欧州関連

ウクライナ国防相、対地攻撃モードのS-300は最大220km先の目標に到達する

ウクライナのレズニコフ国防相は「対地攻撃モードで使用されるS-300は200km~220km先の目標に到達する」と明かし、ロシア領ブリャンスク州から発射すれば理論上「5V55Rがキーウに届く」という意味だ。

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参考:Россия начала менять тактику обстрелов – ГУР

参考:Олексій Резніков: «Війна не закінчилась, є ще велика загроза для нашої держави і нам треба вижити»
参考:The supply chain that keeps tech flowing to Russia

対地攻撃モードで使用されるS-300は200km~220km先の目標に到達すると明かしたレズニコフ国防相

ロシア軍は12月29日に100発以上(巡航ミサイル×69発、S-300の迎撃弾×不明、Shahed-131/136×11機以上)を使用した大規模なミサイル攻撃を実施したが、大晦日~2日(現在進行中)にかけて最低でも巡航ミサイル×20発以上、S-300の迎撃弾×不明、Shahed-131/136×65機以上を使用した攻撃が続いているため、エネルギーインフラや民間人に無視できない被害が生じている。

出典:IMA Media 演習に登場したShahed-136

ウクライナ国防省の報道官は「ロシア軍に対する経済制裁の影響を目の当たりにしている。敵は戦術を変更してイラン製無人機と様々な巡航ミサイルやS-300の迎撃弾を使用し始めた。Iskanderは既に使用できないほど在庫が不足、Kalibrの在庫も尽きつつありKh-101/Kh-555も数が減少している」と言及、さらに情報総局のブダノフ准将は「精密誘導兵器による攻撃を2回~3回実施するだけの在庫を敵は持っている」と明かしたが、制裁を回避するための物流ルートが世界各地で幾つも見つかっているため「精密誘導兵器が尽きるという話」を信じる欧米メディアは少ない。

ロシアの関税記録によると2022年2月24日~10月末までの7ヶ月間に最低でも26億ドル分の電子機器が持ち込まれ、内7億7,700万ドル分の製品がロシア軍の兵器で見つかった部品=西側企業(Intel、AMD、Texas Instruments、Analog Device、Infineon AGなど)が製造した半導体チップで、米国、香港、エストニア、トルコなどにロシア人が設立した企業を経由して制裁対象外の露企業に輸出されているのが確認されており、ロシアはYouTubeなどを活用して「制裁を回避する輸出方法のヒント」を提供している。

出典:pixabay マイクロチップのイメージ

レズニコフ国防相も11月「Iskander×48発、Kalibr×120発、Kh-101×120発を2月24日以降に生産している」と明かしており、2022年に米軍が調達したトマホークの数が154発だったことを踏まえると「9ヶ月間でKalibrやKh-101を240発も生産した」という数字は「制裁の影響を受けている」とは言い難く、通常の取引よりも高額な利益が見込めるロシア向け輸出に手を出す人間のことを考えると、公表されている関税記録以上の半導体チップがロシアに流れているのだろう。

更に興味深いのはレズニコフ国防相が昨年末「対地攻撃モードで使用されるS-300は200km~220km先の目標に到達するためハルキウ州、ムィコラーイウ州、ヘルソン州、ザポリージャ州を恐怖に陥れている」と言及している点だ。

出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ S-300

ロシア製の防空システム「S-300」は空中目標と交戦する迎撃弾(5V55R)を弾道ミサイルとして使用する対地攻撃モードが搭載されており、米国のディフェンスメディアは「空中目標と交戦する5V55Rの射程は最大90kmだが、地上目標と交戦する5V55Rは弾道ミサイルのように放物線を描きながら目標に接近するため120km先まで届き、慣性・指令+アクティブ方式の誘導で大型の静止目標に対する命中率は比較的良好だ」と報じていたが、200km~220km先の目標に到達するという言及が事実なら話が変わってくる。

