豪国営放送のABC Newsは4日「我々は予測不可能なホワイトハウスの態度、関税問題、AUKUS問題などトランプ政権の不確実性に直面している」「アルバニージー首相は土曜夜の演説で豪州の独立を擁護するつもりだ」と報じ、まだ表現は穏やかなもののカナダと同じことを言い始めた。
参考:Anthony Albanese to champion ‘Australian independence’ within US alliance
どれだけ米国との同盟関係が重要でも、オーストラリアの独立や主権を侵害するような政策の押し付けには声を上げると言いたげだ
カナダのトルドー政権=自由党は2023年頃から支持率で保守党に逆転され、トランプ大統領の2期目政権が誕生すると米国の不確実性、カナダ合併発言、関税問題に直面し、自由党内からも国民に不人気なトルドー政権に対して「国の課題に十分対応出来ていない」「10月に予定されている総選挙前に退陣すべき」と批判されてしまい、今年1月「この国は次の選挙で真の選択が必要だ」「私が党内対立の原因になっているなら最良の選択肢ではないということだ」「正式な手続きで次期党首が決まれば党首と首相を辞任する」と発表。

出典:Mark Carney
一般的にトルドー政権の崩壊原因は「トランプ大統領の脅迫に対する対応方針の不一致」だと言われており、後任の党首に選出されたカーニー氏は曖昧な態度を止め「もはや米国は信頼できるパートナーでないのは明らかで安全保障や貿易関係を大幅に見直す」と公言、トランプ大統領の脅迫により愛国心が高まった世論も取り込みにも成功して総選挙に勝利。
カーニー首相は総選挙での勝利後「着実に進められてきた統合を土台とする米国との古い関係は終わった」「米国を中心とする開かれた貿易システム、第二次大戦以降にカナダが頼ってきたシステム、完璧ではないもののカナダの繁栄を支えてきたシステムは終わった」「これは悲劇だが我々の新たな現実だ」「米国の裏切りの衝撃は乗り越えたが今回の教訓を決して忘れてはならない」「今後数ヶ月間は困難な時期となり犠牲が必要となる」と述べ、安全保障分野における欧州との関係拡大を進めている。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza
オーストラリアもトランプ政権の関税問題に加え、国防費増額への圧力に晒され、ヘグセス国防長官が率いる国防総省も国防費増額要求が拒否されると「バイデン政権の取り組みがトランプ大統領のAmerica First政策に合致しているか確認する一環としてAUKUSの見直しを行っている」と発表、さらに予定されていたアルバニージー首相とトランプ大統領の会談も実現せず、豪国営放送のABC Newsも4日夜「現在のオーストラリアは予測不可能なホワイトハウスの態度、関税問題、AUKUS問題などトランプ政権の不確実性に直面している」と言い始めた。
“豪米同盟の父と呼ばれるカーティン元首相の80周年を祝うため、アルバニージー首相は土曜の夜にジョン・カーティン研究センターで演説を行う。この演説の中で首相は「豪米同盟がオーストラリア外交政策の基軸であり、防衛・安全保障において米国とのパートナーシップが最も重要だ」と称賛する予定だが、対米関係が微妙な時期に「オーストラリアの独立」も擁護するつもりだ”

出典:Donald J. Trump
“首相は「我々がカーティン元首相を記憶するのは米国との安全保障に目を向けたからではなく、オーストラリアのために声を上げたからで、だから我々は彼を尊敬している」「当時のオーストラリアにとって伝統的な関係に縛られることなく『戦略的な現実に根ざした外交政策』が必要だったのだ」と述べる予定で、この演説はアルバニージー首相にとって間違いなく重要なものになるだろう。カーティン元首相を引き合いに出す政治的手法だけでなく、これを実行するタイミングが最も重要で、現在のオーストラリアは再び大国から国益に合致しない政策を採用するよう圧力を受けているからだ”
“アルバニージー首相は演説の中で「カーティン元首相の戦時中におけるリーダーシップが本質的に主権防衛にあったこと」「太平洋地域におけるオーストラリアの安全保障を保護することだった」と指摘するはずで、カーティン元首相は過去の指導者と同様に「大国がオーストラリアの国益を軽視する可能性がある」と十分認識していたし、オーストラリアの政策立案における根拠として「英国や米国からの保証」に頼ることは到底選択肢にならなかった”

出典:Anthony Albanese
“アルバニージー首相は土曜夜の演説を通じて米国人とオーストラリア人の双方に「緊密な同盟関係があったとしてもオーストラリアの自尊心や独自の国益を主張できないわけではない」と訴えるつもりだ”
ABC Newsの報道は「土曜夜の演説内容が意図的にリークされている」と強く示唆しており、カナダほど明確ではないものの「どれだけ米国との同盟関係が重要でも、オーストラリアの独立や主権を侵害するような政策の押し付けには声を上げる」と言いたげだ。

