日本関連

ウクライナを侵略するロシアを中国が支援、欧州はアジアで同盟国を探す

中国がウクライナを侵略するロシアと戦略的パートナーシップを強化しているため欧州もアジアに同盟国を求めており、米Politicoは欧州は日本とインドに注目していると報じている。

参考:As China maintains ties with Russia, Europe turns to Japan and India

ロシアの問題をアジアの中国が支援するので、欧州はインド太平洋地域に本気で同盟国を求め始めた

ドイツのショルツ首相は中国を重視したメルケル路線を否定、就任後初めて訪問するアジアの国に日本を選び、EUのミシェル欧州理事会議長とフォンデアライエン欧州委員会委員長も岸田首相と会談するため日本を訪問する予定で、米Politicoは「相次いで欧州の指導者が日本に向かうのは予期しない戦争が中国に対する見方を変えたためだ」と報じている。

出典:首相官邸

欧州の国々は中国で大きな利益を上げているため、中国の脅威を主張する米国に同調する素振りを見せつつも肝心な部分ではリップサービスに終始して関係を維持してきたが、ウクライナに侵攻したロシアを中国が制裁回避や武器支援でサポートする動きを見せているため「考え方を改め始めた」と米Politicoは指摘しており、欧米のロシア制裁に参加した数少ないアジアの国(日本、韓国、シンガポール)の中で日本と注目しているらしい。

日本は地域最大の脅威「中国」に対処するため米国との安全保障に依存しているが、EUの元駐日大使を務めたシュヴァイスグート氏は「仮に日米同盟を欧州が補うことが出来なくても『追加の安全保障』として機能するかもしれない。日本と欧州は互いに太平洋と大西洋の問題はリンクしないと考えていたかもしれないが、中国とロシアが関係を深め国際秩序の変更で協力すると表明したことで『上辺だけだった日本やインドとの関係』が欧州にとって不可欠なものになりつつある」と主張している。

出典:The Russian Presidential Press and Information Office / CC BY 4.0

つまりロシアをアジアの中国が支援するので「欧州はインド太平洋地域に本気で同盟国を求め始めた」という意味だ。

トラス外相は英国の外交政策に関する演説の中で「NATOは欧州の安全保障に役割を限定するのではなく世界的な脅威に対処するグローバルな方針を採用すべきだ、日本やオーストラリアといった同盟国と協力してインド太平洋地域の脅威にも対処しなければならず、台湾のような民主主義国家を守らなければならない」と発言しており、ドイツのショルツ首相やEUの首脳陣が相次いで日本を訪問することに中国メディアも「日本をNATOに招待するための動きではないか?」と報じているのが興味深い。

但し中国メディアは「日本をNATOに招待する動きは日本の働きかけによるもので、中国を軍事的に封じ込めるため設計された日本の戦略の一部だ」と見ており、ロシアとウクライナの戦争に中国が関係する状況を利用してNATOをインド太平洋に引っ張り出そうと日本は画策していると勘ぐっている。

出典:U.S. Army photo by Charles Rosemond, Training Support Team Orzysz

まぁ欧州と日本の接近をどちら側から演出したのかは謎だが、もしウクライナとロシアの戦争が国際的な安全保障体制に大きな変化をもたらすなら日本も自国の安全保障体制を見直すきっかけになるかもしれない。

関連記事:英外相、NATOは中国の脅威に晒される台湾を保護すべきと主張
関連記事:英印が戦闘機の技術開発で協力、テンペストプログラムへの参加?

 

※アイキャッチ画像の出典:首相官邸

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コメント

    • 無名のミリオタ
    • 2022年 5月 02日

    インド太平洋の国々がNATOに入るのであれば、日本の前にまずはオーストリアに声がかかるんじゃないか? 

    11
      • 無名のミリオタ
      • 2022年 5月 02日

      自レス
      オーストリア×
      オーストラリア◯

      28
      • DEEPBLUE
      • 2022年 5月 02日

      オーガスはありますが今すぐ必要な海軍力がないのでしょう。他の候補は小国だったり信用が微妙だったりを考えると日本が極東で西側でのファーストチョイスになるのは必然

      43
      • けい2020
      • 2022年 5月 02日

      むしろオーストラリアは英連邦なので、もう話しはついててもおかしくないかも
      逆にそれ以外で太平洋・アジア諸国で、無条件でNATOに入れたいとか日本しか残ってない気がする

      インドも有力候補だけどロシアが完全に崩壊しないと、加入検討すらしない可能性が高い

      軍事力的にも現状の自衛隊ですら、欧州各国で比肩できる国が無い規模ですし
      なんとかしっかり味方にしたいところでしょう

      50
        • 匿名
        • 2022年 5月 02日

        まあ、インドは最後まで第3極であろうとするでしょうね…
        或いは韓国もそちらになびくかもしれません

        8
    • zerotester
    • 2022年 5月 02日

    ウクライナ戦争でロシアが負けたとしてもロシアは滅びないし、やむをえず中国との結びつきを深めることでより厄介になる可能性さえあります。中国の陸軍力・経済力とロシアの空軍力・軍事技術力は相互補完になるので。