巡航ミサイル以上に迎撃が困難な5V55Rはオデーサ州、ドニプロペトロウシク州、ポルタヴァ州にも影響をもたらし、ロシア領ブリャンスク州から発射すれば理論上「5V55Rがキーウに届く」という意味になる。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

射程の長いKalibr、Kh-101、Shahed-131/136をウクライナ中央や西部、5V55Rを「ロシアと国境を接する地域」や「ロシア軍占領地域に近い地域」の攻撃に使い分ければ「インフラ攻撃の手段は当分尽きない(机上の空論)」とも考えられるので非常に興味深い言及だが、もしブダノフ准将の見立てが正しいなら「ロシア軍の大規模なミサイル攻撃(70発~100発クラスの攻撃は月1回か2回のペースで実施)は2月頃までに終わる」ので直ぐに答えを目撃できるだろう。

対地攻撃専用に作られたIskander(弾頭重量480kg~700kg)と比べれば5V55R(弾頭重量133kg)の破壊力は小さいものの、最大220kmの範囲を攻撃できる簡易の弾道ミサイルが「6,000発以上もある」と解釈すれば中々楽観視はできない。

関連記事:ロシアの武器製造が止まらない理由、制裁を回避する物流ルートの存在
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※アイキャッチ画像の出典:Vitaly V. Kuzmin/CC BY SA 4.0 コンテナに納められた5V55

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コメント

    • HEAT信奉者
    • 2023年 1月 02日

    5V55はどのバージョンもTVM式SARHでは…?

    3
    • らんらんるー
    • 2023年 1月 02日

    ロシアが購入する電子部品の相場って、どれくらい上がってるのでしょうね?
    これで負担になればいいのだけど…

    1
      • 名無し
      • 2023年 1月 02日

      ???「お前の電子部品と、俺の石油を交換しないか?」

      20
    • 774rr
    • 2023年 1月 02日

    6000発の弾道ミサイル。。。新年早々暗いニュースやね

    コレを止めさせるにはロシア国内へ攻撃して対地モードで撃たせないように強要するしかなさそう
    トルコくんに協力して貰って ギリシャを脅すのに使ってる短距離弾道ミサイルを融通して貰おう(提案

    12
      • CI5
      • 2023年 1月 02日

      ウクライナ政府は否定している遠距離飛行ができるドローンというのかで報復するしかないでしょうね。
      その攻撃被害をロシア側が利用して惜しア国民の戦意高揚につなげるでしょうが・・・

      11
    • おわふ
    • 2023年 1月 02日

    ウクライナ側も安価な自爆ドローンを次々飛ばして、迎撃彈として消耗させるしかないですね。
    この戦争は不毛な消耗戦だ。

    日本の小型エンジンとセンサー類を供与してあげたい。

    9
    • 58式素人
    • 2023年 1月 02日

    ステルスの逆で、わざとRCSを大きくした、
    実際は小型のジェット推進のデコイみたいなものはないでしょうか。
    実際にロシア国内の軍事施設を空から攻撃する時に、
    大量に同行させて、実害を少なくすると同時に
    5V55Rを大量に無駄撃ちしてもらえると良いですね。
    飛行高度が低いと他の対空火器を使われるので、高空を飛ぶように。
    先日、エンゲルス基地を襲ったと目される、Tu-143のようなものが
    沢山あれば良いのですが。

    3
    • samo
    • 2023年 1月 02日

    今のロシアは、ウクライナ人の殺害が目的化している状態。
    だからS-300のような炸薬量でも堅牢な軍事施設と違い、民間施設相手なら致命傷を与えられて、民間人殺害は楽々可能。
    迎撃が簡単な単純な放物線弾道でも、ウクライナ軍も民間施設を守る余裕があるわけもない。
    住宅レベルの民間施設を守っていたらあっという間に対空ミサイルが枯渇してしまうから。
    だからほぼ素通りさせるしかなく、民間人への犠牲がでざるをえない。
    デタラメに撃ってもあたるんだから、ロシアは嬉々として撃ち込んでくる。

