日本関連

UAV技術の拡散阻止は不可能、日本企業が不正輸出した部品は中東で無人機に化ける

日本の精密機器メーカーが軍事用途のドローンにも転用可能な電子制御モーターを不正輸出したとして書類送検されたとニュースになっているが、数日前に中東メディア「エジプト・インディペンデント/Egypt Independent」が非常に興味深い指摘を行っている。

参考:Can drone warfare in the Middle East be controlled?

日本を含む世界中の国から調達した商業部品で製造された「カスタムUAV」がもたらす厄介な問題

エジプト・インディペンデントは今月1日「中東でのドローン戦争は制御可能か?」という記事の中でイランが開発した「カスタムUAV」について言及しているのだが、戦場のルールを書き換えたといわれる無人航空機が如何に厄介な問題を中東にもたらしているのかよく分かる内容で非常に興味深い。

西側諸国の防空システム網は一般的に航空機やミサイルの迎撃を担当するカバーエリアが広い高度な防空システム(パトリオットやSAMP/T等)と、戦場で部隊の上空(低層)をカバーする短距離対空ミサイル(M-SHORAD、スカイガード、スティンガー等)群で構成されているのだが、この組み合わせは新たに登場した低空を比較的遅いスピードで飛んでくる小型無人航空機を検出して対処するのが難しい(全く役に立たないという意味ではない)というギャップを抱えている。

出典:U.S. Army photo by Charles Rosemond パトリオットシステム

実際、イエメンのシーア派反政府組織フーシが用いる簡素な作りの無人機や巡航ミサイルに対してサウジアラビア軍のパトリオットやスカイガードは何度も迎撃に失敗、ロシアは「米国製の防空システムはロシア製防空システムに比べて効率が悪い」と酷評、イスラエルは「パトリオットのレーダーは地平線よりも下を移動する目標を検出して捕捉することが不得意=低空を飛行する無人機や巡航ミサイルの迎撃に効果がない」と主張しており、このギャップを埋める新しい防空システムの開発に欧米が取り組んでいる最中だ。

要するにフーシが用いる簡素な作りの無人機=イランが開発した「カスタムUAV」は西側の防空システムをすり抜けて目標にダメージを与えることが十分可能で、この脅威から解放される最もシンプルなアプローチは開発元のイランを叩いて「供給を止める」という方法なのだがココに大きな落とし穴が存在する。

イランは開発したカスタムUAVは一般的な市場で手に入る商業向けの部品を組み合わせたタイプの無人機なのだが、特筆すべきはカスタムUAVを製造してフーシなどに直接供給するのではなく製造知識をもつ人間を派遣して現地の人間が自らカスタムUAVを製造する方法を採用している点だろう。

出典:Public Domain イランが製造する無人航空機 Qasef-1

つまりフーシはイランからカスタムUAV製造に必要な知識を移転され、自ら製造に必要な部品を商業市場から調達して無人航空機を組み立てるため「使用されたカスタムUAVとイランの繋がりが立証できない=イランは無関係という立場を主張できるという意味」という根本的な問題を抱えているのだ。

実際に中東でフーシが使用した無人機を調べたジャーナリストは「フーシ製のUAVはイラン製UAVのデザインを踏襲して中国製の配線、主要メーカーが発売しているデジタルカメラやドローン向けのエンジンで構成され幾つかの部品はフーシ自身がオリジナルをコピーして製造したものだ」と語っており、国連もサウジアラビアの石油施設攻撃に使用されたフーシ製UAVについて「米国、英国、イタリア、スウェーデン、ポーランド、アイルランド、日本、韓国で製造された部品が使用されていた」と報告しているがイランが製造に関与した証拠がないためフーシとイランの繋がりを立証するまでには至っていない。

以上のことから中東で爆発的に増加する無人航空機は正規の手続きに則って供給されるルートと製造知識をもつ人間を現地に派遣して構成部品を一般的な市場から調達して組立てられるルートで構成されており、エジプト・インディペンデントは「商業市場から流れる部品を正規国家でもない組織の手に渡るのを防ぐのは不可能だ」と結論付けている。

因みにイランが拡散させるカスタムUAVは中東から遠く離れた日本にとって他人事のように聞こえるかもしれないが、実は日本も無人航空機製造技術の不正輸出が引き起こす脅威に直面してので油断は禁物だ。

イスラエル警察は今年2月、中国企業が提示した多額の報酬に応じてオリジナルの徘徊型ドローンを設計・製造を行い中国に不正輸出したイスラエル人グループを検挙したのだが、このグループの中には元イスラエル国防軍当局者が含まれていたため「徘徊・検出・突入プロセスを自律的に行う技術が中国企業の手に渡った可能性がある」と海外メディアが指摘している。

信頼できる関係者から情報提供を受けたと主張するイスラエル人ジャーナリストは「数千万ドルの報酬」と引き換えに技術を売り渡したグループには国防軍(IDF)で機密情報や武器開発に関与していた人間、イスラエル航空宇宙産業やミサイル製造企業で働いていた人間が多数含まれていると指摘、さらに当局は「イスラエル人グループが取引を行った中国企業の裏にイランや北朝鮮といった国が関与していた可能性もある」と報告書の中で言及しているので日本も無人航空機製造技術の不正輸出が引き起こす脅威に無関係ではないのだ。

関連記事:イスラエル人による徘徊型ドローンの不正輸出先は中国、背後に北朝鮮やイランの影も
関連記事:韓国、アイアンドームに類似した防空システムやVTOL対応の無人航空機開発を決定

