ドイツ国営放送「Deutsche Welle」は、戦闘機「トーネード」の老朽化が米国と結んでいる「核兵器共有協定」維持を、さらに難しくさせていると報じている。
参考:In Germany, gridlock over nuclear-capable fighter jet
戦闘機トーネードのスペアパーツ不足は何故解決しないのか?
NATO加盟国の中で核兵器を保有していないドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコは米国と「核兵器共有協定」を締結、米国はこの5ヶ国に戦術核兵器を提供する代わり、提供された国は核兵器運搬のための能力を保有し維持することを義務付けられ、ドイツは公式に認めていないが、ラインラント=プファルツ州に位置するビューヒェル航空基地に、米国が提供した戦術核兵器が保管されている。
このビューヒェル航空基地には、核兵器運搬能力を持つドイツ空軍の戦闘機「トーネード」が配備されているのだが、同機の運用状況はもはや「崩壊」していると言っても過言ではない。
昨年11月、同基地に配備されている「トーネード」45機の内、運用可能な状態を保っていた機体は12機しかなく、この数字は直ぐに「一桁台」へ低下したとドイツ国営放送「Deutsche Welle」が報じており、なぜ、ここまで稼働率が低いのか、なぜ「スペアパーツ不足」が解決しないのかについて説明している。
ドイツは過去、戦闘機「トーネード」を約350機ほど運用していたが冷戦終結によって規模が縮小されつづけた結果、最終的に85機まで運用機体が減ってしまった。逆を言えば、退役した大量(265機)の「トーネード」からパーツを抜き取り再使用することで、同機の運用に掛かるコストを大幅に節約できた=新規にスペアパーツを購入する必要が無くなったことを意味している。
さらに言えば、約350機分のスペアパーツ需要が85機分まで縮小し、大量の退役機から供給されるパーツの影響で新規取得分が減り、スペアパーツ製造企業は当該パーツの製造を休止したり、製造規模を縮小せざるを得なかったのは容易に想像がつく。
結局、大量の退役機からパーツを転用したためスペアパーツの製造基盤が失われ、新規でスペアパーツを調達するにも「時間」と「コスト」が想像以上に掛かり、電子機器や搭載エンジン「RB199」のスペアパーツなどは修理して使用するしかなく、費用対効果で考えた場合、このやり方は恐ろしく効率が悪い。
極めつけは、トーネードの運用が当初予想を遥かに超えて続けられているため、悪化した状況に追い打ちをかけている。
ドイツ議会の議員は、トーネードの維持運用費は毎年増加しており、その増加率は「酷い」ものだと指摘しており、実際ドイツ国防省の公式文書によれば、2018年のトーネード維持運用費は約5億6,200万ドル(約610億円)だったが、2019年には約7億ドル(約780億円)に到達、1年で増えた維持運用費の増加率は25%を越えており、このまま行けば2020年は約9億ドル(約980億円)近い維持運用費が必要になるかもしれない。
同機のオーバーホールを担当しているエアバスによれば、ドイツ空軍のトーネードは3年毎にオーバーホールを行っており、この作業には約1年もの時間が掛かるらしい。
そのためオーバーホールを受ける機体からは需要の高いパーツが取り外され、オーバーホールを終えドイツ空軍に引渡される機体に移植するという「自転車操業もしくは共食い」に近い行為を繰り返しているため、ドイツ空軍のトーネードが稼働率を今以上に引き上げるのは不可能に近く、逆に、この不毛な作業(パーツの取り外し)のため、オーバーホールに掛かる時間が20日余計に掛かり、低迷する同機の稼働率をさらに引き下げている。
エアバスは、このような方法による機体の維持は、年々難しくなってきていると言っているらしい。
結局、この問題を解決するのは、一刻も早くトーネードの後継機を導入するしかないのだが、最もシンプルに問題を解決できるF-35Aを後継機種の候補から除外したため、トーネードの維持運用費の問題が、いつ解決するのか誰にも予測できない非常事態に陥った。
現時点で、トーネードの運用終了は2025年を予定しているが、もし後継機導入が間に合わなければ同機の運用期間を延長する必要があり、あと5年延長するためのコストは約130億ユーロ(約1.5兆円)必要だと報告されている。
