インド太平洋関連

インドネシアの戦闘機需要を巡る戦い、ボーイングがF-15EX売却を断念

インドネシアとボーイングは2023年8月「F-15EX売却(24機)に関する覚書」に署名したが、ボーイングは最近「もうインドネシアへの販売を積極的に進めていない」と明かし、Aviation WeekもBreaking Defenseも「インドネシアのF-15EX購入は中止された」と報じた。

参考:Boeing Gives Up On F-15 Indonesia Pursuit
参考:Boeing abandons Indonesia F-15 bid

戦闘機購入に関心を示すことは影響力と友情を買う最も簡単な方法

インドネシアは空軍近代化のため2022年2月にラファール(42機)調達でフランスと合意、2023年6月にミラージュ2000-5(12機)調達でカタールと合意、2023年8月にボーイングとF-15EX(24機)の調達で合意、2025年6月にKAAN(48機)調達でトルコと合意し、ラファール調達は初回の支払いが実行されたため契約が成立してラファール納入が始まっている。

出典:Dinas Penerangan TNI Angkatan Udara

ミラージュ2000-5調達については「資金供給が確保できず調達計画がキャンセルされた(正式契約に至らなかったという意味)」と2024年2月に発表していたが、 Aviation Weekは3日「インドネシアへのF-15EX売却が2年以上も停滞する中、ボーイングは『もうインドネシアへの販売を積極的に行っていない』と明かした」と、Breaking Defenseも3日「インドネシアのF-15EX購入は中止された」と報じた。

2023年8月の合意に立ち会ったプラボウォ国防相(現在のインドネシア大統領)は2022年11月「F-15ID導入に関する交渉は継続中で政府の最終決定を待っているところだ」と述べ、資金を海外の金融機関から調達するのに必要な債務保証の発行がネックになっていると示唆していたため、ボーイングとの合意は資金供給が確保できず契約成立に至らなかったか、制限の多い米国製を嫌い他の選択肢に流れたかのどちらかだろう。

出典:Boeing

インドネシアは韓国と共同開発中(もしくは共同出資中)のKF-21取得を完全には諦めておらず、中国から提案されたJ-10C調達も検討中だと言われているが、この全ては資金供給の確保が出来るかどうかに懸かっており、インドネシアの場合「調達の意向や調達の枠組みに関する合意」から「拘束力のある契約締結」に至らないことが多い。

但し、トルコ国防産業庁は2025年7月の国際防衛産業見本市で「6月に署名した政府間調達協定に基づき、インドネシア国防省とKAAN輸出に関する商業契約に署名した」「今回の署名は単なる輸出契約に留まらず、KAANに関するエンジニアリング、生産、技術共有における新時代の幕開けだ」「インドネシアに設立される現地産業基盤は友好関係に根ざした戦略的深化を反映したものになるだろう」と述べているため、ミラージュ2000-5、F-15EX、KF-21、J-10Cとは完全に別扱いで、インドネシアはKAANのF110搭載型ではなくITAR Free型の完成を待っている。

出典:SSB

Turkish Aerospace Industriesはトルコのディフェンスメディアに対して「KAANのプロトタイプ=P1が6月までに初飛行を行うと自信をもって言える」「P2は今年末までに、P3は2027年初頭までに飛行テストへ加わる」「F110を搭載したKAANの量産機=Block10の納入時期は2028年から2029年に延期されるかもしれない」「KAAN向けの国産エンジン=TF35000はTAIとTRMotorが共同で開発している」「TF35000を2032年までに完成させることが目標だ」「TF35000を搭載したKAANは第6世代機の能力を獲得することが期待されている」と明かし、TF35000の準備が整うまでBlock10を20機~40機製造する計画だ。

インドネシアとの契約についても「この契約の価値は150億ドル相当だ」「インドネシアはITARの縛りがあるF110搭載型ではなく『TF35000を搭載するITAR Free型(国際武器取引規則の影響を受けない機体のこと)』の完成を待つ意向だ」と明かし、ITAR Free型が登場するのは早くて2030年代後半になる可能性が高く、それまでインドネシアの関心が持続するかどうかは誰にも分からない。

