インド太平洋関連

国防支出5.0%達成を約束している台湾、需要の高い米国製装備で納入優遇か

台湾の国営メディアは8日「米国第一主義の武器移転戦略は台湾にとって有利だ」「台湾は米戦略計画における地理的重要性、国防支出の5.0%達成を約束しているためワシントンの優先パートナーだ」「複数の同盟国が納入待ちの長い列を作っている需要の高い米国製装備で納入順位が優遇される」と報じた。

参考:Washington’s new arms sales strategy good for Taiwan: U.S. expert

総額5.0%の達成を政治的に約束しなければ米国製装備の購入で差別を受ける

NATO加盟国は昨年6月の首脳会談で国防支出の新たな基準=総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)で合意し、米国は日本、韓国、台湾、オーストラリアに対しても「総額5.0%の受け入れ」もしくは「純粋な国防費の3.5%達成」を要求、台湾は昨年8月「2026年までに3.5%、2030年までに5.0%を達成する」と約束、韓国も昨年9月の米韓首脳会談で「国防予算を3.5%まで段階的に引き上げる」と約束、オーストラリアは米国の要請を拒否して「2033年~2034年までに2.4%(現在は2.02%)まで引き上げる方針」を堅持した。

出典:U.S. Department of Defense

日本は当時の石破首相が「防衛費は日本が決めるものだ」「他国に言われて決めるものではない」と述べたが、高市首相は所信表明演説の中で「防衛費2.0%への引き上げを2年前倒して今年度中に実現する」と表明、ただし「2.0%以上への引き上げ」については議論が始まったばかりで、インド太平洋地域の同盟国やパートナーの中で「国防費増額への取り組み」が最も遅れている。

国防総省は23日に発表した国家防衛戦略(NDS)の中で「トランプ大統領が述べたように米軍の最優先事項は米国本土を守ることである。したがって、国防総省は西半球全域における米国の利益を守ることを含め、本土防衛を優先する」「あまりにも長い間、同盟国やパートナーは我々に自国の防衛を肩代わりさせてきた」「その結果、政治家が体裁を整える一方で実際のコストを負担してきたのは一般の米国民だった」「我々はNATO首脳会談で国防支出の新たな世界基準=総額5.0%を提示した」と言及し、米国はNDSを発表して直ぐ「コルビー国防次官を韓国と日本に派遣する」と発表した。

出典:U.S. Army photo by Cpl. David Poleski

要するにNATO加盟国が合意した総額5.0%は「米国の同盟国およびパートナーが負担すべき新たな基準額」という意味で、コルビー国防次官は韓国を訪問して「大統領は長年『同盟は一方的な依存ではなく共同責任に基づくべきだ』と強調してきた」「これを最もよく理解して実践している国が韓国だ」「だからこそ私は戦争省(トランプ大統領が承認した国防総省の新名称のことだが、議会は承認していないため現時点は通称に過ぎない)の政策次官として最初の海外訪問先に韓国を選んだのだ」「李大統領が国防費をGDP比3.5%まで増額し、防衛責任を従来よりも拡大すると決定したことは非常に賢明で現実的な判断だ」と発言。

日本メディアは韓国の次に日本を訪問したコルビー国防次官について「防衛費増額に関して具体的な議論はなかった」と報じたものの、これは「日本が米国から防衛費増額を要求されなかった」という意味ではなく、トランプ大統領は6日「米国第一主義の武器移転戦略」と名付けられた新たな大統領令に署名し「新たな世界基準まで国防支出引き上げに応じた国には武器売却を優先する」と宣言、つまり「総額5.0%の達成を政治的に約束しなければ米国製装備(例えばAN/SPY-6、F-35、パトリオットなど)の購入で冷遇される」という意味だ。

出典:The White House

台湾の国営メディア=中央通信社は「新たに発表された米国の武器移転戦略は台湾にとって有利だ」と報じ、台湾の防衛問題を研究するジョージ・メイソン大学のマイケル・ハンゼカー准教授は6日に発表された米国第一主義の武器移転戦略について以下のように説明した。

