インド太平洋関連

台湾の潜水艦戦力化、未だに湾内試験が合格せず海上試験が行えない状況

台湾は国産潜水艦の1番艦を「2024年末までに海軍へ引き渡す」と発表していたが、多くの項目が湾内試験を合格できないため海上試験の開始を2025年4月に延期したものの、今年2月に陸上電源の電圧サージによって潜水艦の部品が破損、台湾国防部も海上試験が遅れると認めた。

参考:海鯤號潛艦還來得及4月海測嗎? 海軍:備便出海最重要
参考:Taiwan’s indigenous defense submarine faces sea trial testing delay

このまま湾内試験でズルズル時間を浪費するとプログラム自体が壊れてしまうかもしれない

台湾海軍の潜水艦戦力は1980年代にオランダのズヴァールトフィス級潜水艦をベースに建造された海龍級潜水艦(2,300トン)2隻、第2次大戦中に米国で建造されたテンチ級潜水艦(2,420トン)2隻を合わせて計4隻で構成されており、あまりに時代遅れなため何度も後継艦の調達が浮上したが中国の圧力によってことごとく潰されしまう。

この状況に変化が生じたのは2018年で、当時のトランプ政権は潜水艦建造に必要な技術や部品の台湾売却(AN/BYG-1ベースの戦闘システム、MK-48と関連機器、ソナーシステム、潜望鏡)を、英国も1.67億ポンド相当の潜水艦に関連した技術と部品の輸出を承認し、蔡英文総統は2023年9月「我が国で潜水艦を建造するのは不可能と思われていたが、目の前には潜水艦があり、我々は国を守るためそれをやり遂げた。今日という日は歴に刻まれるだろう」と述べ、国産潜水艦の1番艦を「海鯤號(Hai Kun=ハイクン)」と命名。

1番艦は2024年4月までに湾内試験を終えて海上試験を開始し「2024年末までに海軍への引き渡しを行う」とアナウンスされていたが、現地メディア=上報は昨年9月「湾内試験項目の多くが合格せず海上試験が延期された」「湾内試験の完了は最も楽観的な予測でも2025年3月末になる見込み」「1番艦の完成(恐らく初期運用能力もしくは完全運用能力の獲得のこと)は4年遅れの2029年頃になる」と、今年2月には「湾内試験で使用されていた陸上電源の電圧サージによって潜水艦の部品が破損した」「2025年4月の開始を予定していた海上試験が延期されるかもしれない」と報じた。

出典:udn video ライブ配信のスクリーンショット

海軍は予定通り海上試験が開始されるという立場を維持してきたものの、国防部は4月末「1番艦のスケジュールが遅れているのではないか」という記者の質問に「海上試験の開始は4月を予定していたものの、現在も海上試験に必要な条件を満たすよう改良と調整に取り組んでいる」と回答、国防部が約束を守れていないと指摘されると「当初スケジュールの遵守ではなく、潜水艦が出港に必要な準備レベルに到達することを優先している」と説明し、現地メディアは「4月中の海上試験開始は不可能になった」と報じている。

建造を請け負っている台湾国際造船は2025年11月までに1番艦を引き渡さなければ罰金が課される見込みで、野党の国民党と民衆党も海上試験が完了するまで潜水艦プログラムに投資される資金=20億台湾ドルの半分を凍結しており、このまま湾内試験でズルズル時間を浪費するとプログラム自体が壊れてしまうかもしれない。

因みに真偽不明だが「1番艦の艦内配管が繰り返し破裂して主機が故障している」という噂もあり、これが事実なら中国の破壊工作を疑うレベルの惨事だ。

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※アイキャッチ画像の出典:Taiwan Presidential Office/CC BY 2.0

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コメント

  • コメント (27)

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    • Mr.R
    • 2025年 5月 04日

    ウクライナ軍「ウチのマグラとか、どうよ……? サイドワインダーも載せられるよ?」

    6
      • NIVEA万能論
      • 2025年 5月 04日

      あれはもう1年以上も艦艇を撃破する戦果を挙げていませんが。

      8
        • 成層圏
        • 2025年 5月 04日

        最近Su-30を2機、撃墜したようですが。

        24
    • もへもへ
    • 2025年 5月 04日

    台湾にとって初めての潜水艦建造だから、トラブル満載なのは仕方ないので粛々と対応していくしかないんでしょうね。
    ここで短期的なコストとかに目が眩んで諦めてると二度と潜水艦の国内建造は不可能になるでしょうから、将来的に国内建造一切しないと革新するなら早々に辞めた方が良いですし、将来に可能性を残したいならあらゆる困難に耐えて継続するしかない。

