インド太平洋関連

豪州、アタック級潜水艦と平行して超大型水中無人機「オルカ」導入も検討すべき

豪州のシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」は時間のかかるアタック級潜水艦が揃うまでのギャップを埋めるため、米海軍が開発を進めている超大型水中無人機「Orca/オルカ」の導入を検討すべきだと主張している。

参考:Should Australia opt-in to the Orca program?

コリンズ級潜水艦と連携してOrcaが作動すればオーストラリア海軍は戦闘力を強化することが可能

オーストラリアが進めているアタック級潜水艦プログラムは幾つかの問題に直面して国内から厳しい視線を向けられている。

特に問題視されているのはプログラムコストが当初見積もりの500億豪ドルから800億豪ドルへと高騰している点、アタック級潜水艦建造に豪産業界がどの程度関与できるのか政府とNavalGroup(旧DCNS)との交渉が期限(昨年12月末)を過ぎても合意に達していない点で、この様な不確実性からプログラム廃止を求める声も挙がっている。

ただ1つ言えるのは上記の指摘は飽くまで政府発表の数字や情報ではなく全て外部機関による推測や指摘なので、どこまで当たっているのか分からないという点だ。

出典:Borvan53 / CC BY-SA 4.0

しかしアタック級潜水艦プログラムの致命的な問題はもう一つ存在する。

公式の発表によればアタック級潜水艦の12番艦が完成するのは2054年=つまり予定された12隻全てを建造するのに34年もかかる点で、中国が急速に軍拡を進めているのに34年もかけてコリンズ級潜水艦の更新や潜水艦戦力の増強(6隻→12隻)を行っていればギャップが生じると懸念されているのだ。

そのためオーストラリア政府がアタック級潜水艦プログラムをこのまま進めるなら何か対策を講じる必要があり、豪州のシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」は米海軍が開発を進めている超大型水中無人機「Orca/オルカ」の導入を検討すべきだと主張している。

出典:DoD photo by Lisa Ferdinando エスパー前国防長官がボーイングの工場を訪れた際Echo Voyagerを視察する風景

米海軍がボーイングに発注した「Orca/オルカ」はUUVではなくXLUUVに分類されているため超大型水中無人機と呼ばれており、同社が開発した「Echo Voyager(全長16m)」をベースに開発されているが新たに脱着式のモジュール構造を採用することで最大26m(8トンまでのコンポーネントを追加可能)まで延長することが可能で、Orcaはリチウムイオン電池駆動だがディーゼル発電による再充電にも対応しているため同艦の最大航続距離は6,500マイル(約10,400km)=つまり数ヶ月の長期任務に耐えることができるらしい。

補足:米海軍は2022年までにOrcaを5隻調達する予定で1隻あたり調達コストは推定5,400万ドル(約58億円)程度

米海軍はOrcaを使用して機雷捜索から偵察任務、搭載量を生かした輸送任務などに使用することを考えているのだが、最近新しく無人水上艦(USV)と無人水中艦(UUV)から発射可能なカミカゼドローンと呼ばれる徘徊型無人航空機「コヨーテ・ブロック3」の開発をレイセオンに命じているのでOrcaにカミカゼドローンを搭載して活用することも考えているのだろう。

出典:Public Domain 国立海洋大気庁が使用している小型無人航空機「コヨーテ」

要するにASPIはアタック級潜水艦を12隻調達するまで時間がかかるのでOrcaを導入してギャップを埋めることを検討したほうが良い言っているのだ。

ASPIは超大型水中無人機Orcaについて「戦闘機とロイヤル・ウィングマンの関係に近く、コリンズ級潜水艦と連携してOrcaが作動すればアタック級潜水艦が手に入る前にオーストラリア海軍は戦闘力を強化することができる(潜水艦とOrcaが連携するのは不明)」と指摘しており、単純に米海軍が開発したものを調達するのではなくオーストラリアとの共同開発を提案して開発自体に関与すべきだとも言っているのが非常に興味深い。

恐らくASPIはコリンズ級潜水艦とOrcaが連携して作動することで戦闘効率を高めることが出来れば、アタック級潜水艦を12隻も建造する必要がなくなるとでも言いたいのだろう。

まぁシンクタンクの主張なのでオーストラリア海軍が耳を傾けるかは謎だが、Orcaのプロトタイプは早ければ年内か年明けにも米海軍に引き渡される予定なのでどの様に活用されるのか注目される。

関連記事:海上からスウォーム攻撃? 米海軍が艦艇搭載型のカミカゼドローン開発に着手
関連記事:誰も責任を取らない? 政治利用された豪州のアタック級潜水艦が破綻する理由
関連記事:仏タレス、海自の機雷捜索用UUV向けにソナー供給契約を三菱重工と締結

 

※アイキャッチ画像の出典:ボーイング Echo Voyager

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    アタック級(笑)
    QUADの仲間だからしっかりして欲しい。

    9
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      日本人としては、キレイにしてくれると期待してしまいますよね。

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    全艦の建造が終わる頃には他の国はもっと性能がいい潜水艦を導入してるのでは・・・

    27
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      それ以前に12番艦就役する頃には、1番艦が退役しそうな

    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    遂にアタック級も終わりの始まりが来たかな?
    ASPIはアタック級のストップギャップとしてOrcaの導入あるいは開発への参入を提言しているけど、Orcaが導入されれば当然にそれに合わせた要求性能を持った潜水艦が必要となる筈で、それだったらアタック級を中止して新たな潜水艦調達計画を仕切り直した方が効率が良いし、Orcaを導入した分だけアタック級より建造数を減らせる

