インド太平洋関連

中国にとっては目障り、インドネシア海軍が南シナ海に面した島に潜水艦基地を建設

インドネシア海軍は中国が主張する九段線と自国の排他的経済水域が重複するナトゥナ諸島周辺海域の防衛力を強化するため、南シナ海に面した大ナトゥナ島に潜水艦基地の建設を始めた。

参考:Indonesia begins construction of submarine base in South China Sea

インドネシア海軍によるナトゥナ諸島周辺の防衛力強化は中国海軍の艦艇にとって目障り存在になる

インドネシアと中国は直接的に南シナ海の領有権を巡る直接的な対立は無いが、南シナ海に面したナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)は中国が独自に主張する九段線の境界線と重複するため中国側の艦艇や漁船がインドネシア側のEEZに度々侵入して問題化している。

基本的にインドネシアは南シナ海における米中の対立について中立的立場を守っているが中国の九段線については国連海洋法条約に反しているとして認めておらず、大ナトゥナ島のラデンサジャド空軍基地にF-16を配備するなどナトゥナ諸島周辺海域の監視や防衛の強化を進めていたが、遂にインドネシア海軍は大ナトゥナ島に4,000万ドルの費用を投じて潜水艦専用の基地建設に乗り出した。

但し、潜水艦専用の基地といっても山肌をくり抜くような本格的なものではなく潜水艦を係留するための埠頭を整備したり、係留中の潜水艦に電力を供給するための設備や乗組員が休息をとれる施設を建設するだけでなので潜水艦自体の補修などは本島に出向く必要はあるが、大ナトゥナ島は南シナ海とシンガポール海峡を結ぶ絶好の位置にあるので同海域を航行する中国海軍の艦艇にとっては目障りな存在になるだろう。

この他にもインドネシア海軍は大ナトゥナ島に海兵隊の司令部を建設中で軍民共用で使用しているラデンサジャド空港の拡張や滑走路延長(2,560m→3,000m)にも取り組んでおり、このまま大ナトゥナ島が強化され続ければ軍事的な要衝になる可能性を秘めている。

余談だがKF-Xのプロトタイプ発表を控えた韓国ではインドネシアの抗議が話題になっている。

出典:KAIが公開したYouTube動画のスクリーンショット

昨年9月にKF-Xのプロトタイプ製造が最終組立に入ることを発表した際に使用された広報用写真に「共同開発国であるインドネシアの記述や国旗が記載されていなかった」と正式なルートを通じて抗議されたと軍関係者が明かし、韓国メディアは「開発費用の分担金を支払わないインドネシアに抗議されないといけないか?」と自嘲気味に伝えている。

あとプロトタイプ発表に出席するため韓国を訪問しているインドネシアのプラボウォ・スビアント国防大臣は韓国側と会談後「KF-Xの共同開発は両国の信頼関係を象徴する事業で今後も協力関係の強化に務める」とコメントを発表したが未払いの開発費用支払いについては一切触れておらず、結局KF-Xのプロトタイプは開発費用未払いという爆弾を抱えたまま完成発表を迎えることになりそうだ。