    台湾の覚悟が問われると思います。

    75
      • kitty
      • 2025年 5月 04日

      調べてみましたが、2016年にタスクフォースを立ち上げて、いくら英国の技術導入があったとしてもいきなり2500トン級の潜水艦を10年で完成させろって楽観的過ぎたと思われます。
      まあ台湾の場合、なかなか妥当な性能の外国製潜水艦を売ってもらえないというかわいそうな事情もありましたが。

      20
    • ブルーピーコック
    • 2025年 5月 04日

    技術力と経験の不足も、中国の工作も、台湾の内情的にあり得そうなのがな。
    ボノム・リシャールで放火が疑われていた人は証拠不十分で無罪だったけど。

    19
      • NIVEA万能論
      • 2025年 5月 04日

      中国の破壊工作が絶対にないとは言いませんが、繰り返し破壊工作を許すほどセキュリティがガバガバとも考えにくいですね。

      今のところは噂や与太話程度でしかないかと。 

      12
    • 黒丸
    • 2025年 5月 04日

    電圧サージで注排水用の電磁弁がやられたのか、
    航行用直流モーターがやられたのか、それともバッテリがやられたのか。
    ものと場所によっては交換するのが大変なのだが
    これらを克服して安全な機器扱いを学ばないと潜水艦建造技術は入手できないので
    台湾は頑張ってやり抜いてほしい。

    38
    • イーロンマスク
    • 2025年 5月 04日

    現場では色々と想定してない事が起きるからな
    ノウハウの蓄積からやらないといけない
    でも転職当たり前の社会だと現場に蓄積が起きないのでこの組み合わせ相性悪いな、と思った

    11
      • kitty
      • 2025年 5月 04日

      日本から現場ネコを輸出したらどうだろう。装備品には抵触しないはずw

      6
      • ななし
      • 2025年 5月 05日

      F-2開発時にも、それが問題になった様ですね。

      (F-16設計の元になった)試験結果はあるけど詳細資料がGDに残っておらず、(GDにセッティングして貰って)当時の担当者の元を訪ねて、元担当者が広げた個人持ちのスクラップブックを見ながら説明を受けケースとか、
      元担当者が既に鬼籍に入っていたので、GDから判らないと回答され、仕方無いので日本側で理由を色々推測した上で、その推測の延長線でF-2用の改設計を行ったケースすらあったみたいです。

      12
    • NIVEA万能論
    • 2025年 5月 04日

    潜水艦建造のノウハウがほぼない状態からのスタートのため、そんなに上手くはいかないだろうとは思っていましたが。

    本当に1番艦の完成が2029年頃になると複数隻を就役させて効果的な戦力となるのは更にその数年後という事になり、潜水艦戦力がほぼ皆無なまま台湾有事を迎えるというシナリオが現実味を帯びてきましたね…

    22
    • ヤフコメ民
    • 2025年 5月 04日

    昔台湾メディアを斜め読みしましたが、各国の潜水艦技術を寄せ集めたキメラみたいな印象を受けました。
    技術の蓄積や熟成が未熟なまま建造して、艦自体かなり扱いにくくなってしまっている可能性もあるのではないでしょうか。
    輸入すると外交問題になるから他に方法がないのでしょうけども。

    13
    • 58式素人
    • 2025年 5月 04日

    ”野党の国民党と民衆党も海上試験が完了するまで潜水艦プログラム
    に投資される資金=20億台湾ドルの半分を凍結しており”
    他所の国のことだけれど。こう言うのはあまり良く無いのでは?。
    当たり前のことだけれど、お金が無ければ、物事は停滞するし。
    別途で低利貸付けなどをした方が良いのでは?。

    8
    • たむごん
    • 2025年 5月 04日

    半導体・各種電子部品・EMSなど、あれだけ高度な製造企業が集積していても、なかなか進展しないわけですか…

    アセンブラーは悪い意味で揶揄されることもありますが、複数の要素技術を組み合わせて、製品として形にしていく難しさを感じます。

    日本政府は役に立たなかったため、造船不況に民間企業・部品企業も耐え抜いていなければ、日本も海事クラスターがボロボロになっていたでしょうね。

    7
      • Authentic
      • 2025年 5月 04日

      台湾は産業構造の特徴として水平分業が進みすぎてるからインテグレートが下手ってのはあるかも
      中小メーカーの集積だけじゃなく政府がちゃんとチャンピオン企業を育成しないと民生でも近い内に中国に負けると思う

      6
        • たむごん
        • 2025年 5月 04日

        産業構造どうするのか、企業内でどかまで持つのか、本当に難しい課題ですよね…
        台湾財政は、経済成長により非常に良好ですから(対GDP債務残高の低下)、どの分野に投資していくのか注目したいと思います。

