欧州関連

米国がスウェーデンへHIMARS売却を承認、クリステション首相は検討段階

スウェーデン国防省は昨年「長距離攻撃能力を獲得するためKEPD-350を発注する」と発表、スウェーデン軍も「長距離攻撃能力には航空打撃能力と砲兵システムの両方が含まれる」と述べていたが、米国務省は10日「スウェーデンへのHIMARS売却を承認した」と発表した。

参考:Sweden – M142 High Mobility Artillery Rocket Systems
参考:USA ger grönt ljus för Sverige att köpa Himars
参考:Feux dans la profondeur : La Suède envisage l’achat de vingt systèmes d’artillerie américains M142 HIMARS

スウェーデン軍の長距離攻撃能力にHIMARSが浮上したものの、複数の選択肢の1つに過ぎない

欧州はウクライナとロシアの戦争を目の当たりにして「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識し、航空戦力に偏っていた火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなどが再評価されている。

欧州諸国の多連装ロケットシステムの導入動向(枠組み合意の数字/ドイツのEuroPULSは調達予定数)
種類数量
ポーランドHIMARS486両
Chunmoo290両
エストニアHIMARS6両
Chunmoo6両
ラトビアHIMARS6両
リトアニアHIMARS8両
イタリアHIMARS21両
ルーマニアHIMARS54両
オランダPULS20両
ドイツPULS5両
 EuroPULS250両
デンマークPULS8両
スペインPULS16両
ノルウェーChunmoo16両

砲兵システムに関しては欧州独自の選択肢が存在するものの、多連装ロケットシステムについては独自のシステムがないため米国製のHIMARS、イスラエル製のPULS、韓国製のChunmooに人気が集中し、ポーランドとエストニアはHIMARSとChunmooを並行導入、ラトビア、リトアニア、イタリア、ルーマニアはHIMARS導入、オランダ、デンマーク、スペインはPULS導入、ノルウェーはChunmoo導入を決めた。

但し、スペインはガザ地区での軍事作戦を理由にPULS導入をキャンセル、ドイツはウクライナへのMLRS(MARS-2)提供分を穴埋めするためPULSの少数導入を決め、KNDS Deutschlandとエルビット・システムズが提案するPULSの技術を流用したEuroPULS(MARS-3=PULSの技術を流用した欧州生産バージョン)を250両発注する予定で、2026年下半期の契約締結を目指している。

出典:Matti Blume /CC BY-SA

さらに米国務省は10日「スウェーデン政府に対してHIMARSおよび関連装備品の購入を目的とした対外有償軍事援助(推定総費用9億3,000万ドル)を承認することを決定した」と発表して注目を集めているが、スウェーデンがHIMARSを購入するかどうかは不明で、ウルフ・クリステション首相も国営放送=SVTに対して「米国側は我々に購入の意思があれば売却する用意がある。しかし我々はまだその段階には至っていない」と述べた。

スウェーデン国防省は2025年2月「長距離攻撃能力を獲得するため空対地巡航ミサイル=KEPD-350を発注する」と発表し、現在もドイツ側とKEPD-350発注に向けた協議を続けているものの、2028年までにグリペンへKEPD-350を統合するのが目標だ。

出典:Philipp Hayer/CC BY-SA 3.0

この長距離攻撃能力の獲得についてスウェーデン軍最高司令官のミカエル・クレソン大将は2025年6月「長距離攻撃能力は抑止力の問題だ。自国の領土で戦うだけでなく侵略者のインフラや集結地を叩く能力を持つことで、敵に対しても自国領内での防衛を強いるリスクを負わせることが重要だ。これには長距離の航空打撃能力と縦深攻撃のための砲兵システムの両方が含まれる」と述べていた。

フランスの軍事ブログ=Zone Militaireも10日「航空打撃能力の獲得はKEPD-350協議により解決の目処が立ちつつある中、スウェーデン軍参謀本部に残された課題は150km~500kmの距離にある目標に到達可能な多連装ロケットシステムの選定だ。スウェーデンは複数の選択肢を検討しているようだ」「米国が発表したHIMARS売却の内訳には500kmの目標を攻撃できる戦術弾道ミサイル=PrSMが含まれていない」と報じ、仮にスウェーデンが多連装ロケットシステムに150km~500kmまでの長距離攻撃能力を求めている場合、ノルウェーの二の舞いになるかもしれない。

出典:Hanwha Aerospace

ノルウェーの多連装ロケットシステム取得にはHIMARS、EuroPULS、Chunmooが提案され、EuroPULSは「ドイツ軍も正式発注していないため量産体制が整っていない」「EuroPULSは500km先の目標を攻撃する要件を満たしていない」「EuroPULSで使用する弾薬供給は欧州域内での生産体制が整うまでイスラエルに依存することになる」「緑の党はガザ地区での作戦をジェノサイドと見なしているため同党にとってこれは容認できない」という理由で選定候補自体から除外され、HIMARSはノルウェーが要求したPrSM購入を拒否したため、最終的に全ての要件を唯一満たしたChunmooが勝利した。

スウェーデンが検討している複数の選択肢に何が含まれるのかは不明だが、ドイツとの協力関係を考えればEuroPULSが提案されていても不思議ではなく、ドイツ軍は最大500両分のEuroPULS発注に向けた枠組みの合意締結を意図しており、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktは「本枠組みの半分=250両はドイツ軍向けで、残り半分はドイツ軍と同じ条件でMARS-3発注を希望する同盟国向け分だ」と報じている。

出典:Lockheed Martin

スウェーデンが本当に150km~500kmまでの長距離攻撃能力を求めているならEuroPULSは要件を満たさず、米国がPrSM提供を拒否するならHIMARSも要件を満たさず、そうなると特に防衛協力関係がない韓国のChunmooが導入候補に浮上するしかない。

勿論、スウェーデンが150kmまでの長距離攻撃能力しか求めていないならHIMARSとEuroPULSのどちらかになるかもしれないが、弾薬の供給や運用国間での融通を重視するならHIMARS、米国依存を嫌ってドイツとの関係を重視するならEuroPULSになるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Asher Atkinson

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コメント

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    • たむごん
    • 2026年 3月 13日

    スウェーデンは、ゴッドランド島の防衛~バルト海沿岸の防衛をどうするのかが、国防の第一課題といったところでしょうか。

    陸軍7000人程度、フィンランドが緩衝国(スウェーデン~フィンランド~ロシア)になっているため、陸上での脅威をあまり感じない国ですね。

    2

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