インド太平洋関連

豪陸軍によるリンクスとレッドバックの評価テストが終了、来年の第1四半期に勝者を発表予定

豪陸軍の次期歩兵戦闘車に提案されているリンクス(独)とレッドバック(韓)は約10ヶ月間に及ぶ評価テストの全項目を終了、現在テストの分析や評価が豪国防省内で進められており来年の第1四半期に勝者が発表される予定だ。

参考:Lynx and Redback gunning for victory over fighting vehicles

果たしてリンクスとレッドバックのどちらが勝者に選ばれるだろうか?

評価テストでリンクスとレッドバックのどちらが高い評価を得たのかなど全く情報がなく、ブリスベン出身のダットン国防相がクイーンズランド州で製造予定のリンクス選択するのではないかという噂も流れているが、レッドバックもビクトリア州で製造予定なので両州の産業界は受注に向けた強力なロビー活動を展開しており、現地メディアは「非常に接戦だ」と報じているものの「過去の事例から地元産業界のロビー活動は政府の決定を左右する要因にほとんどならない」と指摘しているのが興味深い。

ただThe Australian紙はリンクスとレッドバックに関する入手可能な情報だけで評価するなら「ややレッドバック優位ではないか」と報じている。

出典:Rheinmetall MAN / CC BY-SA 4.0 歩兵戦闘車「リンクス KF41」

The Australian紙が「ややレッドバック優位」と評価するに至った点は2つあり、1つは目はリンクスが伝統的な金属製の履帯を採用しているのに対してレッドバックは軽量で特殊なゴム製履帯(Soucy製)を採用している点で「金属製の履帯に比べて走行中の振動が少ないため搭載機器の故障要因が減少し、乗り心地も滑らかなので乗員の疲労度や燃費改善に明らかな差が見受けられる」と評価しているが、この技術は一般的に普及しているものではないとも指摘しており、評価テストでゴム製履帯が豪陸軍の不安を解消できるパフォーマンスを示していればレッドバック優位に寄与しているかもしれない。

2つ目は両者が採用する30mm機関砲の差だ。

リンクスはプーマ装甲歩兵戦闘車など複数の採用実績をもつラインメタル製(旧マウザー社製)の30mm機関砲「MK30-2/ABM」を装備しているが、レッドバックは米軍が採用しているノースロップ・グラマン製の30mm機関砲「Mk44 ブッシュマスターII」を装備しているため信頼性や実績の点で互角と評価されているものの、米軍と共同で戦うことを想定するとMk44ブッシュマスターIIを選択した方が米軍の膨大な弾薬在庫にアクセスできるためゴム製履帯と合わせて「ややレッドバック優位」ではないかと説明しているが、どちらにしても米軍が使用している30mm弾との互換性は豪陸軍の要求外なので+αの部分と言える。

出典:Australian Army

まぁ豪国防省に提出したプログラムコストの見積もりやオフセットの内容(現地製造に関する計画書など)に加え、実際にテストを行った豪陸軍と独韓のメーカーしか知り得ない機密に該当する性能を比較できない外野が何を分析したとしても「狭く浅い予想」しか導き出せないので何とも言い難いが、両者が参加しているM2ブラッドレーの後継プログラムを進めている最中の米陸軍は来年発表される結果に関心を寄せているのは間違い。

果たしてリンクスとレッドバックのどちらが勝者に選ばれるだろうか?

ドイツのラインメタルとしては欧州進出を強める韓国のハンファディフェンスを破って評判を落としておきたい所だろうが、韓国のハンファディフェンスも「2031年までに米国防総省の元請け企業(恐らくM2ブラッドレーの後継プログラム受注のこと)になることを目指している」と英国のジェーンズに語っているのでラインメタルを破り勢いに乗りたいと考えているに違いない。

関連記事:米陸軍が次期歩兵戦闘車の予備設計に進む5チームを発表、噂のシンガポール企業は含まれず
関連記事:契約総額57億ドルの行方、豪州の歩兵戦闘車と自走砲を巡ってドイツと韓国が激突

 

※アイキャッチ画像の出典:Australian Army / CPL Sagi Biderman

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    ゴム製履帯の耐熱性や耐摩耗性がきになるな
    ホバークラフト上陸艇もゴム足の損耗・交換費用に結構苦労していると聞くし、まして榴弾が飛び通い火災があちこちにおこりうる陸上戦でも大丈夫なのだろうか

    16
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      産業分野においては既によく見かける(普及率は分かりませんが)ので
      信頼性も向上してきているのは確かでしょうが
      戦場という環境での信頼性は確かに予測が難しいですね

      16
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    韓国も頑張るな、まぁ(関係ないかもしれんが)外貨準備高の事もあるし必死になるかな?
    こういう必死なとこを防衛産業は見習って欲しいもんだ

    そういえば装備庁もゴム製履帯作ってんだっけ?

