欧州関連

米防衛産業が欧州市場で生き残るため必死の売り込み、望むなら何でもやる

米防衛産業はトランプ政権の不確実性、欧州に対する冷淡な対応、米国製システムに対する警戒感を和らげ、欧州再軍備計画下の欧州市場で生き残るのに必死で、Lockheed Martinも英国に「ミサイル防衛システムの構築を支援する」「英国が望むことを何でもやる用意がある」と売り込んでいる。

参考:Lockheed Martin approaches UK government with air defence pitch

どれだけ欧州再軍備計画の域外サプライヤーに対する規制が効果的を物語っている

米空軍は前例のないスピードでCCA開発を進めているため「最も実用化に近い無人戦闘機計画」と言っても過言ではないが、まだYFQ-42AとYFQ-44Aのプロトタイプは一度も空を飛んだことがなく、有人機と無人機の組み合わせがもたらす効果も実戦で証明されていないため「机上の空論だ」と言われても仕方ないものの、AndurilとRheinmetallはパリ航空ショーで「欧州市場に参入するため両社は提携する」「欧州のサプライヤーを活用して無人戦闘機のYFQ-44A、超大規模生産と大量使用を前提に設計された低コスト巡航ミサイル=Barracudaの欧州バージョンを共同開発する方法を検討する」と発表して大きな注目を集めている。

出典:U.S. Air Force

Andurilは「国際市場に参入するため3つの方法=直接販売、現地企業との提携、現地への子会社設立を考えている」「これは何処に行っても交わす会話と同じだ」「要するに我々は喜んで新規参入するし、顧客の市場の内側から防衛技術の再構築に貢献する」「Andurilの製品はオープンアーキテクチャを採用しているため現地企業との提携にも喜んで応じる」「政治的な意見も多いためAndurilは各市場毎に最適なアプローチを採用している」と述べて「YFQ-44Aの提供や欧州での現地生産が可能」と示唆したが、General Atomicはもっと踏み込んだ内容を明かした。

パリ航空ショーに参加しているGeneral Atomicも「米空軍は一般的なアプローチとは異なり、CCAを開発する2社に欧州とインド太平洋地域の一部の同盟国と無人戦闘機の売却について協議して良いと許可を与えている」「幾つかの輸出手続きが必要だが数週間で完了する」「これは本当に前例のないアプローチだ」「通常のアプローチならCCAを同盟国に提案できるようになるまで8年~10年はかかる」「要するに米空軍は開発段階から一緒にやろうと提案してきた」「こんなことは45年間も仕事をしてきた中で見たことがない」「YFQ-42Aについて複数の潜在的な顧客と協議した」と言及。

出典:U.S. Air Force

General Atomicは「欧州市場においてシステムインテグレーターとしての適切な経験とノウハウをもつリードパートナーを探している」「このパートナーが各顧客のニーズに合わせてYFQ-42Aを再設計し、必要な技術や部品を現地で調達し、それらをYFQ-42Aに統合して認証を取得するようになる」「このパートナーと立ち上げる欧州のサプライチェーンや生産ラインには複数の顧客が参加することになるだろう」とも述べ、RaytheonやLockheed Martinもパリ航空ショーで「積極的に欧州企業と提携し、現地にサプライチェーンを立ち上げて武器システムの現地生産を行う」とアピールしている。

これまでなら考えられないような米国や米企業の対応は「防衛能力にギャップを抱えた欧州への救いの手」ではなく、米国などの域外サプライヤーへの依存軽減が目的の欧州再軍備計画=ReArm Europe Plan下でも欧州市場で生き残り、EU加盟国が今後数年間で支出する最大8,000億ユーロの投資にアクセスするためで、トランプ政権の不確実性、欧州に対する冷淡な対応、米国製システムに対する警戒感を和らげためのアプローチだと見るのが妥当なところだろう。

出典:Lockheed Martin

Financial Timesも19日「英国の国防戦略見直しは防空システムの重要性を強調したものの具体的な計画には言及しなかった」「それでもLockheed Martinはミサイル防衛システムの構築支援を申し出てきた」「英国に迎撃ミサイル、地上配備型センサー、宇宙ベースの状況認識能力に関する初期能力を短期間で提供できると、英国が望むなら誰とでも喜んで提携するし、全てのシステムを統合し、欧州や米国以外のシステムと相互運用性を確保する指揮統制システムも構築する用意があるという」と報じており、もう米国の対応は昨日と今日で全く異なるものになった言っても過言ではない。

米国や米企業は自国の武器システムと弾薬をセットで売り込むため、他国のシステム統合を拒否する傾向が強く、Lockheed MartinはドイツがHIMARSベースのGMARS導入を蹴ってPULSの導入を決めると「PULSを選択すればドイツはGMLRSへのアクセスを失う」「在庫分のGMLRS(推定数千発)を使用するにはGMARS以外の選択肢はない」と述べ、ドイツ側はPULSへのGMLRS統合は「技術的問題ではなく政治的問題」「ニーズがあれば相互運用性を生み出す可能性がある」「今後のGMLRS発注数が制限的な姿勢を緩和させるかもしれない」と楽観視していた。

出典:Elbit Systems

これだけ頑なだったLockheed Martinが「英国が望むなら誰とでも喜んで提携する」「欧州や米国以外のシステムと相互運用性を確保する指揮統制システムも用意する」と言い出すのは異例中の異例で、どれだけ欧州再軍備計画の域外サプライヤーに対する規制が効果的を物語っている。

