ウクライナ戦況

スナク英首相が予告なしにキーウ訪問、対空砲125門を含む防空パッケージを発表

英国のスナク首相は事前予告なしにキーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談、ロシア軍のインフラ攻撃を阻止するため対空砲125門、対空レーダー、対ドローン用電子戦装置などを含む5,000万ポンド相当の防空パッケージを発表した。

参考:Премьер Британии в Киеве пообещал усилить ПВО Украины 125 зенитными пушками
参考:РФ массированными ударами пытается истощить украинскую ПВО – Пентагон

ロシア軍の狙い通りウクライナ軍が迎撃弾を消耗して補充が追いつかなくなると「航空支援を互いに拒否する戦場」という前提が崩れる

キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談したスナク首相は「英国が侵攻当初からウクライナを支援していることに誇りに思っている。私は野蛮な戦争を終わらせ公正な平和を確立するため奮闘するウクライナを引き続き支援すると伝えるためここに来た。キーウに来て主権と民主主義の原則を守るため犠牲を払っている人々に会う機会を得たことを光栄に思う」と述べ、5,000万ポンド相当の防空パッケージを発表した。

この防空パッケージについてスナク首相は「ロシア軍の攻撃をウクライナ軍は撃退しているものの民間人が空からの残忍な攻撃に晒されている。5,000万ポンド相当の防空パッケージはロシア軍の激しい攻撃からウクライナ市民と重要なインフラを守ることを目的にしている」と述べ、パッケージに対空砲125門、対空レーダー、対ドローン用電子戦装置などが含まれていると明かしたが、対空砲が何なのかは今のところ不明だ。

スナク首相は防空パッケージとは別に1,600万ポンド以上の人道支援も発表しており、これらの資金は発電機の購入、避難所の設営、水道管の修理、移動診療所の運営に役立てられ、極寒の冬で戦うウクライナ軍を支援するため「防寒具を数万点送っている」と付け加えている。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

因みにドイツはロシア軍のインフラ破壊に対応して「既に2,430台以上の発電機をウクライナに提供した」と報じられており、ドイツ国際協力公社は1,000台の発電機を購入してウクライナの地方自治体に送る予定で、英国も数百台もの発電機をウクライナに提供、これとは別にEU加盟国17ヶ国(スロベニア、スロバキア、アイルランド、オーストリア、スウェーデン、スペイン、ドイツ、イタリア、デンマーク、フィンランド、エストニア、ベルギー、ブルガリア、ルクセンブルグ、キプロス、ポーランド、フランス)が共同で500台の発電機を提供済みだ。

これらの発電機でどれだけ電力事情(国民の1/4=約1,000万人が電力を利用できない状況)を改善できるのかは未知数だが、ロシア軍のインフラ攻撃について国防総省は「ウクライナ人から電力を奪う以外にもウクライナ軍の防空システム能力を枯渇させ航空支配を確立させる意図がある」と指摘しており、防空システムの高価な迎撃弾や携帯式防空ミサイルを「安価なイラン製無人機の迎撃で使い尽くさせロシア軍機がウクライナ上空を飛行できるようにする」という意味だろう。

出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ

ウクライナ軍が使用する旧ソ連製の防空システムが使用する迎撃弾がどれだけ残っているのか不明だが、西側諸国が提供する防空システムの迎撃弾も安価で大量運用される無人機迎撃に向いていると言いにくく、ロシア軍の狙い通りウクライナ軍が迎撃弾を消耗して補充が追いつかなくなると「航空支援を互いに拒否する戦場」という前提が崩れるため中々由々しき問題といえる。

追記:ワシントン・ポスト紙はロシアとイランが「ロシア領内でのイラン製無人機製造で合意した」と報じている。

関連記事:米メディア、ロシアはマイクロチップの備蓄を大量に持っている可能性
関連記事:米軍備蓄量が急速に減少、今後のウクライナ支援に支障が出る可能性も

 

※アイキャッチ画像の出典:PRESIDENT OF UKRAINE

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コメント

    • ミリオタの猫
    • 2022年 11月 20日

    スナク新首相が、まさかジョンソン元首相と同じ様にキーウを電撃訪問するとは驚きでした…そこにシビれる!あこがれるゥ!(笑)
    尤も、彼は国防予算の増額は見直すと言っていましたが、対ウクライナ支援は続ける共言っていたので、それを行動で示した格好ですね
    今回、英側がSAMでは無く対空砲を防空パッケージとして提供するのは、明らかにイラン製のドローンに的を絞った対策だと思います
    SAMでドローンを迎撃するのは割に合わないですから当然でしょうが、どんな対空砲(大口径の機関砲?)なのか興味が湧きます
    後、今回の電撃訪問で、ゼレンスキー大統領とスナク新首相との間でポーランドへのミサイル着弾事件について話し合われたのかどうかが気になります

