インド太平洋関連

新たに米国制裁を招く恐れがある案件、インドがMiG-35調達に向けて一歩前進

インドは100機以上の第4.5世代戦闘機「MiG-35」を調達するためロシアと予備的な合意に達したと複数の海外メディアが報じている。

参考:Indian Media Sources Anticipate Signing of $5 Billion Contract For New MiG-35 ‘4++ Generation’ Fighters
参考:India y Rusia podrían fabricar MiG-35 de forma conjunta
参考:Пресса США: Индийские ВВС нацелились на российский МиГ-35

インド空軍がCAATSAに引っかかりそうなMiG-35導入に関してロシアと予備的な合意に達する

インド空軍は2035年にまでに戦闘機を装備する飛行中隊(定数18機)の数を現行の34から45に拡張する予定で、さらに時代遅れのMiG-21BiSや老朽化したミラージュ2000などの退役も控えているため少なくとも今後14年間で15飛行中隊分前後(約270機)の戦闘機を調達しなければならない。

この巨大な需要を満たすためインドは国産戦闘機「テジャス」と海外製戦闘機の導入を同時並行で進める予定で米国(F-21/F-15EX/F/A-18E/F)、欧州(タイフーン/ラファール/グリペン)、ロシア(Su-35/MiG-35)の防衛産業企業が虎視眈々と受注を狙っているのだが、ロシア製防衛機器の輸出を担当するROSOBORONEXPORTとインド国防省の間でMiG-35の調達に関する予備的な合意に達したと現地メディアと海外メディアが一斉に報じ始めた。

出典:mashleymorgan / CC BY-SA 2.0 MiG-35

報道の内容を総合するとMiG-35はインド空軍が運用しているMiG-29と互換性があるので構築済みのインフラを再利用することができ、インド軍関係者はMiG-35の運用コストが安価である点とメンテンナンスが容易である点が大量導入に有利だと考えており、2035年までに戦闘機を装備する飛行中隊を45まで拡張しなければならない空軍からすれば魅力的に映るのだろう。

因みにインド側は100機以上のMiG-35導入契約(50億ドル以上の価値があるらしい)にサインすることを真剣に検討していると現地メディアは報じており、これが事実なら米国との2ヶ国間関係に影響を及ぼすかもしれない。

最近何度も取り上げているが、インドとロシアの取引は露防衛産業企業から1,500万ドル以上の取引を行った国や組織に対して米国が独自に制裁を加える「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に引っかかる恐れがあり、トランプ政権はCAATSA発動をチラつかせることでインドネシアに圧力を加えSu-35導入計画を中止(代わりにF-16V購入を提案)に追い込んだ実績があるので米国製戦闘機を売り込んでいるインド空軍のMiG-35導入を放置する可能性は非常に低い。

補足:米国はロシア制裁の理由にクリミア半島の併合や2016年大統領選挙に干渉した疑いを挙げているが、ロシアを直接罰するのではなく露防衛産業企業と取引した国や組織を罰して間接的にロシアにダメージを与えるという仕組みなので他国の安全保障に係る決定に直接影響を及ぼす点が問題視されている。

出典:ボーイングF-15EX

すでに米国はインドに対して「S-400導入を強行すればCAATSAを発動して制裁を加える」と公式に言及してインドも「米国の圧力には屈しない」とやり返すなど不穏な動きが増えているので、新たにインド空軍のMiG-35導入にCAATSAを適用してくれば両国の関係は極端にねじれてしまうだろう。

果たしてインド空軍は本当にMiG-35導入に踏切るのか、米国はMiG-35導入に踏切るとインドにCAATSAを発動するのか注目すべきポイントが幾つもあるので今後の動向に注意する必要がある。

関連記事:インド、総額6,810億円を投じて国産戦闘機「テジャスMK.1」を83機導入
関連記事:インドにF-15EXを提案するボーイング、政府からマーケティングライセンスを取得
関連記事:インド、S-400導入中止を要求する米国の圧力に屈することはない
関連記事:米国がインド制裁に言及、英国が参加を示唆したクアッドは崩壊の危機

 

※アイキャッチ画像の出典:mashleymorgan / CC BY-SA 2.0 MiG-35

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インドから米帝への圧力倍返しみたいな感じかな?

