日本関連

米メディア、日本は真剣に極超音速ミサイルの脅威に受け止めていると評価

米メディアのTheDriveは9日、産経新聞が今月7日に「弾道ミサイルの発射を検知するため開発済みの赤外線センサーと無人航空機を組み合わせて極超音速ミサイルの早期探知実現を検討している」と報じた内容を取り上げ興味深い指摘を行っている。

参考:Japan Wants To Detect Incoming Hypersonic Missiles With Unmanned Aircraft

最終的に日本が極超音速ミサイルに対する多層的な防衛システムを構築するため負担するコストは数百億ドル/1.1兆円以上になる?

従来の弾道ミサイルは弾道コースで目標に接近してくるため迎撃に欠かせない未来位置の予測が容易(極超音速兵器と比較しての話)なのだが、中国やロシアが実用化に成功した極超音速滑空体(HGV)を搭載するミサイルは所定の高度と速度でHGVを切り離すと目標まで飛行コースを変更しながら極超音速(マッハ5以上)で接近してくるため未来位置の予測が難しく「既存の防空システムでは迎撃が難しい」と言われている。

出典:米政府説明責任局(GAO)

そのため極超音速ミサイルを迎撃するには従来よりも遠方で目標を検出・追尾するための「センサー」が重要で、特にHGVは空気抵抗の少ない大気圏上層を飛行してくるため宇宙空間の低軌道上からIR(赤外線)センサーで監視するのが最も適していると考えられており日本も米国と協力しながら独自の宇宙センサー網「衛星コンステレーション」を構築する計画を進めているのだが、産経新聞の報道によれば防衛省は「極超音速ミサイルの早期探知に赤外線センサーを搭載した無人航空機も活用する方向で検討している」らしい。

日本は北朝鮮の弾道ミサイル発射をいち早くキャッチするため中赤外線と遠赤外線の2つの波長帯を検出可能な「2波長赤外線センサー」を開発済みで、この技術を流用して極超音速ミサイルを検出できる無人航空機を前方空域に配備、宇宙センサーや艦艇に搭載されたレーダーと組み合わせて多層的な対極超音速ミサイルセンサー網を構築するつもりだ。

出典:米ミサイル防衛局

このアイデアについて米メディアのTheDriveは「米ミサイル防衛局が赤外線センサーや特別な識別用アルゴリズムを搭載した特別仕様のMQ-9を使用して弾道ミサイルの検出・追尾に成功(2016年)したアイデアと同じだが、この方法で目標の位置を特定(三角測量の要領)するには最低でも2機のMQ-9が同時に目標を観測する必要がある」と指摘、さらに日本は無人航空機への投資が遅くこの任務に適したプラットフォームを保有していないが間もなく日本に引き渡されるRQ-4は高度1万m以上を32時間以上も飛行できるので本任務に適しているだろうと言っている。

但し、日本はRQ-4を3機しか調達しないので「必要な範囲を全てカバーするのは不可能だ」とも指摘しており、防衛省は赤外線センサーを搭載した無人航空機を敵空域に近い前方に配備することを想定しており「無人機なら仮に撃墜されたとしても人命が失われることはなく費用面でも安価に抑えられる」と考えているので調達コストが高価なRQ-4は防衛省が想定している無人航空機ではないだろう。

出典:Missile Defense Agency

あとTheDriveは「仮に極超音速ミサイルの検出・追尾に成功しても日本の取り組みには迎撃手段(米国はGlide Phase Interceptor/グライド・フェーズ・インターセプターと呼ばれる新しい迎撃弾の開発構想がある)が欠けており、従来の兵器とは比べ物にならないほど対処時間が限られているため交戦全体を迅速かつシームレスに管理できるネットワークと新しい指揮統制システムを用意しなければならず、最終的に日本が極超音速ミサイルに対する多層的な防衛システムを構築するため負担するコストは数百億ドル/1.1兆円以上になるだろう」と言及しているのが興味深い。

関連記事:防衛省、極超音速ミサイルの早期探知にIRセンサー搭載を搭載した無人航空機活用を検討
関連記事:HGV迎撃で最も重要なのはセンサー、米ミサイル防衛局が極超音速滑空体の迎撃コンセプトを公開
関連記事:米国防総省、極超音速滑空体を使用して開発中の艦対空ミサイル「SM-6 BlockIB」をテスト

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain 米国が研究していた極超音速試験飛翔体 Falcon HTV2

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    無人機プラットフォームのほうは某A省でも何かしら準備してそうな気もするけど、極超音速滑空体の迎撃に使えて広域をカバーできる迎撃兵器ってちょっと思い浮かばないな。米国のGPIも従来の迎撃手段の延長と冗長化だし、飽和攻撃への対処能力は限定的っぽいし。