出典:BAE Systems
アルバニージー首相が土曜夜の演説で「どこまで踏み込んでくるか」は不明だが、オーストラリアにとっては安全保障に重要なAUKUS協定を人質に取られている格好で、感覚的にカナダとオーストラリアの状況は似通ってきたのかもしれない。
因みにフォンデアライエン欧州委員長はバチカンで行われたレオ14世の法皇就任ミサ後、アルバニージー首相と会談し「欧州とオーストラリアは信頼できるパートナーで、両国関係は予測可能で同じ価値観を共有している」「これがオーストラリアを単なる貿易相手ではなく戦略的パートナーとして見ている理由だ」「欧州はオーストラリアとの戦略的パートナーシップを拡大させていきたいと考えている」「我々は韓国と日本、まもなく英国とも安全保障・防衛協定を締結する予定だ」と述べ、アルバニージー首相は即応を避けつつもEUとの関係強化に前向きだと表明している。
Great to see you in Rome, @AlboMP and congratulations on your re-election!
In uncertain times, your renewed mandate brings both continuity and fresh momentum to the EU–Australia strategic partnership.
So let’s deepen ties in trade, defence, and security. pic.twitter.com/6mmIfLfyS8
— Ursula von der Leyen (@vonderleyen) May 18, 2025
フォンデアライエン欧州委員長の発言は「信頼できず、予測不可能で、価値観を共有できない相手が誰なのか」を露骨に示唆しており、この呼びかけは欧州再軍備計画へのオーストラリア参加要請だと解釈するのが妥当で、トランプ政権は西側諸国を迅速に分断してしているとしか言いようがない。
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※アイキャッチ画像の出典:Anthony Albanese
そもそもオーストラリアは、カナダを比較できるほど、アメリカ寄りかといえば、結構ふらふらしてますからね。それに原潜についても、ゼロから整備体制含めて全部アメリカ頼りとか、アメリカ頼りの不安視を口にできるほど自立してるか?って話もあります。欧州の発言もそうですけど、口では言うんですが、言うほど自立を実質的に目指せているか、というと甚だ疑問なんですよね。
アルバニージー首相「Make Australia Great Aborigine」
そもそもAUKUSの豪州原潜取得ってそんなに意義あったんですかね。
中国と向かい合ってる我が国からすると味方の原潜なんていくらあっても
いいとは思うけど別に豪州である必要はないというか。
アメリカが直接自分たちの持ってる原潜増やせばいいだろ…って思うけど。
懐事情が厳しい米に代わって豪州から金と人を巻き上げてやらせるって意義なら
あるかもしれないし、豪州も仮にも原潜保有国になれて嬉しいかもしれないが。
こんな都合のいいことアメリカ頼みで始めといて自立とか今言われてもな。
自分たちで船くらい作ってから言えよ…という話ではある。
オーストラリアに核抑止力を提供出来るのはアメリカだけのなので、何処まで減米出来るかは微妙かと思います。カナダに対するトランプの51州目発言は、裏を返せばファーストなアメリカと同じくらい重要って事なので、根底では相思相愛な米加関係とはちょっと違いますしね
豪州経済は、資源が主な輸出先でアメリカに経済依存しておらず、『カナダ対米黒字=豪州対米赤字』のが大きく違う点です。
アメリカの数少ない貿易黒字国が、オーストラリアというのもあり、武器取引も萎んでいけば何らかの影響がでてくるかもしれませんね。
貿易総額 1兆2,435億豪ドル (1)中国26.3% (2)日本9.7% (3)米国7.9%
輸出 5,184億豪ドル (1)中国32.6% (2)日本13.4% (3)韓国6.5%
輸入 3,993億豪ドル (1)中国18.9% (2)米国11.4% (3)日本5.4%
(オーストラリア基礎データ 外務省)
(2025年5月1日 豪の対米貿易収支、1─3月は黒字に転換 輸出が前年比で3倍に急増 ロイター)
欧州との地理的な距離、オセアニア諸国の軍事力を考えればオーストラリアは日韓印との関係構築が重要です。
一方で、これらの国はいずれも他国の安全を保障するような動きはしない国で、特に日韓は核兵器も弾道ミサイルもなくオーストラリアの期待する抑止力にはならないでしょう。
原油ほどではないにしても多数の資源を有する国で、口実を与えないように常に慎重に動いてきたのが歴代の政権でした。
トランプアメリカに対しても、カナダや欧州の真面目というかまともに受け合うような反応から距離を置いてきました。
しかし欧州の脱アメリカの動きはアメリカのトンデモをより先鋭化させており、状況は日々悪化しています。
そうなると、現実的には中国ロシアとの関係を改善する方が結果的に安く、そして実効性があるような気がしてならない・・・。
欧州の兵器も枠組みも、アジアオセアニアの国々を守ってもくれないし大した牽制にもならないのが現実。
イギリスが西側の分断をともかく嫌がってはいるので、なんとか過去の盟主として頑張ってほしい。
トランプ以後のイギリスは本当に頑張ってると思う。
当時からAUKUSなんて今の米海軍にやる余裕は無いと思ってましたよ。バイデンがええかっこしいしただけで。
トランプ政権の不確実性は、
もちろんトランプの性格もあるけど、何をやるかわからない、というのを演出して武器にしているところもあると思う。それで今、中国の暴発も防いでいる。
基本は単純で一貫している。例えばイランに対しては「核保有は許さない」で一貫していて、戦争を止めさせるために、イランを怒ったりイスラエルを怒ったりした。ウクライナ戦争もできれば終わらせる方針で原則は一貫している。そのために、ゼレンスキーに怒ったりプーチンに怒ったり、外見では思いつきで揺れているように見える。
関税も実はそうで、オーストラリアは日本と同じく、トランプ側の原則を理解できず右往左往している。親中派がいるのも同じだ。
カナダのカーニーが選挙で連立与党を維持できたのは、
ある面ではカナダのマスコミの全面支援が大きいと思う。今回のカーニーの政策は実は保守党の政策を表面的にほとんど真似をした。それプラス、マスコミが自由党の味方かつ反トランプなので、今それを追い風にできた。特に高齢者層には。
アメリカの場合はマスコミの報道を信じない人が3割くらいいるので、それで違いが出るのだと思う。