インド太平洋関連

砲兵戦力と無人機を組み合わせた縦深射撃、インド軍も戦術用途の小型UAV導入

多くの国が「高度な防空システムが戦場の航空支援を拒否する環境」に備える中、インド軍も戦術用途に使用する小型UAV導入を決定、砲兵戦力の遠距離攻撃にUAVの前方観測を組み合わせた「効率的で致死性が高い縦深射撃」の実現に動いている。

参考:‘As Deadly As HIMARS’, Indian Army To Acquire ‘RPAS Drones’ To Strike Enemy Positions With Pinpoint Accuracy

伝統的なISR戦力は戦略な情報収集やインテリジェンスに役に立つものの、戦場の前線で使用される戦術用途の小型UAVが収集する情報とは質が異なる

ウクライナでHIMARSが活躍したため「砲兵戦力の火力投射能力」と「無人機がもたらす戦場認識力」の組み合わせに注目が集まっているが、砲兵戦力の遠距離攻撃にUAVの前方観測を組み合わせた「効率的で致死性が高い縦深射撃」は目新しいものではなく、ウクライナ侵攻以前から欧米を中心に研究や導入が進められていた運用方法だ。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

しかし「高度な防空システムが戦場の航空支援拒否」を成立させてしまったため、航空支援の代替手段として砲兵戦力が戦場の勝敗を左右するようになり、敵よりも「効率的で致死性が高い縦深射撃」を実現するため戦術用途のUAV導入が既に各国で始まっている。

フィンランド国防軍は戦場認識力を大幅に改善するため兵士が携行可能なドローンを1,000機~2,000機調達すると発表、ポーランド陸軍は砲兵戦力の戦場認識力を拡張するため専用の「グラディウス・システム」に20億PLNを投資、既に戦術用途のUAV導入が進んでいる英国軍やフランス軍も追加導入に積極的で、迫撃砲や対戦車ミサイルによる視界外攻撃にも小型UAVの活用が始まっているが、この手の動きは「一部の先進的な欧米諸国に限られた動き」という訳でもない。

出典:Ministry of Defence Pinaka rocket

インド軍は既にMALE-UAS(中高度を長時間飛行できる無人航空機)に分類されるHermes900、Heron、Searcher-IIなどを保有しているが、前線部隊が戦術用途の偵察・監視に使用する小型UAV(インド陸軍はRPASと呼称)の調達をまもなく開始する予定で、RPASは中国と対立するラダックの山岳地帯で運用され、搭載されたEO/IRセンサーで障害物に隠れた目標の検出、砲兵戦力(M777、K9、Pinakaなど)の射撃調整、攻撃効果の評価判定に使用すると説明している。

オーストラリア陸軍はRQ-7B、RQ-12A、PD-100、Phantom4といったUAVを400機以上保有していると推測されていたが、豪国防省が2021年10月「陸軍が1,000機以上のUAVを既に運用している」と公式に明かしているので、戦術用途の偵察・監視任務の大部分はUAVに置き換わっている可能性が高く、K9とHIMARSの導入で「砲兵戦力の火力投射能力」と「無人機がもたらす戦場認識力」の組み合わせを実現するはずだ。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Juan Torres

伝統的なISR戦力=偵察衛星や高高度偵察機などは戦略用途な情報収集やインテリジェンスに役に立つものの、前線で使用される戦術用途の小型UAVが収集する情報とは質が異なるので、今後小型UAVの導入と活用が普及すれば地上部隊の直接交戦は「無人機がもたらす戦場認識力」の優劣で決まる可能性が高い。

勿論、航空支援拒否の戦場が成立するかどうかは戦闘機などの航空戦力、高度な防空システム、近接防空システム、カウンタードローンシステムなどの充実具合に左右されるので、どちらか一方の航空支援拒否が成立しなければ地上部隊は空爆で一方的に削られるだけ=従来の戦いに戻ることも十分ありえる。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo by Mr. Luke J. Allen 米陸軍がRQ-7B後継機に選定したJump20

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コメント

    • tsr
    • 2022年 10月 22日

    これほどまで戦場で小型UAVが広まるとなると、カウンタードローン用として自走対空砲の復権は近いかもしれない。

    11
    • 干物
    • 2022年 10月 22日

    FFOSを2000年代前半から配備していた陸自の先見の明が光る
    …そこで長年停滞してしまいましたけど。

    12
      • トーリスガーリン
      • 2022年 10月 22日

      2000年代前半のノリを継続できてればなぁ
      予算削減と弾道弾対処で予算食われて…(´・ω・`)

      21
        • 偵察機の復権
        • 2022年 10月 22日

        航空機で敵の動向を見張ると圧倒的に有利ということが知られて、敵偵察機を排除するために戦闘機が生まれて、偵察のついでに敵を直接叩けると便利と分かって爆撃機が作られて・・・
        いつのまにか偵察機を支援する特殊機たちが軍用機の本流となってしまっていたけど、無人化と大量投入で本来あるべき役目が戻ってきたとも言える。

        8
      • Kenny
      • 2022年 10月 22日

      それを言うとアメリカのハンターも中国のASN-206も90年代だし、砲戦+UAVは歴史が長い。
      結局、通信環境など技術的なバックボーンがイメージに追いついたのが2010年代頃で、その頃無用に大仰なFFOS/FFRSを更新出来なかったのが痛い。

      2
    • ホテルラウンジ
    • 2022年 10月 22日

    今って、機関銃、毒ガス、そして戦車と
    これまでのセオリーが崩れるゲームチェンジャーな兵器が本格的に使われて
    何が正解か分からず大混乱になった第一次世界大戦みたいな感じですよね
    その後、海では決戦兵器を戦艦から空母に変えて空母を集中運用、戦車も同じく歩兵随伴ではなく機械化して集中運用での電撃戦が
    正解の使い方として先に切り込んで第二世界大戦に日独は初戦を制しましたが
    このように戦いのセオリーを崩す新しい兵器が出てきた場合、各々の兵器の正解の使い方を先に編み出した所が総取りになりかねないから緊張します。

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