フィラデルフィア海軍造船所の敷地内にドックを構えるフィリー造船所は20日「Hanwha Oceanがフィリー造船所を買収することで合意した」と発表、米造船業界への投資を熱心に訴えていたデル・トロ海軍長官も「Hanwhaの米国進出を歓迎する」と述べた。
参考:Hanwha to Acquire Philly Shipyard
参考:South Korean giant Hanwha agrees to acquire Philly Shipyard for $100M
Hanwhaによるフィリー造船所は米国の新しい海洋国家戦略において画期的な出来事
海外の防衛産業企業が「7,000億ドル以上」とも言われる米国市場に参入するには「現地化」が必須で、欧州企業だけでなくアジア・オセアニア企業も「現地企業の買収」もしくは「合弁企業の設立」で米国進出を図っており、オーストラリアのAustalも「Austal UAS」を設立してインディペンデンス級沿海域戦闘艦やスピアヘッド級遠征高速輸送艦の建造、バージニア級原潜のコンポーネント製造を受注、2021年に米国進出を果たしたシンガポールのSTエンジニアリングも民間機や軍用機の航空機整備拠点の運営、沿岸警備隊向けの艦艇建造、米海軍の艦艇補修事業などを受注して20億ドル以上の売上を上げている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Sean Lynch/Released
Hanwha Oceanは国際的な海軍艦艇向けMRO事業の需要が高まると予想して「米造船企業の買収を進めている」と明かし、米Maritime Executiveも「Hanwha Oceanがフィリー造船所の買収に動いている」と報じていたが、Naval Newsは4月「現代重工業とフィリー造船所は米海軍や沿岸警備隊向けのMRO事業に関する協定を締結した」「現代重工業は米国市場参入に向けて前進した」と報じた。
現代重工業はプレスリリースの中で「2005年から商用船の設計及び資材の提供でフィリー造船所と協力関係を続けてきたが、今回の協定によって協力関係を米海軍、沿岸警備隊、連邦海事局の艦艇や官公船まで拡大させる。現代重工業は事業拡大を推進しているフィリー造船所に艦艇·官公船設計及び資材パッケージ提供などの支援を行う」「今回の協定によって世界最大の米防衛市場攻略に拍車がかかる」と言及。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class William Spears フィリー造船所を視察するフランケッティ海軍作戦部長
同社の特殊船事業部を率いるチュ・ウォンホ代表も「米企業との艦艇·官公船建造及びMRO事業を通じてクローバル市場における当社の影響力を高めていく」と、フィリー造船所側も「両社は積み上げてきた相互信頼を土台に政府プログラムでも協力を模索する」と述べていたが、フィリー造船所は20日「Hanwha OceanがAker Solutionsからフィリー造船所を買収(1億ドル)することで合意した」と発表。
Breaking Defenseも「この買収は対米外国投資委員会を含む規制当局の承認を待って実行される」「米造船業界への投資を熱心に訴えていた海軍長官も今回の合意を歓迎した」と報じ、デル・トロ海軍長官は「Hanwhaによるフィリー造船所は我々の新しい海洋国家戦略において画期的な出来事だ。この買収は250年間に渡って海軍と関係を築いてきたフィラデルフィアに高賃金の雇用をもたらすだろう。米造船業界に進出する最初の韓国企業としてHanwhaを迎えられることに、これ以上の喜びはない」と述べた。

出典:Photo courtesy of US Navy
因みにデル・トロ海軍長官が提案する「海外造船所の活用」は国内の雇用問題と密接な関係があるため、米造船業協会のマシュー・パクストン会長はBreaking Defenseに寄稿した中で「国内産業界にはニーズを満たすだけの能力があるにも関わらず、海軍は戦闘艦艇や支援艦艇の建造に加えて艦艇の整備能力まで海外に目を向け始めている。こうした海軍首脳の取り組みは維持したいという国内労働力そのものを解雇に追いやっている。この様な短絡的な取り組みは市場の不確実性と不安定性を生み出し、産業基盤への追加投資を難しくさせ、我々が行った多額の設備投資を台無しにするだけだ」と述べたことがある。
