インド太平洋関連

インド、エアバスの中型戦術輸送機C-295MWを56機調達する計画を承認

インド政府は今月8日、空軍が保有する57機の双発輸送機「Avro/アブロ748」を更新するためエアバスから「C-295MW」を56機調達する計画を承認したと報じられている。

参考:Avros to be replaced; IAF to get C-295MW from Airbus

C-295MWの56機調達計画に承認を与えたインド政府、C-295シリーズ最大の顧客に浮上

インド空軍は非常に多彩な輸送機戦力(C-17×17機、Il-76MD×17機、C-130J×12機、An-32×51機、An-32RE×53機、Avro748×57機、Do228×50機)を擁しているが、1961年からヒンドスタン航空機がライセンス生産を行った双発輸送機「Avro748」は最も老朽化が進んでいたため2015年に政府はC-295MW調達計画を承認、しかし技術的な問題やエアバスとのオフセットを含む価格交渉が長引き調達計画に遅れが生じていた。

この問題を全てクリアしたことを確認したインド政府は今月8日、エアバスからC-295MWを56機調達する計画に再び承認を与えたとIndian Expressが報じられている。

出典:アイルランド空軍が導入した海上監視型構成のCN-295MPA

契約総額は推定25億ドル/約2,760億円で56機中16機は48ヶ月以内にスペインで製造されインドに引き渡される予定だが、残りの40機はTATAを筆頭としたインドの民間企業で構成されたコンソーシアムが国内で製造することになっており、これは部品を輸入して組み立てる方式ではなく機体や主要コンポーネントを国内で製造する内容なので武器の海外輸入依存度を引き下げるの役立つとIndian Expressは予想している。

インド産業界は40機のC-295MWを製造する過程で約6,600人の新規雇用(間接雇用を含む)を生み出し、製造終了後に設置される予定の整備施設(MRO施設)はC-295MWのメンテナンスサービスをインド空軍に提供するだけでなく「アジア地域(フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、ウズベキスタン、カザフスタン)のC-295ユーザーにもサービスを提供する整備拠点として機能することになる」とIndian Expressは説明している。

出典:AIRBUS モザンビークの人道援助ミッションで不整地に着陸するCN-295

つまりインドはC-295MWを大量導入する見返りにアジア諸国が導入したC-295の整備利権を手に入れようとしているという意味だが、今回の契約に関するオフセットは別に設定されておりエアバスは一定額(金額は不明)の製品やサービスをインド企業から直接購入することが義務付けられているらしい。

補足:韓国はC-295のベースとなったC-23520機以上保有しており、最近エアバスからC-212C-235のメンテナンスサービスを行うMRO施設誘致に成功している。恐らく韓国もアジア諸国が導入している両機の整備利権を確保しようとしているのだろう。

因みにC-295MWはC-295Mのアップグレードバージョンでアビオニクスが最新のものに更新されウィングレットが追加されており、6トンの貨物を搭載して3,700kmを飛行することが出来るC-130よりも小型な戦術輸送機で累計222機の受注(191機を引き渡し済み/インド調達分は含まれていない)を獲得している人気の高い機体だ。

出典:AIRBUS 早期警戒機構成のCN-295AEW

C-295のベースとなったC-235を含めると約500機以上の受注実績をもつシリーズで、この分野には競合する米国機(ロッキード・マーティンと共同で開発したイタリアのC-27Jは米軍の発注が78機→21機で打ち切られ海外輸出も芳しくない)がないので恐らく西側製の中型戦術輸送機の中で最も支持されている機体と言っても過言ではないだろう。

 

アイキャッチ画像の出典:AIRBUS CN-295

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 9月 09日

    やっぱり安くて使い勝手がいい機体は売れるよな。

    15
      • 匿名
      • 2021年 9月 09日

      インドの場合、戦術輸送機というよりも平時の連絡と軽便としての用途に見える、
      かなり広大な国土なのに鉄路も道路もいまひとつ信頼性と敏速さに欠けてるから、こんな機体に頼らないと軍の運用もままならないんだろ

      8
      • 匿名
      • 2021年 9月 09日

      民間機でも737とか320がほとんどだもんねぇ
      滑走路とかインフラ的にも軽量小型でSTOLにすぐれた(C2も大概すごいんだけど)中型機が売れるよね
      海外に積極的に展開するならC2とか、あるいはもっと大きいC17とかが優位になってくるんだろうが

    • 匿名
    • 2021年 9月 09日

    C2ぐらいの規模になると顧客も相当限られてくるだろうし、このぐらいの輸送機が売れやすいというのはあるよね。
    あと、輸送機はターボプロップ機のほうが売れているイメージがある。
    整備とか不整地とかで、ファンより有利なんだろうか?

