インドは米国製装備品の調達を拡大してロシア依存を引き下げつつあるが、これは「インドのロシア離れ」を意味するものではなく、防衛市場の動向を報じるShephardは20日「インドはバランスを取るためロシアと早期警戒レーダの購入を協議している」「両国の友情は最も高い山より高い」と報じた。
参考:US sanctions fail to rattle India as it looks to Russian long-range radar
参考:India may acquire advanced Russian radar system
インドとロシアの友情は最も高い山より高く、ロシアから米国に乗り換えることもないがロシアに依存する気もない
インドと経済面や安全保障面で強い繋がりをもつロシアは伝統的な友好国で、米国が対ロシア制裁(敵対者に対する制裁措置法/CAATSA)発動をチラつかせてもS-400導入を維持し、ロシアのウクライナ侵攻についても明確に不支持を表明したが国連非難決議は棄権、西側主導の経済制裁にも参加せず、二ヶ国間の貿易を維持するためルピーとルーブルによる決済システムを猛スピードで構築し、市場相場よりも割安なロシア産石油を大量に購入している。
西側諸国の多くはウクライナ支持が国益に合致するため対露関係を遮断したが、非同盟主義や中国との領土紛争を抱えるインドにとって「対露関係の維持」は死活問題で、ロシアと中国の結びつきが一方的に強くなるとインドと中国のバランスも崩れるため、ウクライナ侵攻問題で西側が期待する立場を取ることなく、ロシアが軍事的に崩壊することも望んでいないものの、モディ首相は安全保障分野=特に防衛装備品調達におけるロシア依存を引き下げるべきだとも考えており、ロシアに次ぐ繋がりをもつフランスとの関係強化に加え、米国からもAH-64E、SH-64R、CH-47F、P-8I、C-17を調達。
最近もMQ-9B調達に38億ドルを投資すると発表し、バイデン大統領も昨年6月の首脳会談で「インド国内でのF414共同生産」「海軍艦艇の修理契約」「海底領域における共同認識力の強化」「防衛産業のサプライチェーン強化に向けた協定交渉」「防衛産業協力と技術共有を強化する枠組み(INDUS-X)の創設」を提示、これ受けて米海軍はラーセン&トゥブロ、マザゴン・ドック造船所、コーチン造船所と艦艇修理契約(Master Shipyard Repair Agreement)を締結したが、バランスを取るためロシアと早期警戒レーダー=Voronezh-DMの購入を協議しているらしい。
防衛市場の動向を報じるShephardは20日「ロシアで建造されたタルワー級フリゲート7番艦の就役を祝うためシン国防相がモスクワを訪問し、ロシア側とVoronezh-DM調達について協議した。米国とインドはモディ政権と密接な関係にあるAdani Groupの問題(贈収賄と投資家に対する虚偽報告)で険悪な状況が続いており、ロシアとの取引は『米国に対する不満』と『米国以外の選択肢がある』というインド側の現れかもしれない」と報じたが、同時に「インドはロシアや米国との取引を通じて防衛力の近代化を進めなら戦略的なバランスを取ろうとしている」とも指摘。
インドメディア=Sunday Guardianも「インドとロシアはVoronezh-DM購入契約について取り組んでおり、この取引の契約額は40億ドル以上になると見込まれている。アルマズ・アンテイ側の関係者もインドを訪問して契約に関与するオフセットパートナーと協議を行った。Voronezh-DM調達はMake in India政策に従いシステムの約60%がインド国内で製造される。5000kmを越えるレーダーは米露中のみが保有するため、Voronezh-DM導入はインドの防衛力を大幅に強化し、国内経済にも相当数の雇用をもたらすだろう。関係筋も経済的利益は本取引の主要な柱の1つだと述べている」と報じている。
ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARも「この地域は地政学的リスクが、パキスタンや中国との大規模な紛争リスクが高まっているため、インドが独自のミサイル防衛システムを手に入れたいと望むのは理解できる。ロシアにとってもインドとの取引は経済面で有益だが、交渉過程で特定の技術移転が問題になるのは確実だ。但しSu-30やT-90の取引、長年に渡る二ヶ国間の防衛産業協力がそうであったように同問題はロシアの国益を損なうことなく解決できるだろう」と述べており、インドは防衛装備品調達におけるロシア依存を引き下げても「ロシアとの繋がり」まで縮小する気はない。
ロイターもインドとロシアの関係について「対露関係の軽視はロシアの中国接近を加速させる」「インドと中国との間で紛争が発生すればロシアは中国の肩を持つことになる」「仮にロシア製装備品から距離を置いてもエネルギー資源などの貿易を強化して結びつきを維持しなければならない」「調達先を西側諸国に広げる流れは止まらないが調達先の配分は決して平等ではない」「インドはロシアの武器から遠ざかっても強い結びつきは維持するだろう」と指摘し、これはベトナムの状況と良く似ている。