この問題を迂回できるのが「海外企業による米造船業界への投資」で、デル・トロ海軍長官がHanwha Oceanによるフィリー造船所の買収を手放しで喜ぶのはそのためだ。
関連記事:米海軍長官は艦艇建造に海外の造船所活用を希望、米造船業界は反対
関連記事:現代重工業が米造船所と提携、米海軍・沿岸警備隊向け艦艇建造・MRO事業に進出
関連記事:Andurilと現代重工業が提携、自立型海軍システムの設計と製造で協力
関連記事:現代重工業がGE AerospaceやL3Harrisと提携、豪海軍や加海軍の受注戦で協力
関連記事:韓国のHanwha、米軍プログラムの元請け参加が可能なAustal買収に動く
関連記事:造船への投資、米海軍長官がハンファオーシャンと現代重工業に米国進出を促す
関連記事:韓国のハンファオーシャン、米海軍需要を獲得するため米造船企業を買収か
関連記事:韓国企業が海軍艦艇向けのMRO事業に本腰、潜在的な顧客に米海軍が浮上
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd class Jared Mancuso
ハンファが投資してくれるなら何よりだけど、採算が取れるのかな。
今でも補助金頼みなのだが。
技術だけ吸って終わりにならないで欲しい。
おそらく吸えるような技術はほとんど無いかと、下手すれば50年前基準で造船してますし
ocea→oceanだと思う
ご指摘ありがとうございます。
これがいいなら製鉄業の買収もいいだろ
ぶっちゃけ大半のアメリカ人って考えなしの「USA!,USA!,USA!」みたいなノリで生きてるんで、
中身でなく「USスチール」っていうラベルにしか反応してないという。
まぁ事前に日本製鉄もUSスチールという名前の地雷臭を嗅ぎ取れなかったのはアホだなぁと思うし、且つ、自身の名称が対極なNippon steelなのも二重にまずかった。
実質買収でもUSスチールを資産管理会社として残した、新規の合弁会社とかにすりゃよかったんだがな。
一方の買い取り額は2兆円ですからねえ。
社員250人、買収金額1/100の案件とはさすがに横並びには比較できんのでは。
自分も真っ先にこれが頭に浮かんだ
ましてUSスチールの方は救済の意味が強いのにさ
アメリカは韓国には甘いからね、日本は今でも旧敵国のままだけど
どうやろうねフィリー造船所だけの歴史は浅いし従業員数なんて比べるべくもない。まだ単独でも何とかなりそうな企業でもあるしアメリカのプライドを考えたら反対したくないかなぁ。
USスチールの件もそうだが、この手の話は暗闇の中でゲーミングカラーに光るクレイモアに突っ込んでいるようなババを引きに行っているようにしか思えない
労組や政治の反対を乗り越えた先で、買収先企業がどえらい爆弾を抱えていて爆発したとかよく聞くのに、何がそんなにおいしそうに見えるのだろうか
「USスチールの件もそうだが」
どちらも国内需要不足が原因かと。
日本製鐵もハンファも国内需要頭打ちで国内投資は難しい状況。逆にリストラ必須。先行き不透明の中、リスクを取ってでも海外投資を行わないと企業価値の維持や向上が難しいと判断してるのでしょう。
USスチールもフィリー造船所も共に自身では生産性、技術、資本が不足してる事は自覚しており歓迎してくれてます。あとは労組だけが。。。
おっしゃる通り、東芝とウエスチングハウスの様に本体を吹き飛ばす事もありますよね。そこは腕の見せ所であり確り精査した中での判断でしょう。
別に国内需要が低調でも輸出すればいいだけ。
人件費が安い所で作ったほうが競争力がある。
日本も決して安くはないが、米国、しかもUSスチールと比べると。。。
そんなことよりも問題はバイアメリカン条項みたいな非関税障壁。
今回のHanwha Oceanの事例も軍艦建造に対するアクセス権を確保するための手段。
だと思うけど。
そうですね。個別の案件に付いては、全くその通りだと思います。
コメ「何故、困難な案件にリスクを掛けて投資を行うのか?」と解釈し、そのレスとして「国内に留まっていては、もう飯は食えない。大きくなれない。
」との趣旨で書き込みました。
