ウクライナ戦況

ウクライナはアフガニスタンではない、MQ-1Cの対地攻撃は通用しない

ウクライナ軍の関係者は「ここはアフガニスタンではないのでMQ-1Cを対地攻撃に使用すれば90%の確率で撃墜される」と明かした。

参考:Ukrainian Fighter Pilots Call B.S. On Need For Gray Eagle Drones

TB2の対地攻撃は現在の戦いでは役に立たず、MQ-1Cを対地攻撃に使用すれば90%の確率で撃墜される

どちらから話を持ちかけたのか不明だが、米国のGeneral Atomics Aeronautical Systems(GA-ASI)と駐米ウクライナ大使はMQ-9調達について協議を行なっていると4月頃に報じられたことがあり、バイデン政権はMQ-9よりも小型のMQ-1Cをウクライナに売却する計画を進めていたが、国防総省の国防安全保障局が「MQ-1Cに搭載されたセンサーシステムがロシアの手に渡る可能性がある」と異議を唱えたため計画は暗礁に乗り上げている。

出展:Photo by Spc. Latoya Wiggins

これについてウクライナ空軍の現役パイロット2人は匿名を条件に「ここはアフガニスタンではないのでMQ-1Cを対地攻撃に使用すれば90%の確率で撃墜される=航空作戦強化のため西側諸国に支援を要請する内容の優先順位が軍上層部と現場では異なるという意味」と米ディフェンスメディアに明かした。

ウクライナ侵攻の初期段階は戦線が流動的で、これをカバーする防空システムも完全に機能していなかったこともあり「首都に向かうロシア軍部隊を止めるにTB2の対地攻撃は非常に有効的だった」とパイロット達は明かしたが、ロシア軍が広大だった戦線を縮小して強固な防空システムを構築すると「TB2の対地攻撃は現在の戦いでは役に立たず、MQ-1Cが搭載できる対戦車ミサイルの射程も対して変わらないので、対地攻撃に使用すれば90%の確率で撃墜される」と指摘している。

出典:Армія Інформ / CC BY 4.0

ただ小型UAVよりも高性能なEO/IRセンサーを搭載するTB2(最大75km先の目標を識別可能)は「引き続き偵察任務で有効だ」と言及しているので、米国から調達を進めているMQ-1Cが「東部戦線で全く役に立たない」という意味ではないが、MQ-1CはTB2よりも非常に高価だとパイロット達は付け加えており、無償ではなく有償で調達するならTB2の方が数を揃えられると言いたいのかもしれない。

別のウクライナ軍将校も「米国が供給するSwitchbladeやPhoenix Ghostといった徘徊型弾薬がMQ-1Cが提供する能力の代わりを務めている」と述べており、米ディフェンスメディアは「高価なMQ-1Cを有償で調達しようとする軍上層部と現場の間には航空作戦強化のアプローチに見解の相違がある、パイロット達は無人機よりも近代的な戦闘機と防空システムを要求している」と指摘しているのが興味深い点だ。

出典:Dave_S/CC BY 2.0

これは役に立たなくなったTB2の代わりに戦闘機で近接航空支援を提供するのではなく、ウクライナ軍の兵站を破壊するロシア軍が弾道ミサイル、巡航ミサイル、空対地ミサイルを迎撃するため「より近代的な戦闘機と防空システムの必要だ」という意味で、パイロット達は「旧ソ連製の戦闘機が搭載するレーダーで巡航ミサイルを捕捉するのは不可能に近く、巡航ミサイルを撃墜できた事例は全てIRSTで目標を捕捉できた場合に限られる。航空作戦強化は空対地ではなく空対空を優先すべきで、搭乗する機体がないパイロットを米国に派遣して一刻も早くF-16の操作方法を学ばせるべきだ」と訴えている。

結局、防空システムが接近拒否を実現する戦場を航空作戦でどうにか出来るのは敵防空網制圧 (SEAD)を実行できる米空軍ぐらいで、これさえもA2/AD戦略に多額の投資を行ってきた中国相手に通用するのか怪しく、センサーとシューターの分離=損耗が容認できるセンサー役と接近拒否の外側から目標に到達可能な攻撃手段が今後の戦いの主流になるのだろう。

ユーロサトリ2022でRAFAELが発表した第6世代に相当するSPIKE NLOSの概念

関連記事:ウクライナへのMQ-1C売却は困難、国防総省が機密漏洩を恐れて反対

 

※アイキャッチ画像の出典:General Atomics Aeronautical Systems Gray Eagle Extended Range

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コメント

    • 伝説のハムスター☆☆☆
    • 2022年 6月 23日

    損耗が許容出来るコスト=お値段が高く政治的な制約もあるアメリカ製MUAVの市場人気がますますガタ下がりするなぁ~

    17
    • 2022年 6月 23日

    ジャベリン万能論やTB2万能論みたいな開戦当初の評価もこうやって刻一刻と変化するから情報更新は密にしていかないとついてけなくなるね
    TB2の今の評価だと正規軍に対してはポテンシャルのすべてを発揮できるわけではないが価格の低さによるセンサノートとしての使い方であれば十分役立つってとこかね?
    無人機のハイローの性能格差は相当広がりそうね
    もはや無人機って言葉でひとくくりにするには不適切なとこまで来てる気はする

