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日本も量という質を追求、防衛省が低コスト巡航ミサイル取得を表明

防衛装備庁は4月27日「低コスト誘導弾の技術的方策を検討するに当たり、情報提供する意思のある企業を募集する」と公表していたが、防衛省は31日に公表した概算要求の中で「高価で高性能な弾薬を補完する低コストなスタンド・オフ・ミサイルの国産開発及び早期の能力獲得のため海外製を取得」と言及した。

参考:防衛力の変革に向けた予算-令和9年度概算要求の概要-

日本の防衛プライムにとって低コスト巡航ミサイルを開発する技術的難易度は高くないと思われるものの、生産上の問題をクリアできるのかが課題

防衛装備庁は4月27日「低コスト誘導弾の技術的方策を検討するに当たり、情報提供する意思のある企業を募集する」と公表し、情報提供企業の要件に「日本国法人であり国内に製造設備を有する企業」「誘導弾システムに関する設計及び製造の実績を有する企業」「防衛省が取扱い上の注意を要する文書等の開示について適当であると認める企業」に挙げた。

出典:防衛装備庁

誘導弾とは精密誘導兵器を指している可能性が高いものの、募集要項は低コスト誘導弾の用途について何も定義しておらず、地対空誘導弾なのか、地対艦誘導弾なのか、空対空誘導弾なのか、対戦車誘導弾なのか不明で、情報提供企業の要件に「誘導弾システムに関する設計及び製造の実績を有する企業」とあるので三菱重工業、三菱電機、川崎重工業、東芝しか相手にしていないと示唆しているが、防衛装備庁が情報提供を要請した低コスト誘導弾とは「量という質」を追求する分野の兵器システムで、この分野の開発・生産は伝統的な防衛企業ではなく防衛スタートアップが主導している。

欧米を中心に開発・生産が進む低コストミサイルは「秘匿性が高い軍事技術ではなくデュアルユース技術の採用」「調達先が限られる高価な特注部品ではなく市場で大量調達が可能な商用部品の採用」「3Dプリンティング技術など新しい生産技術の導入」「民需向け生産ラインで生産可能な設計」など従来とは異なる発想や柔軟性が必要で、量という質を如何に安く、早く、大量に生産するかという点において最も重要なのは生産上の仕組みだ。

出典:Jake Paul

Anduril(アンドゥリル)のパーマー・ラッキー氏も「我々が解決しようとしているのは軍事上の問題ではなく生産上の問題だ」と述べており、超大規模生産(ハイパースケール)と大量使用によるキネティックマス(圧倒的な物理的攻撃力)の達成を前提にした低コスト巡航ミサイル=Barracuda(バラクーダ)シリーズを2024年9月に発表した際、アンドゥリルが何をやろうとしているのかについて以下のように述べたことがある。

“我々がバラクーダでやろうとしていることは伝統的な防衛部門とは正反対で、従来の武器生産は高度に専門化された労働力、防衛産業へ特化した特定のサプライチェーン、手作業による製造手法に依存し、非常に複雑で精巧なシステムを要求されるためプログラム全体の拡張性が制限され、このような生産方法で軍が要求している数を揃えるのは不可能に近い。バラクーダはガレージにあるようなツール、つまりドライバーやペンチで組み立てられるシステムで、高度なツールも生産プロセスも必要なく、高度に専門化された労働力による生産上の制限も設けない”

“基本的なアプローチは商用向けのサプライチェーンを可能な限り活用することで、システムの製造と組み立てを可能な限りシンプルにし、利用可能な労働力の幅を増やして生産拡大を容易にすることだ。この考え方はシステムを低コストで大量に生産するだけではなく、戦争が長期化した場合に高い生産効率を長期間維持するのに役立つ。バラクーダの生産時間は既存の競合するシステムに比べて50%減、必要な生産ツールは95%減、部品点数は50%減、価格も他のシステムより平均して30%ほど安い”

アンドゥリルが解決しようとしている生産上の問題のユニークな点は「伝統的な防衛企業が構築してきた防衛産業に特化したサプライチェーンを可能な限り回避する」という点で、どれだけ革新的な生産技術や斬新なアプローチを取り入れても「少数の防衛サプライヤーにコア部品供給を依存する生産上のボトルネック」を解決しなければ、どれだけ「量という質を如何に安く、早く、大量に生産する」と叫んでも絵に描いた餅に過ぎない。