自身で見返しすると中文「USスチールと・・・」が余計で紛らわしいですね。。抽象的になりすぎました。失礼しました。
アメリカの建造能力が上がるなら歓迎なんですが、根本的にアメリカ国内で建造する縛りがあるうちは効果が薄いのではと感じてしまいます。
usスチール買収は徹底的に反対するくせして造船業は大歓迎ですか・・・よく分からん。
USスチールは国際的競争力は低くても国内需要の大きさと輸入関税のおかげで経営はある程度安定してるからね少なくとも今のところは
だからあらゆる産業でトップクラスに寡占が進んで日本企業ですらなんとかギリギリ食らいつくので精一杯な造船とは経営環境が違う
人口増加が続いて連邦政府のピックアップトラックを守るための保護関税とかの自動車産業保護政策がある限りは自動車や鉄鋼はギリギリなんとかなっても
アメリカの造船業はもう本当にほとんど死んでるから
韓国の防衛産業は、本当に抜け目がないですね。
造船に必要な鉄鋼などの鋼材、ガスタービンエンジン・スクリューなど、どこから調達するのか注目したいと思います。
流石に造船所が勝手にエンジンの調達先を決めることはできないかと。
どこまで協力するのか注目ですね。
>2005年から商用船の設計及び資材の提供でフィリー造船所と協力関係を続けてきたが、今回の協定によって協力関係を米海軍、沿岸警備隊、連邦海事局の艦艇や官公船まで拡大させる。現代重工業は事業拡大を推進しているフィリー造船所に艦艇·官公船設計及び資材パッケージ提供などの支援を行う
将来的なことはわからんが、今回の協定はMRO事業なのよ。
Hanwha Oceanの狙いもMRO。
求められているのも勝ち取りたいものも組み立て屋の能力。
米国だってGEだって主機を渡す気はないと思うけど。
沿岸域の艦船くらいは可能性あるのかね?
仮に新規造船を行うにしても新型でない限りは設計なんてできない。つまりうまい具合に海軍の仕事を受けることができても(今現在、海軍からの受注はないはず)GEやHIIの下請けに過ぎず、それが海軍の求めている姿だと思いますが。。。
普通に考えて設計をしたいなら、DDGXなりの新型のコンペに参加して、採用されて海軍から元請けとして受注しないと。。。(故に沿岸用小型艇ではありうるのかな、と)
ちなみに海軍長官が直接コメントしたわけではなく、事務所のアナウンスメントや秘書のコメント。
つまり相当に考え抜かれた文章であって、「This will bring good paying union jobs to Philadelphia,」あたりにハードルの高さを感じる。
低賃金の外国人労働者を前提とするビジネスモデルの企業が、どこまで耐えられるかお手並み拝見。
なるほど、資機材調達でハンファオーシャンのサプライチェーンと合同することで納品待ちのデッドタイムを圧縮するあたりを見込んでいるんですね。造船技師不足はいかんともしがたいけどどうするのだろうと思って見てたんですが、まず今いる工員の労務効率を上げていくという事ですね(上の工程が詰まってて仕事が始まらないから労働者が何もしてないという事はままある話ですし…)
造船所って売り買いあんまりされないから相場観がわからないんだけど、1億ドルって相当に安い気がするような
それともこんなもんなのかな?
まあとりあえずこれから期待されるのはつまんねー特徴がない船でいいから、納期通りに、予算内で、進水させていくことだと思うんでぜひ頑張ってほしいなと
M&Aの一般論になりますが、利益が少なければ価格は安くなります。
業種も、造船は重厚長大産業ですから、事業の将来価値もかなり低いです。
土地の値段・設備状況など、他にも見るべき点はありますが、一般的には安くなりやすいでしょうね。
米海軍、ボロボロになっていますから、仰る通り納期を間に合わせて行って欲しいと思います。
バイデンが再選されたらUSスチールもボスコと提携になると予想。
韓国は凄い
としか言いようがない
アメリカ的には自国の国防を支える造船所が国力では遥かに格下の韓国の資本傘下ということは気にしないのかな…
少なくとも現時点で海軍の受注はないし、建造実績もない。
取り敢えずは外資入れても米国人の雇用先を増やさないとね
金融やM&Aに重点を移して空洞化した製造業を復活させないと拙い状況ですし