中東アフリカ関連

快進撃が続くトルコの無人航空機、今度はモロッコがバイラクタルTB2導入を決定

モロッコはトルコから無人航空機「バイラクタルTB2」を13機購入する契約を締結したと報じられている。

参考:Morocco to Acquire 13 Bayraktar TB2 Military Drones from Turkey

果たして無人航空機分野におけるトルコの快進撃はどこまで続くのだろうか?

北アフリカ北西部に位置するモロッコは地政学的に重要な大西洋と地中海を結ぶジブラルタル海峡に面しており、隣国アルジェリアとの政治・外交的に摩擦を考慮して軍事力の近代化を進める5ヶ年計画を2017年に策定、北アフリカにおける「地域大国」の地位を確保するため積極的に軍備拡張を行っている。

日本では馴染みが薄いのであまり知られていないがモロッコ軍の総兵力は自衛隊よりも多い31万人(+予備役20万人)で装備も非常に近代的で強力だ。

出典:Yumacool / CC BY-SA 4.0 M1A2エイブラムス戦車

3軍の中で最も規模が大きいのは陸軍で主力戦車(M1A1SA:384輛/T-72B/BK:148輛/VT-1A:150輛/M60A3:426輛など)を計1,000輛以上、自走砲を計550輛以上、各種装甲車輌を7,000輛以上保有して強力な地上軍を構成しており、さらに米国とフランスからパトリオットPAC-3とSAMP/Tを調達する契約を交わすなど領空の防空(ロシア製S-300PMUをベースに開発された中国製のHQ-9Bを導入済み)にも力を入れている。

陸軍と比較して規模が小さい海軍と空軍も5ヶ年計画に従って近代化と拡張が進められており、特に空軍は新たにF-16V 25機とAH-64E 36機を発注済みで運用中のF-16C/Dもアップグレードを施してV仕様にすることが決定しているが同時並行で無人航空機戦力の拡充にも積極的に動いている。

出典:public domain MQ-1プレデター

モロッコ空軍は米国製のMQ-1プレデター、イスラエル製のヘロンとアーファング、中国製の翼竜Iを運用中だがバイラクタルTB2を13機、地上管制システムを4基、運用要員を訓練するためのシミュレーター、トルコ軍による運用部隊の訓練やサポートを含まれた約7,000万ドル(6億2,600万モロッコ・ディルハム)の契約を締結したとモロッコメディアが報じており中々興味深い。

契約額の7,000万ドルを導入数で割るとバイラクタルTB2の導入コストは1機あたり約530万ドル(約5.7億円)なるが、純粋なTB2の機体コストはこれよりも安価で500万ドル(約5.4億円)以下と言われている。

出典:baykarsavunma

因みにモロッコ空軍が導入予定しているMQ-9の契約金額は10億ドル(推定)とロイターが報じており、この数字が正しいなら1機あたりのMQ-9B導入コストは2.5億ドル(約270億円)になるが台湾向けのMQ-9はモロッコと同条件(4機導入+関連費用)で約6億ドルなので必ずしも1機あたりのMQ-9B導入コストが2.5億ドルもかかるという訳ではない。

参考:US approves armed MQ-9B drones purchase by Taiwan

実際、MQ-9の機体単価は1,500万ドル~3,000万ドルと言われているので契約金額(TB2:7,000万ドルに対してMQ-9:10億ドル)ほど大きな差はないが、やはり損耗を許容できるUAVとして見ると500万ドルのバイラクタルTB2と1,500万ドル~3,000万ドルのMQ-9では運用上許容できるリスクに差が生じるので、TB2が海外市場で人気を集める理由はここに集約されていると言ってもいい。

出典:public domain MQ-9リーパー

どちらにしても7,000万ドルで13機も調達可能はバイラクタルTB2は資金力乏しい国にとって非常に魅力的だが、武装可能なMQ-9の下位グレードで損耗も許容できる調達コストの安さは資金力のある国にとっても魅力的に映るのは間違いなくNATO加盟国がTB2を採用すれば一気に海外市場での評価は高まるだろう。

参考:Turkish, British defense ministers discuss cooperation

ではNATO加盟国がトルコからTB2を採用する可能性があるのかについてだが、英国辺りが採用してもおかしくはない動きを見せている。

英国のウォレス国防相は以前からトルコのバイラクタルTB2に注視しており、EU離脱後の英国とトルコは防衛産業における協力や2ヶ国間の安全保障問題について急接近しているためバイラクタルTB2の導入や無人航空機の共同開発を行うと言い出しても不思議ではない状況なのだ。

参考:Turkish Defence Minister visits British aircraft carrier

これは飽くまで管理人に推測に過ぎないが英国とトルコの国防相は頻繁に2ヶ国間協議を行っており、今月9日には英国のウォレス国防相が空母プリンス・オブ・ウェールズにトルコのアカル国防相を招待して艦内を案内するなど両国の親密さは加速度的に上昇していると言っていい。

英国とトルコの関係にも興味を惹かれるが、一先ずは無人航空機分野におけるトルコの快進撃がどこまで続くのか注目されれる。

関連記事:ウォレス英国防相、トルコ製UAV「バイラクタルTB2」が証明した実力を称賛
関連記事:英国軍、バイラクタルTB2の成功を受けて安価なUAV調達を検討

 

