Economistは20日「国内外の需要が成長を後押し、東アジアの防衛産業企業が台頭している」「日本と韓国の防衛産業企業が海外市場で熱心な買い手を見つけている」と報じ、取材に応じた川崎重工業は「オーストラリアや中東からの関心が高まっている」と明かした。
参考:Hanwha secures 19.8% stake in Austal, eyes bigger role in global defense market
参考:East Asia’s armsmakers are on the rise
中東からの関心が何なのかは明かされていないため「そうりゅう型潜水艦のエジプト輸出」と結びつけるのは早計だが、非常に興味深い言及だ
海外の防衛産業企業が「7,000億ドル以上」とも言われる米国市場に参入するには「現地化」が必須で、欧州企業だけでなくアジア・オセアニア企業も「現地企業の買収」もしくは「合弁企業の設立」で米国進出を図っており、オーストラリアのAustalも「Austal UAS」を設立してインディペンデンス級沿海域戦闘艦やスピアヘッド級遠征高速輸送艦の建造、バージニア級原潜のコンポーネント製造を受注、2021年に米国進出を果たしたシンガポールのSTエンジニアリングも民間機や軍用機の航空機整備拠点の運営、沿岸警備隊向けの艦艇建造、米海軍の艦艇補修事業などを受注して20億ドル以上の売上を上げている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class William Spears フィリー造船所を視察するフランケッティ海軍作戦部長
Hanwha Oceanは国際的な海軍艦艇向けMRO事業の需要が高まると予想して「米造船企業の買収を進めている」と明かし、米Maritime Executiveも「Hanwha Oceanがフィリー造船所の買収に動いている」と報じていたが、実際にフィリー造船所を買収したのはHanwhaではなく現代重工業で、Naval Newsは2024年4月「現代重工業とフィリー造船所は米海軍や沿岸警備隊向けのMRO事業に関する協定を締結した」「現代重工業は米国市場参入に向けて前進した」と報じた。
Hanwhaはフィリー造船所ではなく豪Austal買収で米国進出を狙っており、Austalは2024年6月「韓国のHanwhaから買収の提案(6億6,200万ドル)を受けた」「豪海軍や米海軍の元請け企業としての立場、防衛契約に関する所有権事項を考慮するとHanwhaの買収案は豪米当局から承認される可能性が低い」と指摘、Reutersは「規制当局の承認を理由にAustalはHanwhaの買収案を拒否した」と報じたものの、Breaking Defenseは「Austalの声明はHanwhaに新しいオファーを出すよう示唆している」と報じていたが、HanwhaはAustalから直接株式を購入して筆頭株主(19.8%)の立場を手に入れた。

出典:Commander, U.S. Naval Forces Europe-Africa/U.S. 6th Fleet
Austalの子会社=Austal USAは米海軍に艦艇を供給する主要企業の一角を占めており、現代重工業とHanwhaは共に「米艦艇市場に進出するための拠点」を確保した格好だが、Economistも20日「国内外の需要が成長を後押し、東アジアの防衛産業企業が台頭している」と報じ、日本と韓国の防衛産業企業が海外市場で「熱心な買い手」を見つけていると言う。
“韓国の政府関係者と防衛産業企業の幹部がカナダを訪問し、彼らはカナダ軍向けに自走砲、多連装ロケットシステム、潜水艦を売り込んだが、世界的な再軍備ラッシュに乗じているのは東アジアの韓国だけではない。日本企業も熱心な買い手を見つけている。日本企業と韓国企業は世界で最も急成長している防衛産業企業の1つだ。両国の防衛産業に関連した企業の年間売上を合わせると630億ドル(2022年以降25%増)になり、これは再建された欧防衛産業企業の合計を上回っている。総売上が2,000億ドルを超える米防衛産業企業の優位性は揺るがないものの、2022年以降の成長率は15%と控えめだ”

