インド太平洋関連

再掲載|韓国が日本のグローバルホーク導入に期待している効果とは?

在韓米軍の駐留費用大幅アップを要求する米国と小幅アップに留めたい韓国との交渉が決裂し暗礁に乗り上げている中、米国が米国製兵器の保守費用大幅値上げを要求してきたと韓国メディアが伝えている。

※本記事は4月23日に公開した記事の再掲載です。

参考:Defense Club]미, 이번엔 무기 관리비도 인상 요구

高騰するグローバルホークの運用維持費に頭を悩ませる韓国

韓国空軍は導入した無人偵察機「RQ-4 グローバルホーク」の保守支援をノースロップ・グラマンから受けるための契約(期間1年)を591億ウォン(約52億円)で結んでいる。この契約が今年11月で終了するため韓国は期間を2年に変更した新しい契約を結ぼうとしたのだが、ノースロップ・グラマンが韓国側に提示した額は3,898億ウォン(1年あたり1,949億ウォン)で腰を抜かしたという話しだ。

ここに収集した情報の処理装置サポート費用や訓練のための模擬飛行運用維持費用を加えるとグローバルホークの2年間に掛かる維持費用はトータルで4,430億ウォン(約390億円)となり、現在結んでいる契約の約4倍に達すると言う。

韓国メディアは在韓米軍の駐留費用交渉が決裂したため米国側が米国製兵器の保守費用値上げで圧力を掛けているのではないのかと疑っているが、韓国軍はグローバルホークには最先端の技術が多数用いられていることや同機は米国を含むNATOと韓国しか採用していないため、運用台数が約50機程度と極端に少ないため保守部品等の製造単価が非常に高価である点を挙げ今回の値上げは仕方ないと説明している。

但し、グローバルホークの維持費削減ため軍の整備能力を早期に獲得してノースロップ・グラマンから派遣された技術者の数を減らしていくと軍関係者は話しているが、保守部品等の製造単価に関しては運用台数が増えない限り価格値下げは見込めないため、日本など新しい国がグローバルホークを導入することに期待するしかないと述べた。

日本など新しい国がグローバルホークを導入すれば運用維持費は下がるのか?

ここからは韓国メディアや韓国軍が見落としている要素の補足であり推察部分だ。

あくまで今回の維持関連費用の値上げが在韓米軍の駐留費用交渉と無関係で韓国軍の説明が正しく、日本など新しい国がグローバルホークを導入することで同機の保守部品等の製造単価値下げを期待しているのなら恐らく期待はずれに終わる可能性が高い。

まずRQ-4グローバルホークは使用されている技術の関係上輸出できる国が限られているのと、1機2億ドル(約210億円)ともいわれる調達コストを負担できる国は多くないためグローバルホークが今後新しい顧客を獲得するのは難しく、逆に最大の運用国である米国(米空軍)は運用コストの負担が大きいRQ-4グローバルホークの早期退役を計画しており、議会が許可すれば2021年から最新のBlock40のみを残してBlock20やBlock30といった旧型24機と無人戦域通信中継機EQ-4を全機(3機)を退役させるつもりだ。

関連記事:米空軍、正式に「B-1Bランサー」や「A-10サンダーボルトII」など7機種の退役計画を発表

これが実行されればグローバルホークの運用規模は現在の半分程度まで小さくなり、同機の保守部品は値下げどころか値上げされる可能性の方が高いと言える。

出典:public domain MQ-4Cトライトン

ただグローバルホークをベースに開発された海軍向けのMQ-4Cトライトン調達が本格的に始まるため、これがグローバルホークの運用維持費にどのような影響を与えるのかが判断の分かれるところだ。同機は米国とオーストラリアが合わせて約70機、さらにP-8ポセイドンを導入したインドが12機の調達を予定しているため、米空軍が旧型のグローバルホークを退役させても共通したプラットフォームをもつトライトンを加えればRQ-4の運用規模は今よりも大きくなるだろう。

