ウクライナ戦況

ドンバスを巡る戦い、ウクライナ軍の増援として第128山岳強襲旅団が到着

ウクライナ北部からのロシア軍撤退が完了、ルハーンシク州のセベロドネツクに増援としてウクライナ軍の第128山岳強襲旅団が到着するなどドンバスを巡る戦いにも動きがある。45日目に戦況の詳細は以下の通りだ。

イジューム方面の攻防、ルハーンシク州に到着し始めたウクライナ軍の増援、一進一退のヘルソン州やムィコラーイウ州の戦い

ウクライナ北部(キーウ州、チェルニーヒウ州、スームィ州)からロシア軍は完全に撤退、現在も侵攻が続いているのはハルキウ州、ルハーンシク州、ドネツィク州、ザポリージャ州、ヘルソン州、ムィコラーイウ州の6州で、特に戦闘が激しいのはロシア軍が主張するドンバス解放(ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国)に関係する地域だ。

出典:GoogleMap 大まかなウクライナにおけるロシア軍の支配地域/管理人加工

上の図で示した範囲がルハーンシク州とドネツィク州の行政区域で、侵攻当初(45日間)から攻め続けているのに両州の完全制圧は見通せていない。

ドンバスにはキーウ周辺に展開するウクライナ軍部隊よりも優れた装備をもつ統合部隊(正式には合同部隊作戦/Joint Forces Operation)が布陣、正面からの攻撃は強固な防衛ラインに阻止され続けており、マリウポリを包囲するロシア軍もアゾフ連隊や第503独立海軍歩兵大隊の終わらない抵抗に直面している。

出典:GoogleMap 大まかなウクライナにおけるロシア軍の支配地域/管理人加工

そこでロシア軍はハルキウ州南部からドンバスに布陣するJFOの背後を突く動きを見せており、既にイジュームの防衛ラインは突破されMala KomyshuvakhaとSukha Kam’yankaでロシア軍の南下を食い止めている状況だが、Mala Komyshuvakhaの後方にロシア軍がすり抜けようとしているため変化の激しい「ホットスポット」と言えるだろう。

ここを突破されるとスラビャンスクやクラマトルスクにロシア軍が殺到→セベロドネツクやリシチャンシクは背後を敵に脅かされることになるので注目すべき戦場だが、ルハーンシク州のセベロドネツクには第128山岳強襲旅団が増援として到着、セベロドネツク北西のKreminnaに移動してロシア軍を北に押し戻し始めているらしい。

一方のドネツィク州は広大な地域がウクライナ軍の手にあり、マリウポリ包囲に動員されているロシア軍が解放されないと南側からの攻撃が難しいと思われる。

出典:GoogleMap 大まかなウクライナにおけるロシア軍の支配地域/管理人加工

マリウポリ市内を貫通する主要道路の北側をロシア軍に抑えられたためウクライナ軍の支配地域は分断された格好で、市内の港湾施設にもロシア軍が侵入しているらしい。ただ市内を完全制圧するにはまだ時間がかかるだろうと予想されており、アゾフ連隊や第503独立海軍歩兵大隊が抵抗を続ければ続けるほどドネツィク州の攻略は遅れるはずだ。

ヘルソン州やムィコラーイウ州ではウクライナ軍に押されていたロシア軍が一部の地域で反撃、幾つかの集落をウクライナ軍から取り戻すなど一進一退の戦いを繰り広げている。

追記:ウクライナ軍のT-64BVがキーウ方面から撤退するロシア軍の車列を襲撃するシーン、ロシア軍は何処から攻撃されたのか気づいていないため見当違いの方向に反撃、T-64BMは物陰に隠れながらロシア軍の車列を巧みに攻撃している。

追記:間違っている可能性が非常に高いのでT-64BM→T-64BVに修正しました。お騒がせしました。

関連記事:ロシア軍がチェルニーヒウ州からも撤退、スームィ州でも撤退の動き

 

※アイキャッチ画像の出典:Операція об’єднаних сил

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コメント

    • や、やめろー
    • 2022年 4月 09日

    ロシア軍の装甲車を攻撃中かな?なんでロシア側は熱源探知しなんだろ?
    しかし、マリウポリのアゾフ連隊はどうやって攻撃に耐えてるんだろ

    11
      • ポン
      • 2022年 4月 09日

      なんかヘリでこっそり物資を運んでるような話がありましたぬ

      10
        • ぺろリスト
        • 2022年 4月 09日

        行きは補給品をヘリで鼠輸送。帰りは負傷兵を載せて帰るを繰り返しているらしいですぬ

        21
          • STIH
          • 2022年 4月 09日

          かなりリスキーですね。実際撃墜もされたという話もあったような気がします。
          それにしてもマリウポリは良く戦えているなと。なんとか外側から包囲を突破してほしいですが。

          20
          • makumaku
          • 2022年 4月 10日

          そのヘリボーン・オペレーションは現在行われているか不明らしいです。
          数日前に、運悪く数機の空輸ヘリが撃墜されたという話をツイで見ました。

          2
    • kankan
    • 2022年 4月 09日

    現時点ではお互い決め手に欠ける膠着状態と見ていいのか
    まずはイジュームを取り戻して、後ろを安心させないと
    それにしても、マリウポリは本当によく保っているな