出典:海上自衛隊
“日韓の防衛産業企業が好調な理由の1つは自国を守るのに米国製システムではなく、もっと多くの自国製システムを欲しがっているためだ。日本市場のシェアで第2位の立場を占める川崎重工業も「自国製システムの回帰が転換点だった」と述べ、国内の防衛産業企業は2023年に受注額を2倍~4倍に伸ばし、現在も新たな受注が絶え間なく舞い込んでいる。韓国でも防衛産業の成長に合わせて海外製システムの輸入量が急激に低下し、2015年からの5年間と2020年からの5年を比べる輸入量は1/4まで減少した。両国の強みはシステムの構成部品の大半を国内調達しているためサプライチェーンの管理が容易で、迅速に規模を拡大出来る点だ”
“米国は長距離攻撃兵器といった高価なシステム(射程250kmを超える輸出向け対地ミサイルの45%を供給)の主要輸出国の立場を守っているが、韓国企業はヘリコプター、大砲、精密誘導兵器といった国際的ニーズに応え、インドネシア、ニュージランド、フィリピン、タイといった国への輸出国となった。韓国最大の防衛産業企業=Hanwhaの収益はポーランド向けのChunmooとK9の納入によって押し上げられ、2024年第4四半期に60%も増加しており、昨年12月には韓国航空宇宙産業がイラクとスリオン売却に関する契約を締結した”

出典:Hanwha Aerospace
“日本は平和憲法によって紛争状態の国に武器を売ることが出来ない。それでも自国向けのニーズに販路が限られていた日本企業は武器輸出の制限緩和によってチャンスを拡大させている。川崎重工業は「オーストラリアや中東からの関心が高まっている」と指摘し、日本政府も昨年9月にノルウェーと防衛装備品に関する協力協定を締結している。トランプ大統領がホワイトハウスに復帰したことで米国の同盟国は安全保障の自助努力を迫られており、日本製や韓国製の武器に対する需要は今後も高まり続けるだろう”
Economistの記事で個人的に興味深いは「川崎重工業が中東からの関心が高まっている」と言及している点で、防衛市場の動向を伝えるTactical Reportが「エジプトのアレクサンドリア造船所は川崎重工業とそうりゅう型潜水艦の輸出、現地生産に関する技術移転、ライセンス契約について協議を進めている」「この1年間でそうりゅう型潜水艦に関するエジプトと日本の交渉は順調に進展し、幾つかのマイルストーンを無事クリアした。さらに議論が必要な争点は残り僅かだ」と報じたことを思い出させる。

出典:海上自衛隊 潜水艦艦隊
中東からの関心が何なのかは明かされていないため「そうりゅう型潜水艦のエジプト輸出」と結びつけるのは早計だが、それでも非常に興味深い言及だ。
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※アイキャッチ画像の出典:海上自衛隊 潜水艦艦隊
欧州もそうですが、日本も防衛関連企業の株価はかなり上がってますね。防衛増税のおかげです。これから生まれてくる日本人は本当に可哀想です。私は平和な時代を生きられて本当によかった。
>日本企業と韓国企業は世界で最も急成長している防衛産業企業の1つだ。両国の防衛産業に関連した企業の年間売上を合わせると630億ドル(2022年以降25%増)になり、これは再建された欧防衛産業企業の合計を上回っている。
なそ
にん
ていうか欧州の巨大防衛産業が意外と巨大じゃない?
BAEとかレオナルドとかすごい巨人企業ってイメージだったけど
売れるといいですね
契約まで行かなかったとしても
本気で交渉すればノウハウを後に活かせそうですし
ノウハウを後に生かすのは、将来の結果を得るためです。近い将来に結果が出なければ、民間企業としてノウハウの蓄積は意味がない。
このサイトの投稿でも “ノウハウを得られれば良い” という投稿をよく見るけれど、いったい、いつまでノウハウを得続ければ結果が出るんですかね?
絶対に成功する雨乞いと同じ理屈でしょ。雨が降るまでおどりつづける
企業だって新規市場開拓も研究開発も、10年以上かけて手掛けるのは珍しくないです。
短期間で簡単に成果が出るビジネスなんて無いですよ。
日韓の防衛産業の合計が欧州の合計上回ってるって本当かぁ?
