インド太平洋関連

インドネシアとボーイングがF-15EX導入を交渉中、アローヘッド140建造もまもなく

ウクライナ侵攻に集中して暫くインドネシアの戦闘機やフリゲートの導入状況を放置してしまったが、F-15EX導入に向けた交渉が進んでおり、バブコックはフィンカンティエリよりも先にアローヘッド140の現地建造準備を終えている。

参考:Indo Defence 2022: Indonesia prepares to cut steel on first ‘Red White’ frigate
参考:Boeing’s $14 Billion Indonesia Jet Deal Stalls Over Financing

紆余曲折したインドネシア空軍の近代化は「2022年に前進を見せた」というのが正当な評価だが、資金供給が足を引っ張っていることに変わりがないもの事実

インドネシアは総額81億ドルでラファールを42機導入することで今年2月にフランスと合意、両国は6機のラファール導入に関する契約を締結しているため、合意された42機導入に必要な資金供給が一括で承認された訳では無く、これと同タイミングで米国務省が36機のF-15IDをインドネシアに売却する可能性を承認して議会に通知、これを受けて日本メディアは「ラファール導入が決まったのでF-15EXの敗退が決まった」と報じているが、この認識は完全に間違っている。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Alexander Cook

インドネシアとボーイングはF-15ID導入に向けて交渉を行っており、インドネシア空軍は2024年までに最初の8機を受け取るため2022年中の契約締結を目指しているが、ボーイング側は提示された支払い方法に課題(インドネシアは分割払いを要求)があると考えているため交渉が難航、年内の契約締結は難しいと予想されているものの「ラファール導入のように資金供給が確定した部分から製造して引き渡す方法」で交渉が決着する可能性も0ではない。

さらにインドネシアはストップしていたKF-21開発分担金の支払いを再開(2022年11月に約700万ドルを送金)しており、紆余曲折したインドネシア空軍の近代化は「2022年に前進を見せた」というのが正当な評価だが、依然として資金供給が足を引っ張っていることに変わりがないもの事実だ。

関連記事:パルリ仏国防相、インドネシアから42機のラファールを受注したと発表
関連記事:42機のラファールを調達するインドネシア、米国も36機のF-15EX売却を承認

営業力、技術力、ノウハウでイタリアや日本よりも先を行く英国、インドネシアの限られた資金枠を最初に開放

イタリアのフィンカンティエリは昨年6月「カルロ・ベルガミーニ級フリゲート(6隻)の売却に関する契約をインドネシアと締結した」と、英国のバブコックも昨年9月「アローヘッド140のインドネシア輸出契約(2隻)を受注した」と発表、これを受けて日本メディアは「もがみ型護衛艦の輸出が失敗に終わった」と報じているが、この認識も間違っている。

出典:インドネシア国防省 プラボウォ・スビアント国防相と会談する金杉駐インドネシア日本大使

日本とインドネシアは護衛艦の輸出交渉を継続しており、現地メディアの報道によると「昨年8月末に駐インドネシア日本大使の金杉憲治氏は防衛駐在官(1海佐)を伴いプラボウォ・スビアント国防相や国防省の高官と会談、この席で三菱重工業(MHI)からフリゲートを取得するための契約プロセスについて議論が行われた」と報じられており、MHIはもがみ型護衛艦の主事業者なので「インドネシアが日本から調達するフリゲートはもがみ型護衛艦で間違いない」と言及。

元ジェーンズのアルマン・ヘルヴァス氏(インドネシア特派員)も「インドネシアは当初もがみ型護衛艦を6隻調達したと考えていたが国防省が最終的に提出した資金要求案では調達数が4隻に縮小されており、この資金調達が今後承認されるのか注目したい」と述べているので、静かに両国の交渉は続いていると評価するのが妥当なところだろう。

出典:Babcock

問題は戦闘機導入と同じで資金供給が足を引っ張っている点で、イタリア、英国、日本からのフリゲート調達は何の前進も見せていなかったが、資金をどの計画に優先供給するのか定まっていないお団子状態から英国が抜け出すことに成功したらしい。