    24
    • タイヤキ
    • 2022年 11月 20日

    Kh-55の核ミサイル用ミサイルも核弾頭外してロシアは使いだしているので、何万発もあるロシアの核ミサイル用ミサイルもミサイル備蓄とすると、ロシアは大量のミサイル備蓄あるので欧米との殴りあいはロシアが短期的には優勢でしょうね。
    核ミサイルは千発もあれば、世界滅ぼせるので、ロシアが過剰に持っていたという面がありますね。

    4
    • 774rr
    • 2022年 11月 20日

    に、日本の支援は。。。?
    ウクライナ議員団の訪日時に検討するって言って1ヶ月近く経ってますよ(小声

    29
      • 戦略眼
      • 2022年 11月 20日

      検討しただけ。

      20
      • 匿名
      • 2022年 11月 20日

      ウクライナ追加支援を含む補正予算案が、直近の閣僚問題で往々にして進みませんからね。
      そうで無くとも、優先順位付けらず中途半端な仕事しかしてない岸田政権では、戦時支援は荷が重過ぎる様に見えます。

      21
        • 774rr
        • 2022年 11月 21日

        任命責任とか訳の解からん事で騒いでないで必要な事をパッパと決めて欲しいよね
        ウクライナでは今、日本の支援を必要としているのだから

        1
    • 月虹
    • 2022年 11月 20日

    イギリスのスナク首相は財政再建のために国防費の見直しを検討しているというニュースが流れたのでウクライナ支援がどうなるか注視していましたが流石はイギリス、方針にぶれが無いですね。トラス首相の早期辞任で後任を巡る首相選挙にジョンソン前首相も立候補を模索してスナク氏とも討論をした様ですが「ウクライナへの継続支援」を引き継ぐ様に要請したのは間違いないでしょう(「ウクライナの信用を得たければ現地に出向いてゼレンスキー大統領にあってくることだ」とも助言しているでしょう)

    防空システムとして対空砲125門の供与をイギリスは表明しましたが対空迎撃用の砲ってイギリスにありましたっけ?防空システムであればスターストリークの導入で退役した「レイピア対空ミサイル・システム(自走式)」がありますが対空砲となると自国で採用されなかったファルコン(採用国無し)やマークスマン(フィンランドのみ採用)くらいしか思い浮かばないので…

    13
    • スポンサー・ドリンク
    • 2022年 11月 20日

    2022年1月24日から10月3日まで支援額
    リンク
    単位:億ユーロ
    United States 52.32
    EU institutions 16.24
    United Kingdom 6.66
    Germany 3.3
    Canada 3.04
    Poland 2.94
    Norway 1.39
    France 1.15
    Italy 0.69
    Japan 0.62 ●
    Austria 0.56
    Netherlands 0.55
    Sweden 0.5

    11
      • 2022年 11月 20日

      経済規模から言って少なくてもイギリスに肩を並べないと、岸田さん口だけ番長に見えてしまう。
      ちょっと日本ダサいな。
      ウクライナ勝ったら日本に発言権ないかも。

      もう日本は一等国から降りたら良いかも?

      2
    • 南斗
    • 2022年 11月 20日

    日本は西側と価値観を共有しない国なので
    是迄どおり一切の支援は不要です

    おそらく大中華による日本有事の際は
    此度の欧州危機を今のように中立的立場から傍観していようが、今とは異なり積極的に西側をしていようが、誰も助けてくれないでしょう

    是迄通り欧州には背を向け淡々と単独で軍備を増強するのが大事です

    おそらく時間ももうあまり残されていませんし

    2
      • α
      • 2022年 11月 20日

      国際政治だとか地政学とかを単純に考え過ぎじゃない?
       人道とか友情とかそんか甘っちょろい言葉抜きでも、自分達の国益の為に他国が絶対介入するに決まってる。自国での血が流れる前に日本で中国の出血を強いてやる!ってね。
       そもそもアメリカが自国領土への攻撃リスク跳ね上げてまで日本という前線基地を戦わず放棄する理由がない。

      26
      •  
      • 2022年 11月 20日

      あなたのコメントは、日本を「淡々と単独で」中国の前に置こうとしている考え方──言い換えると、西側諸国の一国である日本を孤立させて中国の対日戦略を有利にしようとしている考え方──に思えるんですが・・・

      27
      • hiroさん
      • 2022年 11月 20日

      その論法で言えば、ウクライナって何処かの国の支援をしていましたっけ?
      あっ、中国や北朝鮮に軍事技術を支援していましたね。
      ちょつと考え方が単純過ぎるのでは?

      13
    • 名無志野
    • 2022年 11月 20日

    対空砲で該当しそうな現用英軍装備というとStarstreak LMLが連想されますがbofors 40mm/L70がまだ残っていたりするんでしょうか?
    ちょうどRUSIのThe Russian Air War and Ukrainian Requirements for Air Defenceを読んでいたところだったのでさっそく防空能力と対ドローン用装備供与してきましたね…となりました。この調子で提言されていたグリペンとミーティアの供与もなにとぞ…!
    リンク

    4
      • らっしー
      • 2022年 11月 20日

      グリペンがウクライナで大活躍でもしたりしたら、
      要らん子扱いの評価も覆るん・・・かな?

      1
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