豪州のアルバニージー首相はトランプ政権が要求してきた国防費増額=GDP比3.5%水準を拒否して「国防投資の額は自分たちで決める」と主張したが、国防総省は「AUKUSの見直しを開始した」と発表し、米英豪では原潜取引の白紙化に対する懸念が浮上している。
参考:Pentagon launches review of Aukus nuclear submarine deal
参考:Pentagon to review AUKUS submarine deal with Australia and Britain
参考:Federal politics live: Richard Marles downplays concern over AUKUS review, says he’s ‘confident’ deal will happen
個人的にAUKUSの見直しは「政権主導によるオーストラリアへの国防支出引き上げ圧力」だと思っている
米英豪が締結したAUKUSは「原潜調達分野における協力=Pillar-I」と「先端技術分野における協力=Pillar-II」に分かれ、前者には豪原潜取得支援や原潜建造・保守に関わるサプライチェーンを米英豪間で構築することが、後者には極超音速ミサイル技術、極超音速ミサイルに対する防衛技術、サイバー技術、AI技術、量子技術の開発が含まれ、Pillar-IとPillar-IIに共通するのは「機密性が高い技術や情報の共有」で、オーストラリアの原潜取得に向けたロードマップは大まかに3つのステップで構成されている。

出典:Photo by Chad McNeeley
2027年頃を目処に米英の原潜が西オーストラリアでローテーション(Submarine Rotational Forces West)を開始、この取り組みを通じて豪州は原潜運用に不可欠な産業基盤や能力を確立、2030年代に米国からバージニア級を3隻購入、2040年代に米戦闘システムを搭載する英国設計のAUKUS級原潜を取得する予定で、AUKUS級原潜の開発・取得に遅延が発生すればバージニア級を追加で2隻取得するオプションが存在し、既にオーストラリアは米造船産業を支援するため30億ドルの投資を行っている。
英国も米国の技術を組み込んだAUKUS級原潜を12隻調達(豪州分を合わせると計20隻)することを決定、これを「18ヶ月毎に1隻」というペースで建造するため「主要生産拠点の基盤強化に80億ドル以上の投資を行う」と決定したばかりだが、Financial Timesは11日「米国の国防総省はAUKUS協定の見直しを開始した」「これを主導しているのAUKUSに懐疑的な発言を繰り返してきたコルビー政策担当国防次官だ」「もしAUKUS協定から米国が撤退すれば3ヶ国による安全保障協力の柱を破壊することになる」「この見直しは英国とオーストラリアで不安を引き起こしている」と報じた。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza
“この見直しはトランプ政権による広範囲な取り組みの一環なのか、コルビー国防次官による単独行動なのは不明だが、関係者の間では後者の可能性疑っている。さらにアルバニージー首相はヘグセス国防長官が要求した国防支出の引き上げ要求(GDP比3.5%水準)を拒否して「国防投資の額は自分たちで決める」と主張、この方針はインド太平洋地域を重視するトランプ政権にとっても容認できないため「オーストラリアが国防支出引き上げを受け入れるためAUKUSの潜水艦協定を凍結もしくは撤回する」という対応に出てきた可能性もある”
Defense Newsも「国防総省は11日の声明で『前政権の取り組みが大統領のAmerica First政策に合致しているか確認する一環としてAUKUSの見直しを行っている』『この取り組みを経ればAmerica First政策に合致していると保証される』と発表した」「国防総省の政策を担当するコルビー国防次官はオーストラリアの国防支出水準に不満で『もっと迅速に3.5%まで引き上げるべきだ』と主張している」と報じ、英豪の政府関係者は「トランプ政権が前政権の取り組みを精査するのは当然だ」「特に心配はしていない」「緊密な協力を楽しみにしている」と述べて不安を打ち消そうとしているが、周囲の懸念は高まるばかりだ。

出典:U.S. Navy photo courtesy of HII by Ashley Cowan
複数の民主党議員らは「トランプ政権にはAUKUSを見直す権利があるものの廃止すれば中国が間違いなく大喜びする」「自由で開かれたインド太平洋を確保する上でAUKUSは極めて重要だ」「本当に中国の脅威に対抗するつもりなら英国とオーストラリアと迅速に協力し、この合意を強化して潜水艦建造基盤をもっと強化するべきだ」「それ以外では中国が有利になるだけだ」と述べ、豪国営放送も「マーレス国防相はAUKUSから米国が離脱するリスクに備えるプランBは必要ないと言う」「彼は計画を忠実に守ることが重要だ」「計画を維持しなければ何も得られないと主張した」「政府はトランプ政権のリスクを軽視している」と批判している。
オーストラリアのターンブル元首相も「議会が目覚める時が来た」「英国の労働党政権もAUKUSの見直しを行ったし、米国防総省もAUKUSの見直しを始めたが、最も大きな影響を受けるオーストラリアでは見直しが行われていない」「我々の議会は本当に関心が薄く情報不足だ」「そろそろ目を覚ます時が来たのではないか?」と言及し、元駐米オーストラリア大使だったホッキー氏も「国防支出に対するアルバニージー首相とヘグセス国防長官の対立がAUKUS見直しを誘発させた」と指摘し、周囲の心配はアルバニージー政権の楽観的な態度とは真逆だ。