関連記事:前例のないアプローチ、米空軍が開発している無人戦闘機の欧州生産を容認
関連記事:英国が国防戦略の見直しを発表、重点をインド太平洋地域から欧州地域に変更
関連記事:米国製多連装ロケットシステムから脱却する動き、米国がドイツの選択を警戒

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo

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コメント

  • コメント (18)

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    • たむごん
    • 2025年 6月 20日

    防衛産業は、参入障壁の極めて高い産業であり、売上利益が安定しているとされてきたんですよね。

    言い換えれば、競合に負ければ取り返すのに時間がかかるうえに、再参入ができないリスクすらあります。

    欧州の市場規模は、世界的に見てもかなり大きいですから、アメリカ企業が必死になるのも妥当な経営判断でしょうね。

    6
      • nk
      • 2025年 6月 20日

      防衛産業は国が大きく補助金出していかないと色々と維持出来ないと思うので、平時でも一見無駄金にしか見えなくともある程度は許容する必要がありそうですね。
      ふと映画lord of warを思い出しましたがあの映画では紛争地帯に流す武器の仕入れ先は崩壊したソ連でしたが今だと武器の総量やそれなりのものをと考えるとロシア、ウクライナ、パキスタン、アフガニスタン辺りなんでしょうかね。

      6
        • たむごん
        • 2025年 6月 20日

        仰る通りで、補助金を出したり、税制優遇・減価償却の特例を認めるべきだなと。

        日本だと、US-2の発注数が少なくて、取引先が消えていった話しを思い出しました。

        戦争・紛争を抱える国々は、余力を持っておく必要がありますから、仰るような国々から武器が流れていくのでしょうね。

        7
    • SB
    • 2025年 6月 20日

    ゆーてEUも威勢は良いけど実際問題として自分らだけで賄えるのか?

    15
    • 野獣父
    • 2025年 6月 20日

    ん?今何でもするって言ったよね

    22
    • ののの
    • 2025年 6月 20日

    何でもするならトランプを退陣させればいいのでは???
    きっと米製兵器が飛ぶように売れるぞ

    21
    • マダコ
    • 2025年 6月 20日

    分かりきっていた事です。
    語るのも馬鹿馬鹿しい。

    4
    • 野良猫
    • 2025年 6月 20日

    非関税障壁云々は何だったのか
    馬鹿馬鹿しい
    日本はジャンジャン輸入するんだろう

    4
      • 匿名
      • 2025年 6月 21日

      首相が石破だからね…🙄

      2
    • p-tra
    • 2025年 6月 20日

    ひょっとしたら今はヨーロッパがアメリカから自立する良い機会
    なのかもな。
    ソ連と対峙してたころは在欧米軍がいなくなるなんて考えられな
    かった訳だが…
    ロシアはソ連より遥かに弱いしウクライナのおかげで何だかんだ
    疲弊しきってる。
    冷静に考えて人口と金ならNATOアメリカ抜きが普通に上だ。
    信用できない一部を抜いてもまだまだ上。
    もう一つはイランを想定した東欧のイージス・アショアだけど
    イランはイスラエルが何とかしてくれるかも…?
    あとは核だけだ、ヨーロッパは核戦力さえ何とかできれば
    アメリカから完全に離れられる可能性がありそう。

    5
      • kitty
      • 2025年 6月 20日

      JIIAの

      欧州におけるフランス核抑止の拡大議論についてー挑戦と機会

      ってレポート読みました?

      4
      • ななし
      • 2025年 6月 21日

      >イランはイスラエルが何とかしてくれるかも…?

      イランはいつから我が国の敵国になったのですか?
      何とかするも何もないでしょう
      むしろイスラエルをなんとかしないといけないのに、
      無理くりイスラエルを擁護する意見がある

      まあ、ステークホルダーか認知が歪み過ぎた方ですかね

      4
    • 山田さん
    • 2025年 6月 20日

    でも仮に米国企業が欧州に工場を作り、欧州の人間を雇用して装備品を作ったとしても
    トランプの一言で製造止めるんでしょ?
    合弁会社作って51%以上の株式を握ったとしても、特許関係で掣肘を入れられたらどうしようもないし
    純粋に安全保障だけ考えると、今後のアメリカとの協力って怖くないかね?

    26
    • でんでん
    • 2025年 6月 20日

    米防衛産業が「やるやる!なんでも言って!」ってやっても、議会が「は?そんなんやんないよ」って拒否ったら全部オジャンなんだよねぇ……
    F-2の一連のなんやかんやがあるから信用出来ん
    米軍が協力的で話進んでたのに、ドシドシ金取られる状況になっていくのは悪夢でしょ

    16
    • PAC3
    • 2025年 6月 21日

    自主開発品ならともかく米政府が資金を少しでも出資していれば、輸出する場合は議会の許可とFMS供与という縛りがあり、旧式化しての売却についても米国政府の許可がいるなど縛りが多いとの記憶でしたが、今回の記事を見ると知識の修正がいるようですね。

    1
    • うぃる
    • 2025年 6月 21日

    「何でも」なら素人なのに発言や思考がコロコロ変わる大統領を変えるのが一番かと(笑)
    投資でも不安定ってのが一番困るでしょ。

    13
    • あうあうあー
    • 2025年 6月 21日

    我が国は欧州再軍備計画で欧州に売れるようなものはないのかしらん
    現地企業と共同開発して売るとかなんかできないのかな

    1
    • 匿名
    • 2025年 6月 21日

    企業側がどれだけ頑張っても、米政権と議会が暴れたら結局何の意味もなくね?🙄…

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