インド太平洋関連

インドが開発を進めるテジャスMK.2、グリペンやJF-17といった競合機よりも支持を集めるか

インドのEurAsian Timesは31日、テジャスMK.2が軽戦闘機分野のマーケットリーダーとして君臨するグリペンを打ち負かせるか今のところ不明だが「少なくともコスト面ではグリペンよりも安価で、中国が提供する軽戦闘機より支持を集めることになるだろう」と報じている。

参考:Tejas Mk-2 – India’s New SuperFighter Is Now One Of Top 4 Light Combat Aircraft In The World Along With ‘Idol’ Saab Gripen

テジャスMK.2が完成すれば性能的に軽戦闘機分野で競合するグリペン、JF-17、J-10から支持を奪い取る可能性がある

インドの国産戦闘機テジャス開発は1980年代に始まり政治的問題や技術的問題で紆余曲折を経験した影響で計画は大幅に遅延、普通なら中止に追い込まれてもおかしくはない状況を忍耐強く乗り切り、開発から約40年後の今年1月に完全作戦能力を獲得したテジャスMK.1の実戦配備が始まった。

出典:インド政府 報道局(pib) テジャスMK.1(FOC仕様)を引き渡されるインド空軍第18飛行隊

さらにMK.1と開発中のMK.2との中間に位置する「テジャスMK.1A」の実用化に目処がついたためインド空軍は旧ソ連製戦闘機MiG-21の更新用にMK.1Aを83機調達することを決定、モディ首相が議長を務める内閣国防委員会はテジャスMK.1Aを73機導入(+訓練機仕様のMK.1複座型を10機)するため65億6,000万ドル(約6,810億円)の契約をヒンドスタン航空機と提携したばかりだが、インドはテジャスMK.1Aをマレーシア空軍が調達を進めている軽戦闘機プログラムに提案しており、インド航空産業界にとって宿願とも言える「海外市場への挑戦」にも積極的に取り組んでいる。

ただしインドにとってテジャスMK.1Aは本命の「テジャスMK.2」が完成するまでの繋ぎに過ぎない。

テジャスMK.2は年内に基本設計の最終段階にあたるクリティカル・デザイン・レビュー(CDR)を終える予定で、2022年8月までにMK.2のプロトタイプを完成させ各種地上試験を行ったのち2023年以降に初飛行を行い2026年頃までに量産体制を確立することを目指しているのだが、MK.1→MK.1Aへの改良点はMK.2に採用予定の国産AESAレーダー(全機ではなく一部)、デジタルレーダー警告受信機、電子妨害ポッドなど技術を前倒しで統合するだけだったのに対しMK.2は機体サイズの拡張、カナードの追加、F414の採用など広範囲に渡り大きな変更が加えられているのが特徴だ。

出典:Ministry of Defence / GODL-India テジャスMK.1

MK.1Aの一部にも採用予定の国産レーダー「UttamAESA」はMK.1やMK.1Aに搭載されているEL/M-2052(検出レンジは200km以上で同時追尾能力は最大64)よりも優れた性能を発揮するとインドは主張(検出レンジは不明だが同時追尾能力は最大100で敵の電子妨害に対する耐性も備えている)しており、赤外線センサーの追加、新たに開発した国産の電子妨害装置やAN/AAQ-28の代替品として自主開発した照準ポッドの採用が見込まれている。

コックピットもタッチ入力に対応した大型ディスプレイを中心にしたものに変更されるため収集した複数のデータを統合して分かりやすく表示できるようになり、通信関係もネットワーク中心の戦いに要求される大容量の通信に対応した国産の戦術データリンクを備えており、ヒンドスタン航空機が開発を進めている無人戦闘機「Warrior(数年以内にプロトタイプが初飛行すると言われている)」とのエア・チーミングを行うことが予定されているため、能力的に見ると将来の第4.5世代機=非ステルス戦闘機で必要とされるものを機能を一通り抑えた軽戦闘機と言えるだろう。