出典:Donald J. Trump
国防総省が開始したAUKUS見直しの狙いがどこにあるのか、問題をどこまで深刻化させるのか、米英豪の協力関係がどこに着地するのかは予測不可能だが、個人的にAUKUSの見直しは「コルビー国防次官による単独行動」ではなく「政権主導によるオーストラリアへの国防支出引き上げ圧力」だと思っている。
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※アイキャッチ画像の出典:BAE Systems
ウルトラCとしてオーストラリアは中国から原潜を購入する事を目指すと発表したら良いんじゃない
そしたらアメリカもイギリスも慌ててオーストラリアにラブコールを送るのでは?
まあ絶対に有り得ない事ですけど。
無理難題積み上げてないで、現実的な判断をすべき。
潜水艦は日本の中古を貰っておく。
次期フリゲートは、もがみ型改にしておく。
戦力投射は、キャンベラ級にF-35Bを積んで対応する。
私も日本の通常動力の中古潜水艦を順次貰いつつ乗組員の訓練をやって、無人潜水艇で補強が無難だと思います。
どこも余裕がない中、あれもこれもは、無理でしょう
もしくはフランスに頭下げるか…。
すんごい足元見られそう
いや普通に売れよ馬鹿なのか
馬鹿だったわ
経済面でのディールは日米貿易摩擦の頃からある事なんである程度しょうがないにしろ
安全保障をディールの対象にするのは本当にやめて欲しいですね。
アメリカの信頼が揺らいで世界が不安定になれば、結局一番出費を強いられるのはアメリカでしょうに。
まあ、当の米国は何が起きても責任取る気はないんですけどね
今更「世界の警察」になる気なんて更々ないから出費もヘッタクレもない😤
であれば、今後は地域大国として引っ込む&基軸通貨の地位を失う、と言う覚悟をすべきなのですが
そんな覚悟もないのが今のアメリカ
オージーがあくまで国内建造に拘るならコリンズ改しかないだろ
性能の不足はUUVで補え
オーストラリアはコリンズですね。
わかります。
山田君座布団取って!!!
そもそも、どれもこれも計画通りに建造・製造できるのか、懐疑的に見えてしまいます。
オーストラリアさん、ということで、日本製を買いませんか?もがみ型改とセットなら、お安くなると思いますよ。
>…これを「18ヶ月毎に1隻」というペースで建造するため
日本のも海自向けVLS搭載艦の開発で余裕無いんじゃないかな
てか日本が自前の原潜造れるようになるのが一番なんだけどなぁ
昭和末期くらいから、米軍に余裕があり、中国海軍が興隆していく前くらいから取り組めていればなあと思いますね。
第一列島線を越えて空母発着艦訓練(山東)・日本の哨戒機が艦載機に異常接近されたり、遼寧が第二列島戦を越える活動も報告されていまして。
潜水艦戦力に穴が空く、10年くらい原潜たのめに時間かけるようなことになるのであれば、非常に悩ましいところだなと感じてしまいます。
(2025年6月8日 中国空母「遼寧」南鳥島周辺で活動 防衛省、第2列島線越えを初公表 日経)
(2025年6月12日 中国軍機が異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視中 日経)
オーストラリアより断然鉄板だったカナダの誘いすら蹴ってる時点でリソース不足が明白。
少子化の上に3K嫌う現代っ子ばかりの現状では、製造設備があったとしても職人の増勢が容易じゃない。
職人さんの技は、訳分からない早さで、仕上がりも綺麗だなと。
一朝一夕に、育成は難しいのは間違いないですね。
本邦のBIG-gayがXLUUVや戦闘支援型多目的USVの群体をパッケージにして売り込めたら良かったんだが
未だ単体ではちょっと火力が足りんのよね
中華さん相手には質と機動力が要るし対アジアンなら安くいきたいし自国で賄いたいしで豪さんも悩ましいね
ここでイギリスもオーストラリアの原潜製造にいっちょかみしとかないと、原潜の製造基盤失われるんちゃう?
AUKUS原潜は英国の次期攻撃原潜にもなる計画で、英米の技術で設計されるので豪州が抜けても開発資金分担の面以外は問題無いでしょう。
計画枠組みの名称はUKUSになるかもですが。
トランプ政権になったらAUKUS見直すと思ってました。だって、今の米海軍に余所にあげるバージニア級なんて余裕無いですもの。
生産に余裕が無いからこそ生産力増強に向けて投資出来る点はある
実際に投資するかは置いといて()
経営陣「株主に還元しなきゃ(使命感)
まずは18ヶ月でAUKUS級原潜を屏風から出すところからですよね・・・・・・・
どうなのでしょう。軽〜く考えた場合。
例えば、ハワイの真珠湾に建造予定と聞く、原潜修理用ドック
の建造費用を一部負担してみては?、などと勝手を言います。
そこで、自国の職工の訓練もできるだろうし、自国のドックに問題が
発生した場合予備と考えることもできるのでは?。
カナダも引っ張り込めれば(笑)さらに良いと思ったり(笑)。
いまから計画練り直しだととりあえずすぐ用意できそうな日韓のを無条件で我慢して使う(日韓製のシステムや兵器が要求に合わないとか、国内生産の問題とかも含めて)
しか現実的な選択肢が無いような気がするんだが…