インド太平洋関連

フィリピン、米国が提案したAH-1ZもAH-64Eも高価すぎて購入拒否

フィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防大臣は13日、米国が販売を承認した攻撃ヘリの価格はフィリピン政府の購入予算からかけ離れすぎているので拒否したと述べた。

参考:Lorenzana: PH ‘can’t afford’ US attack choppers

2.6億ドルしか予算がないフィリピンに4億5,000万ドルと15億ドルを提案する米国

フィリピン政府は攻撃ヘリ調達プログラムに割ける予算は130億ペソ(約2.6億ドル)しかないにも関わらず、米国は約4億5,000万ドル(約480億円)で8機のAH-1Z「ヴァイパー」販売する案と約15億ドル(約1,600億円)で8機のAH-64E「アパッチ・ガーディアン」を販売する案を提案してきたため無理だと言っているのだ。

出典: MilborneOne / CC BY-SA 4.0 T129 ATAK

そもそもフィリピンは価格の安いトルコ製攻撃ヘリ「T129 ATAK」を6機購入する予定だったのだが米国のトルコ制裁の影響で入手が難しくなりAH-1ZもAH-64Eも高価過ぎて手が出せないため、当分はヨルダンから譲渡された中古のAH-1S(2機)で凌がなければならない。

補足:トルコが製造している攻撃ヘリ「T129 ATAK」はイタリアのアグスタ(現アグスタウェストランド)が開発した「A129 マングスタ」をライセンス生産したものでエンジンはA129と同じ米国のハネウェルと英国のロールスロイスの合弁企業「LHTEC」が製造した「LHTEC T800」を搭載しているのだが、米国はこのエンジンの輸出承認を拒否しているためトルコはT129を製造することが出来なくなってしまった。

ただ米国がフィリピンに提案したAH-1ZとAH-64Eの内容をよく見ると、これはこれで酷い点がある。

出典:David Monniaux / CC BY-SA 3.0 対戦車ミサイルAGM-114

約4億5,000万ドルのAH-1Z提案内容には同機が携行する対戦車ミサイルAGM-114がたった「6発」しか含まれていないのに対し、約15億ドルのAH-64Eの提案内容には対戦車ミサイルAGM-114が「200発」も含まれており両機の提案はバランスが取れていない。

補足:対戦車ミサイルAGM-114の調達価格は米軍向け(2021会計年度予算)の場合、1発あたり約7万ドルと言われている。

別の見方をするなら米国は予算の少ないフィリピンのためにAH-1Zの総費用を極力抑えたつもりなのかもしれないが、AH-1ZはAGM-114を最大16発搭載するため提案に含まれた6発だけでは1機分の必要量も満たせない。結局、まともに運用するならAGM-114を追加発注しなければならないためAH-1Zの総費用は4億5,000万ドルでは収まらないという意味だ。

もしかしたらフィリピンのロレンザーナ国防大臣は、その辺りの事情も込みで購入予算からかけ離れすぎていると言ってるのかもしれない。

と、書いておいてなんだが、そもそもフィリピンは国内のテロ対策に使用するため攻撃ヘリを導入するのだが、テロ対策に本格的な攻撃ヘリや対戦車ミサイルが必要なのだろうか?恐らくトルコ製の攻撃ヘリ「T129 ATAK」ですらオーバースペックだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain AH-1Z「ヴァイパー」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    こんなん典型的な断る見積もりでしょ。米国も初手から受注する気がない。ところで日本は水陸機動団用にAH-1Zが欲しいね。

      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      日本の島嶼防衛でどう活用できるのか、なぜ欲しいのかがいまいちよく分からない・・。
      そして、米海兵隊の再編の方向を見る限り消えゆく運命であるのは間違いなさそう。

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    国内のテロ対策と言ってもフィリピンの反政府ゲリラが携行型地対空ミサイルを入手していて戦闘ヘリが墜とされたら損害は計り知れない。