    10
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      迎撃ミサイルの方は普通にPAC-3かSM-6で良いんじゃないの
      問題は数よ

      7
        • 匿名
        • 2021年 8月 11日

        中SAM改の更に改良型(開発中。2020〜2022年?)がイスカンデル等の変則軌道で飛行する弾道ミサイル対応で、
        そのまた性能向上型(構想。開発7年程度?)がHGV対応、だっけ?
        性能妥協してでももう少し前倒せないかなぁ…

        3
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      従来の弾道弾と違って高硬度での迎撃は難しいからね
      今のところ極超音速滑空体を発見・追尾してターゲットを推定し、パトリオットなど近くの防空部隊を展開させるぐらいしか方法なさそう

      確実に迎撃しようとしたら対空核ミサイルぐらい爆発時範囲と電子障害範囲の広い兵器が必要になるだろうし

      3
        • 匿名
        • 2021年 8月 11日

        着弾地点付近に展開さえできるなら、別に迎撃自体は難しくもなんともないかと
        M10〜20とかの速度で落下してくるミサイルの迎撃をすることができるんだから、終端段階のM3とかまでスピードが落ちてるミサイルの迎撃はそんな難しい話でもない

        まあ、だからこそ探知にフォーカスがいくわけだけど

        3
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      ステルス機をターゲットとした場合、従来型の誘導方式では対応出来ないと見なし、日本では「予測型最適誘導制御」のアルゴリズム研究を行っています。
      そのアルゴリズムを流用して、対HGV用のミサイル制御を確立して、SM-6などに適用して欲しいと思っています。

      7
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      高高度迎撃用飛しょう体技術の研究てのを弾道ミサイルや極超音速ミサイル迎撃用に研究してるみたいなんで数年後にしれっと中SAMの改良型を出して来そうな気がする。

      3
    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    F-3とチーミングする無人機を流用するのでは?

    1
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      哨戒用に長時間滞空するのと共同作戦を行うUAVじゃ要件違いすぎるんじゃね

      28
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      遠距離見通し外運用での偵察や哨戒用途のUAVは第3分類で、チーミング用のUAVは第4分類です。
      2019年頃までは第3分類用の要素開発を行っていましたが、
      2019年頃から第4分類用の制御技術の方に軸足を移した感があります。
      HGV監視用のUAVは、元々開発を進めていた第3分類UAVへの回帰と見なす事が出来ると思います。

      2
    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    極音速ミサイルの迎撃、既存のプラットホームの共有が出来ないのも問題。
    センサーをUAVに搭載し監視体制を敷くことすら大変な作業で、空自の任務が拡大する。
    更に迎撃弾も新型を用意せざる得ず、そうなると高射部隊にまた新しい装備を用意しなくてなならなくて…
    海上でもイージスシステムの更なる改良が必要になり、一層同時対処能力が必要、そうなればレーダー等の仕様次第で、船自体の主機から何から全て新型にしなければならなくなる。絶対的なゲームチェンジャーだよ。

    2
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      ここまで考えると、もうミサイル防衛せずに攻撃用ミサイル作った方が効率よくね???ってなりそうだよな
      え、ダメ?

      14
        • 匿名
        • 2021年 8月 11日

        もしかして:JASSM-ER

        もしそれ以上を望んでるなら、そういう競争をした時に負けるのは国力に劣る方やぞと言う他ない

    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    イージスアショアはグダグダなのに衛星コンステレーションとかこれとかにいやに熱心なのが奇妙だな

    1
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      イージスアショアは元々乗り気じゃ無かったのでは?

      17
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      イージスアショアは地元が反対したからだ面倒になったのろう、衛星なら反対できないから。

      10
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      現場が欲しいと思っているかの違いなんじゃない? アショア導入って確か議員だか背広組だかが勝手に決めた話だったと思う。
      知らんけど。

      15
        • 匿名
        • 2021年 8月 10日

        北のミサイル騒動の時に何か対策とらねばならないって政治的な動機だと思うが

        3
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      弾道弾対策ならイージス艦あるし何なら米軍のイージス艦もある
      対策はあるんだから、アショア止めて対策の無い高速飛翔体に金使った方がよさげ

      5
    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    プラットフォームはこれしかない
    リンク
    IR-OPV(T-5)の主翼を伸ばしただけだから制作もそんな苦労しないだろ
    見た目のダサさに関してはこの分野への投資を怠ってきた報いとして受け入れるしかない

    1
    •   
    • 2021年 8月 10日

    ミサイル発射は従来通り静止軌道の赤外線監視衛星で探知可能だからアメリカとの連携も大事やね
    飛行時の監視はアメリカは低軌道の多数の衛星からだが、多少日本も出資して情報共有したらええんと違います?

