中東アフリカ関連

トランプ大統領の中東歴訪、サウジがF-15EXの大量調達を発表する可能性

トランプ大統領は間もなく中東歴訪に乗り出す予定で、サウジアラビアから投資と武器システム購入を合わせて1兆ドルの対米投資を獲得したいと考えており、イスラエルメディアは「サウジとの取引にはF-15EXの大量購入が含まれる」「今回の中東訪問は歴史的な軍拡競争を引き起こす」と指摘した。

参考:Trump is visiting three of the world’s richest nations. Here’s what’s on their wish list
参考:Trump heads to Saudi Arabia eyeing more investment in US
参考:Trump’s Middle East visit to trigger historic arms race, strengthen US economy with F-15EX deals

サウジのF-15EX導入が正式発表されれば安全保障面での対米関係とBoeingの株価に良い影響をもたらすだろう

イタリアのメローニ首相は昨年11月「GCAPの参加国を拡大する可能性について協議した」と言及、朝日新聞も「G20で英伊日の首脳がGCAPへのサウジ参加を協議した」「今後3ヶ国は(サウジ参加に向けて)本格協議に入る方針だと複数の日本政府関係者が明かした」と、今月3日「日英伊がパートナー国としてのサウジ参画を容認する方向で調整に入った」と報じたが、パートナー国としてのサウジ参加を報じているのは日本メディアのみ、もっと言えば共同や産経が報じた「インドへのGCAP参画打診」も海外メディアやディフェンスメディアは何も触れていない。

出典:GlobalCombatAir

米国のBreaking Defenseは1月「英伊日がサウジ参加を検討すべき理由は幾つかあるものの参加を望む理由は少ない」「サウジはトランプ政権誕生に向けてF-35売却のためのロビー活動を強化している」「もし米国がF-35を売ると言い出し、サウジも自国の防衛改革=Saudi Vision 2030と結びついたアプローチを満足させることができ、市場シェアや戦略的見地で優位性が確保できると確信できれば喜んでGCAPと別れを告げるだろう」「まもなく誕生するトランプ政権は外交政策の一環として武器売却を優先するはずで、GCAP参加をブラフと判断するかどうかは今後4年間のサウジ関係を占う兆候になるだろう」と指摘。

CNNやBBCなどの海外メディアも「今週予定されている中東訪問でトランプ大統領は豊富な資金をもつ湾岸諸国が大規模な対米投資を引き出す見込みだ」「新しい米大統領の海外訪問は伝統的に英国、カナダ、メキシコから始まるが、トランプ大統領は最初の訪問国にサウジアラビアを選んだ」「ムハンマド皇太子は今後数年間で6,000億ドルを米国に投資すると公言している」「トランプ大統領は新たな防衛装備品の売却と合わせて対米投資額を1兆ドルに引き上げたい考えだ」と報じた。

出典:Donald J. Trump

CNNは「トランプ政権の復帰でバイデン政権時代に悪化していた湾岸諸国との関係は大幅に改善した」「サウジやUAEは自国の防衛産業育成、防衛装備品の現地生産、国産システムの海外輸出を推進中でトランプ政権復帰を千載一遇の好機と捉えている」「特にサウジは国内でのウラン濃縮を絶対条件に掲げた民需用原子力計画に米国の協力を求めている」「トランプ大統領がこの計画を支持すれば米企業は大きな恩恵を得られるだろう」と指摘。

BBCは「トランプ大統領はサウジ訪問中に幾つかの協定を締結する見込みだ」「この取引によって両国の経済はより統合され、互いの国での合弁事業や米国製武器システムの調達が拡大するだろう」「訪問中に1,000億ドル以上の米国製武器システムの購入が発表されるかもしれない」「この取引にはミサイル、レーダーシステム、輸送機などが含まれる」と指摘したが、イスラエルメディア=Jerusalem Postは「サウジとの取引にはF-15EXの大量購入が含まれる」と報じている。

出典:U.S. Air Force photo by 1st Lt. Rebecca Abordo

Jerusalem Postは「サウジアラビアは米国から防衛用と攻撃用のミサイル、C-130、戦闘ヘリ、輸送ヘリの調達を予定しているものの、この取引の目玉はF-15EXの調達だ」「サウジはF-15EXを54機調達すると昨年発表していた」「さらに保有するF-15SAとF-15SRを更新するため最大8個飛行隊分の調達オプションも存在する」「もし契約が成立すればサウジは最終的に200機近くのF-15EXを取得するかもしれない」「米国はクウェート、バーレーン、カタール、オマーンとも武器システム売却に関する契約を締結する予定だ」と報じ、トランプ大統領の中東訪問は同地域に歴史的な軍拡競争を引き起こすと指摘した。

