ウクライナ戦況

ウクライナ軍、ロシア海軍の黒海艦隊を壊滅させる準備を進めている

訓練を受けるウクライナ軍兵士を視察するため英国を訪問したハヴリロフ国防次官は「ロシア海軍の黒海艦隊を壊滅させる準備を進めている」と明かした。

参考:We’ll sink Russia’s Black Sea fleet, pledges Ukraine

1度しか通用しない奇抜な手段でも良いのでロシア海軍の艦艇にダメージを与えれば「面白いことになる」と思うが、、、

6月にキーウを訪問したジョンソン首相は「120日毎に1万人のウクライナ人へ訓練を提供する=年平均3万人の兵士を量産」と発表、この訓練プログラムに参加しているウクライナ軍兵士を視察するため英国を訪問したハヴリロフ国防次官は「ロシア海軍の黒海艦隊を壊滅させる準備を進めている」とTimes紙に明かした。

出典:U.S. Navy photo by Fire Controlman Aegis 2nd Class Joshua Shafe

ハヴリロフ国防次官は「西側諸国から新しい技術や能力を手に入れた以上、黒海艦隊の脅威に対処しなければならない。我々は対艦能力を獲得しているため間もなく黒海艦隊を標的にした作戦を開始する。我々は国民の安全を保障する必要があるので黒海艦隊を攻撃するのは必然だ。さらに西側製兵器を使用したクリミア奪還作戦についても供給国と協議を進めており、遅かれ早かれ我々はクリミアと黒海のロシア軍を攻撃するのに十分な武器を手に入れることになる」と語り、新たな能力を獲得できれば黒海全域をターゲットにすると付け加えている。

ウクライナのレズニコフ国防相も18日、米国のオースティン国防長官と今週開催される4回目のラムシュタイン会議(ウクライナへの武器支援を調整する連絡会議)に関する幾つかの議題について協議後「国防長官は非常に良いニュースを持っているが、詳細を発表できるのはもう少し後になる」と意味深に語り、クリミア大橋を破壊するための武器=300km先の目標を攻撃できるATACMS提供を匂わせた。

出典:Photo by John Hamilton M270から発射されたATACMS

ただウクライナ軍関係者は「黒海艦隊の根拠地セヴァストポリが攻撃対象になることを恐れ、ロシア海軍はノヴォロシスクに相当数の艦艇や物資を移動させ始めた」と明かしており、仮にATACMSを提供されても現在のウクライナ軍支配地域からノヴォロシスクに停泊中の艦艇を攻撃するのは不可能だが、ロシア軍を押し返しウクライナ軍がメリトポリやベルジャンシクを奪還できれば黒海艦隊は「ソチ」まで後退しないと安全が確保できない。

しかしウクライナ軍に提供されている地上発射型ハープーンの射程は空中発射型より射程(120km~140km)が短く、最大射程300kmのATACMS Block IIAも海上を移動する目標を攻撃できる能力(開発中のマルチモードシーカーを採用したPrSMなら海上を移動中の艦艇を攻撃可能)はないので、ハヴリロフ国防次官が言うように黒海全域をターゲットにするには「別の手段」が必要になってくる。

出典:LA(Phot) Guy Pool/OGL v1.0

更に言えば黒海艦隊に配備されているキロ級潜水艦を無力化しないと巡航ミサイルによる攻撃は止まらないので、これについても何らかの対策(対潜兵器の供与か停泊中を攻撃するか)が必要になってくるが、ロシア海軍もトルコが黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡を閉鎖(モントルー条約の権利を行使して軍艦の通行を禁止)したため黒海に増援を送ることが出来ない。

1度しか通用しない奇抜な手段でも良いのでロシア海軍の艦艇にダメージを与えれば「面白いことになる」と思うが、果たしてウクライナ軍はロシア海軍の黒海艦隊を壊滅させることが出来るだろうか?