ベトナムが1995年~2021年までに輸入した武器の80%以上(60億ドル以上)がロシア製で、特定国に武器調達を依存するリスクを問題視して武器調達の多角化に乗り出し、これを好機と見たバイデン政権はベトナム側にF-16売却を持ちかけ「これが成立すればロシアの影響力を低下させられる」と考えているものの、中国と国境を接して領土紛争を抱えるベトナムの外交的立場も非常に複雑だ。
ISEAS-Yusof Ishak Instituteでシニア研究員を務めるイアン・ストーリー氏は「ベトナムについて米国は非現実的な期待を抱いている。ベトナムと中国の関係がどれほど微妙なもので、ロシアと関係がどれほど深いものか十分理解しているとは思えない」「ベトナムの指導者達は大国の間で踊ることに長けている。四半世紀の間にフランス、米国、中国という3つの侵略者を退けたベトナムは大国同士の争い巻き込まれるのを嫌っており、独自の道を切り開こうとしている。米国はベトナムの立場を誤解すれば火傷を負うことになり、この地域において米国特有の二者択一を迫る外交スタイルはリスクが高い」と指摘。
アジア太平洋安全保障研究センターのアレクサンダー・ブービング教授も「ベトナム人は対米関係を強化しながら中国やロシアにも『関係を軽視していない』とアピールする必要がある」「ベトナムは非常に微妙な外交バランスを保つ必要がある」と言及、ニューヨーク・タイムズ紙も「ベトナムはロシアとの合弁事業を通じて代金を送金する方法でロシア製兵器の購入を試みている。ベトナム当局者は『西側諸国から制裁を受けるロシアの現状』は戦略的信頼を強化する絶好のチャンスだと考えている」と報じている。
因みにShephardはインドのVoronezh-DM購入契約を伝える記事の中で「シン国防相がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した際『両国の友情は最も高い山より高い』と述べた」と紹介し、インドのロシアに対する立場を明確に物語っており、欧州とアジアの一部を除く地域では「米国かロシアか」は当たり前ではない。
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※アイキャッチ画像の出典:Narendra Modi
現在のアジアは、緊張はあるものの、わりと絶妙なバランスで維持しているというか、それが分かる記事です。むしろそれよりも西、ヨーロッパや中東のほうが不安定な状態です。下手に弄るとバランスを崩すので、各国が余計な事をしなければ、当面は大きな事は本当は起こらないのではないか?とすら思えるぐらいには安定していると思います。
西側が直接手を出している地域の不安定さは、やはりヨーロッパ中東を見れば明らかですね。つまり何が言いたいかというと、こっちに余計な事しないでねと。。
米国の一部がソ連崩壊で一極世界が完成したと考えたのは壊滅的な誤解だった。その後の武力を使った干渉政策はことごとく失敗して疲弊し、ついに2度に渡るトランプの登場を招いた。ウクライナ戦争では米国の一極支配が幻だったのが誰の目にも明らかになった。多極世界は進む。多極世界では米国は大きいが1大名に過ぎず、インド、中国、ブラジルも大名だ。日本は小なりと言え大名になりたいのか大大名の米国の家臣でいた方が居心地がいいのか本気で考えなければならない。
日本は、アメリカの家臣というより家来でしょう。そして、独立することもできない。
家来なんてとんでもない!ペットの犬です(自虐)
ポチね
その割には、国連では米国の提案に5割ほどしか賛成しない国だったりするw
実際の所、意外とアメリカの顔色ばかり窺ってるわけではない国というのは結構知られている話で
途上国は日本の反応を結構参考にしていたりする
(途上国は情報収集力や検討力がさほど高くないので、日本が賛成しないというなら、賛成しない理由があるのか?と判断基準の一つにしてる)
日本の蔑称については枚挙にいとまがないですが、最近見た表現では「情婦」というのが一番しっくりきましたね。
ネット特有の印象によるレッテル貼りで盛り上がってるねぇ
文句も言われましたけど、儲けさせてももらったので
良いご主人を持つことは悪いことではないです。
けつ毛までぬくような連中がほとんどの世の中においては特にそうでしょう。
家来というか米国の手下ですね
手下をやっているうちは米国の威光を傘にできますし米国からは攻撃されません
立場を見誤ると我が国はウクライナみたいになりそうです
永遠の同盟が存在しないことは確かですが、中国、ロシアがそれぞれ分裂する時に考えれば済むことですな。
そもそも「米国が支援を止めればウクライナは屈服する」と考える方々が、多極世界を夢見るなんて言行不一致もいいところでしょう。
>「米国が支援を止めればウクライナは屈服する」と考える
それは、ウクライナが「欧米の支援ありき」で継戦しているからではないですか?
