欧州関連

ミサイル万能論? 英国はF-35Bに搭載するガンポッド調達は行わない

英海軍は今月9日、英空軍の第617中隊「ダムバスターズ」所属のF-35Bを空母「クイーン・エリザベス」に収容して本格的な訓練を開始したと明らかにした。

参考:UK’S OPERATIONAL F-35 JETS MARK FIRST LANDING ON HMS QUEEN ELIZABETH

英空母「クイーン・エリザベス」で本格的なF-35Bを使用した訓練が始まる

英海軍の第617中隊「ダムバスターズ」は第二次世界大戦でドイツのルール工業地帯に電力を供給していたダムを破壊するために創設された部隊で、ダム攻撃以外にも特殊な大型爆弾トールボーイやグランドスラムを使用して巨大な建造物や堅牢の構築物を破壊したり、独海軍の巨大戦艦「ティルピッツ」を攻撃するなど多くの戦果を挙げたことで有名だ。

出典:Public Domain アブロ バルカン

ダムバスターズは第二次世界大戦後も爆撃機を運用し続け1958年からはデルタ翼を採用した戦略爆撃機「バルカン」を装備していたが戦略爆撃機が廃止されてしまったため、1983年からは戦闘攻撃機「トルネードGR」を運用することになった。

その後、ダムバスターズは戦闘機F-35Bを最初に装備する部隊に指名されたため2014年に一度部隊を解散、米国でF-35Bを受け取り訓練を行って2018年に復活を遂げることになる。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

英海軍の空母「クイーン・エリザベス」はダムバスターズのF-35Bを4機搭載して洋上で航空作戦の訓練を行う予定で、主要な目的は空母から出撃したF-35Bによる目標破壊作戦と、敵の航空機から空母を守る迎撃作戦を実施して有効性を示すことだとフィリップス司令官は説明している。

因みに英軍はSTOVLタイプ(短距離離陸/垂直着陸)のF-35Bしか調達していないのだが、これに関する興味深い話を見つけた。

参考:Currently ‘no plans’ to purchase gun pods for F-35B jets

英メディアは10日、英国はF-35Bしか導入していないので機外携行用のガンポッドを調達する計画はあるのか?という質問に対して英国防省は「そのような計画はない」と答えたと報じている。

F-35は通常型のAタイプのみ機体内に「GAU-22/A 25mmガトリング砲(180発)」を装備しているがB/Cタイプには固定武装がないため、必要に応じて胴体下部のセンターライン上にGAU-22/Aを収納できるテルマ製マルチミッションポッドを携行することになっている。

このポッドは通常のものよりレーダー反射断面積が抑えられるよう設計されており、GAU-22/A以外にも電子装置や偵察機材など収納することも可能だが、英国はF-35Bにマルチミッションポッドを使用したGAU-22/Aの搭載を考えていないらしい。

ミサイル万能論が頂点に達していたベトナム戦争初期、思っていたよりも空対空ミサイルの命中率が悪く格闘戦(ドッグファイト)に巻き込まれることが頻発、慌てて機関砲を搭載したという話が忘れられない世代にとって英国の判断は抵抗感を感じてしまうが、空対空ミサイルの性能も向上して視界外戦闘が当たり前の時代なのでもしかしたら問題ないのかもしれない。

果たして英軍のF-35Bに乗り込むパイロット達は、機関砲携行の選択肢が奪われた状態をどのように思っているのだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal Navy / OGL v1.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    流石にベトナム戦争の頃とはミサイルの性能が違う、F-35Bが機関砲を使わざる状態になる状況にはならないという考え方だろう。

    ミサイル撃ち尽くしたらさっさと戦線離脱。

    いきなり機関砲による格闘戦になるまで接近する相手に気付かないという可能性は殆ど無いと思っているのだろう。

    2
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    そう言えば英空軍のタイフーン戦闘機もマウザーBK27・27㎜機関砲を搭載しない(発射口も塞いでしまっている)らしいから、英軍では「もう機関砲は使い様がありません(キリッ)」って考え方なのかね?
    でも、それだとスクランブル発進時の警告射撃が出来ない訳で、ロシアから爆撃機等が英国領空へ侵入して来たらどうするか興味がある

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 12日

      普通の?威力偵察ならスクランブル機が上がって来て警告したら離れて行くと思う。

      スクランブル機が警告射撃までする事も考慮していないのかも。

      1
      • 匿名
      • 2020年 6月 12日

      無線警告の後、撃墜…なんてね。

      1
      • 匿名
      • 2020年 6月 15日

      確か、冷戦時代のソ連機なんかは警告用のロケット弾を積んでたと思う。

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    早い話金が無いんだろ
    貧乏が悪いんや

    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    心理的圧迫感はあるでしょうね。
    ただ、作戦の大勢に影響はないのではと思います。

    関係ないですが、F/A-18F Block IIIの初飛行動画がYouTubeに上がってますね。
    数機が海軍に引き渡されるようです。

    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    デファイアントを正式採用した英国空軍ですからな
    我々には及びもつかない深慮遠謀があるのでしょう

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    元々F-35の機関砲は空戦ではなく地上掃射が主眼
    なので艦載機のF-35B/Cではオプション扱いだし従来のM61バルカンではなく口径の大きなGAU-22が選ばれてます
    なので「米軍が設計段階から不要と考えて英国が追随した」が適切かと

    1
    • HY
    • 2020年 6月 12日

    機銃の使用があるとすれば敵同士お互いの姿が見える近接での戦闘になりますからね。F-35の機動性はF-16に劣るという報道もありますし、ステルスとセンサーに頼ったスタンドオフ攻撃を想定しているのならガンポットはいらないのかもしれません。

    まあ、今はもうどこかの国のダムを破壊する任務はあり得ないってことじゃないですか?