        中国まさに仰る通りで、国内チャンピオン企業を育成していきますよね。
        ファーウェイのスマホ価格なんかも、価格を見れば、10万円を気付けば超えてますし。

        三洋電機(パナソニック)がリチウムイオン電池に強かったですが、パナソニックが投資に躊躇している間に、中韓企業が投資して走り抜けられたなんてのも思い出しました…

        3
          • Authentic
          • 2025年 5月 05日

          台湾企業は相対的に規模が小さい企業が多くてサポーティングインダストリーというか支援産業はあるけど(サポインは和製英語だから決まった訳語がないけど素材とか部品とか設備の産業)韓国の財閥みたいな大人がいないし
          支援産業の中でも水平分業体質が染みついてて自前の技術開発が弱いからその辺改善していかないとこの先10年でかなり厳しい状況に追い込まれると思う
          中国企業は前も書いたけど工作機械メーカーの北京精雕みたいに垂直統合思考で自前の研究開発を重視してるところが結構あるからね
          人件費が高い分中国製品より価格が高いのに性能でも遅れだしたら目も当てられない
          それでもまだアメリカみたいに自国に巨大な市場があればなんとかなるけど台湾の市場規模ではアウタルキーはとても無理だし

          2
      • nachteule
      • 2025年 5月 04日

      >半導体・各種電子部品・EMSな
       むしろその分野の企業が旧来の重工みたいな事出来るんですかね?ドローンとかミサイル作ろうとしている訳じゃないんですよ。エンジンを搭載して潜水する鋼の艦を作ろうとしているのに。
       各社が持つ技術や半導体製造装置や検査装置で潜水艦のガワとかパイプが作れるんですか。日本が潜水艦を作ろうとする時にメガチップス、ソシオネクスト、シキノハイテック、ロームとかの企業名称が当たり前のように出てくるかって話ですよ。
       代法的なのは建造する三菱重工だったり川重、高張力鋼に関係する新日鉄住金・JFE、旧型潜望鏡ならニコン、エンジンは川重。日本の潜水艦の建造に関わる企業は1,000社超で多くは中小企業、神戸周辺に密集しています。素材を作る事が出来ても加工が出来なければどうしようもない。長尺特殊加工とか日本の小さな企業がやっているんですよ、多分だけどノウハウが無くて作ってはみたけれども駄目でしたのパターンじゃないかな。

      12
    • Authentic
    • 2025年 5月 04日

    >因みに真偽不明だが「1番艦の艦内配管が繰り返し破裂して主機が故障している」という噂もあり
    これが事実なら結構深刻だな
    設計から見直さないといけないんじゃないの?

    5
    • ななし
    • 2025年 5月 04日

    そもそも論で最初の数隻はドイツあたりから購入してから自国開発に乗り出すというやり方はできなかったのだろうか?

      • 名無し
      • 2025年 5月 04日

      中国べったりで魚雷の輸入さえドイツからできなかったのに潜水艦本体なんて不可能だろう

      25
        • たむごん
        • 2025年 5月 04日

        ドイツは、中国に潜水艦用のディーゼルエンジンを売ったりしてたんですよね。

        中独は、日本人が思っているよりも蜜月でしたから、仰る通り無理だったかなと。

        17
    • 黒丸
    • 2025年 5月 04日

    艦内配管が破裂して主機に影響ということは、潜水艦の主要部の
    エンジン+発電モーターと防振台床は台湾が自己開発で進めているのでは?
    潜水艦のエンジンは防振の為ラフト基礎に載せているはずだが
    これによりエンジンの振動が変化して配管との接続部で予想外の振動や力がかかり
    接合部か溶接部が短期で破断したのではないかと。
    病院向け非常用発電機を津波対策で病室直上の屋上に置く場合で防振架台を使うとき
    通常の地上設置向けの可撓管を使って危ない目にあったので、気になります。
    潜水艦なんてスペース厳しいから尚更厳しい条件だろうし。

    8
    • L
    • 2025年 5月 05日

    こういうのこそ日本が支援すべきなのに
    技術流出を恐れて潜水艦がない状態で台湾事変が起きたら意味ないよ

    2
      • 2025年 5月 06日

      除籍となる、おやしお型を売却してクルーの訓練も秘密裏に行えれば、即戦力になるのですが…。

      2
    • 匿名
    • 2025年 5月 07日

    他国の潜水艦配備事業の七転八倒ぶりを見ると、我が国が毎年1艦建造し続けている意味の凄さが分かります(願わくば他の装備品・施設・人員も。

    1
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