    1
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      するんじゃない?

      リンク

      小型衛星コンステレーションは日本独自に構築するみたいだけど、

      リンク

      必要な情報は共有するだろうし、打ち上げだって協力する可能性は十分ある。軌道要素がある程度近ければ相乗りは十分可能だろうしね。

    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    ミサイル防衛はもうやめよう。膨大な費用が掛かって国内の内政費用を圧迫してそれで国民が飢えたら本末転倒だ。
    それに矛と盾のことわざ、「矛盾」にあるようにミサイル防衛はその性質上本質的に矛盾している、絶対安全なんてあり得ない。
    人間のもしもの心理をミサイル防衛で安心させられるわけがないんだ。
    膨大な軍事費でソビエトは滅亡した。日本が同じ道を歩むのを私は真剣に危惧している。アジア諸国との対話と平和外交はもっと見つめ直されるべきだ。

    1
      •  
      • 2021年 8月 11日

      対話できる相手ならな。
      自分の独りよがりな要求を相手に押し付けるだけの相手に話通じるか?

      中国にジェノサイドや香港での人権弾圧、南東シナ海での拡張政策、ハッキングとか止めろと言って止めるのか?
      止めないからこうなってるんじゃないか

      30
      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      莫大な軍事費はまず中国に言ってくれないか?
      中国が不透明かつ莫大な費用をかけて軍事力強化と拡張政策なんてやってるからこっちも金掛けるしかない
      中国がやって緊張高めてるのがそもそもの原因だ
      生産性のない軍事費に金掛けずに済むならこっちだって願ったり叶ったりだよ

      26
      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      「ミサイル防衛じゃなく、攻撃兵器を」というならまだわかるが、代わりに外交?
      ミサイル防衛を持っていれば、外交も効果があがる。
      排他の関係じゃないですよ。

      26
      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      相手が銃持って話しかけてくるんだからこっちも盾持って話さないと

      10
    • 匿名
    • 2021年 8月 10日

    おまえチンドン屋とか見たことねーだろ?
    そぅ、ポケベルさえなかった頃の時代さ

      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      何か嫌な事でもあったのか?
      話してみれば楽になるかもしれんぞ?

      9
      • 匿名
      • 2021年 8月 10日

      今でもまれにいるけどね、なんか道楽でやってる連中
      お前は傷痍軍人(偽)見たことないだろw

      2
        • 匿名
        • 2021年 8月 10日

        kwsk

        4
          • 匿名
          • 2021年 8月 11日

          幼少の記憶だぞ、それこそチンドン屋の出るような商店街でラジカセで軍歌を流しながら募金を乞う包帯巻いた軍服の人
          後に思い起こせば、本物の軍人ならもっとずっと老人だろって話
          大人たちはチンドン屋と同類の町の賑わいくらいに受け流していたようだ

          3
      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      数年前に駅前でチラシ配ってるチンドン屋見たわww
      思わず2度見しちまったし、物珍しさからか、そこそこ人が集まってた。

      1
      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      おじいちゃん、今はもう令和ですよ

      3
        • 匿名
        • 2021年 8月 11日

        ねえ、物差しの短いことって自慢になるの?
        知らないは損なだけですよ

    • 名無しの権兵衛
    • 2021年 8月 11日

    あーホント軍事って金かかるなぁ(1億人を救うのに1兆円程度は安いかもしれないが)
    イージスアショア代替案の問題もあるし、敵基地攻撃能力保有の話も立ち消え(安倍政権のときは議論されていたが、菅政権ではストップしたまま)しそうだし?
    そしてミサイル防衛システムか…

    とりあえず無人機の製造からじゃない?
    前にプロペラ機にセンサー積んでる画像は見たことがあるが、国産無人機って計画進んでるのかな?

      • 匿名
      • 2021年 8月 11日

      お金をかけなくても良いのよ。
      代わりに人命とか色々犠牲になるけど。

    • 匿名
    • 2021年 8月 11日

    相手陣地に攻め込まない 攻め込めないチームは勝つことは出来ない 引き分けすら難しい

    2
    • 匿名
    • 2021年 8月 11日

    派手にお金を使うのよりも、基地の掩体化とか都市部のシェルター設置とか、地道な対策をおろそかにしているのが気になりますね。

    6
    • 匿名
    • 2021年 8月 11日

    これだけ対策費用、時間を取らせることができたのだから、既に北や中露の極超音速ミサイルは大成功ですね・・・

    1
    • 匿名
    • 2021年 8月 12日

    極超音速ミサイル以前にパーシング2の「ような」弾頭を
    迎撃できるのかが問題、あれって目標ポイントの誤差を滑空で修正できる機能なかった?素人ですまん。。。

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