    3
      •   
      • 2021年 2月 15日

      違うだろう
      インドパキスタンは印パ戦争で西側諸国から禁輸措置を食らった経験があるので西側に依存するわけにはいかない
      だからインドはロシア、パキスタンは中国と取引
      パキスタンはアメリカの実質的な同盟国だしね

      パキスタン切ってインドに乗り換えろって駆け引きもあるかも知れない

      8
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インド的にはバランス取ってるつもりなんだろうが…

    11
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      もしインドがMiG-35を導入したら、「ミグ」というブランドはまだ生き残るかもね。
      現状のままだと、「ミグ」というブランドは消滅しそうだから。

      8
        • 匿名
        • 2021年 2月 15日

        いやMiG-41があるだろ

        9
          • 匿名
          • 2021年 2月 15日

          MiG-41は輸出の見込める有力な商品になり得るのだろうか…。
          予定では2028年にロシア軍が受け取り開始予定だが。

          5
            • 匿名
            • 2021年 2月 16日

            ある種の局地戦闘機だよねぇ
            日本にも向いてそうな気がするけど
            あと、アメリカの本土防衛とか

            1
        • 匿名
        • 2021年 2月 15日

        会社は統合するけど「ミグ」と「スホーイ」ブランドは残すんだって。
        この二つは確立された名前なのでこれを消滅させて新たなブランドを立ち上げても良い結果は出ないって判断だそうな。

        13
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インドからしたら遠慮する必要ないからな、CAATSAももうちょい応用効かせれないものかね

    24
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    他国の兵器導入に圧力をかけて制裁をする法があるとか傲慢過ぎない?

    27
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      米国の同盟国ではなく、米国の脅威にならないはずのインドの兵器購入に圧力をかけるのは傲慢だと僕も思いますね。今は中国に注力すべき状態にも関わらず、米国がロシア製兵器を購入するインドを制裁するのは、クアッドの崩壊につながり、自分の首を自分で絞めることになると思います。

      34
        • 匿名
        • 2021年 2月 15日

        そもそもインドはアメリカの子分でも同盟国でもないし
        たまさか中国という共通の敵に対して協力が可能かの話をしてる段階で、アメリカから忠誠を強いられるような兵器選択への干渉は、
        まず拒否するね
        というか、アメリカの本気度のほうを疑うよ

        28
        • 匿名
        • 2021年 2月 16日

        憲法改正議論さえ進まない日本はよそさまの心配してる場合じゃないんだけどね

        7
          • 匿名
          • 2021年 2月 17日

          憲法9条は日本という国家のレゾンデートルと言っても過言ではないので、何が有ったとしても9条だけは死守して貰いたいですね

          1
            • 匿名
            • 2021年 2月 17日

            日本語がお上手ですね。
            大陸の方ですか?

            3
              • 匿名
              • 2021年 2月 18日

              大艦巨砲主義に帰れ

              4
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      本法は金融、エネルギー企業、防衛企業との取引等が規制対象だけど、金融分野ではこれまでも北朝鮮やイラン等との非米国人(団体含)への取引に規制(OFAC指令)があって、「非米国人への制裁」だけだと今までにもあったものです。

      問題は本法がトランプの大統領令乱発やロシア疑惑に対する議会の政治権力闘争の側面が強い事で(2017年の法制化は議会主導、それまでは非米国人への制裁無)、適用条件や抜け道を煮詰めないまま拙速に法制化された事じゃないですかね。厳格すぎて政治の道具としては使いにくい。
      ただ制裁対象との関係性や繰返し取引か、みたいな事も適用には加味されるので、直ぐにインドに制裁が課されるのかというと?じゃないかなと思ったりしますが。

      1
        • 匿名
        • 2021年 2月 15日

        正にロシア防衛産業へ依存性が加味されるからこそ、インドへの制裁免除が難しいと思うけど。

        2
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インドが米国の言いなりなる必要など全く無いし、何処の国の兵器を購入しようが関係ない。他国を制裁する権利など米国に有る訳が無い。インドが米国から離れて困るのは米国なので譲歩など全く考えられない。武力による帝国主義などいい加減に止めないと中国の思うがまま。今の時代米国の制裁を怖がるのは日本ぐらいだろう。

    21
    • 新・にわかミリオタ
    • 2021年 2月 15日

    クアッドが終わったということは周知の事実だろうけど、
    米国は即急に「CAATSA」をどうにかしないと、未来の同盟にすら影響を与えるかも。
    今までのやり方がもう通じないってことを理解しないと、いくら米帝といえども身を滅ぼすよ

    16
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インドの国防予算の中身を検証したら、新規機材導入に使える予算は日本円にして2000億円そこそこしかないって結果出てたけど・・・どこにS-400やMig-35を買う金があるんだ?
    近接防空システム(自走対空砲)は予算不足(費用2200億円)を理由にキャンセルされたし。

    1
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      今年の国防予算の中から新規機材導入に使える予算が約2000億円っていうだけの話で、50億ドルを一括払いするなら難しいけど100機のMiG35を10年~15年ぐらいに分けて導入すれば十分可能性はあるでしょ

      6
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      こちらと違ってこらからの国力、経済の上向きを信じられる国だからね、先払いの見通しを建てる余裕はありますよ
      少しうらやましい

      9
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    米国としては、将来的(50〜100年後)にはインドを対中国陣営の主要パートナーに迎えたいのだろうが、数十年のスパンで考えると有事が起きるのは台湾、尖閣、南沙諸島が可能性が高い訳で、この地域で紛争が発生してもインドが米国に助勢できることはあまりないだろうから、インドに関しては安全保障のパートナーとしてそこまで重要視していないのではないかと思う。

