欧州関連

ウクライナ軍の反攻時期、シュミハリ首相が春ではなく夏になると発言

ウクライナの反攻作戦は3月~5月=春に開始されると予想されていたのだが、米メディアの取材に応じたウクライナのシュミハリ首相は「夏頃(6月~)になる可能性がある」と述べて注目を集めている。

参考:Ukrainian prime minister arrives in DC at make-or-break moment

凍えそうな冬を乗り越えてきたウクライナ国民にはそろそろ「希望」が必要だ

ウクライナのポドリャク大統領府顧問は3月上旬「急いでいないものの2ヶ月以内に(新たな部隊の)再編成が完了するだろう」と、シルスキー陸軍司令官も3月下旬「バフムートで貴重な戦力を失った敵は力尽きようとしている。我々はキーウ、ハウキル、バラクレヤ、クピャンスクでやったように、まもなくこの機会を利用することになるだろう」と指摘して反撃を示唆したため、西側のメディアもアナリストもウクライナの反攻作戦を「春攻勢」と表現することも少なくない。

出典:Сухопутні війська ЗС України

つまり3月~5月の間に「ウクライナ軍が反攻作戦を開始する」と期待しているのだが、ワシントンでHill紙の取材に応じたシュミハリ首相は「反攻作戦の開始が夏頃になる可能性がある」と述べて注目を集めている。

シュミハリ首相は「反攻に転じるには100%、、、いや、それ以上の準備が必要だと友人もパートナーも明確に理解しているので、反攻作戦の開始時期に友人やパートナーからの圧力を受けているとは感じていない」と述べ、機密流出が反攻作戦に与える影響についても「我々は自分たちの土地を解放するだけで、それが可能だと何も証明してきた。友人やパートナーにはさらなる戦車、弾薬、航空機、装甲車輌といった軍事支援を要求したい」と語った。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

ゼレンスキー大統領は反攻作戦の開始時期について「パートナーから到着する弾薬を待っている」と3月下旬に述べ、流出したウクライナ軍の訓練計画も「海外で訓練を受けている9個旅団(反攻作戦向けの基盤戦力)の準備が整うは4月末」と、流出した155mm砲弾輸送計画=ROK 155 Delivery Timeline(330K)も「韓国(33万発)とイスラエル(10万発以上)から155mm砲弾を欧州に輸送するには72日間かかる」と示唆しており、シュミハリ首相の言及を加味すると「約束された装備や弾薬の到着が遅れている=反攻準備が整うは5月以降になる」という意味だ。

Hill紙は「反攻作戦が失敗した際のリスクは重大で、バイデン大統領はウクライナが必要とする限り支援を続けると言っているが、戦争疲れは米国の市民間、ウクライナと同盟国間、さらにはウクライナ国民間の連帯を脅かす」と指摘し、シュミハリ首相も「反攻作戦の開始時期について最も強い圧力は国内から来ている」と述べているのが興味深い。

出典:Денис Шмигаль Прем‘єр-міністр України

ウクライナは今後の戦局を左右する「作戦準備」を我慢強く進めなければならないが、当初見込みより反攻開始が遅れるという問題は「ウクライナ軍の能力に対する信頼感」や「作戦に対する期待感」を損なうなため、D-dayを決断するゼレンスキー大統領にとっては厳しい状況が続くことになる。

因みに春攻勢が夏攻勢に変わるとバフムートでロシア軍を拘束しなければならない期間(4月末→5月末)も伸びるため、仮にシュミハリ首相の言及が「反攻作戦の開始時期を誤魔化す偽情報」だったとしてもネガティブな印象が強く、凍えそうな冬を乗り越えてきたウクライナ国民にはそろそろ「希望」が必要だ。

関連記事:韓国、ウクライナ支援として155mm砲弾33万発をポーランドに輸出か
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※アイキャッチ画像の出典:Mil.gov.ua/CC BY 4.0

バフムート市内の戦い、駅周辺やMiG-17モニュメント周辺の状況に変化なし前のページ

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コメント

    • abc
    • 2023年 4月 12日

    全くの当てずっぽうの予想だが、こりゃあいますぐ反攻作戦やるんじゃなきゃ、永遠に反攻作戦そのものがない線だな。

    33
      • ido
      • 2023年 4月 12日

      なぜそのような考えになるのかわかりませんが、春攻勢にしろ夏攻勢にしろ行われると思いますよ。大規模攻勢をかけないと領土奪還は難しいでしょうし。

      44
        • xyz
        • 2023年 4月 12日

        本人も当てずっぽうって言ってるし、便所の落書き程度で反応するだけ損かと。

        18
      • hit
      • 2023年 4月 12日

      ちょび髭の独裁者「全くの当てずっぽうの予想だが、こりゃあいますぐ反攻作戦やるんじゃなきゃ、永遠に反攻作戦そのものがない線だな。」
      ちょび髭の独裁者「ということで今すぐやれ」
      陸軍将校「えええええ」

      昔々、どこかのジャガイモの国でもこんなやり取りが交わされてたに違いない(そして滅びたに違いない)