勿論、機体の大型化に伴い推力と燃費が向上したF414を採用する予定だが、将来的に国産エンジン「GTX-35VSカヴェリ」へ置き換えることをインドは切望しているものの開発が難航しているので当面は米国が供給するF414に頼るしかない=海外輸出は米国の国際武器規制/ITAR規制に縛られるのが欠点(グリペンも同様)だ。

出典:Jagan Pillariseti / CC BY 3.0 GTX-35VSカヴェリ

この状況に変化を起す可能性があると見られているのが今年4月に行われたインドと英国の首脳会談で、両国は貿易規模の拡大や自由貿易協定(FTA)の交渉など「両国関係の飛躍的な発展」を約束をしたと報じられているが、この交渉には安全保障面に関する合意も含まれており興味深い事実を英国防省が発表している。

英国とインドの安全保障面での合意は主に海洋と産業に関する事項に重点が置かれており、自由で開かれたインド太平洋におけるより緊密な協力の確認や両国の海軍による野心的な共同演習などで協力を行うと英国防省は発表、さらに英国はインドが開発を進めている国産軽戦闘機「テジャスMK.2」の開発支援を積極的に行うことや英海軍のクイーン・エリザベス級空母や海上自衛隊のもがみ型護衛艦などに採用されているロールス・ロイス製の船舶用ガスタービンエンジン「MT30」の製造工程をインド(ヒンドスタン航空機)に移管することでも合意したらしい。

国産エンジンの開発はラファール調達のオフセットに応じたフランスから技術提供を受けるはずだったのだが上手く機能しておらず、テジャスMK.2開発支援を発表した英国がカヴェリの開発を助けるのではないと噂されえているためF414に頼る状況にも変化が起こる可能性がある。

出典:Dipjyotimitra14 / CC BY-SA 4.0 テジャスMK.2の完成イメージ

つまり本命のテジャスMK.2が完成すれば性能的に軽戦闘機分野で競合するグリペン、JF-17、J-10と並ぶか上回る可能性があり、コスト面でもマーケットリーダーとして君臨するグリペンより安価(正確なコストは不明だが最新型で調達コストが高騰しているNGよりは安価だと見ている)で市場に提供でき、政治的にも中立なインドの立場(国産エンジンに切り替えITAR規制から開放された前提)を活かせば競合機の採用が困難な国にとって魅力的な選択肢になるとEurAsian Timesは見ているのだろう。

果たしてインドの目論見通りテジャスMK.2の開発が推移するのは誰にも分からないが、調達コストが安価で運用コストも良好なグリペンC/Dはフランスや米国が提案する中古戦闘機にコストパフォーマンスで分が悪く、性能的にもラファールやF-16Vに対抗できる最新型のグリペンNGは調達コストが高騰(正確な数字は不明だがF-16を導入するのと変わりがないらしい)したため、こちらも市場での支持を失いつつある。

もしテジャスMK.2が上記の要件を備えてグリペンNGも安価=軽戦闘機としてのメリットを取り戻し、米国との関係を無視できる存在として確立されれば市場で支持を集めるかもしれないので非常に注目が高いと言えるだろう。

インドの独特なルールが円滑なオフセット実行を妨げている問題

因みにインドの国産エンジン「GTX-35VSカヴェリ」の開発が上手く行っていない問題はフランスが約束を反故にしたという意味ではない。

2005年から2018年までにインドが締結した装備品調達の契約に関連したオフセットの価値は6,642億ルピー(約9,544億円)で、2018年12月までに1,924億ルピー/約2,763億円分の価値を持つオフセットが履行されるはずだったのだが、実際に履行されたオフセットは予定の59%(1,140億ルピー相当)に過ぎず「海外企業は契約締結前と締結後で態度を変える」とインド側は批判している。