それが願望込みの幻想なのか、あるいは腹の底では米国の一極支配が続くと確信していて、いずれは手を結ぶ必要があると思っているのか、いずれかということになりますな。
永遠の国家というものも存在しませんから日本や米国が中国やロシアより長生きするという保証はどこにもありません。
じゃあ、それまでは今の関係を続けることですなあ。
中国、ロシアが分裂崩壊するまであとカウントはどんくらいあるんすか?
なかなか信心深いですなあ。
同盟の永遠は信じられなくとも、
中国、ロシアの永遠は信じとられてるようで。
不死の人間がいないように、永遠に存続する国家もまたない、という大前提は当然として、これから将来の持続予測期間で言えば、日米よりも中露の方が遥かに長いと私は思いますね。なぜかというと、国家の「正統性」が全く違う。アメリカは所詮、現地のインディアンを虐殺して建国した根なし草の人工国家に過ぎません。日本もまた、アジアで残虐の限りを尽くした末にアメリカに滅ぼされ、アメリカの一部として細々と存続が許された残滓程度の存在なわけです。
翻って、中露は、日帝やナチスといった侵略者と徹底的に戦い、祖国を守り抜き、今も誇り高く自立して存続する正統性が大きな国家なわけです。また現代では経済政策も華々しい成功をおさめ、GDPは加速度的に成長し、今日より明日が良くなる、まさに我が世の春、黄金時代を謳歌しています。どういった観点から見ても、日米より中露の方がこの先の人類社会では長く繁栄する国家となると思いますよ。
基本、他所様の信仰に口出しはしませんがね。
ただ、そのテの歴史ファンタジーはその国の国内限定の歴史教育で使われるからこそまだ許容されるわけで、国外に持ち出した瞬間に悪臭を発しはじめますぜ。
口出ししないと言ってる割に他人の揚げ足ばっかり取ってるな。
ウクライナが負けてイラつているのか知らんけどな
「基本」と断りを入れてるはずですがねえ。
信仰は自分(自国)の内にとどめておきたいもので、他人(他国)に強制しようと考えるのは迷惑というものです。
まあ、3年近くかけてもウクライナが屈服できないことにイラつているのか知らんけど
日本の長きにわたる歴史を見ず近代だけ切り取って日本下げの妄想に浸るのはやめた方がいいよ
日本、日本人に言いたいことは、とにかく「身の程をわきまえてほしい」と言うことですね
身の程をわきまえている限り、さほどの心配は無いと思います
最近の卑屈になった日本人はそれなりに「安心」だと思いますよ
このアジアの国特有の機微さを理解していないと「アジア版NATO」なんて発想が出てくるように思えます。
外国首脳に、速攻で否定されて、あれは恥ずかしかったですね…。
まあぶっちゃけ政治的ライバルである安倍がクワッドや自由で開かれたインド太平洋という大きな枠組みを作って関係各国に支持されたからと何も考えずぶち上げただけですからね
中国以外が得をする形になっていたから受け入れられたものを日本だけの得で語ったもんだから全部ぶち壊しですよ
そりゃトランプだってこんなやつ会いません
軍オタとしては今の石破政権の評価できるとこは、「もっと最悪のタイミングでの登板があり得た」という可能性の排除だったと思います。
一回なれば満足でしょうからね。
>西側諸国の多くはウクライナ支持が国益に合致する
本当に国益に合致しているのかどうか・・・
ウクライナ侵攻をフックにした軍事費拡張、アメリカからの装備調達拡大は、憲法改正して中国との戦争も辞さない国になれ!という右の人たちと悪魔合体しましたが(これはNATOに加盟してクリミアの奪還のためにロシアとの戦争も辞さない国になれ!というウクライナの動きにもダブって見えます)産業基盤がすでに劣化しており、人口も減少して一人当たり生産を最低限、維持できるように投資していかなければならない日本に本来軍事費を拡大している余裕はないです(アメリカから武器を買うのは全てのベクトルでこの反対の方向)
