トランプ政権はフィリピンに「F-16Vの売却」を提案したがフィリピンの反応は冷淡で、韓国航空宇宙産業は4日「フィリピンへのFA-50 Block20輸出契約」を発表、タイ空軍も提案されたF-16Vではなく「グリペンE/Fを12機取得するためSAABに最初の発注を行った」と発表した。
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フィリピンは米国のF-16V提案の冷淡、韓国航空宇宙産業はフィリピンへのFA-50 Block20輸出契約を発表
フィリピンは後継機を取得しないまま2005年に戦闘機「F-5A/B」を退役させたため純粋な戦闘機戦力を喪失してしまったが、韓国からFA-50を導入するなど戦闘機戦力の再構築を試みており、Horizonと呼ばれる近代化プログラムの下で高度なマルチロール機の導入を進めているものの、まだフィリピンはマルチロール機に対する要件も入札時期も公式に発表していない。

出典:Lockheed Martin
水面下ではグリペンに関心を寄せていたものの、ドゥテルテ政権の政策=麻薬取締に関連した人権問題がネックでスウェーデンとの協議が進まず、1期目のトランプ政権時代に国務省は「フィリピンにF-16V×12機を最大24.3億ドルで売却する可能性を承認した」と発表したが、これはフィリピン側の要請に基づいておらず、当時のロレンザーナ国防相は現地メディアに対して「米国はF-16を買えと言ってきたが提案内容は高すぎるので空軍は他の選択肢を検討している」と語っていた。
マルコス大統領が誕生するとスウェーデンと防衛装備品の移転に関する協定を締結し、関心を寄せていたグリペン導入に向けて前進したが、Asia Pacific Defense Journalは今年1月「フィリピンは2025年にFA-50の追加調達を予定している」「この計画にフィリピンは6.8億ドルを投資する見込みで取得する機体も最新のBlock20だ」と報告、Breaking Defenseも22日「フィリピン国防省が発表した調達報告書にFA-50の追加調達費用(400億ペソ)が記載されている」「この報告書は調達数に言及していないものの12機分の調達費用に相当する額だ」と報道。

出典:KAI 한국항공우주산업 FA-50GF
さらに2期目のトランプ政権が誕生すると再び国務省が「フィリピンへのF-16V売却の可能性=Block70/72×20機(推定55.8億ドル)を承認した」と発表し、テオドロ国防相はシャングリラ会合で「まだ米国から正式な提案を受けていない」「仮に提案があったとしてもF-16を国防省が必要としているのかも分からない」「そもそもマルチロール機をいつ取得するのか、どのようなモデルを取得するのかさえ何も決まっていない」「私の立場からすれば何も検討することはない」「フィリピンがF-16を購入という噂はメディアの妄想だ」と発言。
そして韓国航空宇宙産業は4日「フィリピン国防部とFA-50追加購入の契約を締結した」「契約規模は機体とサポートを含めて約7億ドル」「2030年までに12機のFA-50を納品する条件だ」「追加購入するFA-50は空中給油能力による航続距離の拡張、AESAレーダーの搭載、空対空および空対地兵器の搭載によって探知範囲と攻撃能力が大幅に向上する予定だ」と発表し、Asia Pacific Defense JournalとBreaking Defenseの予想が正しいかったことを裏付けている。

出典:KAI 한국항공우주산업
フィリピンはFA-50 Block20導入後も本格的なマルチロール機取得を目指すのか、グリペン導入に向けて交渉を進めるのか、トランプ政権は強行にF-16V売却をねじ込んでくるのかは不明だが、フィリピン軍全体で確保できた近代化資金は6.1億ドル(政府が余剰収入を得た場合に限り6.9億ドルを追加)しかなく、トランプ政権がどうしてもフィリピンにF-16Vを買わせてLockheed Martinの業績に貢献したいなら、米国政府が対外軍事融資基金(FMF)を通じてフィリピンに購入資金を与えるしかないだろう。
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意外かもしれないが、今のところF-16Vの新規受注に関して見込みのある話は1つもない
タイ空軍は第102戦闘飛行隊が運用中のF-16Block15 ADFを退役させる予定で、後継機候補としてグリペンE/FとF-16Vが噂されているものの、タイ政府はインド、マレーシア、サウジアラビアといった国々が採用したのと同じオフセットポリシー(法律による相殺契約の義務化)を政府調達に導入したため、防衛装備品を供給する国は二国間貿易の中で契約額と同等の経済的見返りを提供しなければならない。