“この政策は米国の武器売却における長年の非効率性に対処するもので、これまで複数の同盟国が同じ兵器システムを購入した際、請負業者は必ずしもワシントンの(政治的)優先順位に沿って生産・納入してこなかった。昨年12月に発表された台湾向けの110億ドルもの武器売却パッケージは(6日に発表された米国第一主義の武器移転戦略)を念頭に置いて交渉された可能性が高く、立法院が武器売却パッケージを購入する予算を承認すれば納入はおそらく加速されるだろう”

出典:Lockheed Martin

“米国の戦略計画における台湾の重要性、さらに頼政権は国防支出を増額すると約束(2026年までに3.5%、2030年までに5.0%達成)しているため、台湾はワシントンの「優先パートナー」としての基準を満たしているように見える。トランプ政権は防衛負担の分担を強く重視しており、同盟国やパートナーに「自らの責任を果たすこと=pull their own weight」を期待しているため、武器売却をカバーするのに十分な予算が承認されなければ、台湾も武器を供給する優先リストから除外されるかもしれない”

中央通信社は米国第一主義の武器移転戦略について「長年続いてきた先着順の納入アプローチの代わりに『国防支出が多く、戦略的重要性の高いパートナーへの武器売却および移転を優先する方向への政策転換』を示すもので、全体として米国の新戦略は台湾にとって前向きな進展だ」と報じ、分かりやすく言うと「複数の同盟国が納入待ちの長い列を作っている需要の高い米国製装備」について『契約を締結した順』ではなく『国防支出と戦略的重要性の両方を満たしている国への納入を優先する』となる。

出典:Lockheed Martin

ハンゼカー准教授が指摘した「米国の武器売却における長年の非効率性」とは頻発している納入遅延の改善ではなく、米国を最優先した上で「余剰となる生産枠」の配分方法を契約締結順から政治的な優先順位に変更することで、米国にとって日本がどれだけ戦略的に重要でも「総額5.0%達成への約束」と「それに伴う予算承認の実行」が伴わない限り、発注したF-35、トマホーク、SM-6、AMRAAMなどの納入順位で不利益を被ることを示唆している。

もう乱暴な言い方をすれば「米国の同盟国やパートナーはトランプ政権の意向を受け入れ国防支出を増やし、その資金でトランプ政権が作成を指示した『購入を推奨する販売カタログ』から米国製装備を購入して米産業基盤の拡張に貢献し、さらに米国の戦略計画にとって重要であれば需要の高い米国製装備の納入順位で優遇され、これらの条件を満たしていない国は納入順位を下げられる」という意味だ。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

ここまで武器で同盟国やパートナーの頬を叩けるのは米国製装備への依存だけではなく、国際武器取引規制(ITAR)による同盟国やパートナー間の武器取引の妨害、ブラックボックスやデータ主権による米国製システムへの独自システムの統合拒否などが挙げられ、だからこそ武器システムの主権回復やITAR Freeがトレンドなのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:總統府/CC BY 2.0

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コメント

  • コメント (19)

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    • 幽霊
    • 2026年 2月 09日

    今回の政策は一時的には米国製兵器の売上を上げるかもしれないけど、長期的に見れば米国製兵器脱却を強く推し進める理由になるので、将来的には売上減少や同盟関係の希薄化に繋がりそうですね。

    44
    • AKI
    • 2026年 2月 09日

    台湾は、元々優遇せなあかんやろ。

    34
    • 2026年 2月 09日

    まあ日本も3パー台に乗せんと話にならんわな

    14
    • 半分の軍事費の国から
    • 2026年 2月 09日

    国の医療機関を自衛隊関連機関という事にして、医療保険も軍事関連(維持補助金)という事にして、数字を稼ぐとかしないといけないようですね。

    17
      • Authentic
      • 2026年 2月 09日

      アメリカの国防総省みたいに理工系のあらゆる研究開発や補助金を形だけ防衛省経由させて防衛費ってことにすればいいんじゃないかな
      工業技術は本質的にデュアルユースだし
      まあ、NATOも5%ってのはルッテ元首相が強引にまとめた話だから西ヨーロッパ諸国は実現できずにうやむやになるだろうけどね
      グリーンランドの話がちょっと落ち着いたのもルッテ元首相が事実上の領土の一部割譲を伴うイギリス-キプロス方式の案を持ってきたからみたいだしルッテ元首相ってわりとそういうとこある
      アメリカ抜きでも欧州の防衛はできる?寝言は寝て言えみたいなこと言ってたからアメリカを留めるために必死なんだろうけど
      まあ、グリーンランドの話はアメリカの本気度が違うしキプロス方式で決着する可能性があるけど国防費5%はフランスとかとてもできる状況じゃない