このレベルの戦闘機調達は「レーダーの探知距離が、ステルス性能が、将来性が」という視点ではなく安全保障や経済・投資の力学で語られ、サウジアラビアにとってF-15EXやF-35Aの調達、保留されているタイフーンの追加調達、GCAP参加は選択肢の1つ、もっと言えば投資と引き換えに何が得られるのかが重要で、トランプ大統領がサウジの原子力計画をウラン濃縮込みで容認したり、F-15EXの製造参加や現地生産、将来的なF-35A売却を確約すればタイフーンやGCAPに対するサウジの立場も大きな影響を受けるしかない。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jana Somero

因みに西側諸国で「トランプ政権の不確実性」や「米国製システムへの過度な依存」が問題視され、自国製や非米国製システムに切り替える動きが活発化しているものの、北アフリカ、中東、東南アジアでは「武器供給先の多重化=政治的・外交的対立に備えて能力が重複する武器システムを異なる国から調達する考え方」が進んでおり、サウジアラビアと米国の取引も「欧州、ロシア、中国と手を切って米国にオールインする」という意味ではなく「米国、欧州、ロシア、中国に分散している資金の投資先として米国有利になる」という類の話だ。

それでも「サウジのF-15EX導入」が正式発表されれば安全保障面での対米関係とBoeingの株価に良い影響をもたらすだろう。

関連記事:米議会が国防予算として1,500億ドル追加支出、F-15EXとF-35Aの明暗も分かれる
関連記事:サウジのGCAP参加は選択肢の1つ、トランプ政権の出方次第で方針変更も
関連記事:英伊日、GCAPへのサウジアラビア参加を本格協議する方針
関連記事:サウジアラビア、GCAPへの参加協議は英国を通じて順調に進展している
関連記事:サウジはGCAP参加のため巨額の資金で英伊を買収可能、日本は未知数
関連記事:英メディアはサウジのGCAP参加を概ね支持、日本人アナリストは反対理由を説明
関連記事:サウジアラビアが要請したGCAPへの参加、英伊は前向き、日本は反対
関連記事:利害が一致した英国とサウジ、戦闘機分野における協力関係の強化を約束
関連記事:サウジアラビア、英国主導のFCASプログラム=テンペスト開発に参加

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis

ドイツ新首相はトルコへのタイフーン売却を否定せず、ギリシャは落胆前のページ

FA-50PLに搭載されるPhantom Strike、テストベッド機で初飛行次のページ

関連記事

  1. 中東アフリカ関連

    躍進を続ける中東の防衛産業企業EDGE、TB2相当のUCAVを1.5億円で提供可能

    アラブ首長国連邦のEDGEはジェーンズに対して「TB2(350万~50…

  2. 中東アフリカ関連

    第2世代から第4世代にジャンプ、創設57周年を祝うナイジェリア空軍がJF-17初披露を予告

    ナイジェリア空軍は1億8,430万ドルの費用を投じて導入した第4世代戦…

  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦、ドイツに供給する国産の防空ミサイル「SkyKnight」を発表

    アラブ首長国連邦は首都アブダビで開催中の防衛展示会「IDEX」でSky…

  4. 中東アフリカ関連

    反政府組織フーシ、Twitter上でサウジ攻撃用ミサイルの調達資金を募る

    サウジアラビアに連日攻撃を浴びせているフーシはTwitter上でミサイ…

  5. 中東アフリカ関連

    中国仲介でイラン、サウジ、UAE、オマーンが合同海軍部隊を結成か

    中東系メディアは「中国仲介の下、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連…

  6. 中東アフリカ関連

    モロッコ、パトリオットでもS-400でもないミサイル防衛システムを調達

    モロッコ国防省は20日、フランスからミサイル防衛システム「SAMP/T…

コメント

  • コメント (14)

  • トラックバックは利用できません。

    • ボーイングの製造ラインどうするんでしょ?
    • 2025年 5月 12日

    バランスを取るためにイスラエルへどれだけ援助するのか気になりますね

    4
      • nachteule
      • 2025年 5月 12日

       イスラエルの行為をどこまで許容して援助するかだけどな。空軍だけに限るなら順良に問題解決する前提でKC-46とかは当初予定の8機まで増やすとかありえそう。

      • 暇な人
      • 2025年 5月 13日

      トランプは最近ネタニヤフ批判にシフトしてるんですよね。
      ガザでの戦闘再開批判から、ハマスとの独自交渉による人質というか兵士だからただの捕虜を釈放、イスラエル無視してイランとの交渉、イエメンからの撤退、サウジとの原子力協定と

