インド太平洋関連

シンガポール海軍の新戦力、トマホーク搭載可能なインヴィンシブル級潜水艦

シンガポールがドイツに発注したインヴィンシブル級潜水艦(Type 218SG)1番艦が海上試験を開始したと報じられている。

参考:New Type 218SG submarine “Invincible” built for Singapore Navy starts factory sea trials

シンガポール海軍期待の新鋭潜水艦、インヴィンシブル級が海上試験を開始

シンガポールは2017年、海軍が運用しているスウェーデンが建造した潜水艦(チャレンジャー級×2/アーチャー級×2隻)の更新用としてドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)にインヴィンシブル級潜水艦(Type 218SG)を計4隻発注、昨年2月に進水(実際に陸で建造されているため実際に海に浮かんだ訳でない)した1番艦のインヴィンシブルがキール沖で海上試験を開始したと報じられている。

出典:ThyssenKrupp Marine SystemsのFacebook

このインヴィンシブル級潜水艦はTKMSが輸出用潜水艦として設計したType216(豪州のコリンズ級潜水艦の後継に提案されたプラン)をベースにシンガポール独自のカスマイズが施された設計だと言われているが、実際にはType216に採用された新しい技術やアイデアをType214に落とし込んだものと言う方が正しい。

インヴィンシブル級潜水艦の大まかなスペックは基準排水量約2,000トン、ドイツが得意とする燃料電池方式のAIP機関を搭載して水中15ノット/水上10ノット、魚雷発射管8門を備えており、特に目を引く部分はTKMSとサーブが共同開発した水平式の多目的チューブ(正式名はHorizontal Multi-Purpose Lock:HMPL)と圧倒的な省力化技術だ。

このHMPLは米海軍のバージニア級原潜で採用されているバージニア・ペイロード・チューブ(VPT)に類似したもので、バージニア級原潜は巡航ミサイル「トマホーク」を搭載するため垂直発射管(VLS)を12基、船体後部に特殊部隊「SEALs」を海中から出撃・回収するためのエアロック・チャンバーを備えていたが、これを大口径の入れ替え可能なチューブに置き換えることで幅広い任務や新技術採用に対する柔軟性を向上させることに成功。

出典:public domain バージニア・ペイロード・チューブのハッチが開いた状態

ただTKMSとサーブが共同開発したHMPLはバージニア級原潜の垂直に設置されたVPTとは異なり、水平(艦首方向)に搭載されているためVPTのように機能の異なるチューブを入れ替えることが可能なのは不明だが、VPTのようにHMPLにも巡航ミサイル「トマホーク」を搭載することが可能(シンガポールが実際にトマホークを導入するのかは未定)だと言われている。

さらに最新の省力化技術が採用されたインヴィンシブル級潜水艦の乗組員は28人(+特殊部隊隊員)なので、通常時約9人(3交代勤務)で艦を運用することが可能というのだから驚きだ。豪州に提案した基準排水量4,000トンのType216でも必要な乗組員は33人なので、ドイツが確立した潜水艦の省力化技術は潜水艦の大きさによって大きく左右されないレベルに達しているのだろう。

因みにインヴィンシブル級潜水艦1隻あたりの導入費用は約9億ドル(約955億円:潜水艦本体の調達費用の他に保守費用や要員の訓練費用等込み)と言われ、1番艦は2021年にシンガポール海軍へ引き渡される予定になっている。

 

※アイキャッチ画像の出典:Republic of Singapore Navy / CC BY-SA 4.0 インヴィンシブル級潜水艦

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    アタック級との格差が凄い・・・
    フランスの提案したやつがどうこうというより、国内での建造にこだわったせいなんだろうけどそれにしてもなぁ

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    何処の外国も長距離巡航ミサイルとか普通に持ってて羨ましい…

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    韓国の潜水艦に似てるなと思ったけど
    韓国のはドイツのパクリだからこっちが正統なんだよな

    2
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    といいますかライセンスを受けての生産ですね。
    そういった兵器に「独自開発」と銘打っているのがいつもの彼らというだけのこと。
    設計は海外のどこかへ丸投げで一部のパーツの生産と組み立てだけ行った兵器も「独自開発」なので、当然KFXも独自開発なのです。

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    ドイツ海軍潜水艦部隊は、まだ生きていますか?

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      伝統と栄光あるドイツ海軍潜水艦隊をバカにするんじゃない!

      ちょっと、乗るフネが無いだけだ…

      2
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      以前、稼働数0なんてあったけど今は流石に何隻か動いてるでしょう。

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    通常動力型潜水艦は、隠密性が命なのに発射時に所在がバレるような巡航ミサイルを持ってどうするのだろう。しかも、通常弾頭で数発しか搭載できないのだから戦果は限られているだろうし。まさか、バレないようにインド洋や南太平洋の真ん中まで進出して発射するわけでもあるまい。シンガポール海軍には、カタログスペック豪華主義者がいるのなかな。

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      イヤイヤ、東南アジア諸国は発射を探知できる能力を持っていないのだろうから隙だらけだろう。

      3
        • 匿名
        • 2020年 9月 03日

        そもそも潜水艦がどうやって目標を探知するのかという方が問題じゃないか?
        地上の固定目標であっても、衛星が無ければ誘導は厳しいのでは?
        核弾頭なら適当に撃っても誤差の範囲だが。

          • 匿名
          • 2020年 9月 04日

          は?衛星が何に要るんだ?トマホークでも他の巡航ミサイルでも発射誘導プロセスで衛星なんか補助
          としてしか使わないだろ(タクトマの画像伝送用の衛星データリンクとかぐらい?)
          衛星なんかなくても基本的に運用可能で固定目標へのCEP5m~10m 前後を発揮出来るでしょ