ドイツが最も深刻なダメージを受けていますが欧州は燃料価格が、現在の産業構造の維持が不可能なほど上昇し景気後退しており、恒久的に燃料とガス代が高止まりすることになると(停戦がなされてもノルドストリームは稼働せず、引き続きロシアからガスを買えない可能性が高い)下手をしたら二度と立ち直れないほどの変化を受け止めなければなりません
ウクライナを支援して利益があるのは”西側上流サロン”に引き続きいることを許してもらえる政治家だけでしょう
西側というより、米英が軍事的にロシアにダメージを与えつつ、EUから経済的な恩恵を得る、あるいはEUを経済的に疲弊させたい思惑が伺えます。
ノルドストリーム2の破壊は象徴的でしたが、あれもアメリカの黙認がなければ行えないでしょうし…。
そういえばウクライナ経由のパイプラインでのガス供給をウクライナへの契約更新拒否で閉めるって、ノルドストリームの物理的破壊ってなんだったのであろうって話ですな。
インド人がどう米露仏英…の雑多な兵器群を統合して運用出来ているのか学びたいところ。日本も初の兵器輸出先がインドだし、
日本のアンテナ、ロシアのレーダーからなるインド艦が進水しかねん。
インドは、経済成長のためにインフレ安定が不可欠ですが、ロシア産の安価なエネルギーで達成しました。
ヨーロッパが、ロシア産ガスの切替に失敗して、インフレでボロボロになったのと対照的なのが興味深いですね。
Make in Indiaが上手くいけば、製造業は雇用の吸収力が大きいですから、中間層を育成できるのか注目されています。
インド=ロシア、資源エネルギー関係だけでなく、安全保障分野の協力を雇用拡大に繋げているのは上手くやっていますね。
日本のガソリン、内陸部で1リットル190円になっていますから、日本も上手くやらないと地方の中間層もドンドン弱ってます。
岸田さん、地元の広島ガスはロシア産ガスの割合が半分くらいですが、なんだかんだ上手くやってますね。
追記です。
北朝鮮の自走砲コクサンについて、コメント欄で指摘されている方がいらっしゃったので、もしご興味があれば。
弾薬が独自規格なので、北朝鮮が170mm弾薬をどの程度備蓄、弾薬も輸送するのか気になっています。
>North Korean M1989 ‘Koksan’ 170mm SPGs during transportation on Russian railways.
(2024年12月19日午後8:04 Special Kherson Cat @bayraktar_1love X)
(2024/12/21 北朝鮮の170㎜自走砲を大量に乗せた貨物列車、ロシアで目撃…「ロシアの武器依存が加速」 朝鮮日報)
コクサンは朝鮮戦争開戦時に初撃でソウルを壊滅させるための戦略兵器ですから余り連射性を意識しているとは思えないんですよね、、、
砲身寿命も相当短いでしょうしそもそも砲弾もそこまでの備蓄が無いのではと考えています。
ただしウクライナにとって長射程自走砲が複数運び込まれるというのは懸念事項である事に間違いないでしょう
速射性は、仰る通り期待できないですよね…。
弾薬の規格の問題で、ある程度まとまった地域で運用すると思いますが、どのように活用するのか注目したいと思います。
インドは結構上手く行っているような話は聞きますが、
基本的に社会主義時代の官僚主義的な国の状態は何ら変わってなく、
上手く行っているのは一部の州だけという状態です。
一つボタンを掛け間違えば坂を転げ落ちる可能性も高いです。