    ここまで大っぴらに虐殺行為というか、それが目的化した攻撃を繰り返してるんだから、いい加減長射程兵器の供与に踏み切るべきでしょう。
    じゃないといつまで経っても撃ち込まれ続けるよ

    16
      • 名無し
      • 2023年 1月 02日

      日本の地政学的ポジショントークとしては、長距離兵器は、台湾有事の際にマジで必要なので、ウクライナなんかで消費しないで欲しい。台湾で敗北する確率を上げたくない。
      日本としては、台湾が本当に死にそうなときに助けるため、長距離兵器は使わず残して貰っておくことが必要なんだ。

      13
        • バーナーキング
        • 2023年 1月 03日

        台湾有事を睨めば今は「国際法を尊重する国々の連携でロシアによるウクライナ侵攻を無惨な失敗事例として終わらせる事」が多少の戦力温存より大事だと思うけどなぁ。

        16
          • 名無し
          • 2023年 1月 03日

          それって、悠長で楽観的な想像すぎやありませんか。
          攻撃側の観点で計画するなら、「アメリカが他所(ウクライナ)に身を乗り出して忙殺されている最中に、台湾に攻め込みたい(アメリカといえども、2方面同時正規軍戦争はロジや人材の面で、キツいだろう)」
          と考えるのが普通で(事実、ロシアの軍事的圧力が弱まったコーカサス方面では、鬼が居ぬ間に好き勝手始めてる)、
          これはつまり、「まだウクライナが『失敗事例』となる前の、戦争継続中時点で台湾有事やるのが好都合」、ということを意味しますので。

          なので、さすがに腹中の欧州軍のリソースには口出し出来ないのかもしれないが、少なくともアメリカ軍のリソースについては、日本としては「ウクライナに供与するのは程々にして、出来る限り台湾用に温存して欲しい」とアメリカにリクエストするのが、日本という極東アジア地域国家がやるべき姿なんだと思うんです。

          1
            • nojigoo
            • 2023年 1月 03日

            欧州でのアメリカ軍の兵器使用について日本がリクエストできるというのは中々魅力的な状況認識ですね

            2
        • samo
        • 2023年 1月 04日

        「非軍事的抑止力」の喪失に繋がり兼ねないので、その選択はしちゃいけない。
        抑止力とは実際の兵器の有る無しだけを言うものじゃないよ

          • 2023年 1月 04日

          戦国時代、帝国主義時代になったら、それこそ日本はアメリカに頼らなければ生きていけない国になるよ。
          そう成れば台湾どころで無くなる。
          日本は資源小国で貿易立国でしか生きていけないという絶望感。

          2
          • 2023年 1月 04日

          返信先が一つ上です。
          すいません。

          1
    • くらうん
    • 2023年 1月 02日

    敵基地攻撃能力がまさに必要な局面だと思います。
    5V55Rを対地攻撃に使用させないためには、対空迎撃に使わせればいい。
    シャヘドのような簡易なものでいいから遠距離まで到達できる巡航ミサイルや自爆ドローンを大量にロシア本土へ発射する。
    長い国境線をカバーして迎撃するにはBukのような短射程ミサイルではなくS300やS400を使わざるを得ないでしょう。
    ただし目標はあくまで軍事拠点に限った方がいい。

    6
      • 2023年 5月 02日

      ブタノフのモスクワとシリア攻撃計画がアメリカの盗聴で発覚し計画を潰したという前科があるのでもうウクライナを信用はしていないだろう。
      アメリカ製の長距離兵器の供与はないだろうな。
      ウクライナが自力で開発するしかない。
      シャヘドをコピーする計画は聞かなくなったから断念か。
      あんな玩具でも戦時下に量産するのは難しいのかもね。

    • ななし
    • 2023年 1月 03日

    >最低でも26億ドル分の電子機器が持ち込まれ
    ロシアが最近石油とガスのルーブル払いをやめてまた外貨払いを受け付けるようになったけれど、その理由は制裁を回避してこういった軍需物資を獲得する用途に外貨を使っているためかもしれませんね。

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