これは事実なら、トーネードを2020年から2030年まで運用するトータルコストは、ざっくり計算しても2兆円を軽く越え、1機あたり約250億円(※)という大金が必要で、もはや「馬鹿げている」としか言いようが無い。
※補足:2020年から2025年までの維持運用費を年9億ドルで固定し、2026年から2030年までの維持運用費約144億ドルを足すと約198億ドルとなり、これを85機で割った乱暴な計算方法から導いた結果だ。
事実上、トーネードの後継機はF/A-18E/Fしか認めない方針の米国
ドイツは、さっさとトーネードの後継機を決めて導入すれば良いのだが、なぜこの計画が進まないのかについて簡単に説明する。
トーネードの後継機には、米国製の第5世代戦闘機F-35A、第4.5世代戦闘機F/A-18E/F、欧州製のタイフーンが候補に挙がっていたが、この3つの選択肢の中でNATOが核兵器運搬能力を認証しているのは、ドイツと同じように「核兵器共有協定」を米国と結んでいるイタリア、オランダ、ベルギー、トルコ(F-35プログラムから追放される)が導入を決めたF-35Aだ。
しかし、ドイツは同機を候補から除外してしまい、F/A-18E/Fかタイフーンかに後継機は絞られたのだが、この両機には問題があるため、直ぐに導入してトーネードと交換をする事ができない。
F/A-18E/Fは、米軍の戦術核兵器「B61」の運搬能力を持っているが、NATOの「核兵器共有協定」を結んでいる国で採用された例がなく、NATOによる核兵器運搬能力の認証も行われていないため、F/A-18E/Fを採用しても認証作業が別途必要になる。
タイフーンには、そもそも核兵器の運搬能力がないため、コストを掛け新たに核兵器の運搬能力を付与し、NATOによる認証を受けなければならず、最も時間とコストが掛かる選択肢だが、ドイツ空軍はすでに同機を運用中なので、運用維持費用の面から考えれば魅力的かもしれない。
では、NATOによる核兵器運搬能力の認証とは一体何なのか?
はっきり言えばドイツですら、この認証手続を受けるため「具体的」に何が必要なのか把握しておらず米国に説明を求めている。
ドイツが「NATO」ではなく「米国」に説明を求めていることから判断すると、NATOによる核兵器運搬能力の認証手続きは、実質的に米国による認証手続であり、もっとシンプルに言えば、この認証作業は技術的な手続きよりも、米国が認めるかどうかというレベルの話で、恐らく認証手続自体は形式的なものに過ぎない可能性が高い。
米国は、認証手続の具体的な内容を明らかにしていないが、核兵器運搬能力の認証手続きは米国製戦闘機の方が早く終了し、タイフーンが認証手続きをクリアするには最大で「10年」掛かるかもしれないとドイツに伝えたらしく、これは米国製戦闘機採用を「強制」するのと同義であり、ドイツや欧州防衛産業界からの反発は必至だ。
そのためドイツが導入するトーネードの後継機にF/A-18E/Fとタイフーンを両方採用させ、米国と欧州の防衛産業が半分づつ仕事を分け合うという妥協案が提案されており、もはや運用するドイツ空軍のことなど何も考えていない「政治的駆け引き」のみで後継機が決定されようとしている。
ドイツや欧州、米国の政治的な思惑が絡んでいるのは重々承知しているが、結局、トーネードのスペアパーツ不足で苦しむドイツをシンプルに救済する選択肢は、イタリア、オランダ、ベルギーが導入を決めたF-35Aだけで、元々、ドイツ空軍自体はトーネードの後継機としてF-35Aを希望していた。
ドイツ空軍の将兵達は、トーネードの後継機について「私達はただ任務を果たせる戦闘機が欲しいだけで、もう時間が残されていない」と述べているが、この悲痛な訴えが政治に影響を与えることは恐らく無いだろう。
※アイキャッチ画像の出典:Jörg Hüttenhölscher / stock.adobe.com
トーネード後継機からF-35を、F-35派の将官(空軍トップだったっけ?)を更迭してまで排除したのも政治なのだから、政治でしか後継機問題を解決する事は不可能でしょう
あと、運用する核兵器は自由落下型の無誘導爆弾なのだから、実用するならばやはりF-35じゃないと自殺行為ではと
稼働できるトーネードが数機になっても、F-35Aは購入しないでしょうね。
全てはフランス・ドイツの共同開発の次期戦闘機待ち
理由はドイツの兵器製造会社がそれを望んでるから
まぁどうせ戦争なんて起きないし
起きてもアメリカが介入せざるを得ないし
とか思ってそうw
ドイツももう一度焼け野原になればいいのにな