            • 匿名
            • 2020年 9月 04日

            つまり衛星を使っているということだろそれw

            3
            • 匿名
            • 2020年 9月 06日

            >>2020年 9月 04日
            >>つまり衛星を使っているということだろそれw

            読解力無さ過ぎだろ

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      所在が分かっても対抗する兵器やすぐ駆け付けれる部隊がないと反撃のしようがない(たとえアメリカであっても
      いくらなんでも敵中ど真ん中で発射なんてしないだろうから、場所がバレるってのはあんまり問題ではないと思う

      3
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      射程の短めのハープーンならまだしも、トマホークならそこまで問題にならないと思うけど

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    英国や仏の空母でも省力化が進んでいるけどダメコン的にはどうなんだろ

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      潜水艦の中の人が負傷する事態ってそれもうフネ助からないよね

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    省人化技術はちょっとうらやましい。
    同じ大きさなら人が少ない分、船内環境は快適にでき食料も長持ちするので
    自衛隊も積極的に研究して潜水艦省人化の長短所を洗い出してほしい。

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      日本は、太平洋戦争でアメリカとの死闘で艦船や人的な被害が大きかったので、海上自衛隊でもダメコンには注力しているよね。
      特に、潜水艦についてはことさら神経質になっているから、おいそれと省力化ができないんじゃないかな。

      2
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      本当? って疑問もある
      所詮、バルト海って内海の哨戒用
      (艦艇の探知だけで)対潜水艦探知の業務を大幅削減の結果だったりしたら笑える、ソースは212/214型の船首ソナーの大きさ
      (現在のドイツ軍、ドイツ国防産業ならありえるかもねって思う)

      2
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      日本の潜水艦は一日三交代制で8時間勤務だが215はたぶん二交代で12時間、一か月以上の連続勤務が続く日本はどうしても人員が増える。

      1
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      乗組員が28人なら、2,000トンでも個人の専用ベッドがもらえそう。

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    イヤイヤ、東南アジア諸国は発射を探知できる能力を持っていないのだろうから隙だらけだろう。

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    オーストラリアもドイツの216型にしておけばかなり違っただろうな

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    シンガポールの軍事力って普通にドイツより上になってない?

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    イスラエルが発注したドルフィン3級? 3隻 もこれに似た仕様かな?
    理由は知らないけど、ドイツ政府が建造費の50%を負担する・・・
    これを艦首に設置したら、魚雷発射管の数は212/214型から減らすにしても、船首のソナーを大型化(212比で)できないと思う
    どう折り合いをつけてるんだろう?
    (そういった意味ではドルフィン級は別物?)  

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      そういえばドルフィン級って、核巡航ミサイルを積んで核抑止を担ってるらしいですね。

    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    戦闘機はF-35で更新するし東南アジアでは頭一つ抜けた軍事力だなシンガポール

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      しかも、F-35Bと来た。
      独自の強襲揚陸艦も作るらしいし、東南アジアにも機動部隊ができるのかな?

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    ダメコンは諦めて省人化か・・・。

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      小型潜だと被弾したら即アウトだろうからダメコン自体が意味を成さないって考えじゃないかな。
      そのうち乗員は脱出モジュールを兼ねた指揮区画に一纏めになって戦闘機みたいに被弾即脱出なんて方向に行くかもね。

      3
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    基本的に潜水艦は1発くらうとアウト、ダメージコントロールに大小はあまり意味をなさない
    あとは求められる機能をどのくらいコンパクトにまとめるかで有利になる
    シンガポールの海軍規模、地理からするとこのサイズが正解という
    トマホークは載せないと思うよ、機雷だの水中ドローンの用途に拡張すると考えて妥当

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      直撃しなくても水中爆発の圧力で水漏れってのが潜水艦ダメコンの一番多いケースだと思うけど
      直撃以外のケースを考えないのは極論すぎないかい?

      1
        • 匿名
        • 2020年 9月 03日

        それはないね、今は爆雷だの水中核の使用はないから直撃のみ。そしてロシアの巨大な複殻式でもせいぜいヘリ搭載魚雷を防御できるかどうかくらいなもん。
        潜水艦乗りは、1発当たればお陀仏を覚悟してるよ

        1
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    通常時9人体制ってこんな感じか、何か兼任しないとトイレもいけないな
    あと食事も手の込んだのは期待できないかも
    艦長…1人
    操舵…1人
    水測…2人
    機関長…1人
    機関士…1人
    水雷…2名
    調理員…1名

      • 匿名
      • 2020年 9月 03日

      アルファ級みたく、省力化のぶんはレトルト頼りでしょうね。コックはゼロかも。
      原潜ほどの長期航海はないから我慢の日々(笑)

      1
    • 匿名
    • 2020年 9月 03日

    日本は省力化技術低いから羨ましい
    只でさえ自衛隊は人手不足なのに

      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      省力化すると平時は良いけど、非常時にはヘルゲ・イングスタッドみたいな末路になりそう

      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      お、そうだな(3900t型護衛艦を見ながら)

    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    「「中国艦隊、第3列島線に接近」ハワイ沖で訓練 台湾・国防部
    2020.9.3 21:40」
    中国さまはそんなものには目もくれず

    シンガポールって華人が74%占めてるんだよな

      • 匿名
      • 2020年 9月 04日

      その華人も、建国時からの先住華人と共産党政権からの後発華人とではまったく別物扱い
      後からきた同胞は移民扱いされ格差や差別すらあるという不思議な状況
      限りなく西側に近い独裁制先進国というややこしいシンガポールに旗色を問うのはムダだよね

      5
    • 匿名
    • 2020年 9月 04日

    ドイツが確立した潜水艦の省力化技術は気になるけど、ドイツ海軍の潜水艦の糞っぷりェ・・・

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