    戦闘ヘリって使いどころが難しい兵器だと思う。

    あとトルコのライセンス生産品とは言えマングスタってわりと安く買えるんだ。

    2
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    そこでこう、Bell412EPXに機銃でもつけて運用しませんかと……

    ないな

    2
      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      >Bell412EPXに機銃でもつけて…
      なかなか良い案だと思いますよ。
      なんでもこなせる素直そうな機体ですので。
      でも大逆転でまさかのスリオンとか。
      それこそ
      >ないな
      ですね。

      2
        • 匿名
        • 2020年 5月 15日

        スリオンの線は結構「ある」と思うよ。
        輸出実績が欲しい韓国は平然とダンピングするだろうしフィリピンはドゥテルテ含めて賄賂に弱そうだし、そうなると両者の思惑が一致してビックリ激安価格の韓国ヘリをフィリピンが導入ってなる可能性は低くはないと思う。
        フィリピン納入後に(欠陥で)墜ちたとしてもフィリピンの整備能力が~って言い訳もできるし。

        1
          • 匿名
          • 2020年 11月 15日

          練習機を改良した軽攻撃機で良いのではないかな。

      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      フィリピン空軍は今も「地獄の黙示録」にも出演したUH-1のガンシンップを運用しているくらいですからあながち
      「ないな」でもないかもしれません

      その場合はカイオワになるのが順当だと思いますが…

      1
      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      UH-1系にサガミマウントでも付けて運用すれば十分役に立ちそう。
      そう言えば「地獄の黙示録」はフィリピンで撮影したそう。

      1
      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      フィリピンにはレーダーも選定してもらったしUH-Xの民間型はかなり引き合いも強いんで普通にありえるよ?
      他の安いヘリの選択肢はあとはスリオン(笑)ぐらいしかないけど不具合がいつまで経っても放置されるゴミな上に最近フィリピンは(フィリピンに限らず)韓国軍事技術への不信感を強めてるからな
      トルコが駄目となるとマジでベル・富士重ぐらいしかない

      2
        • 匿名
        • 2020年 5月 15日

        見方にミサイルを当てちゃったのはフィリピンでしたよね。
        なんらかの原因で。
        トラウマになってたりして…。

          • 匿名
          • 2020年 5月 15日

          K国的にはそれすらも「戦果」だそうでw

          1
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    フィリピンは対中国の最前線だから、名目上はテロ対策でも、今後本格的に対戦ヘリを揃える為の試金石の可能性もある

    イタリアの機甲戦力がマフィアとの戦いも想定しているように、フィリピンにとっての対テロが切実に重要なのかも知れないけど

    3
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    人狩り任務といえ最近ISが合流してたりもするし、携行対空ミサイルなんか持ち出されたら、なるべくアウトレンジしたいですよね

    1
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    テロ対策なら、レーザー誘導化した70mmロケットで大部分まかなえるのでは?

    1
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    初等練習機兼用のCOIN機と、どちらが安く済むのでしょうね。

      • 匿名
      • 2020年 5月 16日

      そのCOIN機でゲリラに急降下爆撃してんのがフィリピン空軍ですよ…
      ホバリングして機銃掃射できるヘリも欲しいって事なんじゃないかなぁ?

      2
    • 匿名
    • 2020年 5月 16日

    南アフリカ製のロイホックじゃいかんのかな。HAL 軽戦闘ヘリコプター、開発中だが、韓国のKAI LCH/LAHもあるよね

    • 匿名
    • 2020年 5月 17日

    フィリピンも安価な中国製兵器体系に移行するかもね。
    政治的にもコウモリ化してるフィリピンに、アメリカが軍事援助を惜しめばそうなるだろう。
    そうやって中国はフィリピンを籠絡して味方陣営に引き込むと考えられる。

    • 匿名
    • 2020年 7月 11日

    正直その辺の国のいい加減な機体を買うと維持コストやアフターサービスでかえって高くつきかねない。

    日本も言うほど必要はないのでは
    アパッチの失敗があるにしろ、それでも必要があるなら代替の計画が始まるのにいまだに始まらない。

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