出典:防衛省 令和9年度概算要求の概要

防衛省は31日に公表した令和9年度概算要求の概要の中で「高価で高性能な弾薬を補完する低コストなスタンド・オフ・ミサイルを国産開発するとともに早期の能力獲得のため海外製を取得」と言及しており、この低コストなスタンド・オフ・ミサイルと4月に情報提供を要請した低コスト誘導弾との間に関係があるのかどうかは不明だが、高橋浩祐氏は「防衛省は概算要求に安価なスタンド・オフ・ミサイルの開発・取得を、金額を明示しない事項要求として盛り込んだ」「防衛省担当者は海外製の取得を想定していると説明し、具体例としてアンドゥリルのバラクーダを挙げた」と報じている。

高橋氏の説明によると防衛省はバラクーダ取得を決定しているのではなく「現時点で念頭に置いている兵器だ」と説明し、防衛省は輸送機から空中投下するタイプの安価なスタンド・オフ・ミサイルを念頭に置いているらしいのでC-2からパレット化投下方式を検討しているのだろう。

エアバスは輸送機に対する将来ニーズを見越し、今年4月にA400M mothership variant(輸送機を貨物室からのパレット化投下方式による巡航ミサイルや自爆型無人機の空中発射能力)の開発を開始し、エアバスは「タウルスサイズの巡航ミサイルなら最大12発、中型ドローンなら最大50機を運搬・発射できる」と述べており、エンブラエルも今年7月のファーンボロー国際航空ショーで「アンドゥリルのパレット発射式スタンドオフ巡航ミサイル=バラクーダ-500M(B-500M)をC-390に統合することで合意した」と発表した。

現時点でバラクーダ-500Mはパレット化投下方式による運用能力を正式に獲得しておらず、バラクーダ-500Mと同等の低コスト巡航ミサイル分野には米国のCoAspire=コアスパイア、Leidos=レイドス、Zone 5=ゾーン5、欧州のDestinus=デスティナスなど選択肢が豊富で、空中発射が可能な低コストの極超音速兵器まで加えるなら米国のCastelion=キャステリオンも選択肢に入り、ノルウェーのKONGSBERG=コングスベルグは低コスト巡航ミサイルを製品ポートフォリオに加えるためゾーン5を買収し、ドイツのラインメタルもデスティナスが開発した低コスト巡航ミサイルを共同生産するため準備を進めている。

出典:Lockheed Martin

ロッキード・マーティンも国防総省の関心が「高度な巡航ミサイル」から「低コスト巡航ミサイル」に移っていることを認識し、2025年2月に手頃な価格で目標を達成できる独自の低コスト巡航ミサイルとして「CMMT=射程数百マイル/調達単価15万ドル」を発表したものの出遅れ感は否めず、潜在的な顧客の注目を集めることに失敗してしまい、2025年10月には「既存の高度な巡航ミサイルを低コスト巡航ミサイルに再設計することを検討している」と明かしたことがある。

具体的にはJASSMやLRASMの高性能な誘導システムを安価なものに変更したり、ステルス性を高める特殊コーティングの廃止、構成部品の製造への積層造形技術採用などを挙げて「低コスト巡航ミサイル分野への参入を諦めていない」「そのための課題を様々な角度から検討している」「新興企業とも協力して実現可能な技術を見極めている」「まだ参入のため最終アプローチは決定されていない」と強調したものの、米陸軍、米海軍、米空軍の低コスト巡航ミサイル需要は今のところアンドゥリル、コアスパイア、レイドス、ゾーン5によって独占されており、ロッキード・マーティンが参入できる余地は見つかっていない。

出典:Kratos

米クラトスも2025年10月にはXQ-58Aに搭載可能な低コスト巡航ミサイル=Ragnarök(ラグナロク)を発表し、1発あたりの価格も15万ドル(100発発注)と比較的安価で注目を集めたものの米軍からの契約を獲得できておらず、台湾とMQM-178をベースにした多用途ジェット無人機=Mighty Hornet IV(マイティ・ホーネットIV)を開発中だ。

欧州ではMBDAが2025年9月のDSEIで独自の低コスト巡航ミサイル=CROSSBOW(クロスボウ)を発表したものの、今のところ潜在的な顧客から関心を集めているという報道はなく、ロッキード・マーティンやMBDAが低コスト巡航ミサイル分野で苦戦するのは「ミサイル生産における主要なボトルネック(シーカーと固体ロケットモーターの供給問題)」をどう解決するのか見えていないか、資金を投じて高価なミサイル生産向けの防衛産業に特化したサプライチェーンを強化しようとして防衛スタートアップの規模感やスピード感についていけてないからかもしれない。