    提案的にはアタック級よりもマトモなので、もしかしたら豪州海軍の上層部も同じ事を考えていて、その意向をASPIに流しているかも知れない
    身内の空軍がロイヤル・ウィングマンの開発を行っているのだから、当然海軍もそれを見ているだろうしね

    8
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    韓国以下のGDPしかなく人口も少ないオーストラリアよりも、今後急激な成長が予想され人口大国かつ南シナ海とマラッカ海峡を抑える位置にあるインドネシアに接近してほしい。インドネシアとオーストラリアが仮想敵国どうしなのがネックかもしれないが…

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      豪州以上の魔境で草

      12
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      インドネシアってイスラム国家なんだが…
      そしてトルコや中国みたいな覇権国家目指してるのが見え見えじゃんよ
      今はまだいいけど技術や金だけ吸い取って自分がデカくなったら
      調子こいて居丈高に振る舞うだろうことが予想できるんだけど
      また似たような過ち繰り返すつもり?

      19
        • 匿名
        • 2021年 3月 15日

        まずイスラムへの無知と偏見、それにインドネシアの国情を知らない
        どの国も力をつけると横暴に振る舞うのは、我が国の過去と何らかわらない、ごく当たり前では?
        他人より自分に目を向けなよ

        3
          • 匿名
          • 2021年 3月 17日

          >我が国
          中国か朝鮮半島の方ですか?

          3
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    オルカというより、この色と形は・・・ジュゴンを連想した。
    辺野古の例の人たちが担いでたなぁ。

    「本物のジュゴンを絶滅させてジュゴンに似せた兵器を配備するなんて!」

    とりあえず意味不明なことを書いてみました。

    11
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      数か月にも及ぶ長期任務の影響で
      Orcaが人魚に見えてしまう水兵が続出するんですねw

      2
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    日本も導入すべき装備と思います。潜水艦22隻体制でも、日本の広大な海域には不足だし、潜水艦乗員を増やすのは並大抵のことではないのだから。AIで潜水艦の哨戒活動や戦術パターンを再現して、自律的に活動できるレベルのものを作り上げ、増産出来れば状況はかなり改善するはず。問題は、潜航中の通信と、AIが戦争の引金を引く可能性が生まれること。

    10
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      無人というコンセプトはもう外せないんだが、
      前提として国内開発しないと、せっかくの潜水艦技術まで米企業の食い物にされかねないよ
      単に輸入しても国産潜水艦とは連携できないよう、必ずアメリカはそういうシステムを仕込んでるから

      14
        • 匿名
        • 2021年 3月 14日

        海自はモジュール型水中無人機って名前でUUVの研究をとっくに始めてるよ

        7
          • 匿名
          • 2021年 3月 15日

          始めてるのはよく知られてるが、ではいつ発注されるのかという話
          研究だけならあちこちの国であってるだろ

          1
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      甲標的の無人化ですな

      9
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    Echo Voyagerってこんなに大きいんだ。

    1
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    潜水艦から居住区を取り除ければ空間や重量面で多大なメリットがある
    バッテリーしこたま詰めばずっと沈んでられるのでは?

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      そもそも移動にエネルギーがいるんであって人が乗らなければ酸素もいらんしずっと沈んでられる

      4
        • 匿名
        • 2021年 3月 14日

        流石に全く動かないのって可能なの?
        海中だと波の動きがほぼないのかね?

        1
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    もうアタック級導入は損切りして破棄すべきだろ
    国防省の幹部の首がかなり飛びそうだけど

    8
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      足りない潜水艦はどうするの?

    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    オルカ一隻58億円
    さいきんのアメリカさんにしてはとってもリーズナブル
    民需活用の成果なんかね

    10
      • A
      • 2021年 3月 14日

      上手くいけばね。
      なんせあのボーイングですからね。
      アタック級の道、再び。

      4
        • 匿名
        • 2021年 3月 15日

        とりあえずアメリカさんの話題だから
        オーストラリアがライセンス生産だの言い出すと、それはそのとき

        1
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    ソナーもまともに機能しない日本製潜水艦よりも、こちらの提案の方が遥かに現実的だろうな

    2
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      アメリカだってえひめ丸事件やらかしてるし、その前も日本タンカーにぶつかり撃沈してるぞ
      潜水艦はやはり座頭市なんだよ、普通の船のように考えるな

      24
      • A
      • 2021年 3月 14日

      ん、どゆこと?

      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      それは、ソナーの代りに魚探積んだ、お笑い韓国への悪口ですよ笑

      11
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    オーストラリアは共同開発を主張すること多いけど、オーストラリア側が提供できるものってあるのかな。
    単純に技術クレクレなだけに思えるけれど。

    9
      • 匿名
      • 2021年 3月 14日

      空の無人機開発できるんだから、ソフトウェア方面に限っての話でしょうね
      潜水艦の技術があればこんなゴタゴタ起きてないしw
      それに、先に共同開発の体をとらないと米側の言い値で高く買わされるのを恐れてるのかと

      5
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    いっそもうロイヤルウィングマンともどもボーイングに共同開発持ちかけたほうが…

    2
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    コヨーテ抱いてるおじさんの顔覚えちゃったよ

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    公式の発表によればアタック級潜水艦の12番艦が完成するのは2054年=つまり予定された12隻全てを建造するのに34年もかかる点
    →海自の潜水艦の運用期間でなら最終艦が就役する頃には数隻は退役していますね。

    8
    • 匿名
    • 2021年 3月 17日

    大阪府警「おるかーーー?」

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