日本関連

カナダ海軍の次期フリゲートが開発遅延で裁判沙汰、SPY-7を採用する日本の同じリスク?

佐藤正久議員が朝日新聞の記事を取り上げながら「SPY-7と同じLRDR及びBL9搭載予定のカナダのミサイル防衛艦は開発が大幅に遅れ、裁判になっているようだ。日本も同じリスクも」と指摘しているが、朝日新聞の記事内容とカナダ海軍の次期フリゲートの話に共通性はなく何故「日本も同じリスク」と指摘するのか意図が良くわからない。

佐藤正久議員の指摘「カナダと同じリスクに直面する」は何を意図しているのだろうか?

これは管理人の推測なので当たっているのかは不明だが、恐らく佐藤議員は「カナダ海軍のAN/SPY-7とイージスシステム・ベースライン9を採用する次期フリゲート開発が遅れて裁判沙汰になっているので、同じAN/SPY-7とイージスシステム・ベースライン9を採用する日本のイージス・システム搭載艦も同じリスクがある」と言いたいのではないだろうか?

もし佐藤議員の主張が管理人の推測通りなら誰かに騙されているか事実を誤認したのかもしれない。

出典:カナダ海軍

カナダ海軍の次期フリゲートは日本のイージス・システム搭載艦と同じロッキード・マーティン製LRDR(Long Range Discrimination Radar:長距離識別レーダー)の派生型「AN/SPY-7」を採用する予定だが、戦闘管理システムにイージスシステム・ベースライン9を採用するつもりはなく、カナダ海軍はハリファックス級フリゲートを近代改修する際に開発した独自の戦闘管理システム「CMS330(LMカナダが開発したもので基盤技術にはイージスシステムのものが採用されているらしい)」にイージスシステムの火器管制機能「International Aegis Fire Control Loop(IAFL)」を統合したものを採用するつもりだ。

参考:Seven Things You Should Know About the Canadian Surface Combatant

そのためCMS330+IAFLをイージスシステム・ベースライン9と同じだと呼ぶには無理がある。

補足:余談だがAN/SPY-7の採用が決まっているスペイン海軍も次期フリゲート「F110」にナバンティアがロッキード・マーティンから技術移転を受けて開発した国産戦闘管理システム「SCOMBA(イージスシステムと一部共通性があるらしい)」にIAFLを統合したものを採用する予定だ。

出典:海上自衛隊 護衛艦まや

さらに日本がAN/SPY-7と組み合わせて使用するイージスシステムについては今月25日に米ミサイル防衛局が言及しており、イージス・システム搭載艦に供給が予定されているのは「まや型護衛艦」が搭載しているイージスシステム・ベースラインJ7(米海軍が採用しているベースライン9相当)の派生型「J7.B」で、ソフトウェアの共通化を容易にする仕組み「Aegis Common Source Library」を活用して最新のベースライン9とベースライン10に実装される機能が移植されるらしい。

参考:The SPY-7 Hybrid Defense Security Cooperation Project with Japan Completes Initial Engineering Demonstration of Capability

つまりカナダ海軍の次期フリゲートも日本のイージス・システム搭載艦も米海軍が採用しているイージスシステム・ベースライン9を搭載する予定はないという意味だ。

では日本も採用予定のAN/SPY-7がカナダ海軍の次期フリゲート開発遅延を招いて裁判沙汰の原因になっているのだろうか?

カナダ海軍の次期フリゲートプログラムは艦の設計や機能を開発している最中なのだがカナダ海軍の要求や産業界の要望を反映させた結果、当初予定よりも重量が増加(6,900トン→7,800トン)してしまい英海軍のタイプ23型フリゲートをベースした設計や開発も遅れ気味でプログラムコストを再調査した結果、600億カナダドルと見積もられていたプログラムコストが773億カナダドルに高騰して予定通り計画を進めるのか、提案された代案(米海軍のFREMMベースで開発されるコンステレーション級フリゲートと英海軍のタイプ31型フリゲート)に乗り換えるのか決断が求められている。

