 匿名希望係
      • 2023年 5月 16日

      なお米国は比較的例外である。

      3
    • チェンバレン
    • 2023年 5月 16日

    廉価良品の西側戦闘機といえばF-16
    これから出てくる韓国の軽戦闘機はどんなもんかねえ
    テジャスは西側かというとよくわからんし
    ブラジルは輸送機とターボプロップ軽攻撃機しかない
    あとはイスラエルになんかいいのないかね

    • kitty
    • 2023年 5月 17日

    しかし、「M1戦車は燃費が悪すぎて、太い補給の出来る米軍以外には運用できない」なんて言説が出回っていましたが、嘘のような売れっぷりですね。

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