出典:Turkish Aerospace Industries

因みに戦闘機購入に関心を示すことは影響力と友情を買う最も簡単な方法で、潜在的な売り手にも「我々には他の選択肢がある」とアピールすることができ「交渉過程の立場強化」に繋がるという側面がある。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Tech Sgt. Jacob Stephens

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コメント

  • コメント (18)

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    • kitty
    • 2026年 2月 04日

    買う気がないのにディーラー行って試乗までするようなものか。
    前に住宅展示場に暇つぶしによったら、その後の営業が大変だったな。

    29
    • 早すぎ
    • 2026年 2月 04日

    もうこのサイトで馬鹿あみたいに保守スレ擁護る意味もなくなって思うけどどうか???
    やっぱりひたすら江戸時代の保守じゃないとポチられないのだろうか????

    1
      • kitty
      • 2026年 2月 04日

      あまりにも記事と関係ない内容なんですが、誤爆ですか?中国大使館をうっかりみたいな。

      59
    • 58式素人
    • 2026年 2月 04日

    疑問なのですが。
    “「インドネシアはITARの縛りがあるF110搭載型ではなく『TF35000を搭載するITAR Free型
    (国際武器取引規則の影響を受けない機体のこと)』の完成を待つ意向だ」”
    F110相当のジェットエンジンがそう簡単にできるのでしょうか?。
    インドではテジャス用のそれに開発遅延が発生しているようだし。
    韓国ではKF-21の足を引っ張っている様に思えるのですが。

    21
      • 白髪鬼
      • 2026年 2月 04日

      全く同感ですね。
      ほんの10数年ほど前まで戦車のパワーパックを量産化できなくて四苦八苦していたレベルなのに、さらに敷居の高い戦闘機用エンジンを量産できるだけの冶金技術や加工技術を、これほど短期間で育成できたのか甚だ疑問ではあります。
      国産と言いつつ、確実にいくつかの主要パーツ(例えばタービン軸受のベアリングとか)は輸入なんでしょう。

      10
        • 他人事では無い
        • 2026年 2月 04日

        ロシアかウクライナから技術提供を受けているのでは?

        5
          • AKI
          • 2026年 2月 04日

          トルコは、ドローンにウクライナ製エンジンも積んでますね。

          1
          • バーナーキング
          • 2026年 2月 04日

          F110並み(KAANのサイズからするとできればそれ以上の)の推力/重量、サイズ、5世代機以上に求められる電力、冷却能力を備えたエンジン開発となると
          ロシアのバリバリ最新技術なら分からんけど、ロシアがトルコに出せるレベルとかウクライナの手持ち技術では難しいんじゃないかなぁ…

          6
      • YF
      • 2026年 2月 04日

      戦闘機の設計は機体と一緒にエンジンを開発するか既存のエンジンに合わせて機体を設計するかなので機体ありきのエンジン開発はKF-21もそうですが難易度高いでしょうね。
      GCAP参加するのに日本もXF9ターボファンエンジン用意しました。
      中国がやったみたいにロシア製を完全コピーするなら問題ないでしょうけどITAR Free型を目指すならF110を完全コピーってわけにはいかないでしょうし。
      ジェットエンジンに関しては欧米で重要なパテントの多くを抑えてるのでその辺も開発難易度が上がる要因になってます。
      トルコは2032年の完成を目指してるようですが、管理人さんが書いてるように大幅に遅れるでしょうね。

      6
        • ネコ歩き
        • 2026年 2月 04日

        TF35000の設計開始は2019年で開発が本格化したのは2021年からのようです。同時進行的にTF6000及びTF10000が試作・試験評価されていますが、2022年に公開されたトルコ初の国産ターボファンエンジンであるTF6000は開発開始から僅か2年で完成の域に達したと主張しています。常識的には技術導入及び指導があったとしか思えません。
        TEIによればTF35000はTF10000のスケールアップ版ではないとのことです。推力約16tのオリジナルターボファンエンジンを十数年の開発史で完成・量産化できたらIHIも白旗かと。

