中東アフリカ関連

サウジアラビア、武装可能なトルコ製無人航空機「Karayel-SU」のライセンス生産を開始

サウジアラビア企業がトルコ製の武装可能な無人航空機「Karayel-SU」のライセンス生産を開始したと報じられている。

参考:Two Saudi companies to produce Turkish drones

サウジアラビアがトルコ製無人航空機をライセンス生産、なぜトルコ製無人航空機は人気なのか?

トルコ企業のヴェステルが開発した「Karayel-SU」は低コストで調達可能な小ぶりの無人航空機(UAV)だが、オーソドックスな見た目とは異なりトルコが開発したUAV専用の小型精密誘導兵器「MAM」が統合されているため装甲戦闘車輌や防衛陣地にとって非常に恐ろしい兵器で、サウジアラビアは同兵器をトルコから調達してイエメン内戦に使用していたが遂にライセンスを取得して自ら製造に乗り出した。

補足:トルコのヴェステルは白家電で有名な企業だが防衛部門も所有しており2005年から無人航空機を製造している。

ただKarayel-SUを構成する重要な電子部品やコンポーネントはトルコ企業から供給されるためノックダウン生産に近い形態だが、サウジアラビアとしては無人航空機の製造技術を吸収する意味があるのかもしれない。因みにサウジアラビアは2025年までにKarayel-SUを40機製造する予定だが、これとは別に中国には無人航空機「CH-4」を製造する工場設立を許可するなど現地生産を通じたUAVの技術移転を積極的に進めている。

出典:Public Domain 中国航天科技集団有限公司が開発を手掛けた無人航空機CH-4

なぜサウジアラビアがトルコや中国から無人航空機を入手しているのかと言うと能力の優れている米国製MQ-9などはミサイル技術管理レジーム(MTCR)の規制に引っかかるため輸出手続きが複雑なため中国からCH-4を、MTCRの規制に引っかからない武装可能で小型な無人航空機は米国に存在しないためトルコからKarayel-SUを入手しているのだが、米国もMTCR規制を遵守していては中東の友好国が中国製UAVに流れるためトランプ大統領が政権末期にMTCR運用解釈を変更して輸出規制を緩和した。

しかしバイデン政権はイエメン内戦や人権問題を理由にサウジアラビア向けの武器輸出を純粋な防衛機器に限定する方針なので、今後もサウジアラビアを含む中東諸国は中国やトルコからの無人航空機を入手して行くことが予想される。

出典:public domain 翼下にヘルファイア4発とペイブウェイ II 2発を搭載したMQ-9

ただ海外市場で最も需要が高い低コストで武装が可能な小型無人航空機(MQ-9と比較して小型という意味)は米国の輸出品リストに無いので、この分野に関してトルコ一強と言っても差し支えがない。

ではなぜトルコは小型無人機の分野で成功したのか?

これはトルコが開発したUAV専用の精密誘導兵器MAMシリーズが影響していると言って良い。

例えばMQ-9は比較的大型なので有人プラットホームが使用するレーザー誘導爆弾「ペイブウェイ」や対戦車ミサイル「ヘルファイア」をそのまま流用することが可能なので別途専用兵器を開発する必要がなく兵站的にも好ましいのだが、逆にこれが武装可能な小型の無人航空機開発を妨げている。

出典:Karel Šubrt / CC BY-SA 4.0 MAM-L

トルコが開発したUAV専用の精密誘導兵器MAMシリーズは非常に小型でレーザー誘導のMAM-C(最大到達範囲8km)は6.5kgしかなく、GPSと慣性航法を追加したMAM-L(最大到達範囲14km)でも22kgと非常に軽量でヘルファイアの半分以下だが、数千メートルの高度から使用すれば戦闘車両の装甲を十分貫通もしくは戦闘を継続することが不可能ほどの損傷を与えることが出来るとトルコ側は主張しており、これは数々の実戦を通じて証明されてきたため虚言ではない。

要するに有人プラットホームが使用するレーザー誘導爆弾や対戦車ミサイルを流用せず、UAV専用の精密誘導兵器MAMシリーズを開発したトルコは武装可能な無人航空機MQ-9をスケールダウンすることで低コストを実現したという意味だ。

因みに中国もUAV専用の精密誘導兵器を開発して小型無人航空機「CH-92A」に統合しているが、先に小型無人航空機とUAV専用の精密誘導兵器MAMシリーズを確立したトルコほど成功していると言えない。