※アイキャッチ画像の出典:Savunma Sanayii Başkanlığı トルコの無人航空機「バイラクタルTB2」

搭載エンジンも国産開発か? 台湾が次世代戦闘機の開発に取り組んでいると明かす前のページ

ロシア軍の無人航空機「オリオン」が量産化、露UAVの脅威が北海道に届くのも時間の問題次のページ

関連記事

  1. 中東アフリカ関連

    イスラエル軍は物資不足、兵士らは装備や物資の供給をボランティアに依存

    イスラエル軍は予備役30万人分の基本装備や消耗品を賄えておらず、開戦か…

  2. 中東アフリカ関連

    ネタニヤフ首相、戦後のガザ地区をイスラエル軍が支配し続けると発言

    国際社会はイスラエルによるガザ地区の再占領を懸念、ネタニヤフ首相は米メ…

  3. 中東アフリカ関連

    契約総額は約850億円、アラブ首長国連邦が韓国製の多連装ロケットシステム「天武」導入

    アラブ首長国連邦は韓国製の多連装ロケットシステム「天武」を調達するため…

  4. 中東アフリカ関連

    狙いはS-400の情報収集? ロシアが警戒するイスラエルのF-35特殊試験機

    米国のステルス戦闘機に深刻な影響を及ぼしているロシアの防空システム「S…

  5. 中東アフリカ関連

    イスラエルは地上侵攻の規模を拡大、ハマスは全パレスチナ人捕虜の解放を要求

    イスラエル国防軍のハガリ報道官は「ガザ地区に侵入した部隊は現在も現地に…

  6. 中東アフリカ関連

    スーダンで激しい武力衝突、準軍事組織が大統領官邸や国際空港の占拠を主張

    スーダンの準軍事組織(RSF)は15日、首都ハルツームにある大統領官邸…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    なんか混沌とした編成というかあちこち手を出すものだなあ

    6
      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      世界的に見るとこのぐらい普通でしょう

      7
      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      東西混合だと維持整備は難しくなるが、どちらかから切られても半分は使えるかも。

      2
      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      やはり第三世界のやり方ですよ、かつての植民地諸国は東西どちらにも与しない政策をとりがちですから。
      これからは知られざる地域大国と呼ばなきゃ

      5
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    日本も研究用に少し買ったら?

    17
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    やはり英国のしたたかさというか
    歴史的にはトルコとも争っていたんだがな、EU縛りを抜けたら本領発揮ってことか
    極東への空母派遣も、中国への政治的圧力以外に商品展示即売会の含みがあるのかもな
    技術売りますの

    9
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    しかし、去年トルコはギリシャと領海の問題で戦争寸前まで行ったのに、英国は素知らぬ顔をしてトルコと協議するとは…ギリシャは今頃激おこだろうな
    これでウクライナ問題でもヘタレな行動をやったら、もうNATOもEUも存在価値が無くなるな(英国はEUから離脱したが、NATOの主要メンバー)

    6
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    イギリスとトルコの同盟って、「いや誤算(1853年)のクリミア戦争」かな?

    1
      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      セヴァストポリ包囲戦でイワンの黒海艦隊をやっつけようぜ。

      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      その前のギリシャ独立戦争じゃ、ナヴァリノ海戦で英仏露連合艦隊が「うっかり」オスマン帝国艦隊を撃滅しているのよね

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    米国製はインフレと人件費の関係で高額になるんやろうか?

    1
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    モロッコって、最新兵器にちょっかい出せるくらいには裕福なのか? 

      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      将来は兵器開発に乗り出せる程度のポテンシャルはある、トルコを小振りにしたような国
      しかも隣国との紛争で実戦経験も積んでる

      4
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    モロッコもテロリストが活動してたりきな臭いからな。監視も出来る安価なTB2はうってつけなのだろう。

    2
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    TB2って、最新の衛星通信機を積んだタイプは従来通りに安いのだろうか?
    あとは、制裁で禁輸されたカナダ製センサーやエンジンが、トルコ製パーツで何処まで性能と価格を維持できているか

    1
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    正直な話、似たようなUAVと単純な括りだけで価格比較すべきなのかとは思う。適切な例えが思いつかないけど軽のワゴンと普通車のミニバン比較しているような感じ。バイラクタルTB2Sで無いなら衛星通信での差も発生する。

    機体サイズ/搭載機器/運用可能高度/速度/ペイロード/通信可能距離は全てMQ-9が上。分かりやすい性能の差だと速度はバイラクタルTB2の最高速度はMQ-9の巡航速度を大きく下回る、上昇限度も7000mの差。政治的な縛りが無くてバイラクタルTB2の性能で十分であるなら、安いコストの機体を買う事が出来るって話でしかないと思うな。

    2
      • 匿名
      • 2021年 4月 19日

      >政治的な縛りが無くてバイラクタルTB2の性能で十分であるなら、安いコストの機体を買う事が出来るって話でしかないと思うな。

      違うよ、運用上許容できるリスクの差が両機を分ける本質的な違いで、スペックが高い低いの話じゃない。

      1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  5. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
PAGE TOP