      アメリカのお国柄としてイスラエルには逆らえないだろうから、大きくは変わらないと思いますが

      5
    • たむごん
    • 2025年 5月 12日

    利益の外交・価値観の外交の軸があるという中で、利益の外交を追求するのはやりやすいでしょうね。

    価値観の外交は建前は綺麗なわけですが、欧米のゴタゴタを見ていると、利益の外交を追求した方が無難に感じます。
    バイデン政権は、価値観の外交を追求したり、サウジアラビア=フーシ派の対立を批判したりして、アメリカ=サウジアラビアの関係は悪化していました。

    トランプ大統領=サウジアラビア王家は、第1次政権から良好な関係でしたが、第2次政権も良好な関係が続きそうですね。
    日本目線で見れば、ウクライナ戦争だけでも極東情勢の余力が心配されているわけですから、安定した地域が見込めるのは好ましい気もします。

    14
    • daishi
    • 2025年 5月 12日

    サウジアラビアはF-15SA(新造機、F-15Sからの改修機)を調達済みですよね。
    F-15EXとSA新造機の差異は新型のデジタルコックピットとEPAWSSだと思うのですが、どこまで出すんでしょうか。
    管理人さんの過去記事だとF-15S改修機もFBWに入れ替えたということなので、改修機の入れ替えがすぐとは考えにくいのですが
    リンク

    6
      • nachteule
      • 2025年 5月 12日

       普通に考えるなら耐用年数がある新しい機体よりはトーネード IDSの65機、F-15C/D68機。運用は多分10数年だがユーロファイター71機の代わりって感じはする。確か何十機かは純増かもと思うが代わりに旧式機減らすんじゃないかなぁ。

      6
        • daishi
        • 2025年 5月 13日

        コメントありがとうございます。
        確かにサウジアラビアのF-15C/DやトーネードはF-15Sと比べても10年古い機体なのでこれらのリプレースはありそうですね。
        日本でもF-15 pre-MSIPをF-35で置き換えている事例があるのを失念していました。

    • また譲歩か?
    • 2025年 5月 12日

    英からすれば、GCAPで特大の譲歩してまで確保したかったサウジ需要をあっさり米に奪われそうな形だけど、どう出るんだろう。もうGCAP方面での譲歩は懲り懲りだが…

    5
      • あまつ
      • 2025年 5月 12日

      GCAPは現時点で影も形もない「計画」でしかないわけで、更に予定通り開発出来て35年の実用化に漕ぎつけたとしてもサウジに回せる分の納入は40年代に入ってからになるだろう。
      となれば早くとも15年後の話になり現時点での戦力増強とは関係の無い話と考えた方が良い。
      カナダも似たような理由でGCAPに関心を示しつつもF-18の後継機問題では15年後まで待てないはずなのでやはりF-35にしとくかグリペン等の別機種に鞍替えするかだろうがそれはGCAPからの離脱を意味しない。
      とにかくGCAPが無事に開発されないことには何も始まらないので当面は一喜一憂しないで推移を長い目で見た方が良いでしょう。

      29
    • フラット
    • 2025年 5月 12日

    仮にF15EXを大量購入したからといってGCAPへの打診を辞めるというのは無いと思いますけどね。

    目先の問題に対処してこそ未来に目を向ける事ができるというのはそうなのですが、4年任期のトランプ政権のご機嫌取りに4.5世代機を大量導入して、代わりに第6世代機を諦めるというのはあまりにも目先のことしか考えていなさすぎる。

    20
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 13日

      割を喰うのはGCAPというよりタイフーン(と英国の生産能力)じゃないですかね。
      「F-15EXの製造参加や現地生産」と天秤に掛けて「英国で組み立てたタイフーンの完成品輸入」を選ぶ理由がとりあえず思いつかない。

      6
    • AKI
    • 2025年 5月 12日

    資金に余裕があるのは羨ましい限りで。
    サウジやインドはバランス政策ですから、サウジはGCAPとF-47も両方配備でしょうね。
    インドは、しばらくは売ってもらえないかな?

    1
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 13日

      イスラエルの質的優位縛りがあるからサウジは当分F-47は売ってもらえないでしょう。
      「イスラエルがF-47を手に入れて戦力化できたらやっとF-35が解禁される」とかじゃないですかね。

      5
    • とある帝國臣民
    • 2025年 5月 13日

    結局日英伊だけで他の国が増えないなら嬉しいけど。

    1
  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  3. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  4. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP