インド太平洋関連

インド、Su-30やMiG-29を含む5000億円規模の緊急調達案を承認

インド政府は中国との軍事的緊張を理由に3,890億ルピー(約5,600億円)規模の緊急兵器調達案を今月2日に承認した。

参考:From Su-30 MKI jets to Astra missiles: Defence acquisition of Rs 38,900 crore approved, focus on ‘Atmanirbhar Bharat’

交通アクセスの差を見せつけるようにラダック地域へ約2個師団相当(約2万人)もの兵力を送り込んだ中国

中国との軍事的緊張が高まっているインド政府は今月2日、3890億ルピー(約5,600億円)規模の緊急兵器調達案を承認した。

インド政府が3,890億ルピー(約5,600億円)もの費用を投じて緊急調達を行うリストの中には、ロシアから調達するMiG-29UPG 21機の取得費用、インドのヒンドスタン航空機から調達するSu-30MKI 12機の取得費用、インド空軍が保有するMiG-29UPG 59機のアップグレード費用、国産の中距離空対空ミサイル「アストラ」248発の取得費用、国産多連装ロケット砲「ピナカ」の取得費用、歩兵戦闘車BMP-2のアップグレード費用、1,000km程度の射程を備えた長距攻撃用巡航ミサイルの開発費用等が含まれている。

出典:Alan Wilson / CC BY-SA 2.0 Su-30MKI 

さらにインドは発注済みの兵器についても予定された納期を早めるよう各国に協力を要請、フランスは戦闘機「ラファール」引渡しを急ぐことを約束、ロシアも戦車「T-90MS」や防空システム「S-400」の早期引渡しに同意、インド軍が使用しているロシア製兵器のミサイルや弾薬の緊急調達にも協力することを約束した。

イスラエルはインドが発注した地対空ミサイル「MRSAM」を緊急納入するためイスラエル軍の在庫をインドに回すことに同意、米国はインドが要請した偵察衛星による国境地帯の情報提供や155mm口径の誘導砲弾「M982 エクスカリバー」の緊急追加発注に応じる構えだ。

このようなインドの動きは中国との軍事的緊張が中長期的に続くことを睨んだ対応であり、大規模な軍備増強を示すことで中国側に「軍事的な脅しには応じない」というメッセージを送っていると予想されるが、中国側は飽くまでも緊張を煽ってインド側から譲歩を引き出そうとしている。

出典:Mil.ru / CC BY 4.0 爆撃機H-6

インド側の報告によれば、カシミール州ラダック地域の中国軍は約2個師団相当(約2万人)を超えたと言われており、ラダックに近いガリ空港には中国空軍の戦闘機J-11、J-16、Su-30MKKや爆撃機H-6を配備して国境上空を頻繁に飛び回っている。さらに国境沿いから約1,000km離れた新疆ウイグル自治区に1万人から1万5,000人規模の中国軍が駐留してラダックの状況に睨みをきかせているため、インド側はこの部隊の動きを特に警戒(緊急時には48時間以内にインドと中国の国境沿いに展開可能)しているらしい。

果たして、両国の戦力増強はどこまで行くのか先が読めないが、そもそも両軍が国境沿いでにらみ合う状況に陥った発端はインド側によるカシミール州ラダック地域のインフラ(道路や橋の建設)開発だ。

このラダック地域とは険しい山岳地帯で標高が最低でも2,500m以上もあり、インド側から見ると非常に交通アクセスの悪い場所にある。逆に中国側から見るとなだらかで新疆ウイグル自治区からチベット自治区を結ぶ新蔵公路(G219国道)のお陰で交通アクセスは容易と言える。

出典:public domain

要するに、この交通アクセスの差が戦力の展開速度に直結するためインド側によるラダック地域のインフラが容認できない=交通アクセスの差を維持するというのが中国の立場なのだ。

そのため中国は軍を撤収するための条件にラダック地域のインフラ開発停止を要求しているが、インド側としてもインフラ開発停止の要求を飲めばラダック地域の支配権に影響が出るため断固拒否の構えだが、ここをインド側に譲歩させるため中国は良好な交通アクセスを利用して戦力増強を見せつけていると言っても良い。

恐らく、この地域で大規模な軍事衝突が起これば戦力を迅速に輸送できる中国軍の方が有利なのでインド側としては話し合いで解決することを望んでいるが、軍事的緊張が高まっている中でもインフラの開発を続けており、中国軍の中で設定されたレッドラインを越えれば実力行使でインフラ開発阻止に出るのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Vladis / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    今あるものと同じならともかく、新しい兵器は買ってすぐ使えるというものじゃないしな
    運用維持管理に自前のオペレーターを使うなら訓練が必要になるが、その辺どうなってんのかな
    時間がなければオペレーターも借りるしかない
    しかしロシアはニッコニコだろうなぁ、両方に武器売れるんだから

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    パフォーマンスで終わるでしょう、戦力化する時間までには政治交渉で正常化しそう
    ロシアはますます儲かるよな、支那からも追加が入るかめ

      • 匿名
      • 2020年 7月 03日

      そのパフォーマンスが重要なんですけどね。
      それで侵攻を思い留めてくれるなら安いものですよ。
      ロシアは死の商人として最大の利益を狙っていますね。
      らしいといいますか、とても強い。

        • 匿名
        • 2020年 7月 03日

        この件では、ロシアの一人勝ちな印象を持っています。

        一方部外者な日本は、相対的でしょうがインド側から好印象を得ている様です。
        棚ぼたと言うか、普段の行いが幸いしたと言うべきか。
        リンク

          • 匿名
          • 2020年 7月 04日

          インドからの好印象は嬉しいし、インドと仲良くやっていきたいとは思うけど、過大に評価されるのもなぁ。
          ↓こんな事言われても日本にアメリカの代わりはできないぞ。

          リンク
          「このような友人(日本)の存在がトランプ大統領による調停の申し出でを断った理由の一つだ」

          出来ればこれで政府が覚悟決めてくれるといいんだけど。

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    習近平は失策続きで国内での立場の悪化から、政治的に何かに譲歩できるような余裕がないからなぁ。
    インド絡みも、自分の置かれた状況を打開するためのポイント稼ぎの一環だったんだろうけど、この有様では……。

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    国産機テジャスの名前がないな
    一応もう空軍に納入されてるはずだけど
    まだテスト中とかだっけ?

      • 匿名
      • 2020年 7月 03日

      おそらく双発型の「テジャス Mk.2」を開発するであることと、まだ量産の初期段階なので低量生産で様子見てアップグレードしていくといった段階だと思いますよ。
      なので、それよりも実績と信頼性を兼ね備えたロシア機の出番なのでしょうね。

        • 匿名
        • 2020年 7月 03日

        グリペン級のMk1だと、J-10相手でも微妙な感じでしょうし、
        見せ札ならロシア機の方が無難でしょうね。

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    中国はこんな事してインフラの重要性を実証したら、どちらにしろインドはますます開発に固執するでしょうに。領土を手放すつもりなら別ですけど。

    結局結論は変わらないか更に悪化する上に、西側の中国包囲のちょうどいい象徴にされるだけで、ロシアもここぞとばかりに稼ぎに走るしで何やってんだかという印象です。

    • 匿名
    • 2020年 7月 03日

    トルコと交渉してS400買い取ればいいのに

      • 匿名
      • 2020年 7月 04日

      それはいい案だが、政治的に厳しいかも。

        • 匿名
        • 2020年 7月 05日

        ロシアか米国が間に入らない限り難しいだろうね。

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