出典:U.S. Navy graphic/Released コンステレーション級フリゲートの完成予想イメージ

さらにカナダ国防省はプログラムコストの再調査結果が発表される前(今月16日)に次期フリゲートの建造延期(1番艦引き渡し2025年→2030年)を正式に発表しているので、同国の次期フリゲートプログラムは岐路に立たされているといっても過言ではないのかもしれない。

参考:THE COST OF CANADA’S SURFACE COMBATANTS: 2021 UPDATE AND OPTIONS ANALYSIS
参考:DND unable to say exactly when delays in $70-billion warship program began

ただ政府のプログラムコスト再調査結果もカナダメディアも次期フリゲートプログラムの遅れの原因が「AN/SPY-7」にあるとは言っておらず、再調査結果発表も建造延期発表もごく最近の話なのでカナダ政府や国防省が開発の遅れが原因で訴えられているという話を見つけることが出来なかった。

唯一確認できたのは訴訟案件は次期フリゲートプログラムの入札に敗れたスペイン企業ナバンティが「カナダ海軍の要求を満たしていないタイプ26型フリゲート案が勝者に選ばれたので公正な入札と言えない」と主張して訴えているぐらいで、後は提案された代案に乗り換えるには現在の契約を終了させるため訴訟費用が必要だと言われているぐらいだ。

参考:Legal measure often cited in terrorism cases used by feds to prevent release of shipbuilding records

つまり日本のイージス・システム搭載艦とは異なる戦闘管理システムをカナダ海軍は採用しており次期フリゲートの開発が遅れているのもAN/SPY-7が原因ではなく、しかも開発が遅れていることが原因で裁判沙汰にもなっていないので日本が同じリスクに直面する可能性は極めて低いというのが管理人の見解だ。

断っておくが管理人はイージス・システム搭載艦にAN/SPY-6でもAN/SPY-7でも海自が好きな方を選べば良いと思っているので特にどちらかのシステムを支持している訳ではない。ただ間違った情報で両者を比較するのは誤った結果を招きかねないので公正な情報に基づくジャッジが必要だと思っているため今回、佐藤正久議員の指摘を失礼ながら勝手に検証させてもらった。

もし佐藤議員の指摘意図が管理人の推測と外れていた場合は大変失礼にあたるので記事を取り下げようと思うが、管理人の推測が正しいなら佐藤議員に間違った情報を吹き込む悪い人物がいるのかもしれない。

関連記事:米ミサイル防衛局、SPY-7とイージスシステムの組み合わせが性能基準を満たしたと発表

 

※アイキャッチ画像の出典:海上自衛隊 護衛艦まや

武器輸出の制限? バイデン政権が人権問題を理由に新たなサウジ制裁を間もなく発表前のページ

契約総額は約850億円、アラブ首長国連邦が韓国製の多連装ロケットシステム「天武」導入次のページ

関連記事

  1. 日本関連

    戦後初の防衛装備品輸出に暗雲? 新型コロナの影響でレーダー「J/FPS-3ME」輸出交渉が停滞

    日本にとって戦後初となる国産防衛装備品の輸出交渉が新型コロナウイルス「…

  2. 日本関連

    ベトナムに感謝、エンジントラブルに直面していた海自P-3Cが無事帰国

    ベトナムの協力で、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に派遣されていた…

  3. 日本関連

    次期戦闘機開発支援に応じる海外企業は?日本が「F-X」開発に関するRFIを発行

    日本政府は25日、次期戦闘機(F-X)開発におけるインテグレーション(…

  4. 日本関連

    日本、F-15J改修コストが高騰する原因は電子機器の供給不足

    日本政府は2021年度予算への戦闘機F-15J改修予算計上を見送る方針…

  5. 日本関連

    海上自衛隊の戦闘指揮所が進化!近未来的なCICを搭載する新型護衛艦

    米国最大の海上兵器の博覧会「Sea Air Space 2019」で、…

  6. 日本関連

    遂に陸自のV-22オスプレイが日本到着! 木更津への輸送は新型コロナの影響で未定

    米国本土で訓練を行っていた陸上自衛隊向けのV-22オスプレイが、はるば…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    管理人さん、記事の翻訳とかだけじゃなく幅広い知識を陸海空で持っていらっしゃるの素晴らしいと思います。

    41
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    要は、実績のないシステムはトラブルになる可能性が高いということ。

    1
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      記事読んで

      31
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      ぜんぜん「要は」になってなくて草

      33
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      お前日本語解るか?