インドネシア国営企業のPT PALはジェーンズに対して「Ivor Hootfeld級フリゲートの着工準備を進めている最中で11月中に建造部品の切り出し式典を行う」と明かしており、このフリゲートはバブコックが提供したアローヘッド140の設計をインドネシア海軍向けにカスタマイズ(バブコックが主導する31型フリゲート/アローヘッド140コンソーシアムの一員であるドイツのMTG MarinetechnikとトルコのFIGESが担当)したものだ。

出典:fincantieri

つまり困難な交渉をまとめる営業力、顧客の要求に応じて設計を素早く変更する技術力、現地建造に必要な準備を進めるためのノウハウがイタリアや日本よりも先んじていたため、インドネシアの限られた資金枠を最初に手にしたという意味で非常に興味深い。

こんな厄介な相手ではなく「欧米の先進国に売り込んだ方が良い」という意見も一理あるが、輸出実績がないということは海外市場でのアピールポイントを1つ失うのに等しく、さらに欧州は金払いで問題が無くても入札条件=日本が最もノウハウのないオフセットや技術移転の条件が厳しく、米国に売り込むためには米国法人化するか米企業と手を組み米国人を雇用して米国で建造する必要ある。

出典:海上自衛隊

国産装備品の海外輸出を成功させたいなら結局、競合が比較的少ない東南アジア、中東、アフリカ市場で苦渋を舐めても実績を積むことが重要で、これをショートカットして直接巨大な欧米市場に参入するならカルロ・ベルガミーニ級フリゲートのような国際共同開発に参加するしかないだろう。

関連記事:現地メディアも驚くインドネシアのカルロ・ベルガミーニ級フリゲート購入
関連記事:英国、日本が護衛艦輸出を進めているインドネシアとフリゲート輸出契約を締結
関連記事:インドネシアへの護衛艦輸出に新たな動き、両国がフリゲート取得の契約プロセスについて議論か
関連記事:インドネシア国防省、もがみ型護衛艦×4隻調達に必要な資金要求案を提出か

 

※アイキャッチ画像の出典:Boeing F-15EX

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コメント

    • ボーン
    • 2022年 11月 07日

    戦闘機も戦闘艦もあっちこっちから買うのは凄いけども、大丈夫なんだろうか・・・?

    その・・・整備とか(それとも、今はそんなに問題無かったりするの?)

    24
      • 名前
      • 2022年 11月 07日

      昔はソ連からも買ってたわけで、インドネシア的には多国籍が常態なんでしょうが、多分稼働率は酷いでしょう。

      23
        • k.ziro
        • 2022年 11月 08日

        あの辺の国は植民地時代からある機関車や中古の日本の鉄道とか上手に運用していて、
        古いものの整備技術は結構あるんだけどね。

        1
          • no
          • 2022年 11月 09日

          そういえば、NHKの番組で、埼京線がジャカルタを走ってましたな。

      • 2022年 11月 08日

      部品取りつつ機体がなくなってきたらまた新しく買うのではないでしょうか。
      特定の陣営に加担してるのでなければ、そういった方法もありですね。

      7
    • 思い付きだけど
    • 2022年 11月 07日

    MHIが「もがみ型もどき」を売り込みに成功したら、目出度いことですね。4隻が3隻になって2隻になったとしても、実績が出来ればとても大きいです。

    26
      • t14
      • 2022年 11月 07日

      そのままだと色々適合しないのでいざ作るとなったら船体とユニコーンマスト以外ほぼ別物になりそうな気がしますね

      3
    • ななし
    • 2022年 11月 07日

    戦闘機ではKF-21にも手を出してますし、インドネシア政府や軍内部での派閥争いが絶対面倒くさいことになってそう。

    28
    • ブルーピーコック
    • 2022年 11月 07日

    支払いが物納の場合は、カレールーとシチュールー○年分のパーム油より、石炭か天然ガスで頼むよ(邪悪な笑み)

