ウクライナ戦況

戦争報道の在り方、ウクライナ軍参謀本部がCNNやSkyNewsの取材許可を取消

ウクライナ軍参謀本部は13日「規則に違反してヘルソン市内で活動した米CNNや英SkyNewsなどの取材許可を取り消した」と発表、報道の自由は守られるべきだが「戦争という特殊な環境」で自由を何処まで許容するのか非常に難しい問題だ。

参考:Генеральний штаб ЗСУ
参考:Журналістів іноземних медіа позбавили акредитації через репортажі зі звільненого Херсона

一瞬で情報が世界中に拡散する時代に「戦争報道をコントロールする術」は交戦国にとって重要な要素になっているのだろう

ロシアと戦争状態にあるウクライナは国防省の定めた規則=戦闘地域での取材に関する制限や禁止事項に同意することで海外メディアにプレスカードを発行しており、国防省や現地司令部の許可と同意した規則を守れば戦闘地域の取材を許されている。

ただ報道内容によっては何処にウクライナ軍が配備されているのか、何処に装備や物資が集積されているのか、何処にウクライナ軍が向かっているのか、攻撃が何処に命中したのかなどロシア軍に利するものがあり、奪還した拠点や地域も「安定化作業=地雷やブービートラップなどの無効化処理」が終わらないと安全が確保できないため、プレスカードを受け取ったメディア関係者は戦場を勝手に彷徨いて良いわけではない。

つまり米CNNや英SkyNewsは「ヘルソン市解放をいち早く現地から報じるため規則に違反する活動を行った」という意味だが、ウクライナメディアのSuspilneやHromadskeもヘルソン市内で活動していたため、不公平という指摘(取材許可を取り消されたメディアの詳細は伏せられている)もある。

報道の自由は守られるべきだが「戦争という特殊な環境」で公平さや自由を完全に守れと言われても難しいものがあり、逆に制限が行き過ぎると「何かを隠しているのではないか?」という疑念を生んでしまうので匙加減が難しいところだが、ウクライナもメディアの報道が原因で戦車を修理する拠点が攻撃を受け、無秩序にSNSへアップされる写真が攻撃効果の判定に利用されたため情報統制は徐々に強化されている印象が強い。

一瞬で情報が世界中に拡散する時代に「戦争報道をコントロールする術」は交戦国にとって重要な要素になっているのだろう。

関連記事:ウクライナ軍がドニエプル川右岸地域の奪還に成功、歓喜に包まれる解放地域
関連記事:住民が歓喜の声、ウクライナ軍がヘルソン市解放に成功

 

※アイキャッチ画像の出典:Суспільне Новини

プーチン大統領がロシア軍の近代化中止を指示、リソースを消耗戦に集中投入前のページ

米戦争研究所、冬が到来してもウクライナ軍とロシア軍の戦闘は激化する次のページ

関連記事

  1. ウクライナ戦況

    ロシア軍の補給路遮断を狙うウクライナ軍、ドニエプル川の支流に架かる橋を攻撃

    ウクライナ軍がドニエプル川の支流=インガレット川に架かる橋を攻撃して損…

  2. ウクライナ戦況

    ウクライナ軍、セベロドネツクへの補給路を分断したロシア軍排除に成功

    ウクライナ軍がセベロドネツク~アルチェモフスクを結ぶ幹線道路「T130…

  3. ウクライナ戦況

    ドイツがウクライナに提供するゲパルト、スイスが使用弾薬の移転を拒否

    ドイツ政府はウクライナに自走式対空砲「ゲパルト」を提供すると26日に発…

  4. ウクライナ戦況

    イジュームはブチャの悲劇を上回る、ロシア軍は捕虜や民間人を縛ったまま処刑か

    イジュームで見つかった墓地では両手を後ろに縛られた状態で射殺されたウク…

  5. ウクライナ戦況

    ロシア軍部隊の一部がドネツ川の渡河に成功、ウクライナ軍と交戦中

    ルハーンシク州知事のガイダイ氏は9日、ロシア軍がドネツ川の渡河に成功し…

  6. ウクライナ戦況

    ウクライナメディア、アウディーイウカの危機は第2防衛ラインの欠如が原因

    ウクライナ・プラウダ紙は17日、兵士の証言を交えながら「セベロドネツク…

コメント

    • 灰色の猫
    • 2022年 11月 14日

    情報統制した方が戦術的に有利。自由報道させた方が戦略的に大義ある側が有利。この暴れ馬の手綱を握りうる組織を日本が創り出せるのでしょうか。

    36
      • 戦略眼
      • 2022年 11月 14日

      大丈夫、日本のマスコミなんて大本営発表に乗るよ。

      18
      • ブルーピーコック
      • 2022年 11月 14日

      憲法21条2項に検閲の禁止の条文があるので、それに抵触しないor盾にされない範囲でアメリカのやり方に習うのではないでしょうか。撃ち落とされてもいいからと自社ドローンを飛ばす報道機関も出てくるかもしれませんので、今後のことは分かりませんが。
      イラク戦争のアメリカでは従軍するリスクは自己責任としながらも、どこまで教えるかは『警備上のリスク』と称して曖昧なボーダーラインを引いていたようてす。

      ただ戦場に出て真実を報道しようとか、海外メディアならいざ知らず、日本のマスコミにそんな気概のある人が何人いますかね。

      26
      • クローム
      • 2022年 11月 14日

      敵がいないから自由にやっているだけで、メディアを取り締まる組織ができたらすぐにおとなしくなると思う。
      報道に対して何か強い意志があるわけでもなく、目先の利益のために安易な手法に走っている感じがする。