出典:Palácio do Planalto / CC BY 2.0
SAABは2024年3月「グリペン提供を正式に提案する」「これはタイ政府のオフセットポリシーを十分満たす内容だ」と発表、Bangkok Post紙も「韓国航空宇宙産業(KAI)が訪韓中だったスティン国防相にFA-50を提案した」「KAIのカン・グヨン社長はFA-50についてF-16に匹敵するマルチロール機でありながら取得コストはF-16の半分だと述べた」「FA-50の飛行コストは1時間あたり5,000ドルに過ぎない」と報じていた。
さらにBangkok Post紙は2024年7月「タイ政府はスウェーデンからグリペンE/Fを、米国からF-16Vを購入するよう働きかけられている」「スティン国防相と空軍は来年度予算の審議過程で後継機選定プロセスの経過を報告した」「その中で両機の長所と短所、SAABとLockheed Martinから提案されているサポート内容を説明した」「この結果を首相に報告して決断を求める予定だ」「空軍はF-16VではなくグリペンE/Fの取得を推奨している」と報じ、F-16V導入の懸念点は米国が提供する導入支援向けの融資金利が高いことらしい。

出典:Alec Wilson/CC BY-SA 2.0
この話が出た時点で「タイがグリペンE/F導入を決定した」という報道が増えたものの、あくまで空軍はF-16VではなくグリペンE/F取得を奨励しているだけで、正式な政府の決定は出ていなかったのだが、タイ空軍のパンパクディー大将は4日「グリペンE/Fを12機取得するためSAABに最初の発注(E型×3機とF型1機)を行った」「グリペンE/F導入に合わせてミーティアを導入する」「既に空軍が運用しているSaab340 AEW&Cも追加発注する」と発表、SAAB側も「まだ正式な契約を締結したわけではないがタイ空軍の決定を歓迎する」と述べている。
因みにLockheed Martinは投資家に対して2024年「F-16Vの需要見込みは約300機」と説明していたが、タイ需要はグリペンに奪われ、フィリピン需要もFA-50に奪われた可能性が高く、Block70/72はバーレーン(16機)、モロッコ(25機)、スロバキア(14機)、台湾(66機)、ブルガリア(16機)以外から新規発注を何年も獲得できておらず、旧型機からのアップグレード需要も大きな広がりを見せておらず台湾、韓国、ギリシャしか発注していない。