関連記事:インドネシアが韓国に突きつけた要求、KF-X開発費用分担比率10%引き下げか50億ドル分の借款か

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain インドネシア海軍

フランスとドイツが第6世代戦闘機「FCAS」のエンジンについてスペイン抜きで合意前のページ

中国、小型無人機を遠方に投射するため「無人空中スウォームシステム」を開発次のページ

関連記事

  1. インド太平洋関連

    韓国空軍の輸送機調達でC-130J、A400M、C-390が激突、エンブラエルの提案は魅力的

    韓国空軍が2026年までに調達を予定している中型軍用輸送機にロッキード…

  2. インド太平洋関連

    信頼性と将来性が明暗を分ける、インドネシアもA330MRTTを選択

    空中給油機導入を検討してきたインドネシアは「A330MRTTの取得を決…

  3. インド太平洋関連

    インド陸軍が進める砲兵装備の近代化、400門のATAGS調達を提案

    インドが開発を進めてきた52口径155mm榴弾砲「ATAGS」は202…

  4. インド太平洋関連

    豪政府、国防戦略の見直しを受けて次期歩兵戦闘車の調達数を1/3に削減

    オーストラリア政府は国防戦略の見直しを受けて次期歩兵戦闘車の調達数を大…

  5. インド太平洋関連

    米国、無人偵察機「グローバルホーク」を韓国に引渡すも、肝心の情報収集装置は未搭載

    これまで5回引渡しが延期されてきた韓国への無人偵察機「RQ-4 グロー…

  6. インド太平洋関連

    イスラエルの軍事技術に依存? 米メディア、韓国の第4.5世代戦闘機「KFX」は輸出困難

    イスラエル製の地形追随レーダーを採用した韓国が開発中の第4.5世代戦闘…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    >結局KF-Xのプロトタイプは開発費用未払いという爆弾を抱えたまま完成発表を迎えることになりそうだ。

    大丈夫だ!例によって(K-2,K-11その他いっぱい)永久に完成しないからその心配は無い

    12
      • 匿名
      • 2021年 4月 08日

      「『プロト』完成(=組み上がり)式」だからもう完成してるよ。

      13
      • 匿名
      • 2021年 4月 08日

      K-2は普通に完成してるしなんならポーランドへの売り込みもレオ2よりも優勢なのだが…

      6
        • 匿名
        • 2021年 4月 09日

        最初はトルコと組んでた筈なんだがな

        1
      • 匿名
      • 2021年 4月 10日

      K-2なんてもう30年以上前に完成してるじゃん
      Daewooが生産してた自動小銃だろ?

      2
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    なかなか絶妙な位置にあるなリアウ島
    こりゃ中国は鬱陶しがるわけだ

    21
      • 匿名
      • 2021年 4月 08日

      実際は、ここはリアウ島じゃなくて、ナトゥナ島なんだけどね。
      グーグルマップの地名日本語化で、州名であるKepulauan Riauに対し、リアウ諸島と語訳している。

      4
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    兵器の購入では色々と騒ぎを起こしているインドネシアだけど、軍事的にはキチンと手を打っているのは興味深い
    東南アジア諸国でここまで的確な施策を打てる国って意外と無いからね
    後、KF-Xだが相変わらず韓国はインドネシアに振り回されていてワロタ
    韓国は先日のソウル・釜山のダブル市長選で与党が大敗して現政権のレームダック化が確実になったから、来年の大統領交代までの間はインドネシアの良い様に弄られるだろうなあ(笑)

    10
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      領有権争いで大敗したお隣(?)フィリピンの現状を鑑みてかなり危機感を感じてるんじゃないかな
      今は領有権で争ってないとはいえ、そんなのは中国の舌先三寸でコロッと変わっちゃうし

      1
    • A
    • 2021年 4月 08日

    建設請負は中国系との落ち。

    7
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    インドネシアと韓国の両方の言い分は分かるけど、あえて言うならインドネシアはKFXの代わりはいくらでもあるから抜けられたら困るのは韓国だぞ

    15
      • 匿名
      • 2021年 4月 08日

      てかインドネシアはさっさと手を切りたいんじゃないの?
      違約金払いたくないから韓国側からブチ切れるの待ってるだけじゃ…。

      7
        • 匿名
        • 2021年 4月 09日

        どっちも関わり合いたくないのは間違いないね。

        モックアップ作っただけで、動くのかな?
        KFXとやらは。

        1
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    インドネシア図々しいなw

    6
      • 匿名
      • 2021年 4月 08日

      むしろ好敵手と誉めたい

      5
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    基地の位置が絶妙すぎる

    9
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    インドネシア「ノーマネーでフィニッシュです」

    5
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    インドネシアは何かと事業から降りる口実を探してるのに、韓国の脇の甘さはこの記事で判る
    というか、すでに諦めムードなんだろ
    寄せ集め技術でも純国産って言い張るためには、スポンサー位置のインドネシアすら邪魔だもんな