    11
      • 匿名
      • 2021年 9月 09日

      不整地や未舗装滑走路での離着陸を重視するなら、異物吸入によるエンジントラブルの可能性でターボプロップのほうが安全性が高い。

      11
    • 匿名
    • 2021年 9月 09日

    家電でも、庶民が、買う売れ筋モデルが一番の儲けになるから

    1
    • 匿名
    • 2021年 9月 10日

    C-390やC-130Jじゃ少しデカかったのかね。そういや日本はこう言う軽輸送機は自衛隊あんま持ってないよね。そういや記事から逸れるけど仏独西の新型戦闘機計画なFCASが27年迄に実証機創るとかって話が1週間前に流れてったけど珍しく管理人さん触れてないな。ネタにするほどの動きなかったのかもだけど。

      • 匿名
      • 2021年 9月 10日

      C-1は沖縄まで届かないから廃止されたじゃん。50年前の技術だからいろいろ足らない部分もあったんだろうけど物が運べない輸送機は意味が無いから、大は小を兼ねるということでC-130に取って代わられた。
      それにしてもインドも7トンで1500㎞しか飛ばないのによく導入する気になったね。
      上昇限度も9000mでヒマラヤ山脈ギリギリだし、もっとデカいのを選ぶべきだったんじゃ。

      7
        • 匿名
        • 2021年 9月 10日

        ====
        インド空軍は非常に多彩な輸送機戦力(C-17×17機、Il-76MD×17機、C-130J×12機、
        An-32×51機、An-32RE×53機、Avro748×57機、Do228×50機)を擁している
        ====
        元記事ちゃんと見ました?
        C-17クラスをこれだけ持っていれば十分にデカいのも持っていますが?
        この機体はハイ・ミドル・ローの中のローに位置する機体です
        山岳地帯の小規模飛行場にでも降りられるSTOL製のある端末輸送用の小型輸送機枠
        として買ったんでしょう、そんな場所では大は小を兼ねませんよ
        上昇限度も短距離コミューターで山間部を縫うので、高高度巡航する様な性能は
        いらんのでしょう

        9
          • 匿名
          • 2021年 9月 11日

          何でわざわざ好き好んでエベレストを越えなきゃいかんのよ。
          ヒマラヤ山脈には確かに多くの8000m峰や7000m峰があるが、
          7000m「峰」がある、という事はその周りは7000mより低いんだぞ?
          てか中共と揉めてるカシミール州ラダックの平均標高は3500m程度。確かに富士山並みで十分高いっちゃ高いんだが、固定翼輸送機が飛ぶのに苦労する様な高度じゃない。
          それよりも高空故の揚力低下≒速度上昇≒接地圧増加&着陸距離延伸を考えたら大型機は離着陸に苦労すると思うぞ。
          3500

          1
            • 匿名
            • 2021年 9月 11日

            レスズレ&暴発した。一個上へのレスね。
            以下続き。

            3500mだと気圧が700hPa以下なので、着陸速度は2割以上上がっちゃうしエアブレーキや逆噴射の効果もその分薄い。沈下速度も上がるから接地圧も高くなる訳で、それに耐える長くて強靭な滑走路を山岳地に確保・整備するのはなかなか大変だと思うよ。

            2
      • 匿名
      • 2021年 9月 10日

      > こう言う軽輸送機は自衛隊あんま持ってないよね。

      C-1・CH-47辺りと出来る事がかぶるからなぁ。
      オスプレイもSTOL運用すれば結構積めるし。

      3
      • 匿名
      • 2021年 9月 10日

      インドの国情反映した選択じゃないの?国内企業の育成や外国からの受注も見込める。国内の輸送インフラの問題、滑走路へのダメージ軽減、短距離飛んで着陸の数が多いなら機体へのダメージが大きくなるし。元々の輸送量がそれほどでもない短距離メインならコスト的には引き合うんだろう。

      3
      • 山中あそぶ
      • 2022年 10月 23日

      >FCASが27年迄に実証機創るとかって話

      「FCASは2050年までに完成させるのは不可能」らしく、しばらく前にダッソーのCEOがプランBについて発言してましたね。
      スーパーラファールの開発。他に代替手段はないし、FCASが順調でも作るべきだと思ってましたが。
      PANGの新CGにはFCASに加えてラファールMが搭載されてたけど、数年後にはFCASの代りにスーパーラファールが描かれるかも。

    • 匿名
    • 2021年 9月 10日

    C-295ですね(CN-235の機体延長版のC-295)
    初飛行は1997年(CN-235の初飛行は1988年)

    1
    • 匿名
    • 2021年 9月 10日

    戦闘機だけじゃなく輸送機まで多種多様過ぎる。インド空軍機だけのエアショーでも十二分に楽しそうだな

    2
    • 匿名
    • 2021年 9月 11日

    一番下に載ってたCN-295AEWですが、EL / W-2090360度レーダードーム搭載なのでアメリカの顔色をあまり配慮しなくても輸出できる機体のようですね

    • 山中あそぶ
    • 2022年 10月 23日

    C-295は自重の割にペイロードが大きくてかなり優秀な設計に見える。
    ペイロードが自重の84%はダントツ。同じ貨物積んでも本体が軽い分、燃費も離着陸性も良いでしょう。

    機種名:ペイロード(t):ペイロード/自重
    【中型機】
    C-295: 9.3: 0.84
    C-27J:11.5: 0.68
    G.222: 9.0: 0.62
    An-72:10.0: 0.52
    C-1  :11.9: 0.51
    An-26: 5.5: 0.36

    【大型機】
    C-17 :77.5: 0.61
    C-130J : 19.1: 0.56
    C-2 :36.0: 0.52
    A-400M:30.0: 0.39

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