      14
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    事の真偽は置いといて、最近見積り価格より調達価格が大幅に上昇するケースが恒常化けしすぎではないかな、これは納税者に疑念を抱かせ、国防官庁と企業双方への信頼を損なう
    オーストラリアの潜水艦計画みたいなハチャメチャはそうそう無いにしても、しっかりとした数字を予め提示できないのは宜しくない

    9
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      残念ながら兵器の世界では、見積もり価格がアテにならないのは1970年代から恒常化しているので、どうにもならないんですよね
      その理由も多岐に渡るので、説明も難しいケースが多いです…例えば1970~80年代にかけてはインフレによる予想外の物価上昇が調達価格の上昇の主要因だったのに対して、近年では未確定の技術を使う事や要求性能の絞り込みの失敗による開発コストの暴騰が調達価格に跳ね返るケースが増えています

      東京五輪の開催費用が暴騰した事でも分かる様に、兵器に限らず大型プロジェクトの世界では、しっかりした数字を予め提示する事自体が非常に難しいのです(政治的な要素で余計な費用が掛かる場合も有りますし…)

      13
      • 匿名
      • 2021年 3月 01日

      見積額と調達額が乖離することは、民需の世界でもよくあること。

      特に、数十億円とか数百億円にもなる複雑かつ大規模なシステムや建造物は、見積もり作業自体に多額のコストがかかり、契約できなかった場合は企業が見積もりコストを負担するため受注できなければ丸損になる。

      そのうえ、見積もりを精緻にしようとするととんでもない日数がかかり、提示する期日に間に合わないため、どうしても推測や概算額にならざるをえない。

      そのリスクを減らすため、過去例や概算額で積算するのだけど、製造部門ごとに上振れないようにマージンを入れるので集計してみるととんでもない額になることがある。そのうえ、営業部門には価格の妥当性を判断する能力は無いので、製造部門が出した金額をそのまま使うしかなく、結果的に、見積額が過大になりやすい。

      しかし、入札の場合、金額だけではなくその他諸々の要素ごとに点数をつけて合計点数で優劣をつけるのだけど、軍需品は規格が決まっていて企業ごとに優劣を出しにくく、金額で勝負することになり営業判断または経営判断で社内で見積もった金額を無視した低価格になってしまう。

      これは、「実際に発生したコストは、支払ってもらう」ことが可能だからこそ起きる弊害で、見積額はあくまでも参考価格にすぎないので、真に受けてはいけないということです。

      3
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    陸自出身でイラクに日本で最初に橋を架けたのが自慢の人。
    レーダーや艦船の知識は如何程のものか?

    16
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      ツイでリンク貼ってる記事が例の朝日の「イージス艦の稼働率は一年の1/3」という「そんなことも知らなかったの?」なヤツだからねえ
      それとも朝日に「吹き込まれた」のかな

      17
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      この人、イラクから帰国して十数年も経ってるのに未だ日焼けした肌をトレードマークにしてるからなぁ…
      一昨年の某基地祭に来賓客で来てたけど、日焼けサロン丸出しの脂ぎった肌を恥ずかしげもなく晒してるの見て卒倒したわ

      ヒゲと日焼けしか売りのない泡沫議員だってのを自ら晒していくスタイル、嫌いじゃないけど好きじゃないよ

      5
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    佐藤議員、しょっちゅう軍事系ライターに事実誤認を突っ込まれてるから今回もそうなだけでは

    21
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      でも、いつも通りと笑って済ませられない問題は、佐藤議員が、単なる勉強不足であれ、誰かに騙されているのであれ、間違った認識でSPY-6の熱狂的応援団をしていて、巨額のお金が動く装備品の選定に与党の国会議員としての影響力を行使しようとしているということでは?