出典:セルビア国防省 中国製無人航空機 CH-92Aと専用の精密誘導兵器

少々話が逸れたが、サウジアラビアがライセンス権を取得してトルコ製UAV「Karayel-SU」を製造しても搭載兵器のMAMはトルコから調達しなければならないので、トルコは輸出や現地生産(サウジアラビアの他にアゼルバイジャンもライセンス生産中でウクライナがバイラクタルTB2を生産予定)を通じて自国製の小型無人航空機を普及させればさせるほど消耗品のMAMが売れるため笑いが止まらないだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:ヴェステルが開発したKarayel-SU

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    この手の部門でのトルコの躍進は目を見張るものがあるなぁ
    日本企業にも頑張って欲しい所。

    10
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      日本企業には無理でしょう
      内需しかないから、大金つぎ込むわけにもいかんし
      輸出できれば話は違うんでしょうが

      8
        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        武器の輸出は、AR-18をライセンス国産して輸出したら、よりによってIRAのテロに使われたって黒歴史が有るからなぁ……

        2
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      少なすぎる海上保安庁の予算を大幅に増額して、その増えた予算を使って海上監視用無人機の開発をするって未来はないかな。予算増えても人員がいない!すぐに増やすのは無理!という問題を無人機の開発と運用である程度解決できる。防衛費の増額じゃないから世論やマスコミを刺激しにくいが、抑止力向上になるからアメリカからの戦力増強要求にも応えた形になる。

      8
        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        突き詰めれば海保の仕事って、最後は船で近づいて領海外に当該船を追い出さなければいけないわけで、無人機の調達が直接的な解決策になるわけではないんだよね。
        監視網の効率化という点では意味があるけど、尖閣諸島の現状を鑑みるとあまり効果がないような気がする。
        他の管区の船を尖閣に向かわせるとかなら効果あるけど。

        5
          • 匿名
          • 2021年 3月 24日

          あとは、海上で遭難した船舶や人の捜索救出ね
          捜索や警戒監視には無人機が使えるものの、結局最後は有人の船舶かヘリで救出収容するのは変わらないし

          1
        • 匿名
        • 2021年 3月 25日

        海保は既にMQ-9Bリーパーの沿岸警備隊向け民生モデルのシーガーディアンの実証実験を始めてる

        1
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    なんか聞いたことがある名前だと思ったら、トルコ最強馬(生涯無敗)のカライエルか

    6
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    ぶっちゃけ羨ましい。
    ドローン産業育てれる枠組みを作って欲しい

    11
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      この記事は勉強になった。なぜ売れるのか、どうやって兵器が商売として成り立つのか
      それを本当に勉強しないといけないのは、俺ではないはずなんだけどw

      7
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    日本は無人関連は弱いからな
    成功してる国も決して多くはないけど、結果的に出遅れたのは間違いない
    昔から研究してたと言うのは易いが、今につながっていないのなら意味もない

    6
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      今に繋がってない……?あっ、ふーん(察し)

      1
        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        え?どういう察し?

        5
          • 匿名
          • 2021年 3月 25日

          今に繋がってないのなら、って時点で何も知らないか釣りのどっちかでしょ
          そういう部分の察しじゃない?

          6
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    ヤマハのラジコンヘリが中国で軍事転用云々でこの分野の開発が委縮しちゃったからな

    6
    • J
    • 2021年 3月 24日

    いつもアップデートありがとうございます。
    内容は興味深いものが多いのですが、文章が読みにくくて困っています。
    「~だが~だが」、「~なので~なので」と続くので、文法的に間違っている様に感じます。
    無理に全文を一文にまとめ上げようとしているだけかもしれませんが、これをやめるだけで随分とジャーナリズム的な文章に近づくと思います。

    10
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    アドバイスのつもりかもしれませんが、失礼で不躾だと思います。

    9
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      オーナーさんがどう考えているか分からないけど、公に意見を公表する以上、色々な意見に晒されるというのは必然。
      第三者が不躾とか言う権利は無いと思うね。

      5
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    日本が使うとなれば地政学上、大型のUAVにならざるを得ないから単純比較は出来ないと思うけどな。一応10年前に自動操縦型のUAV試作してる訳で何もやってないわけではない。
    所謂ダブルユース的なUAVなら災害時用のものを開発している所があるみたいだし、そっちに期待しましょう。

    2
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      >>日本が使うとなれば地政学上、大型のUAVにならざるを得ないから単純比較は出来ないと思うけどな