      27
    • 2022年 11月 14日

    メディアは支援国&国内向けに「黒字決算」報告に使えるが、敵国による攻撃有効判定にも使える。戦費を外債に頼った日露戦争時から変わってないジレンマだけど、大本営発表だけでは情報の信頼性が疑われるから、悩ましい。

    22
    •  
    • 2022年 11月 14日

    報道を完全自由にして国民世論形成に失敗したのがベトナム戦争っすなぁ
    暗部も全て映しちゃったから

    25
    • ななし
    • 2022年 11月 14日

    国内メディアに対してはウクライナの国内法が適用できますが、
    海外メディアの場合、相手国との関係も考慮した慎重な対応が求められますから
    法による対処はしないけどプレスカードは取り上げるってのは
    ウクライナが現状とれるギリギリの手段なのでしょうね。

    11
    • 2022年 11月 14日

     第二次大戦で、日本軍の報道はよく大本営発表と言われるが、当時の敵対国のアメリカも、日本にやられたりなんなりした時は結構情報統制してるから、戦争にはわりとつきものだったりもする・・・。
     西側支援を受けてる身としては、ウク側も文句は言いづらいだろうが、CNNほどのビッグメディアを排斥するとなると、普段からそういう行動も目についてたりしたんだろうか、どうだろうか・・?

    23
      • sunn
      • 2022年 11月 14日

      よく大本営発表と言われるのではなく、当時陸海軍を統帥する最高機関であった大本営からの発表が「大本営発表」そのものです。
      大本営発表の良くなかった点は、自軍の被害を国民に誤魔化すこともですが、当の軍部自体が戦果を誤認し、例えば台湾沖航空戦での海軍の誤認戦果をそのまま陸軍が信じる形で作戦が遂行されて甚大な被害を出したことなどが、具体的な軍事的弊害として挙げられるでしょう。戦局が悪化する中である種の集団真理に陥り、本来冷静かつ客観的であるべき軍事的判断を誤った。

      したがって、戦時中にどの国でも行われる軍事的に自国が不利になる情報の統制(現在のウクライナであれば軍事拠点や軍隊の動向をSNSへアップすることの規制など)と、大本営発表(の悪い面)とを、味噌もクソも一緒にしたように混同するのは事実認識として不適切でしょう。

      10
        • ブルーピーコック
        • 2022年 11月 14日

        それらが同じかと言えば間違ってはいるんですが『破天荒』や『貴様』みたいに一般的には意味が変わってしまった言葉なので、広義にはともかく、軍事や歴史に詳しくない人には「大本営発表=苦し紛れの嘘、偽情報」という意味で認識している人のが多いんじゃないですかね。分かってる人は分けて使うでしょうし。

        10
          • sunn
          • 2022年 11月 14日

          一般論の話をしているのではなく、軍事や歴史に詳しくない人の話をしているのでもありません。
          宇・露双方が情報戦の一環として様々な意図の下に情報を発信し、それが一般に拡散されていく中においては意図的な虚偽や妄論の類も多く見られるのが現状であり、フワッとした用語で印象を語るのはいかがなものかと感じたまでです。
          ここは軍事ニュース系ブログのコメント欄であり、我々は専門家ではない一般人あるいはミリオタであるとはいえ、現実の複雑な事象を精査する努力や意志を放棄するべきではないでしょう。

          7
    • 月虹
    • 2022年 11月 14日

    ウクライナ紛争に係わる報道ではイギリスのBBCの報道が個人的にリアルで分かりやすく感じています。ヘルメットと防弾チョッキを着用した記者が前線のウクライナ軍に同行して至近距離での戦闘の中、前線の実態や兵士の本音をレポートする報道は他の報道機関には真似できない報道だと思います。

    ウクライナ軍 第63旅団 フガッセ少佐(ヘルソン近郊)
    「今回の反抗作戦は複雑で計画が立てにくいし人命を脅かします。兵の命を守ること、それが指揮官としての我々の仕事です」

    ウクライナ軍 第59旅団 イリア(ミコライウ近郊)
    「向こう(ロシア)の方が武器や人数で勝っている。兵士は訓練されていないが、ただひたすら「ウラ―!」と叫んで突進してくる。向こうの大人数に見合うだけの弾がこちらにはない。」

    BBC国際編集長 ジェレミー・ボウエン(取材に同行)
    「どうしてヘルソン攻勢に時間がかかっているのか。これでおわかりかと思います。さえぎるものが何もないまったいらな平地でロシアに砲撃されていて・・・・(瞬間に着弾)。これが毎日続きます。だからなんです。夏からずっとウクライナ政府はヘルソン攻勢の話をしてきましたが前に進むのは大変です。」

    ウクライナに関する楽観的な報道が多い中で、NATO各国がウクライナに兵器を供与しているが戦線が広いので前線ではまだまだ弾薬や兵器が不十分なことやロシアの動員兵が現代戦で万歳突撃の様な戦法を取っていることなどが知れる貴重な報道です。

    30
    • 無無
    • 2022年 11月 14日

    このスレのためには情報量が必要なんだけど、野次馬ですから声を大にしては言えません
    ただ、単に暗黒面を隠蔽するような統制はのちのち政権の首を絞める結果を招きますからね、戦後の情報公開を待ちます

    1
      • 名無し
      • 2022年 11月 14日

      何かを隠蔽しようと言うことでの情報統制じゃなくて、メディアが目標捕捉&着弾観測ドローンになりかねないから統制してるんじゃないのかな。今回互いに頻発してるし。

      27
    • 名無し
    • 2022年 11月 15日

    残念でもなく当然、報道の自由にも限度がある。
    生放送中に対岸からロシア軍の自爆ドローンや長距離砲、誘導ミサイルが飛んできたら
    テレビ局クルー事爆発四散するのがわからないかねえ……

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
PAGE TOP