    そうなると、「中国が暴れても俺らは関係ないから好きにやれ」と内心思っていた欧州も他人ごとではなくなり、中国ロシア連合軍を押さえ込むために極東に味方が欲しいということになります。
    日本はある意味ウクライナと同じ立場で、自由主義諸国のための矢面に立っていることにようやく欧州が気づいてくれたわけです。

    41
      • けい2020
      • 2022年 5月 02日

      ロシアと中国では目指してるところが全く違うので、微妙なライン以上は繋がらない気が

      ロシア:武力による覇権が目標だけど、中味は第一次産業の資源国の勘違い戦略
      中国:経済的な覇権を目標に、軍事・技術・経済の積み上げ

      今は習近平がプーチンにお熱なので、中国の方針と習近平の方針でブレブレになってて分かりにくいですが

      10
        • zerotester
        • 2022年 5月 02日

        目指す方向が違うからこそむしろ利害が一致する可能性もあるのでは。ロシアが目指すのは旧ソ連圏の復活で、中国が目指すのは主に太平洋地域の覇権です。重ならないのでお互いのために協力できることになります。

        30
          • HY
          • 2022年 5月 03日

          そうそう。中国にとってしてみれば、覇権確立に経済だけじゃいつまで経っても台湾は併合できないし、西太平洋から米軍が引くのもいつになるかわからない状況です。何も「軍事による覇権」か「経済による覇権」かに限定する必要なんてないわけです。そもそもロシアだって「ユーラシア経済連合」を作っていたわけですし。

          2
      • 無名のミリオタ
      • 2022年 5月 02日

      希中国が中央アジア(ロシアの裏庭)に影響力強めて中露の仲がギクシャクすることが希望なんだが、それとは裏腹に、ウクライナ戦争後は中露がさらに結束を強めると見て備えた方が良いだろうね。

      18
    • STIH
    • 2022年 5月 02日

    インドのラブコールはロシアに届かず、ロシアは中国との連携を深めると。
    そりゃインドは単なる兵器のクライアントでいつでも日和見(中立とも言う)なのに対し、中国は西側との対決で口では協調すると言ってますから、そりゃ中国をとるわな。中国はそしたらどこで腹くくるかだな。第三次世界大戦のスタートだ。
    ここでインドが西側になびいたらますますロシアから白い目で見られるだろうな。中途半端に西側になびかないで、ご自慢の核兵器で第三陣営はりゃ良いだろと思うがな。

    13
    • ウツボ
    • 2022年 5月 02日

    味方が増えるなら心強いと思う。どこまで一枚岩になれるかはわからないけど・・・
    安全保障における高いレベルの同盟国が存在するというのは西側の中国に対する大きな強みだと思う。

    18
    • だいぶ溜まってんじゃん
    • 2022年 5月 02日

    インドは独自の中立方針を持ってるからなかなか難しいねんな、
    西側が求める強固な対中国同盟の構築はあまり期待出来なさそう(もちろんパキスタン-中国の問題があるからある程度は連携するだろうけど)

    インド国内のムスリムコミュニティへの排斥運動のせいでパキスタンとピリピリしてるから心配やわ

    今後の安全保障は印パの関係抜きには語れないでしょうね

    10
      • 無無
      • 2022年 5月 02日

      パキスタンは中国の傘下から抜けることはない、もはや植民地に近い、唯一の可能性はインドとの和睦だが、これは夢物語
      インドを西側に取り込めなくとも、ロシアへの友好的判断を迷わせたり中途半端な結果に導けば、それで充分
      インドは西側ではないが、決してロシア傘下になるつもりも無いことを確認して接すること

      16
      • G
      • 2022年 5月 03日

      とはいえロシア(軍)が大きく疲弊し、かつロシア・インドの結びつきよりロシア・中国の結びつきのほうが強化されたように見える現状ではインドにとってロシアの価値が相対的に低くなったはずなので、今後の対中国や対パキスタンを考えるなら自力で対抗戦力をそろえようと無理するより西側へ舵取りするほうが得策と考える上層部が出てきてもおかしくない状況にあるように思えますね

      1
    • タコ
    • 2022年 5月 02日

    プーチンヒットラーが旧ソ連時代に戻す動きと習プーチンの共同富裕思想は共に共通しているが、それぞれ国民を押さえ込んでしまう独裁主義思想,中国はコロナ対策で、ロシアはウクライナで民衆を押し込めたり殺害して国を維持しようとしている。国家保安法がやはり同じである。ここが自由と民主主義の正念場だ。昔、日本も大東亜共栄圏なって言っ時があったが、それと似た行動しなければならない恐ろしい時代が来ているのでは