        5
          • バーナーキング
          • 2026年 2月 04日

          トルコは2014年とかからTF-X用のエンジンを調達しようと七転八倒してた訳で、RRやEJ社に蹴られて燻ってた時期も国内でできる研究はしてたんじゃないかなぁ。
          0から研究始めて2年でできたぞビックリ!という見方はトルコの技術者に対してむしろ失礼な気が…

          3
            • ネコ歩き
            • 2026年 2月 04日

            その点は無視してました。おっしゃる通り独自に研究はやってたでしょうね。
            でも開発開始後2年は短過ぎると思うんです。

            6
          • kitty
          • 2026年 2月 05日

          どうでもいいけど、5桁の型番は、なんかイキってる感じがしますね。
          5桁になるほどバリエーションがあるならともかく、せめて4桁でいいじゃんて気がしますが。

          2
      • daishi
      • 2026年 2月 04日

      TF35000は名前の通り35,000lbf(156kN)が目標値ですが、F-22用P&W F119エンジンのアフターバーナー使用時の値と同じです。
      中国、ロシアの最新型エンジンとも同等かやや上のレベルですから、耐久性が西側より劣ったとしてもそう簡単に達成できるものではないと思います。

      ITARフリーのエンジンに価値があるのは事実ですが、完成させるまでの道は険しいですし、アメリカがトルコに対して規制をかけるとトルコ製戦闘機用エンジン開発にも影響が出そうですから時間とも勝負ですね。

      4
      • 匿名希望係
      • 2026年 2月 04日

      ITAR Freeはミサイルどうするんですかねー
      古いAIM-7やAIM-9なら搭載出来るかもですが
      最新のミサイルはさすがに搭載は出来ないでしょうし
      韓国のKF-21みたいなやつにすると今度はミサイルで高くつきそうですしねぇー

      1
      • nachteule
      • 2026年 2月 05日

       簡単に出来ると言うのは流石に言い過ぎでしょう。エンジンに関する歴史を軽くおさらいするとF110は80年代に作られたエンジンでトルコ企業がエンジン関連製造を始めたのも80年代のF-16ライセンス生産に端を発します。少なくともエンジン一筋で30年以上はやってきており、素材の進化や技術と向上心があれば初期型ぐらいのF110は作れないとおかしい気はします。
       少なくとも将来的にはなので中国と同じく段階的に国産エンジンに変えていくなら短くて5年、長くて10年でも期間は延ばせると思いますし、それが致命的になるのかって話ですね。

       韓国だってサムスンテックウィン(現ハンファエアロスペース)はトルコとまったく同じ状態ですので条件は似たような物でしょう。ただしこちらはF110と違い小型高出力のエンジン開発になるのでよりハードルは高いでしょう、将来的なステルス機Block3を目指すならウェポンベイ確保を考えるなら大型エンジンは考えにくい。

       少なくとも日本のF-2開発時みたいにエンジンと言う首根っこ捕まれていると言う事はかなりのリスクであるのは間違いなく多少のリスクは負っても開発はすべきでしょうね。トルコなんかS-400問題でアメリカなんて信頼してないでしょう。

      5
    • YF
    • 2026年 2月 04日

    複数の系統の戦闘機を購入するのは政治的立場を拘束されない、導入交渉への立場強化等メリットがあるんでしょうけど。
    統合運用の難しさ、パイロット訓練の複雑化、兵装、部品、エンジン等の供給、メンテナンスの複雑化を天秤に掛けるとどうにもデメリットの方が多く感じてしまいます。
    もちろん国防思想ってのは国によって違うのでどれが正解ってのはないんでしょうけど。

    12
      • ネコ歩き
      • 2026年 2月 04日

      インドネシアは原則的に非同盟中立の外交政策をとっています。
      運用上のデメリットは多々あるでしょうが、外交上の障害で稼動機が皆無になるような事態を避けることをより重視しているのかと思います。

      1

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