      9
      •   
      • 2023年 4月 12日

      天気予報だと、ウクライナはずっと雨です。
      今、反攻作戦は無謀

      13
      • TKT
      • 2023年 4月 12日

      今のバフムトを見てもわかりますが、ウクライナ軍が反攻作戦を行わなくてもロシア軍との戦闘は継続しており、補給路で砲撃されたウクライナ軍の車両の残骸や、バフムト駅で破壊されたウクライナ軍の捕獲T-80戦車のように、ウクライナ軍の損害も増え続けています。地対空ミサイルがなくなればなおさらです。

      レオパルト2A戦車やチャレンジャー2戦車を、いつどこで行われるかよくわからない反攻作戦のためでなく、今の目の前のロシア軍に対する防戦や反撃のために使いたい、というウクライナ軍の指揮官も多いでしょう。

      またバフムトが完全に陥落すれば。ウクライナ軍の反攻作戦よりも先にロシア軍の攻勢作戦が始まるかもしれず、特にアウディイウカや、クレミンナ、シベルスクなどではそうです。そうなれば国外で新編成された9個旅団や、西側戦車も、それらの攻勢に対する防戦のために、結局別々の地区に分割されて投入されるかもしれません。

      10
        • hiroさん
        • 2023年 4月 12日

        ウクライナの戦場で西側戦車が湾岸戦争みたいな無双を再現出来るのだろうか?
        大規模な戦車戦は行われないだろうし、市街戦での戦車の脆弱性はエイブラムスも証明しているし、待ち構える側が優位性を持つのはウクライナ·ロシア双方の戦車の損害数が物語っている。
        ウクライナの攻勢には戦車の性能だけじゃなく、戦略·戦術を含めロシアを凌駕する特異性が必要なんじゃないかな?

        16
        •  
        • 2023年 4月 13日

        まあたとえバフムトが陥落してもロシア軍は動かないでしょう
        結局この半年間攻撃をかけているのはワグネルと空挺軍くらいですし、陸軍はまずウクライナの反攻作戦を受け止めてからということで腹が座っているのでは

        2
    • 猫鉈
    • 2023年 4月 12日

    流出したS-300の残弾数の情報が事実なら反転攻勢が遅れればそれだけロシアに航空優勢を確立する時間をあたえるでしょうし、外野の身ながらどういった展開になるか不安です…

    20
      • 鳥刺
      • 2023年 4月 12日

      基本的には、問題の存在が明らかなら、それに対処する方策が策定され実行されるわけです。
      また、防空システムの補充更新の見込みが立たないと、次のアクションに移行できませんし。

      地面の状態と部隊の準備状況から見ても、4月一杯は動きが少ない戦況が維持されるんじゃないですかね。

      11
    •  
    • 2023年 4月 12日

    ますますツィタデレじみてきた

    13
    • 58式素人
    • 2023年 4月 12日

    できれば、空軍力とSAMがもう少し欲しいところでは。
    旧東側の機体で良いので。SAMは供与予定の物の数が揃うまで。
    空軍力が増えなければ、それに代わる精密誘導の地対地ミサイルなど。
    それまでの間、準備攻撃とする作戦は順次実行するとして。
    何処から攻めるかわかりませんが。
    例えば、黒海艦隊を始末するとか。

    3
    • 月虹
    • 2023年 4月 12日

    ウクライナの反攻作戦は朝鮮戦争における「仁川上陸作戦(クロマイト作戦)」の様に失敗の許されない大きな作戦ですからウクライナ側が慎重になるのは理解できます。同作戦も大規模な作戦であった為、物資集積などの港湾作業をスパイに隠し通すことは不可能であったので上陸時期や兵力は敵(北朝鮮)に知られることを前提に上陸地点の秘匿こそが重要であったとのこと。ゆえにハルキウ州奪還の様に攻勢ポイントは最後まで知られない様に最善の注意をはらっていると思います。

    なお上陸作戦について日本では実施の2週間ほど前から軍事的関心を持つ人の間では知れ渡っていたそうで時代が変わってもミリタリーマニアの情報収集力は侮れないと実感します。

    27
    • 黒丸
    • 2023年 4月 12日

    G7広島サミットが5/19~21に開催されるので、その後になるのかな。
    開催中の反撃開始なら欧首脳の移動が大変なことになりそう。
    サミットの警備も、かなり大がかりなことになるかも

    2
      •  
      • 2023年 4月 12日

      まあ反攻作戦があろうとなかろうと欧州首脳陣の移動はアンカレッジ経由になるのでは
      まさかあの差別主義の根強い連中が南回りで来るとは思えませんし
      まあ北回りが上等で南回りが下等というのも沈まぬ太陽の頃のイメージで今はもうそんなこともないのかもしれませんが