      10
        • kitty
        • 2026年 2月 10日

        あまり目立ちませんが、日本の学会団体も軍事研究への協力には強固な反対活動をしているんですよ。
        商船組合みたいなもんです。

        1
          • Authentic
          • 2026年 2月 10日

          学術会議のあれは一応自主的に判断ってことになったし反対運動とかそこまで影響あるかな

          2
    • ブルーピーコック
    • 2026年 2月 09日

    言うてGDP比2%にするだけでガラッと自衛隊の雰囲気変わるだろうな。ヨーロッパと違って日本は決まった事はクソ真面目にやろうとするだろうし。
    今回の選挙は野党が弱すぎて、この軍事力と費用の増大の流れを止めるにしても、今まで以上に難癖つけるしか無いから、中ロが止まらないならもう止められんよ。

    26
      • のー
      • 2026年 2月 09日

      それはそうなんですが、問題は財政と景気でしょう。
      日本は潜在成長率が0.7%以下しかなく、更に財政も悲惨な状況なので、このまま軍拡したら破綻しますので
      今後の自民党には、国民に増税と福祉削減を受け入れさせる、という無理難題が待ち受けております。
      3年後には参議院選挙ですよ。

      28
        • ブルーピーコック
        • 2026年 2月 09日

        自分のように防衛費増額を『災害対策費用』だと思ってる人なんて少ないでしょうから、その時に国民がどう判断するかの議論はその時まで待ちましょう。
        それまでに左派政党の議員が人から愛される人間になってないと、増税は嫌だけど結局、自民が勝つという結果になりそうですが。

        13
        • SB
        • 2026年 2月 09日

        別の記事で書いたんですが防衛費(2%)に情報収集衛星やデュアルユース研究、海保予算まで含めれば2.5%は達成出来るので+1%をどうするかなんですよね
        幸い日本は国土強靱化基本計画に毎年4兆円は注ぎ込んでますから、これをあれこれ理由を付けて国防支出に含めて適当な何かを継ぎ足せば3.5%に……認められると良いなぁ

        13
      • kitty
      • 2026年 2月 09日

      「急に予算が来たので」でお馬鹿な買い物するのが我が国のお役所の基本ムーブ。
      さて自衛隊はどうなるか。
      とりあえずトイレットペーパーは自弁で買わなくて済みそうだな。

      14
        • SB
        • 2026年 2月 09日

        トイレットペーパー自費は流石に認識が古すぎませんかね
        2%増額決定以前に改善されてましたよ…

        14
          • kitty
          • 2026年 2月 10日

          古いついでに、小銃に巻くテープも支給されるようになったのでしょうかw

    • 朴秀
    • 2026年 2月 09日

    米国兵器購入はオークション方式になりそう
    高く入札した国から納入とか

    3
      • ブルーピーコック
      • 2026年 2月 09日

      米軍の取得単価にも影響しそうなのは流石にやらないんじゃないですかね。

      8
    • YF
    • 2026年 2月 09日

    選挙特番観てて安全保障の話がほとんど出ないあたりが、今の厳しい世界の安全保障の潮流と日本とのズレを感じますね。
    中道が壊滅的に負け沖縄全選挙区自民が勝つ辺り日本国民の漠然とした安全保障への不安が出た選挙になったような気がします。
    武器輸出の緩和やスパイ防止法等安全保障にかかわる法改正が推進しやすくなったのは朗報かもしれません。

    色々揉めてますが今の状況考えるとGCAPは先見の明だったように思えますね。

    19
    • たむごん
    • 2026年 2月 09日

    欧米は狡猾ですから、(当たり前ですが)自国が有利になるようなルール作りに熱心ですからね。

    台湾経済は半導体サプライチェーンの裾野が広くて、株価や利益が絶好調、貿易額も物凄い伸びてます。

    外貨準備が100兆円近くになってきたわけですから、米国製武器購入は(日本と同じように)対米貿易黒字削減+防衛力強化の一石二鳥にもなりますね。

    10
    • 名無しさん
    • 2026年 2月 09日

    買ってやるからさっさと納品しろ、ぐらいは言っていい

    5

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