中東アフリカ関連

ラファールを導入したUAEの意図、対中関係の容認とF-35A売却に応じなければ別の戦闘機を選ぶ

米ディフェンスメディアのBreaking Defenseは8日、ラファール導入に踏み切ったアラブ首長国連邦の意図について「UAEとファーウェイの関係を容認してF-35A売却に応じなければ他の戦闘機を選択する」というメッセージだと報じている。

参考:The UAE is buying the French Rafale. What does it mean for the F-35?

UAEとファーウェイの関係を容認してF-35A売却に応じなければ『他の戦闘機を選択する』というワシントンへのメッセージ

トランプ政権はイスラエルとの国交樹立に応じたアラブ首長国連邦(UAE)に見返りとしてF-35AやMQ-9の供給を約束、しかしイエメン内戦で民間人に大きな犠牲が出ていることを問題視したバイデン氏は中東政策の見直しを掲げて大統領選挙で勝利してしまったためトランプ大統領は退任の1時間前に総額233.7億ドル(約2兆4,600億円)もの対外有償軍事援助をUAEと締結して義理を果たしたが、新しく大統領に就任したバイデン氏はUAEとの契約を含む全ての武器輸出プロセスを一時的に停止。

出典:U.S. Air Force photo by Brian G. Rhodes

現在でもイエメン内戦への軍事介入を主導していたサウジアラビアやUAE向けの武器輸出プロセス(防空ミサイルなど非攻撃的な武器輸出は許可)は停止されたままで、UAEへのF-35A輸出プロセス再開の条件にバイデン政権は「ファーウェイとの関係断絶」を提示して圧力をかけていたが「10年前に導入交渉が頓挫したラファールを突然導入すると発表したUAEの決断に驚きを隠せない」とBreaking Defenseは報じている。

UAEは1990年代後半に開発途中だったラファールの導入についてフランスと交渉を開始したが、米国製兵器を統合したUAE向けのカスタムバージョン開発にフランスが同意しなかったため2011年に交渉を打ち切り、他の選択肢に目を向けF-35A導入契約を締結するところまで漕ぎ着けたのに突然10年前に放棄した選択肢を持ち出してきたため、UAEの安全保障政策に詳しい関係者はBreaking Defenseに「UAEとファーウェイの関係を容認してF-35A売却に応じなければ『他の戦闘機を選択する』というワシントンへのメッセージが込められているのは明らかだ」と語ったらしい。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Alexander Cook

つまりUAEはロシアの第5世代戦闘機「チェックメイト」導入契約にサインするという選択肢をバイデン政権に対する圧力として利用するため「埃のかぶった10年前の選択肢(実際には2011年以降も細々と交渉は続いていたらしい)を引っ張り出して契約してみせた」という意味で、もしファーウェイとの関係を理由にF-35Aの輸出プロセスを再開しないのならチェックメイトを導入して「UAEの安全保障上における米国の影響力を引き下げる」と暗に示唆しているのだろう。

因みに中東方面を担当する米中央軍傘下の第9空軍(航空戦闘軍団)は活動の拠点をUAEのアル・ダフラ空軍基地に置いており、同基地にはF-15C、F-15E、F-22A、F-35A、U-2、RQ-4、E-3、KC-10といった航空戦力が展開して中東全域+中央アジアの一部に睨みを効かせている。さらに同国のジュベル・アリ港には海外に展開している米海軍の駆逐艦が最も頻繁に寄港(米本土の港を除く)するなどUAEは米軍の中東方面での活動を支える重要な国の一つで、バイデン政権はUAEとカタールだけを他の中東諸国と異なる「主要な安全保障パートナー(これを超える中東地域の国は非NATO主要同盟国に指定しているクウェートのみ)」という呼称で呼んでいる。

出典:Photo by Tech. Sgt. Nicholas Carzis アル・ダフラ空軍基地に展開するF-22A

UAEも米国との関係を一方的に悪化させたい訳ではないが、米国と関係が深い中東の国々は米国の方針転換=対中国に戦力を集中するためアフガニスタン撤退を本当に実行してしまったことを受けて「中東地域からも米軍が撤退もしくは戦力の引き抜きを行うのではないか?」と不安視しており、特にUAEは米国に偏っていた安全保障の環境を欧州や中国といった国や周辺国(トルコやイランとの関係修復やイスラエルとの関係強化など)に分散させる方向で動いているため「ファーウェイの関係を切れ」という自国の方針に反する要求には屈しないだろう。

要するにファーウェイの関係を維持したままF-35Aの売却にバイデン政権が応じるのか?応じないのか?という問題は「UAEが自国の安全保障体制を大きく見直すための試金石」という要素が強く、UAE側は「ラファールを導入してもF-35Aの導入は継続する」と発表しているので両国関係の将来はバイデン大統領の決断に託されていると言って過言ではない。

どちらにしても米国の武器供給を通じた地域(特に第三世界)コントロールは大きな曲がり角に直面しており、欧州、中国、ロシア、新たに登場した新規プレーヤーが供給する武器が大幅に増加したため「米国依存を減らして政治面や外交面で独立性を高める」という考えを持つ国は確実に増加している。

そのため安全保障の根幹ともいえる武器供給を人質にとったり圧力に利用するアプローチは段々と効力を失っていくのだろう。

関連記事:中国製の装備品輸出に好影響、UAEと中国が共同で航空機のスペアパーツ供給拠点を設立
関連記事:イタリアによる禁輸措置に怒ったアラブ首長国連邦、自国からイタリア軍を追放
関連記事:アラブ首長国連邦、ラファールを導入してもF-35Aの導入は継続すると発表
関連記事:拡大するフランスのラファール輸出、アラブ首長国連邦が新たに80機発注

追記:屈指→屈しを直しました。誤字は転載対策などのつもりはなくただのミスなので脳内変換で対応していただけたら幸いです。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo/R. Nial Bradshaw

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    >そのため安全保障の根幹ともいえる武器供給を人質にとったり圧力に利用するアプローチは段々と効力を失っていくのだろう。

    米国の衰退も近いかな。
    なんでも思いどおりになると思っているのが間違いなんだよ。

    30
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    誰が誰と付き合うかを他人が指図するのは無理だろ
    大陸が台湾とは断交しろと脅してくるのと根っこが同じ
    人権外交だの、実はダブルスタンダードのお題目に過ぎないから、実利を優先しても責められない

    32
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    >バイデン政権に対する圧力として利用するため「埃のかぶった10年前の選択肢を引っ張り出して契約してみせた」

    圧力は込められているとしても、それが主目的ではないでしょう。
    駆引きが目的なら20〜30機も導入すれば十分。一挙に80機も契約したのは主力として使う意志と、アメリカ一本足打法はしないという決断があってのことだと思う。
    ラファールを地上攻撃に、第5世代機を制空にと役割分担も考えているのでは。

    20
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    アラブの駆け引きは、アジアよりもさらに際どいとこまでせめぎ合うっていうから、これがブラフでないとは断定できない
    本質は、アメリカからの政治的コントロールには従いませんよってメッセージであり、特にラファールを評価しての選択ではないかもよ

    5
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    インドがS-400稼働してもお咎めなしの場合はUAEがロシア製戦闘機の導入を発表しても驚かない

    8
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    ペルシャ湾の両岸をイラン勢力に抑えられるのは嫌だってことでアメリカも容認はしてきたものの、普通にイエメン介入はダーティすぎますからねー。
    アメリカは産油国だからいいものの、将来的にペルシャ湾での米のプレゼンスが抜けた穴に中露の海軍基地が出来ようものなら、日本含めて多少なりとも圧力かかるから嫌すぎるのもある。

    14
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    管理人さん。
    誤 反する要求には屈指ないだろう。
    正 反する要求には屈しないだろう。

    1
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      転載対策にわざと誤字ってるの

      1
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      誤字脱字は転載対策らしいよ

      1
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      転載対策だよ

      1
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      へー、転載対策に誤字を書くのか、面白いな
      どうせ、真似しているのはyoutuberだろうがw

      3
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      転載対策じゃないと追記されてて草
      これが陰謀脳か

      4
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    これ、逆にファーウェイとの関係を切った中東国にF-35を売却する可能性ともとれるんだよなぁ
    そうなった場合、UAEはどうするつもりなんだろ?
    UAEは強気には出てるけど、手持ちの手札はそう多くないのも現実

      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      米国はイスラエルの質的優勢を守ることが法律で義務づけられているから、中国と手を切った中東の国にF-35を自由に売れるわけじゃないんだよね。

      トランプの政策に協力したアラブ首長国連邦はイスラエルがF-35Aを売っても良いと容認してる。

      4
        • 匿名
        • 2021年 12月 09日

        イスラエルがF-35の売却を容認したのはUAEだけじゃないし、
        イスラエルが急速に中東諸国との関係が緩和されてるのは押さえておかないといけない

        4
        • 匿名
        • 2021年 12月 09日

        失礼、表立った容認はUAEだけだった。すまない

        ただ、イスラエルの反応見てもそこまで強く反対していない、カタールやバーレーンにF-35を売却する可能性はかなり高いと思う
        近々のblock4が実装されれば、block3F相当の販売を認めるといった妥協案も出しやすくなるから尚更

        1
        • 匿名
        • 2021年 12月 09日

        過去の記事でもあったな
        イスラエルは他の中東諸国にF-35売る事に反対しているし、仮に売るならうちにF-22を寄越せとゴネたんだったな

        1
    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    他は妥協できても、ファーウェイは駄目なんじゃなかろうか。恐らくUAEもそこは承知の上で、駆け引きのために条件に入れてんでしょうね。
    日本もこれくらい強かに出来ないもんですかね。納税者としては、良い加減百貨店の上得意ポジションじゃ困るんですが。
    自衛隊員の待遇改善は必要ですが、独自の防衛技術戦略もまともに議論せず、米製最新兵器欲しがるばかりで馬鹿高い金払う点も見直して貰わないと。まぁ財界に阿って、国家観や防衛戦略を二の次にする政界の問題の方が、原因としては大きいですが。

    3
      • 匿名
      • 2021年 12月 09日

      日本は相手の機嫌を損ねる=村八分的な感覚で政治交渉や外交交渉を見ているから、案件毎に対立したり握手する国際的な外交は異質に見えて理解できないだろう。

      8
        • 匿名
        • 2021年 12月 09日

        独ソ不可侵条約にショックを受けて退陣した、頭の固い平沼内閣の頃から変化できないでいるか(笑)

    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    アメリカ「民間人の犠牲がー!許さん!」

    日本「はあ」
    ベトナム「はあ?」
    イラク「は?」
    アフガン「・・・」

    9
      • 匿名
      • 2021年 12月 10日

      アメリカは9.11テロを経験してるから、民間人の犠牲に神経質になるのは無理もありませんね。
      広島の原爆で殺された人数の実に4%もの人々を一度に殺すなんて、人間のすることじゃありません。

        • 匿名
        • 2021年 12月 10日

        アメリカは日本人以外にはヤンキースピリッツの優しさ出しますからね

    • 匿名
    • 2021年 12月 09日

    別にいいんじゃない、売るのも自由、買うのも自由。
    昔からアメリカの影響力を恐れる非共産圏はフランス製の兵器を買っていたのだし、今さら問題視するのもどうかと思う。

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