しかしグローバルホークとトライトンでは搭載する偵察機器は全く異なるため、両機の共通性はプラットフォーム及び機体の遠隔制御や通信といった部分に限定されグローバルホークの維持コスト削減に大きく貢献しないかもしれない。仮にトライトンの調達が進んでグローバルホークの維持コストが大きく削減されるなら、米空軍が運用コストを理由にグローバルホークを早期退役させるのは辻褄が合わない。

今後、グローバルホークの運用維持費は下がるのではなく上がる可能性の方が高い

さらにもう一歩踏み込んで考えてみると、米軍は専用開発された無人機があまりに高コストなため商用機向けに開発された無人機を利用して低コストの無人機を調達できないか検討中で、この取り組みが本気であることを示すため米空軍はMQ-9リーパーの調達計画を2021会計年度で打ち切ることと保有している同機の削減を明らかにしている。

出典:public domain MQ-9リーパー

米空軍はMQ-9リーパーの後継機を開発しておらず、恐らく同機は商用機を改造した低コストの無人機で置き換えていくつもりなのだろう。

関連記事:米空軍、高価な無人機「MQ-9リーパー」調達を中止し商用無人機を採用か?

このような流れは運用コストが問題視されているRQ-4グローバルホークでも他人事ではない。米軍事アナリストの間ではいい加減、高コストで消耗や喪失することを前提にしていない装備体系に頼るのをやめろと指摘されており、このままでは何時まで経っても「戦争の準備は整わない」と特に問題視されている。

そのため米空軍は近いうちにグローバルホークを手放すかもしれないし、米海軍も1機1.8億ドル(約195億円)といわれるトライトンの調達を見直すかもしれない。因みに米海軍が64機もトライトンを調達すれば115億2000万ドル(約1兆2,400億円)も予算が必要になり、これは高価過ぎると批判されているジェラルド・R・フォード級空母の建造費とほぼ同額だ。

以上のことから、韓国が期待しているRQ-4 グローバルホークの運用維持費値下げは難しいのではないかと思われる。

これは韓国と同じRQ-4 グローバルホーク Block30の導入を予定している日本にも言える話だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Juan Torres

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    グローバルホークの引き渡しのセレモニーやろうよとアメリカ側は韓国に言ってたけど
    韓国は北朝鮮を刺激しないように引き渡しをこっそりやりたいので反対してた
    でもハリス大使が画像付きでツイッターでバラしたものだから激おこぷんぷん丸

      • 匿名
      • 2020年 8月 08日

      そんな事みんな知ってるよ。

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    1年200億円の維持費は1機あたりの値段なのか4機まとめての値段なのかが良く分からない。4機まとめての値段ならば1機当たり50億円となる。3機購入予定の日本は年間150億円となり酷く高価とも思えない。一方、1機年間200億円なら3機で年間600億円と非常に高額な維持費となるので日本は購入の是非や台数の削減を真剣に考えたほうが良いと思う。幸か不幸かコロナの蔓延で購入中止の口実は十分にある。

      • 匿名
      • 2020年 8月 08日

      十分高いと思うのだが。F-35買った方が良くないか

    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    いつもの韓国で、保守部品を全く買ってないってことだけでは?
    E737でもニュースになってたな

    1
      • 匿名
      • 2020年 4月 23日

      もうちょっと記事をしっかり読んだ方がよろしいかと…

        •  
        • 2020年 4月 23日

        まあそうなんだけど、韓国は4機12億ドル、日本は3機12億ドルの売却契約と言われているので、
        上の人が言ってる要素もあるとは思われる

    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    これから永久に必要になる装備なのだから自前で揃える方向でお願い

    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    しかしMQ-4Cトライトンって何をしたいのだろうかね?
    ジェラルド・R・フォード級空母の建造費とほぼ同額ということは、逆を言えば空母に載せる航空団(60~70機程度)の飛行機の金額と変わらないわけで、それだけの能力が有るという話。