    2
      • hiroさん
      • 2022年 11月 07日

      パーム油は火力発電所の燃料でも使えますよ。

      4
        • ブルーピーコック
        • 2022年 11月 07日

        マーガリンとかルーなどの食用という認識しかなかったので、燃やすのは勿体ないと感じてしまいますね。

        3
    • バーナーキング
    • 2022年 11月 07日

    700万ドル送金…って未払い分は5億ドルとかじゃなかったっけ?
    こんなしょっぱい金額で「支払いは進行中」って事にして試作機をガメるつもりなのかな。
    してやったりのつもりが貴重なテストパイロットを失う事にならなきゃいいけど。

    7
      • no
      • 2022年 11月 09日

      ドル高なので許して下さい。

    • 伸縮性のあるボクサー型のスパッツに近い装甲車
    • 2022年 11月 07日

    インドネシアのf-15計画に関しては議会が明確な決定しないで先送りにしたんで年内に話がまとまる可能性はダメみたいですね…(諦観)

    コロナのせいでどこも軍事関連では懐事情が厳しいっすけど肯定的に見れば軍事市場に参入しようとする日本企業にとっては苛烈な他社との競合を強いられることはいい経験になるんじゃないすかね?(他人事)

    軍艦に関してはギリシャだとトルコに対抗してあわててフランスから結構購入して増強してるから国によってはかなり例年より契約数多いとこありそっすね

    軍事市場が景気いいのか悪いのかこれもうわかんねぇな

    2
    • T・A
    • 2022年 11月 07日

    しかし一応の高級機であるF-15EXになんでこだわるんだろう…
    性能は多少落ちるかもしれんがもうちょい安いマルチロール機がいくらでもあるのに背伸びし過ぎでは…

    9
      • 774rr
      • 2022年 11月 08日

      これから先、ちうごくと対峙する事を考えたら少しでも良い機体が欲しいと考えてもおかしくなさそう
      買えるなら無理してでもF35にしたい位なんじゃなかろうか

      13
      • nachteule
      • 2022年 11月 08日

       デチューンされなければ既存四世代機なら最高性能だと思うんでインドネシアが買う価値はあると思う。

      1
        • 匿名希望
        • 2022年 11月 08日

        デチェーンとは違うがPhantom Strikeの大型化モデルに変更してメンテ費用の軽減とか狙うのはありだよね。
        レーダーは同じレイセオンだし。

      • 匿名希望
      • 2022年 11月 08日

      F-35を除いたら最高グレードの機体だからね。
      あとSU-27系に対抗を考えるとね。

    • 名無しさん
    • 2022年 11月 08日

    例えば、いざ大量の対艦ミサイルが必要になったとして、
    フランスが出し渋ってもアメリカのLRASMが、
    逆にアメリカが出し渋ってもフランスのエグゾセが調達・使用可能と考えるとなかなかの対応力になると思う。
    整備は悲惨な事になりそうだが。

      • ネトウヨ
      • 2022年 11月 10日

      重視するものが違うんでしょうな

    • 名無しさん
    • 2022年 11月 08日

    インドネシアの政府調達事業は、推移が複雑怪奇過ぎなケースが多すぎて、
    正直どんな結末になっても「まぁインドネシアだし」って気分になる。

    まぁ、そんなんだから日本のような戦闘艦艇輸出の実績のない国でも
    入り込める余地があるのだが。。。

    8
    • 名無し2
    • 2022年 11月 08日

    「利益は出ないけど次に繋がるから」兵器産業って国レベルのやりがい搾取なんじゃ…

    2
    • 名無し2
    • 2022年 11月 08日

    しかし苦渋を舐めてでも修行を積むしかないのが兵器輸出道。武道を極めるにはこれも避けて通れない道なのだ

    4
    • HEAT信奉者
    • 2022年 11月 08日

    ナーガパーサ級の代金は支払った?

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