ただしオフセットを実行する海外企業側すると「インドの独特なルールが円滑なオフセット実行を妨げている」と主張しているので非常に興味深い。

出典:Indian Navy / GODL-India P-8I ネプチューン

AH-64EやP-8Iをインドに販売したボーイング曰く「インドへのオフセット履行は海外企業が直接行うことは禁じられているため必ずインド企業を経由して行わなければならず、このパートナー企業探しが足かせになっている」と主張しており、P-8輸出に関連してインドと締結したオフセット契約(6億1,420万ドル相当)を7年以内に実施する必要があったボーイングはインドが定めた手続きの基準を満たすインド企業探しで苦戦、結局期限を守ることが出来ず印会計監査局から非難を受けることになった。

オフセットの内容やインド国内の手続き等について詳しく明かされていないため何が問題なのかは不明だが、インドに対するオフセットの履行率が軒並み極端に低いのは「海外企業の態度や意思」ではなく制度自体の問題である可能性が高いのだろう。

インド政府も印会計監査局から指摘を受けて法律で定められていたオフセット条項の停止を決断、これによりインドは輸入する海外装備品に法律で要求されていたオフセットを必ずしも要求する必要がなくなったため「契約に含まれるオフセット関連費用(契約総額の8%~10%)を支払わなくてよくなった」と説明している。

但しインド政府が停止したオフセット条項は単一企業もしくは政府間との取引に関するもので、複数企業との取引に関するオフセット条項は残されたままだ。さらに高額な調達プログラムになれば貿易収支の不均衡を是正するため必ず「大規模な国内への直接投資など含むオフセット」を要求してくるインドの姿勢にも変更はなく、オフセット条項の停止が影響を及ぼす範囲は非常に限られているのかもしれない。

関連記事:マレーシア空軍の軽戦闘機入札にインド、ロシア、韓国、イタリア、中国、トルコが応じる
関連記事:インド、総額6,810億円を投じて国産戦闘機「テジャスMK.1」を83機導入
関連記事:英国がインドの国産戦闘機「テジャスMK.2」開発を支援、MT30製造もインド企業へ移管
関連記事:市場での競争力維持が困難なグリペン、F-16Vと中古戦闘機に挟まれ強みが色褪せる

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministry of Defence / GODL-India テジャスMK.1

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 11月 01日

    テジャスmk1のフレームでは強度的にF414には耐えられないしmk2は設計が難航というか迷走してて最新バージョンだと双発機になってて実質別機体になっちゃってるし絵に描いた餅では…
    それによしんばテジャスmk2を実用化できたとしてエンジンが双発になった時点でコスト増になるのは免れないし厳しくないか…?
    この少し上の価格帯だとロシアのチェックメイトが出てくるぞ

    2
      • 匿名
      • 2021年 11月 01日

      MK2は単発機で、双発タイプの戦闘機開発は海軍向けの新型戦闘機のこと。両者は別物だよ。

      13
        • 匿名
        • 2021年 11月 01日

        2019年時点での報道だと単発タイプのmk2は開発中止になってなかったっけ…
        インドの海外に出てくる軍事報道ってコロコロ変わるからどれが本当かわからん…

        3
          • 匿名
          • 2021年 11月 01日

          今年初めのAeroIndia2021のインタビューだと、当面の繋ぎ兼輸出用のMK1A、量産主力のMK2、艦上双発TEDBF、ステルスAMCA、無人戦闘機群で個々ラインで平行開発しているとのことだった。

          6
          • 匿名
          • 2021年 11月 01日

          それぞれのモックアップがこんな感じ
          リンク

          2
    • 匿名
    • 2021年 11月 01日

    テジャスの事よりもラファールの強さに驚いた
    F-16V相当とは…

    5
      • 匿名
      • 2021年 11月 01日

      価格や維持費はどうなんだろ?
      あと、米仏で政治的に差別化できれば良いが…

      冷戦下のフランスはイラクやアルゼンチンに売ってたが、最近は米仏で住み分け出来てるのかな?