      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      インドからしたら逆に極東で米中の争いのほうが先に本格化するだろうから、自国に大したメリットのない段階で協力するのは損だと考えるわな。
      みんなちゃんと利害のバランスシートを作成してから考えてるよ

      3
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      なぜ対中包囲網がインド太平洋戦略なのか考えればインドの重要性が嫌でも見えてくるよ。

      なぜインドをクワッドに取り込むのが重要なのかは中国海軍やロシア海軍が中東地域への進出を強めていて、特に中国は真珠の首飾り戦略に従ってミャンマー、パキスタン、イラン、スリランカなどに海軍基地を整備してるのよ。

      これに対して米国はインド洋に面した海域に空母打撃群の拠点として活用できる基地がないから中国の真珠の首飾り戦略に対抗するにはインド洋に面したインドの協力が不可欠なんよ。

      南シナ海や東シナ海で中国と対峙してインド用方面を放置すると中国の拡張を封じ込めるのは不可能だからインド太平洋戦略であって、米国がインドを安全保障上のパートナーとして重要しているのは間違いないよ

      13
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    遠からずインドは米国を切るようになりそう
    米国製兵器を導入する事が安全保障のリスクになってるし

    1
      • アメ
      • 2021年 2月 15日

      近未来に極東でアメリカと中国が地域紛争レベルでぶつかればアメリカ不利の可能性が高い、その時かならずアメリカはインドに側面支援を求めるから、それを見越したインドはアメリカに有利な取引を求めてくるだけ、裏切りでなく強気の要求な。
      中国の独り勝ちはインドにも許し難いが、さりとてアメリカの属国扱いという選択もしないよ

      13
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    インドは、アメリカから制裁を食らっても
    ・他から必要な物を導入できる
    ・自国で必要なものを開発できる(その為の時間的な猶予も(今のところは)ある)
    ので、アメリカに媚びる必要が無いですね。
    アメリカは今更CAATSAを緩めるわけにもいかないし自縄自縛だなぁ。

    10
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    仮に購入したとしてもライバルの西側競合機と同じでライセンス生産なんですよね?

    1
    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    実際機体性能としてMiG-35ってどうなの?
    ロシア本国で大々的に採用って話も聞かないしパッとしないイメージがあるんだが

      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      ロシアから買った空母(アドミラル・ゴルシコフ)の艦載機(MiG-29)が古くなったからその更新用だからね

      1
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      他のライバルに比べて兵装搭載量や航続力の面で中途半端だし、少なくともロシア空軍向けの機体はAESA式レーダーを搭載していないので(インド空軍向けはAESA式になる可能性は有る)、性能的にはちょっとどうかなと言う気はする
      只、記事にもある様にインド空軍はMiG-29を導入済みで昨年も追加発注している位だから、調達&維持コスト的には一番優位だろうね
      おまけに、インド海軍も艦上機型のMiG-29Kを持っているから、将来的にインド海軍が増強する予定の国産空母の艦上戦闘機もMiG-35ベースの機体になる可能性が出て来る

        • 匿名
        • 2021年 2月 16日

        ロシア本国機でもAESE式じゃないってそれ存在価値あるの…?
        30年前の戦闘機か…?

          • 匿名
          • 2021年 2月 16日

          タイフーンやグリペン用のAESAだって登場して間もないし、
          量産戦闘機で初めてAESA積んだF-2の運用開始ですら20年前なんですが。

          1
      • 匿名
      • 2021年 2月 15日

      基本MiG―29Mで電子機器とかを近代化改修したみたいです、AESAレーダー搭載が売りですね。牛丼(ランボルギーニ)型戦闘機と思いますよ。

    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    >MiG-35の運用コストが安価である点とメンテンナンスが容易である点が大量導入に有利~

    コストやメンテナンスを気にするなら、su30ラファールmig29ミラージュ2000テジャスの5機種をせめて3機種ぐらいに絞ったらどうですか。

      • 匿名
      • 2021年 2月 16日

      ラファール→フランスに吹っ掛けられて単価260オーバーになった金食い虫
      ミラージュ2000→サポート切れで在庫パーツとの闘い
      MiG-29→微妙に物足りない
      テジャス→ゴミ

      うーんこの

    • 匿名
    • 2021年 2月 15日

    そういえばポーランドのような旧東側のNATO加盟国はまだソ連製ね装備保有してるけど
    稼働率や部品調達に不便してないんかな?

      • 匿名
      • 2021年 2月 16日

      Mig-29に関しては、旧東ドイツの整備デポとポーランド国内で補修部品の製造とオーバーホールをしてる模様
      エンジンに関しては、ロシアとウクライナからのオーバーホールキットを購入してポーランド国内でオーバーホールしているとか
      参考にしたサイトによると2010年代初頭にロシアの商社を通じて中古のRD-33を購入したりと、いろいろしていて面白い

      • 匿名
      • 2021年 2月 16日

      そういやロシア兵器ってミリネジなの?

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