    44
      • ザコ
      • 2022年 6月 23日

      なんだかんだでUCAVは正規軍相手にはやっぱり微妙?だったりとか、ロシアもここに来て火砲の物量ゴリ押しで本領発揮しだりして開戦前の予想も大きくは外れてなかった感は出てきましたねぇ。

      21
        • 匿名
        • 2022年 6月 23日

        正規軍相手に微妙云々はまた違うんじゃないかね
        今のウクライナ東部のようにロシアが戦力を集中させてくると防空システムのローテで非稼働時間も移動時の隙も無くなってくるからUCAVに限らず戦闘機も攻撃機も近寄れんよ

        7
          •  
          • 2022年 6月 23日

          それだけならヘルソンやハリコフではUCAVによる対地攻撃が戦果を挙げ続けてるだろう
          そうではないということは、そういうこと

          8
      • バクー油田
      • 2022年 6月 24日

      開戦後はラゴルノを踏まえて大規模戦のウクライナでもTB2大活躍で完全にドローンの時代と思いましたが
      まだ全然守りをきちんとするとドローンの有効性を封じる事が出来る事が分かって驚きましたわ
      ドローンの使いどころのフェーズと、そうじゃないフェーズとがあり、これからは
      ドローンが得意な軍隊は戦線をドローンが使えるような状態に展開を持っていくような戦術が開発されるんでしょうね。

      1
        •  
        • 2022年 6月 24日

        TB2はジャベリンと同じくゲリラ戦の手段の一つとしては有効でしたが、当初みたいに敵がそういう進軍方法をとってくるのではなく、意図的にその状態にするのはかえって手間がかかり非効率な気が

        3
    • ナイトアウル
    • 2022年 6月 23日

     ごもっともな話。
     ロシアの対空ミサイルシステムにより小型で電動の探知されづらいドローンすら撃墜されている。RCS低いとされるTB2も適当な運用すれば同じ運命。
     これから先は正規軍相手に攻撃するなら画像認識なりパッシブセンサーを主として、敵を認識し自律攻撃できる射程20キロ以上の兵器でも無いと苦しいのではとも思う。

     IO/IRセンサーも長距離で分かるのはサイズが大きく熱量が高い物に限られると思う。
     動く人間レベルだと8キロ前後の探知になる筈だし、対歩兵とかの監視に使用するならば性能不足になるから状況によるのではないか。

    13
    • 通りすがり
    • 2022年 6月 23日

    色々言われてきたけど結局「キチンと防御してる地域や部隊には現行の無人機は荷が重い」に戻ってきたっ手事?

    30
      • 鳥刺
      • 2022年 6月 23日

      それプラス「固定された戦場」ですかね。戦争は双方の対抗策の出し合い競争ですし、対策を施しやすい緩慢な戦況も絡んできます。
      まあ防御側もそれ用の装備の調達・体制構築と現地での運用、となるとできる戦域正面は限られそうですし、実行できる国も限られますね。世界でもNATO・ロシア・中ぐらいですか。

      13
      • 匿名
      • 2022年 6月 23日

      とはいえ有人機ではそれ以上に荷が重いでしょう

      3
        • 名無し
        • 2022年 6月 23日

        実際にはSu-25が元気に駆け回っているので
        現状は有人機も活躍しているのでは

        19
      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 23日

      結局のところMQ-1CもTB2も、十全な対応装備を持たない軍や武装勢力に対しては、狙い通りの効力を発揮できる装備ということなのかと。
      現状は運用環境が変化し能力的に対地攻撃機としての有効範囲を外れたというだけで、MQ-1CやTB2が効力を発揮する局面は開発当初からそれぞれ想定されているはずです。
      ウクライナ軍の運用部隊は、それを無視して運用してもロクな効果も得られず損耗するだけ、という実戦経験を得ているということでしょうね。

      9
    • てつ
    • 2022年 6月 23日

    ウクライナ空軍パイロット達は一貫して、「TB2等のUAVが活躍できるのは味方の戦闘機や各種SAMあればこそで、航空優勢を奪われると話にならないからF-16やペトリオットを供与してほしい」と主張していたからね。
    SAMはS-300が供与されたけど、ワンセットだけで相変わらず数不足だし、戦闘機は予備パーツだけで戦闘機そのものは供与されていない上に、そもそも旧型のMiG-29では性能不足。

    24
    • 鳥刺
    • 2022年 6月 23日

    バカ高いアメリカ製無人機買うよりも廉価で偵察に使える無人機多数の方が使い勝手が良い。まさに現場の正論。機密指定のセンサーから得られる偵察情報の有効性が段違いだったりしたらまた話は別なんでしょうが。

    まあ戦闘機と防空システムの調達停滞の件も含めて「調達できる兵器の性能制限」の件が絡んでくる話題ではあります。上層部は、制限の枠内で手に入るものなら何でもの心境なんでしょう