      まぁ、ラファールはそこそこ売れ行き順調だし、いらぬ心配か。

      2
        • 匿名
        • 2021年 11月 01日

        自レスだが…
        アメリカが売り渋るが、かと言って完全に東側って訳でもない国と言えばアルメニアがいるな。

        まぁあそこは貧乏だしラファールなんて買えないし維持も出来ないか。

        スレチなんでここまでにしとこう。

        1
      • 匿名
      • 2021年 11月 01日

      元々ラファールはタイフーンより高性能だぞ
      F16Vがラファールに匹敵するならタイフーン以上の性能って事でそっちに驚いた

      5
        • 匿名
        • 2021年 11月 01日

        F-2も最後に大改造やって4.5世代のトップ目指してほしいわ
        F-3で使う部品の一部先行搭載とかでさ

        3
      • 匿名
      • 2021年 11月 01日

      近いうちに第4.5世代最強になるタイフーンといい、欧州の風が吹いてるな

      3
        • 匿名
        • 2021年 11月 01日

        タイフーンって欧州デルタ翼三兄弟の中で一番うまくいってないような気がしたが、そんなことになってるのか。
        認識を改めないとな。

        4
          • 匿名
          • 2021年 11月 01日

          イギリスが腹を括ったのとドイツが軍再編に走ったから風向きが変わったのよ

          9
    • 匿名
    • 2021年 11月 01日

    カナード付きはけっこうカッコいいし、お値段次第では自衛隊のスクランブル用にいいかもしれませんね。
    日本は今後インドとの関係を強化していくみたいだし。
    ま、冗談ですが。

    3
      • 匿名
      • 2021年 11月 01日

      確かにねぇ
      スクランブルで虎の子をすりつぶすのはねえ

      3
      • 匿名
      • 2021年 11月 02日

      テジャスでどうかは別として、脅威度の低い地域の平時スクランブル任務になら十分使える超音速高等練習機、なんてのは保有を考慮して良さそうに思いますね。
      言ってみれば米空軍の計画しているATTのような機体。

        • 匿名
        • 2021年 11月 02日

        「脅威度の低い地域の平時スクランブル任務」って言っても、そんなものがこの日本に存在するのかと言うと……
        現時点で一番脅威度が少ないのは太平洋側だろうけども、ロシアのTu-95系列の追跡には航続力が必要だし、中国の空母にステルス爆撃機対策と、近未来での脅威度増加は確実ですから……
        技術進歩も考慮に入れれば、有人機の前段階として割り切った無人機でのスクランブルって手段すら有り得るのではとも

    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    デルタ翼は強度も上げやすく揚力も大きいが、高機動を繰り返すと速度低下が大きい欠点がある。
    これは主翼の後半を尾翼として作用させるため、上げ舵を取るためには主翼の後縁のエレボンを跳ね上げ機種を上向きにすることで揚力を得ることになるが、抵抗も大幅に増えるので機動を繰り返すたびに速度が低下する、これはエネルギー運動整理損に反する。
    チェックメイトのようにデルタ翼+V尾翼とするのが最適に思えるが、そのためには機体を延長することによる重量増加をカバーできる推力を持つエンジンが無ければ成立しない。
    これがアメリカがF-102/F-106以降デルタ翼機を採用しなくなった理由だと思う。
    これまで発表されたデザインから、日本のF-3も同様な機体になるらしい、理論的に考えれば当然のことになる。
    次点はカナードだが、カナードは主翼以上の迎角を取ることになるので主翼より先に失速して舵が利かなくなる欠点だある。

    • 匿名
    • 2021年 11月 03日

    > インドの国産戦闘機テジャス開発は1980年代に始まり政治的問題や技術的問題で紆余曲折を経験した影響で計画は大幅に遅延、普通なら中止に追い込まれてもおかしくはない状況を忍耐強く乗り切り、開発から約40年後の今年1月に完全作戦能力を獲得したテジャスMK.1の実戦配備が始まった。

     MK.2もインド時空のすったもんだで40年後の完成とかな。

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