    22
      • pam
      • 2022年 4月 09日

      マリウポリはウクライナ本土から装備や物資を調達できているみたいですね。
      BTR-4が今もマリウポリで多数運用されているみたいですし、ロシア軍の包囲はザルなのかも。

      16
        • けい2020
        • 2022年 4月 09日

        地図で見ると面に見えるけど、実際には点で包囲してるだけですしね
        大人数や、重装備を運び込むのが難しいだけなのかも

        2
      • zerotester
      • 2022年 4月 09日

      昨日、アゾフ兵が携行ミサイルでロシアのAFVを撃破している動画がアップされてました。
      頑張ってるなー、でもよくまだ弾あるなと思ってましたが、補給はあるのですね。

      19
    • 匿名
    • 2022年 4月 09日

    そのT64単騎動画を見て何思うかだが盛大に発射炎を撒き散らして尚この距離で当たらないのヤバすぎで装甲ATV分乗で軽ATM射手四人で待ち伏せなら初撃で4両潰しても射位置バレる訳なく反復攻撃で全滅させれただろうね
    LOALの中距離ATMなら10km離れた場所から全滅させれた訳で即応性に優れ遭遇戦で頼れる直射火力との考えもATMの即応化と廉価化と射程延伸化とLOAL化で差が広がる一方でFCS計画にあった誘導砲弾の必然は当然だ
    戦車砲って要はSSMでなく主砲で戦うに同じで近接レンジは1km以下がデフォと言えどMBTの高額化に比例しその1km以内で最適化されたスマートロケットがNLOWに至るもコスパで圧倒的に優位なの砲数の問題だろね
    戦車1両=戦車砲1門にすぎんがその費用でNLAWが何門そろうかっていう

    2
      • minerva
      • 2022年 4月 09日

      これに関してはT-64が古すぎると思う
      第3.5世代のセンサー統合車なら1km以内はほぼ必中で、強固な装甲と合わせてもっと大胆で的確な攻撃ができただろう
      T-64はFCSも古く防御も弱いため本来ならば近代化した車両以外は戦闘に出すべきではない

      29
        • 匿名
        • 2022年 4月 09日

        しかしここウ軍が3.5Gなら露軍も3.5Gになるだけの戦場では?
        西側現用MBTの供与に見込みないがNLAWは戦果上げるこの差だ
        ぶっちゃけ西側軽ATMがチートなのでこれ満載のテクニカルでヒャッハーするだけで露戦車中隊が撃破可能なの実に無様である
        ウ軍の反撃で機動打撃にMBT必要言うが対戦車は西側軽ATMでやるのMBT充足率高まっても性能的にアレでは同じだろうと思う

        1
        • 匿名
        • 2022年 4月 09日

        言ってもT-64BMなら一応は(公表ではT-80UDレベルに)近代化改修受けてる筈なんで、やはり実戦では演習と勝手が違うんじゃないですかね…

        6
          • minerva
          • 2022年 4月 09日

          ウクライナではT-64BMは100両程度で、いまだに数多くのBVが稼働している
          マリウポリでアゾフが使っていたのもBVだった
          今回の攻撃にBMが使われていたとは断定できない

          8
            • minerva
            • 2022年 4月 09日

            追記
            この攻撃動画のT-64はBVの線が濃厚 管理人の解説が間違っている可能性が高い
            ロシア軍撃破カウントで有名な本家Oryxや東大の小泉先生がフォローしている人の動画ではBVと書かれている
            さらにT-64BMはツェルニーヒウにいる第一独立装甲旅団がほとんど丸抱えで運用している模様

            11
              • 匿名
              • 2022年 4月 10日

              あらら
              BVならT- 64Aよりはマシ程度なレベルですねぇ
              むしろ、これだけ相手出来ればかなり上出来なのでは…

              1
        • けい2020
        • 2022年 4月 09日

        T-64って、ウクライナでアップデートされた一部以外は
        まともなFCSも積んでない、ほぼ手動照準と大差ないですね
        (まともなFCSってT-64BM2・T-64U・T-64BMブラートだけだし)
        本来なら実戦に出すべきじゃないんでしょうね

        近代化アップデートされてないなら、第2世代か2.5世代相当

        むしろ攻撃されてるロシア軍部隊の車両は、どれもそこそこ新しいのに
        全く活かせてないのか、書類上だけのスペックなのか判断に困る体たらく

        11
      • hoge
      • 2022年 4月 09日

      相手が移動しているので、恐らくFCSが古すぎてauto leadingの機能が備わっておらず、移動する目標に当てるには訓練が必要なのでは。
      リンク

      10kmのの長射程のATM云々は、平原で相手が静止しているならばともかく、市街地のように障害物だらけで相手が移動している状況下で正確に命中させることができるのか疑問だし、長射程の中距離多目的誘導弾やHellfireのような長射程のATGMはSALHやRHが併用されていて、相手の戦車が適切なAPSを備えていたら検知、妨害されるだろうし。

