インド太平洋関連

米国製戦闘機は制限が多く航空ショー向き?Su-35こそインドネシアに最適か

ロシアはインドネシアへの米国の圧力は「不当競争の現れ」だと批判、同国への戦闘機「Su-35」の売り込みを続けていくと公式に表明した。

参考:РФ готова адаптировать Су-35 для нужд ВВС Индонезии

果たしてインドネシアの選択は?制限の多い米国製戦闘機VS自由なロシア製戦闘機

今回の本題に入る前にインドネシアが置かれた状況を簡単に説明しておく。

インドネシアは東ティモール問題の影響で欧米から武器禁輸措置(欧州は2000年解除/米国は2005年解除)を受けていたため非欧米(ロシアや韓国等)からの軍用機調達が進み、第4.5世代戦闘機機Su-35導入に向けてロシアとの交渉が行われてたのだが、トランプ政権誕生後に成立した「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」の影響で米国がインドネシアのSu-35導入を問題視し始めた。

出典:Radoslaw Maciejewski / stock.adobe.com

そこで米国は外交ルートを通じてインドネシアにロシア製戦闘機Su-35導入を中止して米国製戦闘機F-16Vを購入するよう要求した結果、昨年10月にインドネシアは唐突にF-16V導入を発表して世界を驚かせたのだ。

恐らくインドネシアはSu-35導入を諦める代わりに米国から何らの政治的見返りやF-16V導入に関する条件面で優遇措置を受け取ったと思われる。

以上の結果、インドネシアはロシアとのSu-35導入交渉を中止もしくは凍結したと見られており、これにロシアは反発してこれまで何度も「インドネシアとのSu-35導入交渉は終わっていない」と主張してきた。

ようやくここからが今回の本題だ。

ロシア製防衛機器輸出を仲介する唯一の企業 「ロソボロネクスポート(ROSOBORONEXPORT)」は29日に発表したプレスリリースの中で「ロシアは最新の戦闘機Su-35をインドネシアに供給可能で顧客のニーズに可能な限り合わせる事ができる、これはインドネシア空軍の戦闘能力を高める上で最も最良の選択であると確信している」と主張、さらにインドネシアを含む国々がロシアのSu-35購入を強制的に放棄させる試みは容認できないとも指摘して、このようなやり方は「不当競争の現れ」だと付け加えた。

出典:public domain ロシア空軍のSu-35

ロシア国防省が運用する公式メディア「ZVEZDA」も同社のプレスリリースを引用する形で報じているため、これはロソボロネクスポートの主張というよりもロシアという国家の意思の現れだと受け取るべきだだろう。

果たしてロシアが言うようにSu-35はインドネシア空軍の戦闘能力を高める上で最も最良の選択なのだろうか?

これについて非常に興味深い話がある。

参考:Malaysian Prime Minister Mahathir Claims American Fighters Are Only Useful for Airshows – Why F-18s Can’t Fight Without Washington’s Permission

マレーシアの元首相マハティール氏はカタールメディア「アルジャジーラ」の取材に対して米国製戦闘機F/A-18Dを運用した経験を語っており、マハティール氏の説明によれば米国製戦闘機は機体の性能が良く搭載されているエンジンも強力なのだが、残念なことに航空ショーにしか使用することができないと指摘した。

出典:public domain マレーシア空軍のF/A-18D

米国製戦闘機は常に米国のコントロール下にあるため米国が指定する対象への攻撃にしか使用することができないため、マレーシア独自の判断でF/A-18Dを使用して軍事作戦を行う際には米国に依頼してソースコードを書き換えてもらわなければならないが、これは事実上不可能だと言っている。

さらに米国製戦闘機のソースコードは欧州には解放している可能性が高いが、それ以外の国に解放される可能性は0に近いと指摘して、非欧州の国にとっては米国製戦闘機にような制限のないロシア製戦闘機の方が導入国の判断で自由に使用できると力説した。

これはマレーシア政府がF/A-18D、MiG-29、Su-30の後継機調達を検討していることを意識しての発言だろうと思われるが、もしマハティール氏の発言が正しいのならマレーシアが再び米国製戦闘機を選択する可能性は非常に低いのかもしれない。

さらに言えばインドネシアはSu-35の代わりに導入を発表したF-16Vを購入すれば恐らく中国軍を攻撃することに使用できても、潜在的な敵対関係にあるオーストラリア(東ティモール分離独立の件で対立が決定的になった)に対しては使用することができないということになる。

今のところインドネシアがF-16V導入を発表しているが、直ぐに決定をひっくり返すので契約を結び引き渡しが行われるまで何が起こるかわからない。

果たしてインドシアはロシアとの関係を断って米国との関係を取るのか、安保上の観点から米国とロシアの二股関係を続けるのか注目される。

 

※アイキャッチ画像の出典:Moose / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 5月 31日

    入植してきた白人の迫害から逃れるために当時の一部原住民が
    インドネシアに移住した事もあって
    オーストラリアとインドネシアって元々関係が険悪だったって
    聞いたことがあるな。
    で、実際にオーストラリア側はインドネシアの報復を恐れているんだとか。

      • 匿名
      • 2020年 5月 31日

      だからといって、ロシアがインドネシアを支え切れるわけも無し。

      • 匿名
      • 2020年 6月 01日

      確かに人口は10倍ですからね。

    • 匿名
    • 2020年 5月 31日

    導入した米戦闘機の、普段うかがい知ることが出来ない実情が書かれていて良い記事だね。
    こういう記事に当たるには、ブログで取り上げた本数の、何倍もの英文記事を読まなければならない。
    タイトルに惹かれて読み進めると、やたら長い記事だったり、あるいは、内容がない記事だったりもあるだろう。
    学校英語では見かけない難しい英単語がたくさん出てくる。消化して、要約するのは大変な努力だ。
    これからも、マイペースで、地道な活動に期待しています。

    6
    • 匿名
    • 2020年 5月 31日

    かと言って死の商人みたいに言われても困るし
    ダブルOでも言われたフランスは置いといて

    • 匿名
    • 2020年 5月 31日

    >米国製戦闘機は常に米国のコントロール下にあるため米国が指定する対象への攻撃にしか使用することができないため、マレーシア独自の判断でF/A-18Dを使用して軍事作戦を行う際には米国に依頼してソースコードを書き換えてもらわなければならないが、これは事実上不可能だと言っている。

    なんのことを言ってるんだろう・・
    ソースコードレベルで弄らないと作戦行動を行えないなんてありえないはずだから、軍部の人間が政治の人間に分かりやすく「無理です」って伝えようとしたとか?

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 01日

      IFFあたりのことですかね?

      • 匿名
      • 2020年 6月 01日

      そもそもマレーシアの仮想敵国ってどこ?

        • 匿名
        • 2020年 6月 01日

        2000年代だと

        >マレーシアは実質的に存在しない敵の攻撃に備えるという、奇妙に恵まれた状況に置かれることとなった。
        リンク
        2010年代だと南沙諸島絡みで中国かな?

          • 匿名
          • 2020年 6月 02日

          >存在しない敵の攻撃に備えるという…。
          うらやましいですねー。
          ご教授ありがとうございました。

      • 匿名
      • 2020年 6月 05日

      対地攻撃でいうなら地図情報がないとかではなかろうか。

    • 匿名
    • 2020年 6月 01日

    >非欧州の国にとっては米国製戦闘機にような制限のないロシア製戦闘機の方が導入国の判断で自由に使用できると力説した。

    ここ意味が分からない。

      • 匿名
      • 2020年 6月 01日

      IFFの判定を簡単に書き換えられるのがロシア製、とかかな?

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