      そんなこたーない
      現に陸自も海自も小型UAV導入してます
      輸入だし少数だから全然話題にならんけど

      1
      • 匿名
      • 2021年 4月 05日

      言いたいことはわかるけど、自分でウェブサイトを持って文章書けばわかる。
      文章書くのになかなか時間かかるから、お金もらってるわけでもないのに構造だの文法だのを最適化してたら時間がかかってしょうがない。
      これだけの記事を一日3つ投稿するのがどれだけ労力のいることか、想像してあげてほしい。
      本人がごりごり書きやすい文章でやっていくべきだと思う。

      2
        • 匿名
        • 2021年 4月 05日

        ↑なぜか返信がずれてますが、記事の文法へのコメントに対してです。

    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    無人機はパイロットが不要だから安全性にかける予算が不要になり先進国でなくてもある程度の物が作れる。
    アメリカのUAVによく似ていて価格が1/10なら欲しくなるだろう、それなりに実績もあるし。
    ただし相手国が本物の電子戦能力を持っていたらどうなることやら。

    4
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      近年の小型UAVに対して既存の電子戦の概念は通用しないというのが米国の考えですから
      過去記事参照

      3
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      過去スレ読んで下さい
      電子戦大国ロシアすら苦労してるから

      4
        • 匿名
        • 2021年 3月 26日

        ロシアが電子戦大国>
        EA18Gグラウラークラスの機体を持っているのか。

          • 匿名
          • 2021年 3月 27日

          ロシアが電子戦に滅茶苦茶力を入れてるのは周知の事実。
          同時に、ロシアの戦略環境とアメリカの戦略環境が全く違う為、必要とされる装備や備えてる装備もまるで違う。
          グロウラーがない=電子戦大国ではないという考えは浅はかすぎで恥ずかしいよ。

          1
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    >UAV専用の精密誘導兵器MAMシリーズ
    まぁ、大抵の国は既存のミサイルや爆弾を使いまわせるようにするわな
    爆弾の任務に艦艇へのトドメがある日本じゃ「ちっこいレーザー誘導爆弾」はあまりにニッチすぎる

    4
    • 匿名
    • 2021年 3月 24日

    F3とかよりドローン開発と安価な近接迎撃に全振りにして欲しいわ
    大学が協力的なら何でも早いと思うが、そうもできない気持ちは分かる

      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      今ここでF-3のリソースを他に振ったらF-2退役までに間に合わなくないか?

      13
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      米中露が睨み合う最前線である日本にとっては高性能な有人戦闘機とそれを補佐する随伴無人機の開発はどちらも重要であって片方に注力しろってのはナンセンス

      あと安価な迎撃手段はレーザーやHPMの研究が既に進んでる
      レーザー リンク

      HPM リンク

      8
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      ドローン制御母機がF-3だという罠に気が付いていませんね、日本は最初に空と海で交戦する訳ですし、F-3に無人機3機付けて4機体制で運用する予定ですよ、共同開発の決定は恐らく無人機関係(AI開発)が重視された結果ですしね。

      6
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      ドローンと安価な近接迎撃だけ全振りしててもそれを使う主体となる次期戦闘機がなかったらダメでしょ

      4
      • 匿名
      • 2021年 3月 25日

      凄く大きな釣り針だなぁ

      5
    • 匿名
    • 2021年 3月 25日

    スパッツ付き固定脚ってなんか懐かしく感じるなぁ
    最近は小型機ですら引込脚だもんね

    1
      • A
      • 2021年 3月 26日

      しかも大型化してるし翼にものぶら下げてる。
      これだとレーダーにバッチリ映っちゃうんじゃない?
      あまり有用性がなくなるような気がする。
      もちろん研究は必要だけど。

    • 匿名
    • 2021年 3月 25日

    バイデン政権からアメリカとの関係が冷え込んでるからサウジもいろいろ動いてんなあ

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 25日

    世界に広がる無人戦闘機の輪 From Turky

    黒幕はイスラエル

    1
    • 匿名
    • 2021年 3月 25日

    機体もミサイルも安いし実績もあるから、買って運用研究でもしてもらいたいものだが
    戦車のパワーパックとか見返りに求められそうで

    • 匿名
    • 2021年 3月 25日

    日本が武装出来る小型UAVを開発しても陸自・海自以外で使う以外に用途は無く輸出を考えれば政府又は専用窓口でFMS方式で無ければ製造メーカーの本社前で騒ぐやつが湧いてくる。
    技術云々言う前に遣らなければ成らない事が有り此れが一番の問題点だ。
    何処かの国の様に輸出前提で兵器開発は現状ではムリ。

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