    12
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      アスファルトの上を移動する際はゴムじゃね

      2
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      軽量履帯ですね。ゴム部の材質的強度の関係で30tクラス用までですが。

      4
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    感情論を別としても、走行車両の歴史と動作確実性を考えると英国にしとけと豪州にはアドバイスしたい。とはいえ最近のブリタニアやゲルマンスキーのタイフーンやらタボールやらフリゲート艦のチョンボを見ると、そうでもない気がしてきた(無責任)。

    3
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      英国製IFV(Ajax)は今ぐだぐだ真っ最中じゃないか
      英国の工業力はトルコや韓国の方がマシレベルでひどい事になっている

      そもそも長い歴史があるといったって、一癖二癖も強い兵器ばっかし作ってるじゃないか

      12
        • 匿名
        • 2021年 11月 03日

        今のイギリスは軍用ジェットエンジンや電子機器は強いけど車両はなぁ…

        10
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    どっちが勝っても嬉しいからどっちも買ってくれ(懇願

    5
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    日本企業にはない勢いですね。
    苦しい苦しいって言ってる割に、提案はしないから潰れたいのかな。
    個人的には、不正や時代遅れの装備品しか作れない企業は消えてもらって構わないけど。
    政府はそれでいいのかね。

    4
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      陸自向けの装甲車は現在、共通戦術装甲軌道車が試験中だからメーカー的には提案どころじゃ無いだろ?
      それに、今後はAAV7後継の水陸両用車の開発も控えているだろうから、日本メーカーは研究開発に限って言えば困っていないんじゃない?
      そういう状況下だと国内メーカー一社では発注をこなし切れ無いから、装輪装甲車についてはパトリアAMVにするかもね
      そう考えると、装甲車開発生産から逃げ出した某・建築機械メーカーはもしかすると「最大の市場である中国に対して忖度した」と勘繰りたくなるんだけど、これは冗談の範疇と言う事でw

      13
        • 匿名
        • 2021年 11月 04日

        新型LAVは外車でも8輪装甲車は輸入しない
        国産で大量発注が無理なら細々と長期調達すればよい
        その代わりに即機連の新型LAVが今の倍になる
        オシュコシュLATVやタレスオーストラリアのホークアイが5年で3000両必要となれば日本で現地生産にもなるだろう

          • 匿名
          • 2021年 11月 04日

          その長期間細々と調達するのが費用の高止まりとメーカーの負担になっていたのでは?

          8
            • 匿名
            • 2021年 11月 04日

            メーカー負担ってのは戦車みたいなもんを同じモデルで20年以上も作り続けてを言うんだよ
            82式系も96式も動力装置はそこら走ってるバスと同じだろ
            LAVに至ってはありゃもはや乗用車だぞ・・・

            2
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    レッドバックが勝ったら良くも悪くも大騒ぎになるだろし
    いろいろ活気付くだろうから個人的にはレッドバックを応援したい。

    7
    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    つーかドイツはマジで何やってんの?
    戦車でも榴弾砲でも競合兵器の売り込みでことごとくK国に敗けてるやん
    K国製の兵器なんて中身殆どドイツ製だから敗けても構わんってことなの?

    1
      • 匿名
      • 2021年 11月 03日

      ドイツ製はお値段が張るのがね…
      しかしK9のドイツ要素はエンジンくらいだ(変速機は米GM製、サスペンションは英HDS性、いずれもライセンス生産)
      K2戦車はパワーパックがドイツ要素多いが、車体はロシア、イスラエル要素の方が多い(120mm55口径砲は独LM製ではなく現代WIA製)
      それにK2戦車はコンペに参加表明しているが、まだ受注を獲得はしていないぞ(結果が出始めるのは早くても来年末のノルウェー)

      6
      • 匿名
      • 2021年 11月 04日

      独軍に合わせて作った変態プーマは売り物にならんからベンチャーでリンクス作ったんだぞ
      自走榴2000も隣国以外で買うやつおらんけどそりゃかなりの変態だから
      ドイツ製の変態でも売れ筋はボクサーAPCだけどこれだってアフガンイラクがなけりゃあんなに引き合い来るわけもないかなりの変態

      5
    • 匿名
    • 2021年 11月 04日

    機関砲ってどっちも30×173mm弾使うはずで互換性あるんじゃね?

    あと英国のajaxはそもそも英国で作ってるの?外国で作ったもので寸法マチマチで原因追求しきれない筈では。

      • 匿名
      • 2021年 11月 04日

      弾の規格は同じでも製造メーカーによって弾体の重量や装薬の量や力が違うので、薬室に入るまでの互換性はあるが発砲後の保証はできないとかあるのではないだろうか
      機関銃でそういった問題があると聞いたことはないが、米軍の陸軍と海兵隊の小銃との間で弾薬を共有する為に5.56mm弾が3種類用意しなくてはならないという話題があった

      あとAjaxを作っているのはジェネラルダイナミクスの英国法人で、ウェールズにある工場で作られているそうだ

      1
        • 匿名
        • 2021年 11月 04日

        UKで作ってるのかな、パンツアーだったかでAJAXの話出ててネタとしてスペイン製?の問題として出てた覚えがある。

        5.56x45mmの話は海兵隊でも混用してたし、最終的にはカービンタイプに最適化された陸式に統一されたはずだから例としてはどうなのかな。機関砲にカービンと通常のライフル程の差が発生するとは思えないし、なんの為のNOTO規格だよって話になる。64式でも7.62mmの通常弾は撃てるし規格に合わせてる筈なのに保証出来んと言うならそもそも規格外品じゃないのと思うけど。

        1
    • ゆう
    • 2021年 11月 04日

    Soucy製ゴム製履帯は、ノルウェーおよびデンマークのCV90での使用実績があるとのこと。
    リンク

      • 匿名
      • 2021年 11月 04日

      ゴム製履帯自体は歴史は長いけど(WW2で広く使われたM3ハーフトラックの後輪履帯も硬質ゴム製だ)
      地雷踏んで切れた時の修理とかどうするんだろう?

      2
      • 匿名
      • 2021年 11月 04日

      ソーシーのラバーバンドで10年以上運用されてんのは20t以下のBVS10やM113系だろ
      20t超えでCV90がここ最近でGVWで30t級のはレッドバックが同社初かな
      何れにせよ重量級IFVではどんだけ使えるか未知数な商材ではある

      4
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