日本関連

宇宙空間の監視だけ? 日本の「宇宙作戦隊」に求められる役割とは

日本にも宇宙空間を作戦領域とする「宇宙作戦隊」が誕生したが、果たしてスペースデブリ(宇宙ごみ)や不審な人工衛星の動きを監視するだけの存在なのだろうか?

参考:自衛隊で初「宇宙作戦隊」発足 不審な人工衛星など監視へ

一足先に発足した米宇宙軍の取り組みを参考に日本も宇宙作戦隊を発展させるべき

防衛省は5月18日、宇宙空間を作戦領域とする「宇宙作戦隊」が航空自衛隊内に新設され正式に発足した。

出典:防衛省

この宇宙作戦隊はJAXAや米宇宙軍と協力して日本の人工衛星に脅威となるスペースデブリ(宇宙ごみ)や不審な人工衛星の動きを監視すると言われているが、より詳しい活動内容や将来的な展望についてよく分かっていないため、一部メディアが宇宙作戦隊は「中身がない」と批判的に報じている。

では、一足先に発足した米宇宙軍はどのような活動や将来の展望を描いているのだろうか?

昨年末に発足した米宇宙軍は米空軍宇宙軍団を母体に再編成された独立組織で約1万6,000人の人員と154億ドル(約1兆6,500億円)もの予算をもつ巨大組織だ。

出典:U.S.SPACECOM photo Shealah Craighead 米宇宙軍の軍旗公開シーン

主な宇宙軍の任務は宇宙領域の監視、宇宙戦力と軍事衛星運用の指揮、通信や位置情報などのサービスを米軍へ提供、核爆発の検知、ミサイル防衛に必要な探知や追跡などが挙げられているが、これは前身の空軍宇宙軍団が行っていた任務をただ引き継いだに過ぎない。

そこで宇宙軍が新たな取り組みとして行っているのは「極超音速兵器」を含むミサイル攻撃を宇宙空間から探知・追跡可能な衛星の開発だ。

関連記事:極超音速兵器に既存の迎撃システムが役に立たない理由

そもそも、この計画は宇宙軍よりも先に国防総省内に設置された宇宙開発庁(宇宙軍に吸収される予定)が推進していもので、これまで弾道ミサイル発射を感知するため運用されてきた早期警戒衛星(DSP衛星)の後継となる取り組みで最も重要視されているのは「極超音速兵器」を迎撃するための探知・追跡=情報収集だ。

出典:public domain B-52の翼下に懸架されたX-51

赤外線センサーを搭載するDSP衛星は1基で広範囲をカバーするため高度3万6,000km前後の静止軌道(GEO)で運用されているのだが弾道ミサイルに比べて極超音速兵器は数十倍感知しにくいため、新しい衛星は高度2,000km以下の地球低軌道(LEO)で運用して感度を向上させるらしい。

しかしそうなると1基あたりの衛星がカバーできる範囲が狭くなるため地球全域をカバーしようとすれば膨大な数の衛星が必要になるのだが、そこは衛星の小型化で乗り切ることを予定している。

出典:public domain DSP衛星

DSP衛星は大型バスほどの大きさなのでロケットに複数搭載して打ち上げることは不可能だが新しい衛星は数百kgまで小型化される予定で、計画では役割の異なる数種類の小型衛星(運用寿命5年)を開発して2022年中に最初の20基を打ち上げ能力の実証を行う予定だ。

これが上手く行けば2年後の2024年に150基打ち上げて本格的に宇宙空間のセンサー構築を始めることになっている。

最終的には数百基の小型衛星がトランスポート衛星に接続され地球低軌道(LEO)上にメッシュネットワークを作り出し、米軍の通信を支えるグローバルネットワーク網が出来上がるという寸法だ。

出典:US Air Force 移動式の衛星通信の妨害・遮断装置

他に宇宙軍が取り組んでいるのは地上ベースの妨害装置による衛星通信の妨害・遮断攻撃で必要な装備一式を今年4月に米空軍から正式に移管された。これは2004年に正式運用が始まった比較的新しい装備で詳細はよく分かっていないが軍事衛星だけでなく商用衛星が軍事利用される現代において、このような任務は必要不可欠になってくるだろう。

このように米宇宙軍と比較すると日本の宇宙作戦隊は名前だけかもしれない。しかし先行する米宇宙軍の取り組みを見れば自ずと日本が取り組む課題も見えてくる。

極超音速兵器を含むミサイル攻撃を宇宙空間から探知・追跡可能な宇宙ベースのセンサー構築は日本単独で行うには手に余るかもしれないが、地上ベースの衛星通信の妨害・遮断攻撃なら日本も実行可能かもしれない。もっと高望みをすれば米宇宙軍が開発する小型衛星は1基1,000万ドル(約10億円)程度といわれているため5年で1,000億円程度(※1)の予算が確保できるのなら日本が独自にセンサー網を持つことも可能かもしれない。

※1補足:100基×10億円=1,000億円という意味で衛星の開発コストや打ち上げ費用などは含まれていない。

現在は20人という小規模組織なので出来ることは限られているが、今後米宇宙軍の取り組みや成果を研究して日本独自のスペースコマンドに発展していくことを祈る。

 

※アイキャッチ画像の出典:metamorworks / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 5月 19日

    アメリカ宇宙軍は陸軍や空軍から組織を引き抜いて1万人の陣容になった組織なんで日本の宇宙作戦隊も同じように空自や陸自、海自のBMD担当や内閣府の情報収集衛星、経産省の準天頂軌道衛星関係の組織を統合吸収すればあっという間に人員規模は膨れ上がるでしょう
    単にそれをする組織運用上の意味が日本にあるとは限らないというだけの話で
    アメリカ宇宙軍に相当する中身が単に宇宙作戦隊以外のところに分散しているだけなのを宇宙作戦隊に中身が批判するメディアは的を外している

    • 匿名
    • 2020年 5月 19日

    >より詳しい活動内容や将来的な展望についてよく分かっていないため、一部メディアが宇宙作戦隊は「中身がない」と批判的に報じている。

    国防に資する弾道ミサイル警戒任務等の目下進行中の任務について機密事項があるので当然公開できない事柄がある。「中身がない」と報じたメディアは、そんな事も分からない程無能なのか、批判のための批判をしているのか。度し難い。

    メディア各社も仕事の成果に対しスコアで採点される側にされないと良い方向に向かわないと思うのは俺だけか。

    2
    • 匿名
    • 2020年 5月 19日

    防衛省からJAXAに委託している業務や内閣官房が管理している偵察衛星が得た情報のやり取りなど防衛省側の窓口を一元管理する事だけでも事務工数の削減や作業手順の見える化に寄与すると思います。近い将来のクロスドメイン対応において宇宙関係の軍事情報の一元管理と秘密保持にも大いに寄与するとも老います。

    2
    • 匿名
    • 2020年 5月 19日

    周りのバカな国へ配慮して隊員数が20人って国守る気あんの?

      • 匿名
      • 2020年 5月 19日

      有能なら無能な2万よりマシ。
      工学の世界は数ではない

      1
      • 匿名
      • 2020年 5月 19日

      記事をもう一回読んでから批判したまえ

      3
      • 匿名
      • 2020年 5月 19日

      一見国防を憂えているようでその実自衛隊を馬鹿にする書き込み、さてはてめぇVANKだな。

      3
      • 匿名
      • 2020年 5月 20日

      何事も最初はこんな感じでしょうね。
      温かく見守って育てていきましょう。

      4
      • 匿名
      • 2020年 6月 16日

      30人は少なすぎるね・・・・1万人規模にして予算も与えるべきだろう

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