    7
    • 折口
    • 2022年 5月 02日

    去年のフランスもそうでしたが、ヨーロッパの旧列強諸国はEUや国際社会内で立場が悪くなるとインド太平洋地域の国との関係を再確認したり、同地域に自国が展開可能なプレゼンスを誇示することで失った政権支持や国家的自尊心を取り戻そうとする傾向がありますね。友達から嫌われたら別の友達のところに行くというのは普遍的なことですし、日本も似たような振る舞いで大やらかしした前科があるので強くは言えませんが。

    これは偏見ですが、欧州の中で本気で長期の戦略視点をもってインド太平洋や東アジアに関与していくだけの展望を持ってるのは英国だけじゃないでしょうか。この数年でちょっと盛り上がったフランスとの軍事交流も結局何に繋がった/繋がるの?と言われるとよく分からない部分がありますし(南太平洋の仏領諸島の防衛協力が欲しかったんだろうけど)、ドイツに至ってはフランスに輪をかけて海外展開能力が乏しいうえに海外領土も無い訳ですから、ほんとに何しに来たんだというのが正直なところです。
    まぁその場だけのなんちゃって安全保障協力でもなんでも、実務者間の法的拘束力のある役務協定とかに発展させてしまえば言い訳ですから、日本からしたら無駄ではないですが。

    39
      • ミリオタの猫(時代遅れの「アンツィオ…いや、ロシア軍は強い!」主義者)
      • 2022年 5月 02日

      同感です。
      特にドイツは、自動車技術に限ってもディーゼルや電動化等の環境技術の問題で散々日本の自動車メーカーを虐めて来た上、日本が未来のエネルギーとして水素技術の開発を国策として続けて来た中、ドイツは水素を無視して電気に極振りして来たのに、先日来日したシュルツ独首相は日本側に対して「日独で水素エネルギー技術をしよう」等と言ったのです。
      ウクライナでの戦争でロシアからの天然ガス輸入が出来なくなった途端に掌返しで日本に擦り寄って来た訳ですが、ハッキリ言って今更何を言っているんだと思いましたね。
      まるで今のドイツは「大きな韓国」ですよ。
      正直、今の我が国に取ってアジア地域に関与した過去の有る英国以外の欧州諸国は信用ならないと思います。

      49
      • dkmw
      • 2022年 5月 02日

      イギリスもEUを脱退して失った国際的影響力を取り戻すために、インド太平洋や東アジアに関与している部分はありますね。
      元々ヨーロッパはロシアへの対応で手一杯だったので、インド太平洋や東アジアにどれだけ関与できるかは未知数ですな。

      15
    • 匿名
    • 2022年 5月 02日

    条件は
    ・アジア太平洋国家
    ・中国の海洋進出に反対している(または反対側に回る可能性がある)
    ・比較的大国
    ・軍事的(特に海軍)強国
    とすると、欧州の同盟国になりうるのは日韓豪印ぐらいか

    4
    • rgkp9
    • 2022年 5月 02日

    インドは中国の上海協力機構のメンバー国だし、欧米がインドに注目してもインドはずっと独自路線でしょうな。

    14
      • 匿名
      • 2022年 5月 03日

      むしろ、その欧米の目の前でこれ見よがしに右往左往してヤキモキさせるまで有ると思いますねぇ…

      2
    • 無無
    • 2022年 5月 02日

    アジア太平洋での問題に直接NATOに関与とか期待してはいけない、危急の折には向こうで牽制球を投げてくれれば有難い程度。
    他力本願に未来なんかあるもんか
    ウクライナのように、己の身は己で守る気概の無い国はどちみち滅ぶから

    25
      • 匿名
      • 2022年 5月 02日

      まあNATOのような厳格な集団安全保障体制に日本が入るというのは現状では夢物語ですし…
      東欧の事は知ったこっちゃないけどアジアで何かあったらヨロシクね、が通用するはずもなく

      10
    • 短い11両編成
    • 2022年 5月 02日

    欧州は本気で反中でいくなら、AIIBから離脱してみろってんだ

    5
    • 匿名
    • 2022年 5月 02日

    まあ、無難にシンガポールでしょうね
    世論的に言っても日本じゃ碌な貢献できないでしょうし
    ここまで軍事アレルギーの強い国に何かを期待すること自体が無理ゲー

    4
      • ポン
      • 2022年 5月 02日

      最近はかなり良くなってると思うけどなぁ…

      13
    • 感謝します
    • 2022年 5月 02日

    ドイツやフランスはただのすり寄りにしか見えないんだよなあ。
    インド太平洋地域におけるプレゼンス強化に本気で取り組んでいる欧州諸国は、空母打撃群の展開や日英間の防衛協力を強化するイギリスだけだし。
    日本としては更なる関係強化に取り組んで、日米英豪で結束を高めていくべきだと思う。
    ドイツは日独伊三国同盟の締約後も中国を支援していた前科があるから、話半分に聞いておいたほうがいいのではないかと思う。

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