三菱川崎IHI現代韓火あたりの日韓の重工トップで防衛部門の売上高が何百億ドルあるような企業1個もないけど
恐らく三菱や川崎などの(防衛部門を含む)総売上で計算してるのでは?
そうしないと計算合いませんよねやっぱり
MHIの売上が約5兆円(>300億ドル)なのでそっちの方が計算が合わなさそうですが。
「重工3社の防衛関連売上だけで1兆5千億円」とのことなのでその他重工や航空系、電機系、素材系にサプライチェーンやら合わせて日韓で650億ドルなら全然違和感はない様な。
※ただし防衛「宇宙」まで含めてる可能性はありそう?
まあ日本の防衛産業がこの先生き残るためには、海外進出は不可避ですが、防機の壁をどうやってクリヤするかですね。
トランプは、外国に売る戦闘機は性能落としたものを売る言いましたな
なぜなら同盟国ではなくなるかもしれないからだそうで
正気を疑う発言ではあるが、他国にとってはセールスチャンスでありますね
最近話題に上がりませんが。
台湾の潜水艦新造計画は順調に行っているのでしょうか?。
あと、著その記事では、200〜300t程度の小型潜も開発しているようですが、
そちらの進捗はどうなっているのでしょうか?。
ひょっとして、台湾も”東アジアの防衛産業企業”に数えられるようになるのかな?。
日本の場合は、「防衛装備品・技術移転協定」を結ばないといけないだろうから、
売れるにしても、行き先は限られるのでしょう。
台湾関連の兵器ビジネスは、中国から妨害されます。
できるだけ目立たないようにしてるのでは?
関係する個人も特定されたら、命を狙われかねない。
買う側から見れば、3,000tの潜水艦や、
経国戦闘機は魅力があるのでは、と思います。
以下は想像ですが、米国経由輸出?になったりして。
その時期の米台関係にもよりますが。
経国に関しては、米国の血が入っているから許可がいるんで正直直接F-16買うですむと思う。
AAMとかもね。
日本も、武器輸出・技術協力、上手にやっていけばいいと思います。
中東の『豊かな強国』、産油国・産ガス国と関係を深めるのは、貧乏な貿易関係のない国に金を配るよりもwin=winだと感じます。
ドイツが、中国に潜水艦用ディーゼルエンジンを売ったりしてましたからね。
安倍首相が、メルケル首相に指摘したら、知らんぷりをされたと安倍晋三回顧録に書かれています。
日本も、美味しい所をとっていきましょう。
(2023.8.14 ドイツ制裁の結果:中国は潜水艦用の独自エンジンの開発を完了 TOP WAR)
日本の防衛産業についに陽の光が差しこむように!!
あとは、最大のハードルであるFAX受発注に諸外国が対応出来るかどうかですね。
なんでおぢさんて無駄に句読点使いたがるの?
豪州が川崎に問い合わせるってやっぱり潜水艦なんですかね。
豪州向け一番艦の納品が早くとも2040年以降になるだろうと言われているAUKUSプログラムにおいて、40年時点で艦齢44年に達するコリンズ級との間を埋める機種が必要ないとされているのは米海軍の原潜部隊が豪州方面に展開して穴埋めをするためで、言い換えれば米国の軍事協力が必須条件なんですよね。今のところ豪州はMAGAからは優等生同盟国と見なされているみたいですが、いつ手のひらが覆るかは神のみぞ知ることしょうし、展開次第では中継ぎの需要が復活することもある……?