      • 匿名
      • 2020年 4月 23日

      MQ-4Cトライトンは、確か潜水艦警戒任務運用じゃなかったけ?
      潜水艦の動力軸と軸受けの摩擦熱を利用して潜水艦を探知できる機器を搭載しているというのを
      過去に何かの雑誌で見たような

      それにしても最近の米軍は何でもかんでも開発費も製造費も運営費も馬鹿みたいに高くなっているが
      あの国らの工作かと疑ってしまうレベル、もうアホかと

        • 匿名
        • 2020年 4月 24日

        それだけ他に売るものがなくなっているんじゃないかな。
        (民生品も含めて)

      • 匿名
      • 2020年 7月 08日

      ポセイドンの一番の売りが、トライトンとの連携なのでトライトンを導入しないと何のためにポセイドンを導入したのかわからなくなる。

    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    グローバルホーク他、無人機の運用には通信衛星が必須なので、自力衛星打ち上げ能力の貧弱な韓国の現状では厳しいかと
    逆に、失敗を重ねながらも自力での打ち上げ能力を確保し、自分で設計製造した衛星を運用出来る本邦は、急速に宇宙の軍事利用を進めていると

      • 匿名
      • 2020年 7月 08日

      グローバルホークは、アメリカの通信衛星→アメリカの地上通信基地を経由して韓国に情報が行くので、韓国自身が衛星を持つ必要はない。

      しかし、アメリカに情報が筒抜けになるということで、日本がグローバルホークを持っても同じことになる。

      すなわち、アメリカは、機体と維持費を他国に負担させて情報をタダで貰うことになるわけで、二度おいしい。

    • 匿名
    • 2020年 8月 08日

    儲けてる商売人ほど儲かってないと言い張る
    トランプだよ

    • 匿名
    • 2020年 8月 08日

    今考えるとアメリカが引き渡しを再三伸ばした理由が
    3周遅れぐらいして導入した韓国から絞る取る為だったのかも知れないね。
    ぶっちゃけ既に大型無人機の時代は過ぎ去ってしまった韓国の明日はどっちだ。

    • 匿名
    • 2020年 8月 08日

    グローバルホークって本当に必要かね?
    航空自衛隊はそこの所どう思ってるんだろう

      • 匿名
      • 2020年 8月 08日

      RF-4の代わり。
      RF-4の代わりは、F-35Aにして欲しかった。

      • 匿名
      • 2020年 8月 08日

      必要じゃないの 情報収集衛星だけじゃどうにもならないし 自衛反撃能力とか言い出すとなおさらで 

    • 匿名
    • 2020年 8月 08日

    圧力で値上げしてる可能性もあるんだろうけど、それ除いても本体も保守費用も高いと思う。
    多少効率下がってもいいから他の機種で代用したほうがよくないか?

      • 匿名
      • 2020年 8月 08日

      自前で機体と大容量通信可能な衛星を開発して維持することを考えたら高いけどそんなものでは P-1の開発費は3000億円でグローバルホーク取得費込みLCCも3000億円

        • 匿名
        • 2020年 8月 10日

        それが事実なら尚更自国開発が宜しいってなると思うのだが
        問題は維持費用の高騰なわけで、一時金の取得費が問題になるケースでは無いだろうし、
        国産の利点は大きい。維持費高騰も防げる、米への無条件情報流出防げる、良いこと尽くめ。

        ただ話をひっくり返して申し訳ないが、、、そもそも導入自体なくし、他の方もおっしゃる通り、他の情報収集手段を独自開発費に回したほうが・・・というのは素人考えでしょうかね。基本、何のこっちゃ解って降りません。

    • 匿名
    • 2020年 8月 25日

    NGがK国にRQ-4 Block30を4機も売却できたのは、すでに全翼型ステルスUAVのRQ-180が、
    実用テスト段階に入ったからという話がチラホラ出ている。
    米空軍では、RQ-4はもう”お古”という話か。MQ-4Cは昨年イランに撃墜されて、信頼度ガタ落ちか。

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