出典:MBDA

ちなみに日本の防衛プライムにとって低コスト巡航ミサイルを開発する技術的難易度は高くないと思われるものの、量という質を如何に安く、早く、大量に生産するかという生産上の問題をクリアできるのかが課題で、米国の防衛スタートアップは自国だけで何万発もの需要があり、ラインメタルとデスティナスはNATO基準準拠への証明(航空機の型式証明取得のようなもの)を取得して「欧州の低コスト巡航ミサイルにおけるスタンダード」を狙っている。

日本が低コスト巡航ミサイルを国産開発するなら防衛ビジネスとしての視点=海外輸出による規模感が不可欠で、この分野の海外市場は欧米の防衛スタートアップによって形成されつつあり、ここに参入するとしても競合と比べて3年以上遅れているため、欧米の防衛スタートアップと共同生産を目指すのが無難かもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Anduril

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コメント

  • コメント (10)

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    • ヘイワード枝
    • 2026年 9月 01日

    ラピッドドラゴン構想は輸送兵站コマンドからほとんどデメリットについての意見が分析されてないのが懸念される
    有事の際には非常に忙しくなる上に、イラン軍がそうして見せた様に輸送兵站組織は敵軍から見れば最優先打撃目標
    重要な既存兵站物資の有事の輸送任務以外にどこまでラピッドドラゴン構想に割く余裕が、米軍すらどこまであるのかと言う点を語る人間がほぼいないのが懸念される
    試みそのものは非大型爆撃機保有国には魅力的に映るのは想像に難くない

    15
    • 無印
    • 2026年 9月 01日

    バラクーダ、クロスボウ、ラグナロク
    ミサイルとは思えないオシャレな名前ばかりだ

    6
      • kitty
      • 2026年 9月 01日

      日本人が「建御雷」とか「草薙の剣」とか名付ける中二ムーブ。

      5
      • ヘイワード枝
      • 2026年 9月 01日

      バラクーダは和名オニカマス
      細長い魚にこだわる命名基準なら、さより、さんま、うなぎ、あなご、タチウオあたりだろう

      4
    • たむごん
    • 2026年 9月 01日

    特にインフレ時に、物(武器)が大量にあるのは極めて重要で、値段はあってないようなものだからです。

    米・マスク・消毒液・貴金属・工事費・戦闘機など、最近では身近かと思いますが、物が足りなくなればドンドン値上がりするからです。
    有事に、外国に頭を下げて武器を調達するという事も、『外国にどれだけの借りを作るのか』『何を要求されて失うのか』『確実性はない』考えただけでも恐ろしい事です…。

    仮想敵国の目線で見れば、どんな武器でも大量にあれば対抗策を考え続ける必要がありますから、量が大量にあるということは極めて重要だなと感じます。

    2
    • 58式素人
    • 2026年 9月 01日

    どうなるのでしょうね。
    該当する国産のジェットエンジンは少ないのでは?。
    仮に既存の標的機用を流用なら、三菱と川崎にしかないような。

    2
    • 中村
    • 2026年 9月 01日

     バラクーダが出て来た時、ヘルファイアの代替としてどうやって当てるのか?、5G機動が出来る巡航ミサイル?、って疑問を抱いた人は多かったと思います。

     「アパッチを落とすシャヘド」が答え合わせだった訳ですが、要は自爆ドローンはミサイルと言うよりミサイルは不完全な自爆ドローンだったと言うのが正解なのでしょう。

     衛星を介して人間が操縦するなり、オンボードのAIが操縦するなりすればナニに当てたって良い様なモノだという事です。

    5
    • YF
    • 2026年 9月 01日

    今、日本では複数のスタンドオフミサイルの開発が進んでるので、リソースの意味でも低コスト巡航ミサイルについてはまずは海外製になるのではないかと思います。
    輸送機からの空中投下型の巡航ミサイルの運用の是非はあると思いますが、中国の方が圧倒的に航空戦力は上なので現有戦力で手数を増やしたいというところでしょうか。バラクーダ-500Mなら中国の長距離空対空ミサイルの射程外から撃てますからね。

    2
    • SB
    • 2026年 9月 01日

    前々から言ってるけど、安さと質を両立したミサイルは現代の技術で再設計すれば余裕だろうし生産もおそらく問題ない
    直接の比較は出来ないけど、例えばトヨタは1日に13000台も自動車を生産してるわけで、ミサイルを1年で数千発生産もやろうと思えば出来るはず

    問題はそれを10年20年国が買ってくれるかどうかだろう
    生産設備や研究費を償却出来るなら兵器なんていくらでも安く出来るけど、逆に言えば償却出来ないと青天井で高価になる

    8
    • AKI
    • 2026年 9月 01日

    バラクーダ―の共同生産は、いざという時に弾薬を融通しあえるのでいいのかもしれない。
    完全に自国開発にしてしまうと、持続的な生産が難しくなる。

    1

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