    3
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    マジで南シナ海の領有権主張は複雑怪奇なモザイク模様だな…
    九段線などという牛タンだけはない

    9
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    中国に対して嫌がらせをするには何をすればいいのかを一番よく教えてくれていると思う。
    なんてことはない、中国と同じやり方で返せばいいと。
    中国は嫌がらせの達人なのだから真似すれば中国も嫌に決まっている。

    14
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    Googleマップによると星4.4か。ステキな島に基地を作るんだな。

    5
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      インドネシア政府も馬鹿な真似をするもんだわ
      ジュゴンや海洋生物を犠牲にしてまでするもんじゃ無いのに…

      1
        • A
        • 2021年 4月 09日

        何もしないで中国領になったらもっとすごいことになりません?
        全部が滑走路になった島もあったとか。

        7
        • 匿名
        • 2021年 4月 10日

        空母導入ですね!(ぐるぐる目)

        2
    • 匿名
    • 2021年 4月 08日

    余談のKF-Xネタは別に紹介してほしかったかな
    コメント欄がそちらに振られちゃう

    8
    • 匿名
    • 2021年 4月 09日

    今のインドネシアは、1981年就役のチャクラ級潜水艦(2隻)と、
    韓国の張保皐級潜水艦がベースである、ナーガパーサ級潜水艦(3隻)しか保有していない。
    しかも、ナーガパーサ級潜水艦の4〜6番艦は、韓国と揉めていて雲行きが怪しいし、
    大ナトゥナ島に潜水艦基地を建設しても、インドネシアは有効活用できるのだろうか…。

    1
    • 匿名
    • 2021年 4月 09日

    インドネシアは中国の九段線に対抗するために、ナトゥナ諸島の開発振興を進めてきた。
    日本はインドネシアからの要請で、安倍政権時代に総額30億円以上をナトゥナ諸島の
    漁業振興目的にODA供与を決定している。
    リンク

    • 匿名
    • 2021年 4月 09日

    正直単に中国を刺激するだけの愚策としか思えないけどなぁ…
    インドネシアも中国の紐付きでなければやって行けない国なのに

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      こちらが大人しくしていても、中国は欲しいもんは盗りに来るでしょうが
      インドネシアもダメダメに見えて、潜在力の大きな将来の大国ですよ、
      誰も中華の言いなりになるわけがない

      6
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      機嫌や思惑次第ですぐに輸出入禁止をかましてくる中国に、刺激したくないから下手に出るのは愚策だと判断したんでしょう

      4
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      中国なんて刺激しようがしまいが周辺諸国に圧力かけてくる国だし
      アジア諸国全体がその事に気付きつつある
      欧米も合流して処断する空気も高まってきている

      4
    • 匿名
    • 2021年 4月 09日

    元々KF-Xに金出したのも対中国を意識してという話だし基地建設は既定路線なんじゃないかな。資金出し渋って国旗出せというのは図々しいとは思うけどw

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 09日

      そこが付け目よ
      インドネシアからすると開発パートナーなのに韓国から存在を無視されてると、カネを出さない口実を与えて貰ったようなもん
      韓国からすると、出すもん出さないインドネシアにイラついてるんだろうが、過去の経験則から言えばインドネシアがすんなりカネを出しても、韓国は単独開発の純国産戦闘機って言い張るのは目に見えてるでしょうがw

    • 匿名
    • 2021年 4月 09日

    場所的には中国よりもタイ、ベトナム、マレーシア、ブルネイ(イギリス)のチョークポイントで、案外と中国は容認していたりしてな。

    • 匿名
    • 2021年 4月 10日

    素人考えですが、潜水艦の基地より対艦ミサイルとか滑走路の方がいいのではと思ってしまいます

    1
    • 匿名
    • 2021年 7月 04日

    潜水艦はなぜドイツ製にしなかったのかな。値段?

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  2. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  5. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
PAGE TOP