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※アイキャッチ画像の出典:Ad Meskens/CC BY-SA 4.0

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コメント

    • ido
    • 2022年 7月 19日

    黒海艦隊と言っても、潜水艦部隊以外は結構壊滅的な気が…
    日本の地対艦ミサイル上げれんもんなのかねぇ。

    14
      • samo
      • 2022年 7月 19日

      さすがに、日本から対艦ミサイルを提供することはできないかと。
      対艦ミサイルは日本にとっての虎の子だし、生命線でもある。余裕も少ない。
      そもそも、日本に求められている役割は、持てる海軍戦力によって反自由主義勢力をユーラシアから出さないという1点にあるので、
      米国からしても海軍戦力を、海軍での最前線である日本が提供することは望まないでしょう。
      空軍戦力もこれに付随するので同様。

      なので、日本が出すにしたら、これらに直接つながらない陸軍関連を中心にすることが合理的

      23
      • G
      • 2022年 7月 19日

      黒海艦隊には潜水艦部隊だけでなくフリゲートやミサイル艇、コルベットなどまだまだ少なくない戦闘艦が残っているかと
      中には半世紀近く昔の、戦力として換算していいのかわからないようなのも混じってはいますが

      12
      • ナイトアウル
      • 2022年 7月 19日

       あげても既存のハープーンやネプチューン以上の射程がありますとかじゃないと要らないと思う。90年代くらいならまだ陸上発射型対艦ミサイルなんて珍しい部類だったからアドバンテージあったと思うが今となっては微妙な感じ。

    • トブルク
    • 2022年 7月 19日

    >1度しか通用しない奇抜な手段でも良いのでロシア海軍の艦艇にダメージを与えれば「面白いことになる」と思う

    イタリア人の出番ですね

    14
      • 鳥刺
      • 2022年 7月 19日

      現実的な攻撃手段としてはそうなりますねえ…

      戦艦「ノヴォロシースク」(旧「ジュリオ・チェザーレ」)の事故沈没は、実はイタリア海軍関係者有志による破壊工作だったなんていう、非常に疑わしい話もありましたっけ

      2
      • TKT
      • 2022年 7月 19日

      日本海軍も、伏龍とか、人間魚雷・回天とか、震洋、桜花、剣・・・、などさまざまな兵器を開発して、アメリカ太平洋艦隊を壊滅させる準備をしたが、今のウクライナ海軍も同じような感じなのだろう。

      風船爆弾も、敵本拠地への攻撃を狙ったものだったし、イ400に搭載した晴嵐によるパナマ運河爆撃もそうだ。ウルシ―環礁を攻撃するという作戦もあった。

      日露戦争における旅順港閉塞作戦もそういう作戦の走りと言われる。特殊潜航艇による真珠湾攻撃もそうだ。

      昔の映画では、戦艦陸奥の爆沈は、敵国工作員による謀略というのもあった。

      供給国と協議ということは、作戦を考えているのはウクライナ海軍ではなく、ウクライナを支援する外国の海軍の参謀かもしれない。

      アメリカ海軍であれば、昔のトップガンのパイロットを召喚して、編隊長として攻撃させるというような、映画のような話を考えるかもしれない。

      1
      • 58式素人
      • 2022年 7月 19日

      素人の勝手な考えですが。
      黒海艦隊を潜水艦を含めて全滅させるなら、
      それも一度でということならば、一番良いのは、
      米空軍と米海軍の有志による一晩の共同作戦かなと思います。
      2000lbの誘導爆弾で全て決着します。
      ついでに橋も落とせます。
      橋は動かないし、黒海艦隊の各艦の状態は、逐一把握されていると思います。
      しかしこれは無いかな。残念。

      7
      • くらうん
      • 2022年 7月 20日

      ここは水上走行型パンジャンドラムの出番でしょう。

    • 無無
    • 2022年 7月 19日

    小麦の海上輸出停滞で困っているから、国内外へ急ぎ解決策のアピールが必要なんでしょう
    ウクライナの戦費も天文学的な数値に積み上がりつつありますし、稼げるとこでは稼がないと
    勝っても敗けても、経済的な戦後処理にロシアともども苦しむのは確実

    15
    • emp
    • 2022年 7月 19日

    潜水艦はそう長く活動し続けられないからなー
    部品調達も怪しいし、そのうちローテーションがきつくなることに期待

    6
    • 58式素人
    • 2022年 7月 19日

    クリミアと黒海のロシア軍ですか。範囲が広いですね。
    結果を見たいものです。
    何かが起こるまで発表はないものと思いますが。
    何にせよ、安全な穀物輸送を保証するものなのでしょう。

