エジプト陸軍が保有する1000輌以上のエイブラムスは一度もアップグレードを受けてこなったが、米国務省は20日「エジプトが要請していたM1A1SAへのアップグレードを推定費用46億9,000万ドルで承認した」と発表、これにより555輌のM1A1がM1A1SAにアップグレードされる。
参考:Egypt – Abrams Tank Refurbishment, Support, and Equipment
SEPv3より見劣りする内容だが、M1A1の運用可能な時間枠は大幅に延長されるだろう
ナセル政権以降のエジプトは親ソ政策を捨てて親米政策に転換し、その影響でエジプト軍は米国製装備(M60A1/A3、M1A1、M270、M109、Hawk、F-16、E-2、AH-64D、CH-47C/D、SH-2、UH-60、C-130H/Jなど)を大量調達したものの、エジプト革命でムバラク政権が倒れると対米関係が悪化し、オバマ政権はシナイ半島の過激派=ムスリム同胞団や支援者に対する攻撃を理由にF-16やAH-64Dの引き渡し拒否、さらに米国は政治的な理由でエジプトが要請する装備売却をアップグレードを拒否したり、スペアパーツの供給を制限して圧力を加えている。
この経験を踏まえてエジプトは装備調達先を英国、フランス、イタリア、ドイツ、中国、韓国などに分散させ、装備品の国産化も進めている最中だが、旧ソ連製装備のスペアパーツや弾薬類の生産も続けられているため、ロシアはBM-21で使用できる122mmロケット弾=SAKR-45の購入を打診、エジプト側は2023年1月「真鍮の価格が上昇する可能性があるためSAKR-45の売却価格を1,100ドルから1,500ドルに変更する可能性がある」と通告したが、ロシアは「価格が幾らでも購入する用意がある」と回答するも、この取引が米国に露見したため「ウクライナに155mm砲弾と152mm砲弾を供給する」と約束。
2023年に流出した米機密文書は「米国が要求した弾薬供給を利用してエジプトはF-35Aやパトリオットシステムを手に入れたいと考えている」と、オバマ政権時代に中東地域の安全保障問題を担当していた関係者は「エジプトがロシアの存在をチラつかせて米国を動かそうとするのはよくあることだ」と、Washington Postは「ロシアへの武器供給に関する米国の反応をエジプトは過小評価し、双方からの利益を最大化しようと試みた」と指摘していたが、米国務省は20日「エジプトが要請していたM1A1のアップグレード売却を承認した」と発表した。
今回承認された内容は「555輌のM1A1をM1A1SAにアップグレードするための機器、サービス、サポート=各ユニットを再整備して新品状態に戻し、前方監視赤外線、通信機器、状況認識システム等を新しいものに変更する推定費用46億9,000万ドル」で、M1A2の最新仕様=SEPv3より見劣りする内容だが、M1A1の運用可能な時間枠は大幅に延長されるだろう。
因みに米国務省は「今回の取引は希少となったM1A1コンポーネントの生産量を拡大し、規模の経済によって調達単価を下げることが可能になる」「この作業はエジプトの工場で実施される」「売却に関連したオフセットは提案されていない」と述べている。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army National Guard photo by Spc. Jovi Prevot
それでも約半分ぐらいのM1A1が未改修ですが、追加で改修するのか、アメリカの影響を受けない別の国の戦車に入れ替えるのか、どうするのかな?
K9を導入した縁で、K2あたりに入れ替えてしまいそう
M1の主機のディーゼル化ができると良いですね。
ガスタービンを維持できるのは米国くらいのものでは?
かつて、ここのコメントで、交換の検討は既に行われ、可能であるとありました。
ユーロパックがイヤならば、米国製のディーゼルエンジンを探してみては?。
何度も検討されているけれども、多額の費用が必要な割に良いところがなくなってしまうので実現していない。
ディーゼル・エンジンとの比較で、
– トン単位で軽量
– 騒音は高音なので、距離が離れてると急激に減衰して聞こえづらい
– 排気がクリーンで敵に見つかりづらい
– 低速域のトルクが非常に高いので加速性能が優秀
– 構造がシンプルで故障しづらい
燃費以外はほぼ劣化するので、これから新しく作るならばともかく、既存のエンジンの入れ替えに何百億円もかけるのは無駄すぎる。
だから、M1E3も検討されているのはハイブリッド構成。
モーター駆動なので加速性能が高く、エンジンを停止してバッテリー駆動に切り替えれば排気も騒音もないので。
なるほど、です。
非産油国にしてみれば、燃費が大事と思うのですが・・・。
リマの工廠で、部品化されて保管されているのなら、
再組立時に換装はできないか、と妄想したりします。
同じ予算で防護力や攻撃力向上が優先されることや、燃費の悪さも静止時にエンジンを停止してAPUに切り替えることで誤魔化せるので、そちらが優先されていますね。
南アジア、中東、アフリカを見ると戦車の時代はずっと継続していると思う。戦車が時代遅れってのは西欧、カナダ、日本の一時的な流行だった。合衆国海兵隊は知らん。
陸軍はあまり詳しくないので良ければ教えていただきたいのですが、日本って戦車を時代遅れとして扱ってきたのですか?
90式、10式、(機動戦闘車)と、炎を絶やさないようにしてきたのかなと思うのですが、あれはやっぱり生産数とかで戦車軽視が現れていたんですかね
詳しくは防衛省のサイトなどを参考にしていただくとして、島国の日本は着上陸前の洋上で撃退する事を念頭に置いています。ソ連の機甲戦力を防ぐための90式までと、輸送や移動を考えた作りの10式と16式に時代の変化が現れているといったところでしょうか。
対艦と防空を優先したという方が適切ですが「その割には数が少なくね?意味あるの?」と思ってしまうのは仕方がないかなと。
時代送れ云々に関してはK谷とかB谷とかのマスコミ御用達の識者の論がエコーチェンバー気味に広まってる(色んな所に寄稿してるので検索上位にやたら出てくる)のと、昨日のエイブラムス戦車の話題のようにドローン対策が遅れてるとされるのが主な要因でしょうか。ちなみに戦車不要論は第一次世界大戦の後からあります。ナチスの電撃戦→中東戦争→湾岸戦争→今のウクライナと毎回のように否定されてますが。
冷戦終了後の軍縮から方向転換出来ていないだけです。
予算が不足するので、空自、海自を優先しています。
地上戦に戦車は必須。だけどドローンやら何やらで戦車がどう進化しきるか分からんし、予算との兼ね合いもあるから、約半数をそこそこのアップデートするって感じか。
まあ7300億円(今のレート)はエジプトにとって結構な額だけど。
1輌あたり13億円近くを掛けてやるべき事なのかは疑問ですが、エジプトとしては必要だと判断したのでしょう
シリア・イスラエルの件で中等のきな臭さは悪化してるので早急に対応が必要なんですかね
エジプトは、ウクライナ・ガザ戦争による経済悪化もあり、IMFに支援してもらうような国ですからね。
イスラエルの隣国ということもあり、外交の駆け引きを通じて、上手くやろうとしているのを感じます。
555両というのがモロに政治案件
こういうの見ると兵器って新品価格だけどなくアップグレード費用の方がかかるんですね。
わが国もそのへんもう少し力入れるべきなんですが。
でもまあ、エジプトがアメリカに隔意持つ背景自体は結構理解できる所だよなぁ・・・