出典:SAC Helen Farrer RAF Mobile News Team / OGL v1.0
最も有力なF-16Vの潜在的顧客はトルコで、米議会も「F-16V新造機×40機売却」と「既存機をV仕様にアップグレードするためキット80機分売却」を承認したが、トルコは米国依存を引き下げるためF-16V新造機ではなくタイフーン導入を交渉中で、さらにトルコはF-16のライセンス生産権を獲得する際にF-16のソースコードも獲得しているため、既存機のV仕様アップグレードを中止して独自のアップグレードに切り替えてしまい、恐らく需要見込みの中心だったトルコ需要も失いかけている。
南米需要でもLockheed Martinは欧州機と韓国機との激しい競争に晒されており、今年4月に19FortyFive → Newsweek → 日本メディアの順で報じられた「米国とベトナムがF-16購入で合意した」という話は公式確認が取れていない状況で、海外の主要なディフェンスメディアも相手にしておらず、今のところF-16Vの新規受注に関して見込みのある話は1つもない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Mitchell Corley
まぁ、これに限らずトランプ大統領の他国に対する態度やアメリカ兵器メーカーの開発&製造遅延を見たら、そりゃそうでしょうよ、としか…
大統領の影響はともかくFー16において致命的な開発や製造の遅延なんてありましたかね?直近で遅延があったのがコロナと半導体不足が原因であって、イレギュラーな事象で問題だは流石に酷でしょう。
金がなくて戦闘機を全廃した国に高いF-16Vを売ろうとするのはセンスが欠けていますね
しかし一年でロッキードの先行きがこんなに不透明になるとは
わーくにが何か買わされそう
買ってもF-35Bくらいかな。
おおすみ型輸送艦代艦用ぐらい。
FA-50はロッキードとKAIの共同開発事業ですよ
1機400億円弱って、流石に装備品もや整備機材、補用品を含むんでしょうが、それにしても高すぎません…?
西側、東側関係なく、この値段で第四世代買う国いないでしょ。
日米貿易交渉が大詰めの段階なので、こっちに跳ねない事を祈るばかりです。
フィリピン空軍は米国製戦闘機を扱うためのインフラがほぼ0な上、この契約にはF-16V×20機分の機体価格、エンジンやレーダーを含む全てのスペアパーツ、訓練、サポート、AN/ALQ-254、AN/AAQ-33、IRST、LAU-127、AMRAAM、AIM-9X、GBU-39/B、MK.82、JDAMなどが含まれているため非常に高額な提案内容ですが、国務省が承認する売却の可能性は一般的に「最も高額な見積額」と呼ばれており、実際には「この範囲までの購入を承認した」というい意味が強いので、購入国と請負企業との交渉過程で必要のないものを削除したり、数量を減らしたりするため、正式な契約締結額と国務省が提示する見積もり額は一致しません。
そもそも戦闘機導入に占める機体の購入費用は1/3程度といわれており、運用維持にかかる費用がもっとも高額なので国務省の見積もり額に「何年分の運用維持費用が含まれているのか」を考慮しないとフィリピン空軍への提案が高いのか安いのは判断がつきません。
軽自動車でもしんどいって言ってるのに、テスラの高級モデルをセールしてくるようなスタイル
更には、「軽自動車規格は非関税障壁だから廃止しろ!」と要求までがセット。
もともと「F-35ほしいけど売ってもらえない国」と「ここまで高性能なのはいらないけど他に選択肢が実質的にない国」が買うのがF-16Vなんで、FA-50みたいな安くてそこそこの性能で政治的な問題も特に無い戦闘機ができたら後者の需要は飛んじゃうだろうね…
政治的理由もあるのかな?
このご時世に米国製戦闘機購入ともなれば陣営を宣言するようなものだ
一種の曖昧戦略かもしれない
FA-50はLM依存のコンポーネントも多いので、F-16のライバルとして目障りならやろうと思えばいくらでも妨害できるんだよなぁ…
スウェーデンもビゲンでやられた
値段も維持管理費も安いので、LMで丸々抱えても利益にならないと判断されているのでは。
F-35を売りたいでしょうし。
>戦闘機導入に占める機体の購入費用は1/3程度
それでもF-16Vって機体価格だけでざっくりですが100億前後・・・
高くなりましたね。
Fー16に頼れないならまだ余力が有るうちにMR−Xでも自社である程度形にして米空軍の買い替え需要を前倒しさせるとかも視野に入れるべきでは?
最近の傾向で高価な正面装備に対する評価が微妙な感じになっているなら既存のLMみたいなメーカーで無くともベンチャー含めて途上国向けに4世代機版のF–5みたいな物を作っても良いんじゃ無いかと思うけど。
>途上国向けに4世代機版のF–5みたいな物を作っても良いんじゃ無いか
それがKAIが開発中のF50です
FA50ブロック20をベースに単座にしてペイロードを増やし戦闘機機能をより強化したモデルです
名前もF5の新世代版ぽくてアピールしやすいですね
つ、STALMA
って、wikipediaみたら、再始動ってマジ?!
プラズマステルスが火を噴くの?!
ボーイングの不誠実ばかり言われるがLMの強欲も大概なんですよね~。今あるお付き合い以降はご破談にしたい。
傲慢and怠惰担当=ボーイング、強欲担当=LM、怒り担当=国防総省、暴食、色欲、嫉妬、各担当募集~
フィリピンへのF-16Vパッケージには、中古F-16を無償援助した上でV仕様化パッケージの販売を乗せるみたいな案では駄目だったんでしょうかね。
フィリピンへのテコ入れは対中包囲網の点から必要なわけで、ビジネス重視の発想とは食い合わせが悪いのではないでしょうか。
我が国がF-2を大量配備して継続アップデートして寿命延伸措置まで確立できていれば、新品F-2販売もしくは中古機の援助&最新化アップデートの販売という選択肢もあったのかしらん。
退役・保管しているBlock40より前の機体は結構勤続疲労等の痛みが進んでいて、再就役させても運用寿命がすぐきますよという話も聞いたことあります.
その辺りが原因でクロアチアの戦闘機入札でアメリカ軍保管中の中古F-16Cではなく、イスラエルで保管していたF-16A/Bを候補に入れていたのはその辺りが関連しているのではないかなと当時推察していましたね。
ありがとうございます。そうなんですね。
アメリカさんもblock 50/52以後のを気前よく出してはくれるわけではない、と。
あと400機ほどで5000機の大台とF-4の生産記録(5,195機)を塗り替えるはずだったのが見込みが厳しくなりましたね。
「戦闘機など正面装備だけでは新世代の航空優勢は取れない」という事情も出てきたので「少しでも安く調達・維持できる機体」に注目が集まっているのだと考えますが、F404/F414の単発機が出てくるのはF-16に負けたF-20の無念を晴らすような感じもします。
半分妄想(笑)なのですが。
TA-50より小さい機体はないのでしょうか。
昔のMig-15やH・S(フォーランド)ナットくらいの大きさで。
小国向きに、と思ったり(笑)。
武装は、M2ブローニングとAPKWSだけで(笑)。
設計データーが残ってるF-20Aに21世紀の技術でアップデートした機体なんかいいですね
Phantom Strike+F414でデジャス2をも超えた機体!
今から生産ラインを1から立ち上げると最低でも何機作らないとTA-50並みのお値段になるのやら…
絶賛炎上中のT-7Aベースで開発するとお安く作れたりして
資金の問題は勿論、共和党政権が一時的にでも支援打ち切りとウクライナ空軍に対してF-16のサポート打ち切りをしたことはだいぶ悪手だったと考えられる
イランみたいに米国に敵対するようになったとかならともかく、顧客に対するサポートを不当に一方的に打ち切れば自国の有事の際にも同じことをされるんじゃないかと思われるのは当たり前だよなあ
それこそウクライナ空軍に対して将来的にF-16Vの導入を提案しとけばいいのになサポート打ち切りしなきゃ素直に100機近く需要が見込まれたろ