 

※アイキャッチ画像の出典:Fars News Agency イランが開発したカスタムUAV

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    タミヤを買う際は身分証提示な。

    9
      • 匿名
      • 2021年 7月 07日

      日本はパーツを売るだけだからタミヤとかの枠ではなく注意が必要。
      詳しくは『軍事ドローンに転用可能か 90歳社長“中国へ不正輸出”で摘発』で各自調べてくれ

      9
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    昨年末のBS海外ドキュメンタリーで、北朝鮮がどこかの国の依頼でアフリカ某国に工場作って現地生産をやらせているような情報出てたね
    それでもアメリカの監視が厳しくてスポンサーが中々つかないようだが

    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    写真の赤いUAVの乗ったトラックが軽トラみたいに見えるんだが。

    6
    •   
    • 2021年 7月 07日

    イランの大学はこういうテロ支援技術者を養成してる
    留学生も多し

    4
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    マイクロリアクターの問題も、これと似た要素を孕むのですよね…
    こちらは化学兵器の方ですが

    1
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    イラン制裁解除して大丈夫なんかね?
    核開発は凍結できでも、より資金を得てしまうような
    テロ支援活動、工作活動は止まないどころか活発化するんじゃないかと心配

    7
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    低空の小型飛行物体を撃墜、もしくは飛行不能にする防衛兵器の開発が必要ですね

    1
      • 匿名
      • 2021年 7月 07日

      記事中で既に指摘されてるけどな
      > このギャップを埋める新しい防空システムの開発に欧米が取り組んでいる最中だ

      厳密には、幾つかは実用化されて実戦での証明待ちになるとは思うけど、それこそこないだもc-ramがバグダッドで対ドローン戦闘してたね

      1
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    イスラエルですら技術売るんだから日本人なんて簡単だろうな

    3
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    戦略物資の輸出にはピリピリしてきているのを各種報道から感じます。
    日本が某国をホワイト国から外したのも、その先から不正輸出されたときに、原輸出国としての輸出管理の責任を問われるからであって。

    >特筆すべきはカスタムUAVを製造してフーシなどに直接供給するのではなく製造知識をもつ人間を派遣して現地の人間が自らカスタムUAVを製造する方法を採用している点だろう。

    よく考えつきましたね。
    戦略物資以外の部品だけでも、製造できそうな気がします。
    そうだとすると、輸出管理を厳格運用しても防げない。

    5
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    ‥‥作る人間を消せばいいんじゃないかな?by🇮🇱

    1
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    つまりこのイランの技術者のような存在が中朝露からオウム的な組織に派遣されたら国内でも…

    2
      • 匿名
      • 2021年 7月 07日

      わざわざ技術者を派遣する必要なんて無いよ
      テレワークで技術者とオウム的なテロ集団を繋いで打ち合わせを行い、必要な設計資料はネットで動画なりPDFなりを送付すれば、後は現地で部品調達して作るだけ
      特に、イランは核技術も持っているから、テロ集団の物資調達能力次第では核爆弾装備の自爆ドローンで世界の何処か(日本に限らない)を吹っ飛ばす事だって理屈の上では可能だよ

        • 匿名
        • 2021年 7月 08日

        それは流石に荒唐無稽すぎて草
        そこはBC兵器とか百歩譲っても”汚い爆弾”でしょ

        民生品の延長でできるドローンの積載量では核兵器は絶対に無理

        2
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    今回は経産相の許可を取ってなかったある意味「間抜け」な事案だったけど、きちんと許可とったやつの中に紛れ込ませたり、複数回転売されたりしたら出国時点では止めようがないよな

    2
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    10年くらい前、遠心分離機に使う高速撹拌機をイランに輸出して逮捕された商社がありましたねえ。
    あれ以降日本からは遠心分離機の輸出はしていないが、今イランは完全なウラン濃縮技術と設備を獲得している。
    規制が全くの無駄とは言わないけど、ミサイルも核もUAVも技術の拡散を努力で留めておけるというのは間違いだろう

    3
    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    昔はハイウェイカードというのがあって、5万7千円のカードを某所の棒外国人が2.5万円で売っていたが
    ああいうのが今は、多国籍UAVに日本製のパーツを組み込む際の動作検証とかしているのかな
    過去にカードライターを日本に持ち込むことは違法ではなかった
    海外からUAVを分解して日本に持ち込むことは違法じゃないし
    UAVに追加した場合の動作検証も違法じゃないから

    • 匿名
    • 2021年 7月 07日

    民生部品を使った低価格のUAVがフーシに造れるのなら、自衛隊でも造れるはずじゃん。
    自衛隊もUAVを大量に造りましょうよ。
    低価格なんだし。

    2
      • A
      • 2021年 7月 08日

      まずはなちゃら甲子園って感じで高校生あたりに作らせるってのはどう?
      機体の設計ってのは小さいうちからトライアンドエラーでなじませておかないとねって誰か言っていたよ。

      1
    • 匿名
    • 2021年 7月 08日

    片側の陣営から規制されてもね
    それに長期に規制されたらそのうち自国生産し始めるからナー特にこういう小型で使い捨て可能なくらい安い部品は

    1
    • 匿名
    • 2021年 7月 08日

    玩具用のモーターで人が死ぬ時代。とんでもないことになってしまった

    2
    • 匿名
    • 2021年 7月 10日

    管理人が変な反日に走るのはなんで?

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