KHIが関与する防衛装備品で潜水艦以外に海外の強い興味を引きそうなのは「島嶼防衛用新対艦誘導弾(新SSM)」ですかねえ。
同社は「2024国際航空宇宙展」に新SSMの模型と英文の説明パネルを展示したんですが、
「KHIオリジナルコンセプトモデルで、KJ300(ターボファンエンジン)を搭載する巡航ミサイル」と紹介し、「長射程、低RCS、高機動、高生残性」と謳い、「研究開発中」「車両・艦艇・航空機の多様なプラットフォームに搭載可能」「その他の性能は顧客の要件による」と説明していました。
長距離巡航ミサイルの導入を検討していたら詳細を問い合わせしたくなるかも。
川崎重工業で他に売れそうなものといえばH145Mもあると思うんですよね。ユーロコプターとの共同開発ではありますが。
米軍がFARA計画を停止したのでA/MH−6の後継機が必要になりました。軽強襲、攻撃ヘリの代替案としてはH145系統以外に案がないのでアメリカ特殊作戦コマンドに売れるかもしれません。
これまで最大手だった米製兵器の信頼性が落ちている状況なので
日本の防衛産業にとっては千載一遇のチャンスな一方、
米製兵器のシェアを奪うとアメリカに目を付けられそうなところもあるので、
被らないところから上手い事手を付けていけるといいですね。
通常型潜水艦はアメリカが売ってないですし単価も高めで良い狙いどころだと思います。
今回話題に上がったエジプトの他だとカナダからも引き合いがあると話が出てましたね。
豪州もトランプ政権と関係悪化してるので、豪次期フリゲートに新型FFMが採用されたら
たいげい型に回帰してくるのではと思ってます。
川重でも中東に潜水艦なんて輸出できるんか?
潜水艦なんて売った後のメンテを他国に絶対に頼めないモノを中東に出すって勇気ありすぎだろ。
それなら普通に米国で防衛産業に進出するほうが無難。
今更エジプトに全てではないにしろ技術移転して現地生産するならオーストラリアの現地生産案に抵抗してたのは何だったんだ
巨大な案件だったのにもったいない
たいげい型が就役済みの現在とおうりゅう/とうりゅうの建造すら始まってない10年前とでは「そうりゅう型の技術移転」の重みも法的な縛りも全然違うのでは…
準同盟に近いオーストラリアに十年前に技術供与するのと特に安全保障上の関係が深いわけでもないエジプトに今技術供与するのとにそんなに差があるとは思えないな
相手が民主国家なら分かるけどエジプトは事実上の軍事独裁政権だし
単に「10年」と「たいげい型の就役を挟む10年」では全く重みが違いますね。
だったとしてオーストラリアに出し惜しむほど違うかね
そもそもイギリスやオーストラリアを準同盟扱いしてるのは日本政府自身でしょ
同盟国あるいは準同盟国とそうじゃない国の扱いはおのずと変わってくるはずだしあれほどの巨額の案件を逃してもいいと思うほどの巨大な差があるとは僕は思わないな
まずもって本邦の現行制度上、エジプト政府との間に所要の移転協定が締結されなければ同国への防衛装備品・技術移転は有り得ません。その後も日・エジプト政府間で移転協定締結に向けた協議が行われている様子は無いので、先の報道は眉に唾で受け取っておいたほうが良いのかと。
当時MHIが公表した豪新潜水艦応募案イラストは十字舵の「おやしお型」にスターリングエンジンシステムを搭載したものでした。あの時点でも就役時期を見込んだ上で防秘に対する配慮はあって最新技術の全てを移転する気は無かった証左かと。受注に失敗したのは経緯的に当時の豪新政権による政治的意向が優先された結果だと思っています。
仮に諸条件をクリヤしエジプトに潜水艦の技術移転が可となったとしても、同様に最新艦への新規適用技術は移転不可ですし、現役艦の防秘に当たる諸性能を推し量れる技術も不可でしょうね。結果的に当時豪政府に提案した内容と大差ないものになると推測されます。
それでエジプト側が了承できないならば移転案件は成立しません。
信用度がエジプト>>オーストラリアなのかな?
エジプトへの潜水艦輸出の件ですが、正式発表されたものではないので話半分で考えた方が良いと思いますよ。
可能性として、エジプト側が現地でのライセンス生産を希望したのは有りうると思いますけど、そもそも潜水艦に使われるような特殊鋼は溶接に特殊なテクニックが必要だそうで、簡単には供与できるものではないと思います。
できる