    • samo
    • 2022年 7月 19日

    あとはカスピ海からどの程度抽出してくるか
    カスピ海と黒海は直接運河で接続しているから、カスピ海艦隊から戦力の抽出は容易

    7
    • 成層圏
    • 2022年 7月 19日

    フリゲート数隻と潜水艦だけだから、まずはフリゲート艦1,2隻沈めればローテーションが止まり、後は潜水艦だけ。
    航空優勢も取りやすいから、徐々に潜水艦も追い込めるんじゃないかな。

    8
    • うし
    • 2022年 7月 19日

    西側も北海からライン川→ドナウ川経由の運河伝いに黒海には入れるんだよな。

    • めらと人
    • 2022年 7月 19日

    作戦をもらしたらあかんやろ…

    • 鳥刺
    • 2022年 7月 19日

    攻撃手段は航空攻撃(含無人機)・地上発射対艦ミサイル・機雷・コマンド。
    +、何か工夫を仕込んでくるんですよねえ…

    兵器の射程に限界があるので、ロシア艦艇を誘出するか航路上・港湾内外で罠を仕掛けるか…
    黒海のロシア潜水艦は通常動力なので、そこそこ短いローテーションで出入港を繰り返してはいる筈ですが。

    随分創造的な攻撃作戦になりそうですね。

    >セヴァストポリが攻撃対象になることを恐れ、
    >ロシア海軍はノヴォロシスクに相当数の艦艇や物資を移動させ始めた

    敵が海軍力皆無なのに、もう逃げ出し始めるロシア海軍とは一体
    まあ、ウクライナはATACMSが来たら即撃ち込んできそうですが。

    5
    • NATTO
    • 2022年 7月 19日

    とりあえず、遠くにシッ!シッ!シッ!出来たのは大きいのでは?

    7
    • ななし
    • 2022年 7月 19日

    中古のP3Cを3機と掃海艇、それらに慣れた義勇兵を付けて送ってさしあげろ。それでボスポラス海峡へ抜ける黒海東側の航路は確保できる。
    キロ級狩りをしないと制海権を獲れたと言えない。

    2
    • 無無
    • 2022年 7月 19日

    アメリカがP3Cに海自の精兵を付けて送るを認めるか否か、
    佐藤優じゃないが、明らかにウクライナの戦力をコントロールしつつ援助を決めてるアメリカにとって、黒海の制海権を誰に持たせた方が得なのか、その判断により戦争全体の推移もまた予測可能になるかも

    • 折口
    • 2022年 7月 19日

    黒海艦隊の主力をセヴァストポリからノヴォロシースクに退避させた時点でウクライナは戦略的にはある程度勝っている気もします。ノヴォロシースクはクリミア併合以前に黒海艦隊の母港として整備拡張されていた港ですが、クリミア併合以降は恐らく工事などは中断していますし艦艇の整備体制や補給経路などを短時間で準備できていない=艦隊の機能を最大限発揮できなくなる訳です。セヴァストポリに比べるとノヴォロシースクは港が狭いですしね。
    まぁロシア海軍のことですから決戦やリスクは可能な限り避けて艦隊現存主義の名のもとに港を点々と逃げ続けるのでしょうが、管理人氏の言うようにソチまで追い込まれたら水上艦隊としてはもう実質無力化されたのと同じですよね(旅順に逃げ込んだ極東艦隊と同じ)。

    それにしても艦隊を壊滅させる手段が何なのか気になりますねえ。ウクライナ軍の地対艦ミサイルはどれも航空機に統合できていないので空軍で低空侵入して襲撃というのもできないでしょうし、数百キロの距離を重いASMを載せて飛べるUAVも無いですからね

    3
    • 今度こそ
    • 2022年 7月 19日

    チャリオットの出番でしょうかね?
    それで英国を訪問とか⁉

    1
    • マロリー
    • 2022年 7月 19日

    潜水艦とかどうやって倒すんだろうな。見つけるのも大変だし、見つけても攻撃手段があるのか、それを調達できるのか、そもそも何匹潜水艦が潜ってるのか…。原潜だから、食料が尽きない限り港に帰らなくてもかなり長い間潜ってられるよね。

      • ぬるぽ
      • 2022年 7月 19日

      キロ級潜水艦は通常動力だよ
      AIPですらない
      困難ではあるが浮上中を狙えればチャンスはある

      18
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