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    もう、ダム壊すには核兵器しかない訳だな

    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    空対空戦闘は考えていないだろうし、機銃にによる対地攻撃は危険が大きすぎるからだろう。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    考慮してるとはいえ外装のガンポッドを積めばやっぱりステルス性も高速性能も落ちる訳で、
    浸透攻撃作戦なら気休めの自衛力よりはステルス重視、
    迎撃任務であればAAM撃ち尽くして落とせない相手だったら耐荷重7GのF-35Bでドッグファイトするよりはとっとと逃亡した方がいい、って事でしょうね。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    F-35の機関砲の弾数も第四世代機の500発から1000発と比較して大幅に減っているのでガンポッド買っても価値を見出しにくいのでしょうね。
    A-10の代わりに機関砲で近接航空支援をやるにしても、弾数が1/5に減ってますし、A-10の交換主翼の寿命が尽きて退役するまではF-35の機関砲で近接航空支援は無さそうです。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    日本が買うF-35Bはガンポッドを付けるのだろうか?
     F-15による撃墜記録を見ると、撃墜した100機余りの内、機銃を使った撃墜は3機。現代の空戦では機銃はお守りみたいなものかもしれない。

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 12日

      あと平時の警告射撃かな?

      2
        • 匿名
        • 2020年 6月 12日

        F-15改やF-35A型も装備している日本はB型を要撃任務には使わないだろう。

        ガンポッドは要らないと思う。

        2
          • 匿名
          • 2020年 6月 13日

          機関銃装備したF-35Aは持ってるわけだからねえ。
          Bに要るかって言うと南方戦線の任務だから中国とガチでやりあう想定なら機関銃はお守りだよ。

          1
          • 匿名
          • 2020年 6月 13日

          艦上運用してる時に艦隊に接近してくる不明機がいたらどうする?
          それでなくても手が足りない空自戦闘機隊から領域防空担当の戦闘機が2個飛行隊も抜けたら残りの機体や人員の負担が凄い事になるぞ。
          故にガンパックは必須と見る。

          1
            • 匿名
            • 2020年 6月 13日

            >艦上運用してる時に艦隊に接近してくる不明機がいたらどうする?

            いずもやかがが展開しているならイージス艦やあきづき型護衛艦が随伴しているだろうから艦隊防空は基本的にはそれらの仕事では?

            F-35Bが相手をするにしても空対空ミサイルで事足りる。

            1
            • 匿名
            • 2020年 6月 13日

            >艦上運用してる時に艦隊に接近してくる不明機がいたらどうする?

            いずもやかがが展開している状況ならイージス艦やあきづき型護衛艦が随伴しているはず、艦隊防空は基本的にそれらの艦が対応するのでは?

            防空艦で対応出来ない様な多数の敵機が接近しているならF-35B型の付け焼き刃のガンポッドでどうこう出来る状況じゃ無いよ。

            1
            • 匿名
            • 2020年 6月 13日

            『平時に』とつけなかった所為で意見に齟齬が出たのは申し訳ない。
            戦時ならいきなり墜としてしまえばいいが平時ではそうはいかないし、接近の目的が威嚇や偵察だろうからそもそも近づけたくないので状況によっては威嚇射撃が必要になる。

            しかしなんだね、こうやってガンパック不用論を説く人達はついこの前までF-35Bも空母も不用っていってた連中が梯子はずされたのを見てなかったのかね?
            持ってはいるがこの状況では使わない、ならともかくなんで導入そのものを反対するのか意味がわからんな。

            1
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    国籍不明機に対する警告射撃なら練習機や複座機でも十分では
    むしろ警告聞かなければすぐに撃墜となったほうが、テロやハイジャック犯が減るかも

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 07日

      練習・複座機がスクランブル系の任務にあたれる態勢にある訳がなく、警告後即撃墜とか野蛮すぎるし関連国際法にも明確に触れる。あと民間人乗ってるハイジャック機を墜とす選択肢はまずあり得ないでしょう…

      3
    • 匿名
    • 2020年 6月 13日

    空軍がF-4に機銃を搭載することに拘ったのは空戦より地上攻撃が主な目的って読んだことあるけど

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 13日

    極論すると、ミサイル発射は、オール・オア・ノシングで、
    威嚇という概念が、限りなく希薄だ。
    例えば、英空母に接近してきた中ロなどの戦闘機を、追い払いたい場合、
    ステルス性を損なったとしても、攻撃ミッションではないので、
    とりわけ現場は、外付け機関砲が欲しいのではないか?
    艦載機すべてに常装せずとも、空母に、何基かの機関砲パックを常載しておくだけで、
    その分、中ロは嫌がらせ手段を減らされてしまう。
    英国の政治的決断は、楽観論に基づいていて、過去に何度も失敗している。

      • 匿名
      • 2020年 6月 13日

      書き忘れたけど、B型は機体強度がかなり弱いので、
      万が一にも、空戦など行わせたくないという配慮は分かる。
      ただ、機関砲パックは、空母に何基か載せておけという意見。

      英本土防衛では、スクランブル用途に、例えばタイフーンがあるから、
      F-35Bの機関砲パックは、無くても困らないだろう。

    • 名無し
    • 2020年 6月 14日

    日本のF-35Bは島が外国軍に占拠された時にも使われるかもしれない
    その時はガンポッドで地上攻撃をする可能性はあると思う
    25mm砲は強力だ
    ガンポッドを付けた状態でミサイルや爆弾をどのくらい搭載できるのか気になる

    •  
    • 2020年 6月 15日

    旧大戦では爆撃機や戦闘機から、民間船や車両、市民への地上掃射も行われたから、
    そういう「汎用用途」としての機能がガンポッドには残されているのかも(小声)

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