      4
        • STIH
        • 2023年 4月 13日

        ?
        申し訳ないが、何を言っているのかさっぱり。そもそも誰が南回りが下等なんて言ったんでしょうか?おそらく冷戦の頃の話だと思うんですが。

        14
          •  
          • 2023年 4月 13日

          若い方なんでしょうが昔は本当にそういう風潮があったんですよ
          ポスト冷戦時代はロシア上空を経由する直通ルートができてわざわざ遠回りで経由していく必要もなくなりましたが、現在はまたロシア上空を経由するわけにもいかなくなったせいでこの過去の航空路線が復活しているわけです
          北回りといえば出世コース、南回りといえば左遷コース、世界的にそういうものでした

          5
          • 黒丸
          • 2023年 4月 13日

          北回り空路は気象条件やソ連の近くを飛ぶ・航法システムの支援が少なく
          緊急着陸可能な場所が少ないという色んな悪条件があるため
          ある程度の性能がないと飛行が困難であり、各社の新鋭機が投入されることが多かったのですが
          南回りは昔からある空路なので、極論ですが型落ちの旧型機でも問題なく飛行できました。
          欧州との北回り空路は最新のジャンボジェット機が飛ぶ新幹線みたいな存在で
          南回りは、DC8や707が飛行している各駅停車みたいな存在でした。

          4
            • STIH
            • 2023年 4月 13日

            なるほど、アンカレッジ経由の方が良い機体が必要なのは妥当ですし、恐らくこの場合の南周りは中東経由のことだと考えれば、コロナ前は料金が安かったですから、北回りのほうが上等というのはなんとなく理解できました。
            教えていただきありがとうございます。

            3
        • hiroさん
        • 2023年 4月 14日

        え?
        JALのロンドン便は、ロシア領空を避けた北回りで経由無しで運行しているのに、欧州首脳はアンカレッジ経由っておかしくないですか?

    • MAT
    • 2023年 4月 12日

    あんまりロシアの軍隊のリクルーティングの事を知らないんだけど、時間が経つと徴兵終わって契約兵に更新になった人が戦場に来る事はないんだろうか…?
    あとは追加の契約兵が来る可能性とか。変に時間取ってしまうとそういう追加の人員が来そうで不安に感じる

    4
    • 山田さん
    • 2023年 4月 12日

    別に失敗したら負けってわけじゃないし、西側の支援だって強化されることはあっても、途切れることはないんだから
    もっと気軽に反撃すれば良いとも思うんだけどな。
    ハルキウやヘルソンでの攻撃から、そこまで状況が変わっているとも思えないのだけど。

    3
      • 名無し
      • 2023年 4月 12日

      優秀な兵士は代えがたい存在だという事をまず理解しよう。
      単純作業流れ作業するだけの仕事と全く違うんだから。

      21
    • 折口
    • 2023年 4月 12日

    デンマークのレオパルト1A5(100両弱)提供が夏からの予定という話だったと思うんですが、関係あったりするんですかね。現実問題として供与して即使える訳はなし、戦力化しようと思ったら半年か四半期は費やさなきゃとは思いますが、欧米諸国からの戦車供与の時は侵攻作戦発動をずらしたという話もありましたからね。もしかしてロシア軍がウクライナに戦車や装甲車を小出しにして供与し続ければ無限に攻勢作戦を先延ばしにさせられるのでは…(冗談です)

    4
    • ため息
    • 2023年 4月 12日

    ウクライナは反攻作戦が失敗すれば後がないので、
    慎重になるのは当然でしょうね。悪天候が長引いて
    いるので、泥濘期が例年通りくらいになりそうです。

    バハムート市内は、Mig17モニュメント付近はウクライナ
    が押し返したようでバハムート駅で激戦が続いていますね。
    ウクライナは補給路の損害おかまいなしで、援軍を大量に
    送り込んでいるようです。

    鉄道を押さえるのはロシアの基本戦略なので、長期的に
    バハムート駅を復旧させて、ドンバス全域制圧の補給路の
    要所にするつもりでしょう。ポパスナからソレダルへの
    直通経路の鉄道敷設もありえるかもしれません(憶測です)。

    5
    • チェンバレン
    • 2023年 4月 12日

    独裁国家は国力の割に戦争強いなあ
    良心と自国民の命を犠牲にして戦えるから

    8
      • なな
      • 2023年 4月 13日

      自衛隊に至っては長期戦でたちまちに消耗する兵員を
      続々と補充していく方法がまずもってないし、
      これを今後変えるのは民意的には無理だからね

      3
    • 匿名
    • 2023年 4月 13日

    まあ戦況分析勢の中には早くて今夏、遅ければ秋になるって予想する人さえいるので反攻時期については本当に分からない
    ロシア軍の攻勢の烈度が下がってからさらに2ヶ月程度の準備期間が必要とする見方もある
    ウクライナ軍は戦力不足で反撃できない!ってマスコミは騒ぎ始めるだろうけどこればっかりは辛抱強く待ち続けるしかない

      • 58式素人
      • 2023年 4月 13日

      作戦期間にもよるけれど。
      10月下旬には秋の泥濘期が始まるそうです。
      それまでに一定の成果を出さなくては、ですね。
      となると、遅くも初夏では。
      実際、ロシアでの過去の大規模作戦は、
      いずれも6月20日頃に始まっています。
      作戦期間が4ヶ月間と言うことですね。

      2
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