    10
    • 原点にして頂点
    • 2022年 6月 23日

    他の報道では、スイッチブレード300/600 は電子戦防護に極めて弱く、制御システムが機能しなくなるためウクライナ側が使用を禁止しているという話が出ています。

    一部の西側ドローンはロシアの電子戦下ではかなりの範囲で無効化されているという話は開戦以降から出ています。

    今のところロシアの電子戦の影響を受けているのは小型~中型ドローンで、プレデターやリーパーのような大型機はほとんど影響を受けていないとのこと。これは機体に搭載した信号妨害防止受信機の性能の差によるものだと思われます。

    ドンバスやクリミアでもウクライナの従来型の軍用無線機はロシア軍のジャミングの影響をかなり受けたが、その後米軍が供与したSINCGER無線機はほぼ影響を受けなかったという事例もあります。

    小型安価な高性能ドローンで革命的戦果!と期待されることもあったが、実際やってみると上手くいかないものですね。
    電子妨害に勝つには効果で重い防護システムを追加する必要があり、結局は大型で高価になります。
    あるいは砲爆撃主体の電子戦(物理)の支援が必要で、「簡単に安く簡単に」とはなりません。

    元記事にはカナダが提供した砲弾(M982 エクスカリバー誘導砲弾かな?)も同様に電子戦で無効化されるのでは無いかと推測しています。
    誘導砲弾も万能では無いでしょうね。
    まぁ電波妨害を行わせてその影響範囲内に相手の行動を抑制するのも十分効果はあると言えるのではあるけれど。

    21
    • 名無しの権兵衛
    • 2022年 6月 23日

    こういう情報は
    ウクライナ侵攻と同時に吹き上がったドローン信者は黙殺するんだろうね

    11
    • サンダー
    • 2022年 6月 23日

    結局の所無人機を過信して無人兵器ばかりに頼るのでは無く無人兵器と有人兵器、それぞれのメリットとデメリットを補完しながら如何にして効率良く組み合わせていくかですかね?

    5
    • TKT
    • 2022年 6月 23日

    これはもう、まさにこないだ見た映画の
    「トップガン マーヴェリック」
    のマーヴェリック大佐の話の内容を、地でいくような話で、無人爆撃機の性能や、運用には限界があり、現代の戦争においても、空対地ばかりではなく、最後は
    「空対空」
    が重要になるという話。

    上官に、これからは無人機の時代で、戦闘機パイロットはお前で最後だろうと言われた、トム・クルーズ演じるマーベリック大佐は、
    「ひょっとするとそうなるかもしれないが、それは今日ではない。」
    と力強く答える。
    を現実離れした荒唐無稽な娯楽の話と思う人もいるが、むしろ現実のウクライナ人パイロットの意見は、逆にマーベリック大佐と同じなのかもしれない。

    また空対地訓練だけでもダメで、やはり空対空訓練が重要という話で、まさにトップガンのような話だ。戦死したオクサンチェンコ大佐のように、退役した戦闘機パイロットが現役復帰して実戦出撃しているというような話もある。

    レーダーでは巡航ミサイルは撃墜できず、IRSTでなら撃墜できるという話も非常に生々しい。おそらくMiG-29によるものだと思うが、そういうのはエースコンバットでもあった。

    ウクライナ人パイロットが空対空戦闘訓練の重要性を主張するということは、逆に言えば、ロシア空軍の戦闘機、フランカーも活躍しているということで、ロシア空軍の方にもすでにエースパイロットのようなのがいるのかもしれない。

    9
    • hs
    • 2022年 6月 23日

    MQ-1CにはTB2についていない対地レーダーがついていますし、その分当然高いでしょうね

    1
    • 浅見真規
    • 2022年 6月 23日

    高性能な市販品を組み合わせて作成したプロペラが4つのマルチコプター型のドローンでも高度1万メートルまで上昇できるみたいですね。このウクライナ侵攻戦争前からロシア人が達成してました。
    リンク
    おととい、ロシア軍がドローンでウクライナ軍のM777榴弾砲の砲兵隊を発見して攻撃した動画
    リンク
    を見ると不鮮明なので高度5千メートル以上からのズームアップ画像のように思えます。もし仮に、このドローンが市販品なら、上空5千メートル以上に50cmくらいの大きさのドローンが飛んでいても気付かないので電波妨害によるソフトキルをしなかったのかもしれません。

    2
      • 浅見真規
      • 2022年 6月 24日

      東部戦線では幅20kmほどでロシア軍に囲まれた所の先端のセベロドネツクでウクライナ軍が戦っており、それを支援するためにロシア軍に囲まれた所にウクライナ軍の砲兵部隊が入るとロシア軍のドローンに見つかって砲撃を受けるのでしょう。
      ロシア側のドローンは自軍の真上より5kmほどウクライナ側に入り5km程度先(合計10km先)まで捜索すれば、両側合計20km幅の範囲で捜索できてウクライナ軍の砲兵部隊を見つけやすいのでしょう。まあ、ロシアのドローン部隊も広い範囲でくまなく、ぼやけたズーム画像を見つめるのは根気のいる作業でしょうが、ウクライナ側のドローン部隊より大幅に有利でしょう。

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