      2
    • pam
    • 2022年 4月 09日

    ヘルソン市街地の西12km地点までウクライナ軍が進出しロシア軍と交戦中とのこと。
    ヘルソン方面はウクライナ軍が優勢かもしれませんな。

    リンク

    7
    • 鼻毛
    • 2022年 4月 09日

    最後の画像、ビットマンみたいでかっこいい

    3
    • すえすえ
    • 2022年 4月 09日

    マリウポリかなり粘ってるな。。。
    まさに孤軍奮闘

    ウクライナが将来勝てたら特別ボーナスしてもいいかもな

    13
      • あきお
      • 2022年 4月 09日

      ボーナスどころか「救国の英雄」なんだから、一生幸せに暮らせる程度の額を払ってやらないと。

      42
      • ダヴー
      • 2022年 4月 09日

      ぼそぼそとながら、弾薬などの補給が届いているのが大きいですね。
      それが無かったらとっくに降伏していても不思議ではない。

      22
      • pam
      • 2022年 4月 09日

      独ソ戦のスターリングラードみたいな立ち位置ですな。

      14
    • tsr
    • 2022年 4月 09日

    東部ウクライナは強固な防護陣地が構築されているとよく言われているけど、これほどまでに耐えている防護陣地って凄く気になる。現代戦においても野戦築城は陸戦の肝なんだなって。

    20
      • 匿名
      • 2022年 4月 09日

      まあ現実は西側軽ATMの砲数と弾数=陣地防御能力でしょうけどね
      MBTの突撃衝力頼みのBTGは歩戦分離での弱体化が早いというか
      軽ATMであっけなく撃破されるMBT基幹では成立しない戦術だろと
      やり方変えるにも歩兵の頭数そもそも足りなすぎて変えようもなく

      8
      • 2022年 4月 09日

      google mapでセベロドネツク東方を見ると小規模な川がいくつか流れているので、そこらを防衛ラインにしてるのではないでしょうか
      あと、google mapで使われている衛星写真がいつのものか不明ですが、塹壕らしきものも散見されます(2014年の戦いの名残かも)

      4
        • ああああ
        • 2022年 4月 09日

        現在の北側の戦線はドネツ川の渡河点をめぐる攻防のようですね。
        ドネツ川の河川敷というか氾濫原というかは幅1kmくらいあって植生も林っぽいので渡河点が限られます。
        渡河点は大体市街地になっています。
        ドネツ川北側には碁盤の目に道路のある森っぽい植生の箇所が数km幅であるので、
        防衛側はここに分散しているのとチョークポイントの市街地に布陣しているのではないかと思います。

        イジュームを取られたのは痛いですね。
        機動的に動かせる予備をドネツ川南側にどれだけ持っているかです。

        4
    • zerotester
    • 2022年 4月 09日

    増援ということは前はどこにいたのでしょうか。拠点が西部のようなので西部で備えていたのかな。
    ウクライナで山岳部隊?と思ったけれど、第128山岳強襲旅団は1922年創設の歴史のある部隊で、ソ連軍だった頃から多くの戦功を立てているのですね。その名誉ある名前を受け継いでいるということか。ドンバス戦争にも参加していたので実戦経験豊富なのでしょう。

    12
      • 無無
      • 2022年 4月 09日

      精鋭部隊の投入は、まさに決戦の時が来たと伺わせる
      暴力と恫喝で他人を支配せんとする蛮族に乾坤一擲見せてやれ

      14
      • ああああ
      • 2022年 4月 09日

      名前からして軽歩兵かと思ったら機械化旅団ぽいですね。
      リンク
      Anti-tank Artillery Battalion (MT-12 Rapira)
      現役なの?

      5
        • ダヴー
        • 2022年 4月 09日

        本当だ。

        機械化歩兵大隊x3
        戦車大隊x1
        自走砲兵大隊x2
        ロケット砲兵大隊x1

        私も軽歩兵と思っていたけど、何このガチガチの重編成。

        13
          • 無無
          • 2022年 4月 10日

          栄光ある名称を残すために精強な部隊に継承させたということで、
          こちらでも、事業内容と企業名がかけ離れた例はいくらでもある
          兵士にはプライドやイメージを与えることも重要ですよ、人間なんだから。

          1
    • ダヴー
    • 2022年 4月 09日

    開戦直後にウクライナ軍公式から128旅団は東部で戦っていると言っているので、別の戦線から長駆してきたという意味ではなく、東部の別の場所からセベロドネツクに移動したという意味と思われます。

    8
      • ダヴー
      • 2022年 4月 09日

      上のコメントへの返信です。繋げ損ねました。

      • zerotester
      • 2022年 4月 09日

      なるほど。以前からドンバス戦争で戦っていたようだし東部での移動ですね。
      北部からロシアが撤退したことでキーウや西部のウクライナ軍が東部に援軍に行けるといいのですが。

      4
    • 早く終わって
    • 2022年 4月 10日

    T-64BM
    2個目の表記、訂正漏れ?

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