日本関連

問題の多い空中給油機「KC-46A ペガサス」、日本向けの機体製造に着手

米空軍が採用した次世代の空中給油機「KC-46A ペガサス」を製造するボーイング社が17日、日本の航空自衛隊向け「KC-46A」の組み立てを開始したと発表した。

参考:Boeing Begins Assembling First KC-46A Tanker for Japan

米国で航空自衛隊向けのKC-46Aの機体組み立てが始まる

ワシントン州の北西に位置するボーイング社のエバレット工場で17日、日本の航空自衛隊向け空中給油機「KC-46A ペガサス」に使用される主翼構造の製造が始まったとボーイングが発表した。

ボーイングは日本向けの「KC-46A ペガサス」製造開始について「非常にエキサイティングな1日だ」と述べ、複数の役割をこなすことが出来る「KC-46A」を航空自衛隊に届けられる日を楽しみにしている、強化されたフライトデッキ、近代化されたフライングブームなど「KC-46A」は航空自衛隊に傑出した能力を提供できるだろう話した。

ボーイング社のエバレット工場は、民間航空機用の747、767、777、787を製造している世界最大の容積(1330万m³)をもつ工場として有名で、道路を挟んだ向い合せの場所には、滑走路を3本も擁するペインフィールド空港が併設されており、エバレット工場の巨大さを際立たさせいる。

出典:public domain ペインフィールド空港、奥に見えるのがエバレット工場

米空軍が採用した空中給油機「KC-46A ペガサス」は、1957年から運用が行われている「KC-135 ストラトタンカー」の後継機として、180機程度の調達が見込まれており、日本は「KC-46A」を採用した2番目の国、初の海外顧客だ。

ただし、KC-46Aは開発過程で技術的な不具合(給油用リモートビジョンの不具合や、フライングブームの推力抵抗が大きすぎA-10に燃料俸給が出来ないため再設計予定)や、品質問題で米空軍に納入拒否を受けるなど何かと問題が多い。

補足:給油用リモートビジョンの不具合に対し、米空軍はKC-46A納入から8ヶ月間、ボーイングによる改善は何も進展していないと報告している。

さらに最近、KC-46Aに搭載する貨物を固定する拘束装置のロックが勝手に解除される不具合が発覚し、この問題は「カテゴリ1(死亡または重傷を引き起こす可能性のある問題)」相当の欠陥として分類され、解決されるまで間は貨物の搭載が禁止された。

軍用機開発では開発完了後の初期運用段階で不具合や、開発段階で潰しきれていない問題が表面化することが多く、「KC-46A」の状態が特別酷いと言うわけではないが、フライングブームの設計ミスは完全にボーイングのミスで、納入されたKC-46Aの機体内に金属の削りカスや、工具が放置されたままという問題はエバレット工場の作業品質の問題で言い訳の余地はない。

出典:public domain F-35Aに空中給油を行うオーストラリア空軍のKC-30A(A330 MRTT)

だからといって、航空自衛隊の「KC-46A」導入を叩いて問題化しても、代わりとなる選択肢がエアバス社の「A330 MRTT」しかなく、欧州製軍用機をこれまで導入してこなかった日本にとっては何かとハードルの高い選択肢であるのは間違いないし、どうせ買うなら、米国の対日貿易赤字削減の足しになるという政治的な意味合いも含まれているので、事実上「KC-46A」以外の選択肢は無い。

幸い、日本向けの「KC-46A」が納入されるのは2021年の予定なので、この2年の間に米空軍が「KC-46A」の初期不良を洗い出し、ボーイングが解決策を見つけ、機体の完成度が高まることに期待するしかないのが悲しいところだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain F-35Aに空中給油を行う米空軍のKC-46A

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    昨今のボーイングは、KC-46Aどころか本業の旅客機が、それ以上にボロボロだからねぇ。
    B737-MAX8は言うに及ばず、B-777Xの気密試験で試作機の貨物ドアが吹っ飛んで試験中止、しかも同機はエンジン不具合による設計変更で初飛行延期の有様だから、営業上そっちを先に解決する必要があるので、KC-46Aのトラブルに対処出来るのは何時の日か…(失笑)。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    アメリカの製造業自体の底力が落ちていると見なされかねない案件だけに、頑張って欲しいですね。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    匿名 :
    アメリカの製造業自体の底力が落ちていると見なされかねない案件だけに、頑張って欲しいですね。

    いや、現実問題製造業全体が劣化してるだろ。まあ、そうなった原因の一因である我が国が言う事ではないかもしれんが。
    とはいえ、民間大型旅客機を独占している二強の一角のクセにこのザマはねーだろとツッコミたいが(某金ぴかレベルで慢心してたんだろうがな)

    1
    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    工具の放置とか他の件でも聞いた気がするなあ

      • 匿名
      • 2019年 9月 20日

      日米貿易摩擦が華やか(?)なりし頃に米の自動車工場でそういう事例が散見されてましたね(新車のダッシュボード内にスパナが残ってたとかetc.)。
      日本の製造現場ではそういう話はまず聞きませんから、米国内の製造現場での悪しき慣習なのかも知れませんね。

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    グローバル化によって海外顧客を増やし、それに伴ってどんどん図体だけが肥大化して行き、世界中の需要を僅か数社で独占するかのような状態にまで登りつめたら、さぁその後はどうするんですか?という話ですね。
    内情はさておき、この規模の生産体制は日本の国内企業には到底真似出来ない代物ですな。
    これが戦時にフル稼働するなんてことを想像したら、絶対勝てるわけ無いと思うしかない。

      • 匿名
      • 2019年 9月 20日

      >戦時にフル稼働
      出来るんですかね? このザマで
      出来ないと思われているからこそ、中国がアレだけ増長してケンカ売ってるんでしょうし
      少なくとも、米造船業界は戦後日中韓で破壊してしまいましたから、世界大戦時の様な大艦隊建造は最早夢物語でしょう(ペリー級大量建造再来とか見てみたいけどさ)

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    しかしE-767にKC-767にKC-46Aと、B767系統の軍用機が多いな
    767より大きくても使いづらいけど、さりとて737サイズでは事足りず、757は導入してる国内エアラインがないから整備が面倒ってことかな

      • 匿名
      • 2019年 9月 22日

      B-757/767は航空機関士フライトエンジニアが不要で長距離飛べる中型双発機となった最初期の民間機なので改造用機体としてこなれているのが大きいんでしょうね。
      民間機の需要はB-777とB-787に移行したので、767を生産ラインを軍用機に転用できますし。

      とはいえ、KC-46AはB-787相当のグラスコックピットに三次元表示可能な給油オペレーション装置とKC-767よりも高機能な機体になっていて、インテグレーションに手こずってるのは外注比率が高くて開発に手こずったB-787から学べてない感じはあります。

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    KC-767が確保できているだけマシと思った方が良いのかどうか

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