      17
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    いくら畑違いの分野とは言え、民間人が調べたら解る程度の情報(しかも国防に関わるもの)で現職国会議員がこんな事実誤認とは
    まぁTwitterだから大してなにも考えずに発信してるんでしょう。流石に部会ではちゃんとしてると信じたいところです

    13
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      国会議員といってもこの辺をきちんと調べる時間がなかったり、
      そもそもこの話がおかしいぞと思える下地を積めてなかったりすることも多いんですよ。
      「国会議員なんだからちゃんとしろ」というのは正論なんですが同時に
      理想論に近くもあって。
      正論で言うなら、「国会議員なんだからちゃんとしろ」という以前に
      「ちゃんとしてる国会議員を国民はちゃんと選べよ」って話でもあります。

      国会議員には、この手の話をきちんと説明できるブレーンがつけてると良いんですけどねぇ。

      14
        • 匿名
        • 2021年 2月 27日

        小選挙区制に変更やネットサポーターによる大規模なステマ活動、記者クラブによる情報統制等で世襲や利権維持のために活動していて少しづつ骨抜きにしてきたのに都合が悪くなるとすぐ国民の資質が~とか責任転嫁を言い出すのやめてほしいね
        政治家個人の職務怠慢+権力層(政官メディア)の癒着問題なのに前提として国民が選挙で選ばないのが悪いみたいな政治家を擁護するコメント見ると気分が悪くなる

        5
          • 匿名
          • 2021年 2月 27日

          わぁーそんな政治的陰謀があったんですねー
          大変だー
          国民は全然悪くないですね全部政治家が悪い!
          政治家を用語するなんてとんでもないー!

          10
            • 匿名
            • 2021年 2月 27日

            陰謀じゃなくて事実だから
            駄目なことは駄目って批判しないと日本は良くならないよ

            6
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      仮にも防大卒の元陸自の一佐だったわけで、政府に押し付けられたとは言え、
      イージスアショアは陸自の管轄になる予定だったのに
      本分が歩兵の親分だったとは言え、あまりに無知すぎて笑えない。

      10
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    リンク

    佐藤議員は確かにレイセオンからロビーを受けている。しかしいずれにせよ、米軍との装備共通化はできればいいのだ。

    11
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    ワザと間違った内容で注目を得ようとする炎上商法なのでは?

    3
      • 匿名
      • 2021年 2月 27日

      レイセオン、SPY-6レーダーはLMのSPY-7よりトラッキング能力(SPY-1の性能1台分)が低いみたいなので巻き返しかける為に変な事してるかも?これも妄想発言ですけどね。

      4
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    まあ機械はなにも一種類のパーツで構成されてる訳じゃないからね
    それが原因と明言されてもないのに、共通の部品があるからリスクがあると主張しても、そんな訳がないと一蹴されるよ

    2
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    やっぱ管理人さんすごいな

    10
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    ここの管理人は切り口が鋭いな
    専門性が高い情報を良くここまで分かりやすくまとめたものだと感心するわ

    17
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    最近のアメリカ製兵器のグダグダっぷりからしてちゃんとしたものが調達できるのか不安を抱いてしまうのは仕方ない

    10
    • oominoomi
    • 2021年 2月 27日

    ナバンティアは豪ハンター級でも

    1
    • oominoomi
    • 2021年 2月 27日

    ナバンティアは豪ハンター級でも、BAEシステムズに煮え湯を飲まされてますからね。
    なかなか腹の虫がおさまらないのかも。
    ホバート級は豪海軍でも評価が高い、とどこかで読んだ記憶があるんですが、違ったかな?
    (管理人さん、すみませんが誤投稿したのを削除お願い致します。)

    2
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    管理人の知識と分析を
    分かりやすく文章

    1
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    佐藤正久議員のTwitterを見てると、以前からSPY-6を手放しで推しており、SPY-6のリスクは完全に無視している。米国会計検査院が深刻な費用高騰リスクを指摘し、国防省のDOT&EがIAMD試験の2年遅れを指摘してるのに。SPY-6関係者から一方的な情報を吹き込まれているようにしか見えない。

    12
    • 匿名
    • 2021年 2月 27日

    カナダも26型にイージス載せて15隻も建造って、思い切った計画立てるなぁと思ったら、やっぱり予算でつまずくのか

    4
    • 匿名
    • 2021年 2月 28日

    よいしょは誉め殺しか

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  5. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
PAGE TOP